ビジネスパーソンインタビュー
松下東子&林裕之著『日本の消費者はどう変わったか 生活者1万人アンケートでわかる最新の消費動向』より
「人づきあい」を減らしているのは、むしろ高齢者。コロナ禍がもたらす“本当の日本の危機”
新R25編集部
新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、人づきあいは一気に疎遠になりました。
「人とふれあえないのは寂しい」と思う方もいれば、「無駄な人づきあいが減って良かった・楽になった」というようにポジティブにとらえている方もいるのではないでしょうか。
しかし、松下東子さんと、林裕之さんの著書『日本の消費者はどう変わったか 生活者1万人アンケートでわかる最新の消費動向』(東洋経済新報社)によると、人づきあいの減少には日本の未来にかかわる大きな損失が潜んでいるそうです。
今回は同書より、日本人の人づきあいに関する価値観の変遷や減少によるデメリットを一部抜粋。
人づきあい減少によるダメージは、新型コロナウイルス感染症による経済的な損失よりも深刻かもしれません…。
この記事はこんな人におすすめ(読了目安:5分)
・コロナ禍で人づきあいが減少した方
・人づきあいをめんどくさいと考えている方
・コロナ禍で、消費者行動がどう変わったのか知りたいマーケター
コロナ禍で人づきあいの希薄化は加速した
コロナ禍で人づきあいは「最低限」にそぎ落とされた。
図表1‐1‐2に、「隣近所の人とはお互いに干渉しない方がよい」、「地域をよくするための活動には参加すべき」の1997年からの変化を示してある。
どちらの項目も、人との接触を避けるべきとされたコロナ禍の2021年、これまでのトレンドを超えて大きく動いていることがわかる。
ひとつ目の、「隣近所の人とはお互いに干渉しない方がよい」は、若者で強そうに思えるが、実はむしろ高齢者で強い価値観だ。
しかし、高齢者の比率が増えているにもかかわらず長期的には減少トレンドにあり、日本人は年代にかかわらず、近所づきあいの大切さを再認識する傾向にあった。
それが今回のコロナ禍で反発上昇しており、非接触・無干渉の傾向が強まってしまったようだ。
コロナ禍が「人づきあい」を希薄化させる方向に働いたことには変わりない。
週に1回以上、会話をしたり、連絡をとったりしている関係(直接会うだけでなく、電話、手紙、FAX、インターネットを使った電子メール、SNSなどによるつき合いも含む)についてトレンドを見ると、「地域・隣近所の人」に加え、「趣味や習い事などを通じて知り合った友人」、「子どもを通じて知り合った友人」なども減少しており、必須度の低い人づきあいほど淘汰される傾向が見られる。
一方で、「自分の親」などについては、健康状態の確認などの意味合いもあって増加しており、コロナ禍には人づきあいの辺縁部分をそぎ落とす影響があったといえよう。
人づきあいの減少は本当に良いのか
ご近所づきあいや地域活動、子どもを通じての友人知人などとのやや薄い関係を中心に「人づきあい」が減り、今後の消費の重点分野としても従来の上昇トレンドに反して減少するなど、「人づきあい」は「やめてみたら、いらなかったもの」として断捨離されがちなのではないかということが、これまでみてきたデータからはうかがえる。
しかし、「人づきあい」は本当に断捨離してしまってよいものなのだろうか。
図表3‐1‐8は、週に1回以上、会話をしたり、連絡をとったりしている人(直接会うだけでなく、電話、手紙、FAX、インターネットなどを使った電子メール、SNSなどによるつきあいも含む)についての回答個数別に、生活満足度、幸福度、生活充実度をみたものである。
いずれも高い正の相関がみられ、ソーシャルグラフの豊富さは、日々の充実感や幸福度、満足度に強く影響することがわかる。
コロナ禍が子どもの生活や健康に与える影響について、2021年12月に国立成育医療研究センターが無作為抽出の郵送と、任意のインターネットで調査したところ、小学5年生から中学3年生の子どもの1~2割に中等度以上のうつの症状がみられたという。
先にみた通り、誰しも人との関わりが心の健康を保つために大切なのはいうまでもないが、特に人とのつながりの中で、社会性や個としての自尊心を身につけていく時期の子どもや思春期の若者にとってはより重要だ。
家族だけでなく、同年代の友人と集団で過ごしながら、学園祭などの行事をみんなで準備して達成感を味わったり、修学旅行で思い出を作ったり、といった、心身の健康を維持し、人間として成長していくための経験がコロナ禍で阻害されてしまったことは、日本の未来にとって大きな打撃である。
感染拡大防止と折り合いをつけながら少しでも早く元のように実施できる日が待たれる。
止まらない婚姻数の減少につながる
また、婚姻数がコロナ禍に入り大きく減少している。
コロナ禍の影響で、2020年の婚姻数は52万5490組で、前年59万9007組から12%の減少、さらに、2021年では51万4242組とさらに前年から4%減少した。
この足元の一時的な激減が今後緩和されていく可能性はあるが、構造的な問題が解消されない限り、今後も生涯未婚率は上昇していく。
単身世帯割合の増加とそれにともなう消費への影響を想定しながら、あらゆる分野でおひとりさまが増えることを想定したビジネス展開を検討しなければならない。
気の進まない人づきあい、切実度・優先度の低い人づきあいを「やめてみても困らなかったもの、いらなかったもの」として断捨離してしまうのは簡単だ。
しかし、義理で出かけた集まりで一生の友人や恋人に出会うような素敵なこともあるかもしれない。
頻度高く顔を合わせていれば、何度も何度も接している人やものには好意を抱きやすくなるという行動経済学で言うところの「単純接触効果」から芽生える恋愛もあるかもしれない。
恋愛だけではなく、一生つきあい続けられるような親友、日々の悩みを相談したり一緒に出かけたりできるような相棒、今後の人生を考える上で参考にできるロールモデルとなる先輩など、運命の出会いは一見無駄にみえるような人づきあいから生まれることもあるだろう。
コロナ禍で子どもたちの心の健康が損なわれ、人と人との出会いが減り、結婚が減り、そこから生まれたはずの子どもが減るということは、日本の未来に向けて本来は蒔かれていたはずのポジティブな種が減ってしまっているということである。
経済的なダメージの大きさもさることながら、日本の未来にとってはこちらの方が、より失われてはならない大きな損失だったかもしれない。
日本人のリアルがわかる一冊
1997年より、3年に一度、生活者1万人アンケート調査を実施しているNRI(野村総合研究所)。
同書では、その豊富なデータから見えてくる消費者の動向について詳しくまとめています。
消費者を対象にした仕事を行うマーケターなどはもちろん、コロナ禍で変化した世の中について知りたい人などにおすすめの一冊になっています。
なんとなく感じていること・わかることを、データからきちんと読み取ることで根拠を持った意見にしてみてはいかがでしょうか。
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