ビジネスパーソンインタビュー

コロナ禍は旧態依然の“クラシック音楽”にとっても転機だった。業界に新風を起こす5つの革命

反田恭平著『終止符のない人生』より

コロナ禍は旧態依然の“クラシック音楽”にとっても転機だった。業界に新風を起こす5つの革命

新R25編集部

2022/08/03

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ショパン国際ピアノコンクールで日本人として51年ぶりに2位入賞を果たした、ピアニスト・反田恭平(そりた・きょうへい)さん

“次代の革命家”とも称される反田さんが、動き出す際に大切にしていることとは何なのでしょうか?

反田さんの著書『終止符のない人生』より、巻き起こし続ける革命について、エピソードを抜粋してお届けします。

この記事はこんな人におすすめ(読了目安:5分)
・反田さんの功績の裏側を知りたい人
・ビジネスに革命を起こしたい経営者

エンタメ業界に新風を巻き起こしたい

パンデミックが始まる前から、僕はあまりにも旧態依然たるクラシック音楽業界に疑問を抱いてきた

ビジネスチャンスがいくらでも転がっているのに、クラシック業界は現状に甘んじて新規顧客の開拓を怠ってきたと思うのだ。

そうやって現状にあぐらをかいていたら、Netflixやアマゾンプライムビデオといった膨大なコンテンツを手軽に受け取れる時代の中で、若い人はどんどんコンサートホールから離れていってしまう。

ほかの業界ではどんどん挑戦的な試みを導入して、新たな利益を生み出している。

だが音楽業界全体を見渡してみると、ほかが当たり前のようにやっていることすら誰もやっていない。

クラシック業界だけに身を置いてくすぶっていたら、アイデアを思いつくことすらなく、保守的な姿勢に甘んじて腐敗していってしまう。

ただでさえ化石のように遅れているクラシック音楽の業界に、新風を巻き起こしたい。

次代の革命① オンラインのコンサート

安倍晋三元首相が初めての緊急事態宣言を発出するよりも早く、僕は動いた

2020年3月になると、コンサートやイベントは軒並み中止されていった。

このままでは音楽家やスタッフの収入はゼロになり、コンサートが二度と開けなくなってしまうかもしれない。

パンデミックが始まる前の時代にも、オンラインのコンサートはあった。

ただし、コンサートのチケットを買うのと同じく視聴料を支払い、パソコンやスマートフォンで有料配信のコンサートを観る試みは、日本ではまだ誰もやっていなかった。

「やるなら今しかない。」

2020年3月18日、イープラスの橋本行秀会長に直接会いに行き、「今こそオンデマンドの有料配信コンサートを開くべきではないですか」と迫った。

橋本会長を説得したところ、とうとう僕の意気込みに賛同してくださることになった。

日本のクラシック業界で誰もやったことがないどころか、エンタメ業界全体でもほぼ最速の企画だった。

2020年4月1日、無観客によるオンライン配信の演奏会「Hand in hand」を開催した。

目に見えないウイルスの脅威に誰もが怯える中、批判の声もぶつけられた。

この企画を実行することによって、ファンがアンチに変わってしまう可能性もある。

イープラスやコンサート会場、演奏者に抗議の声が寄せられ、彼らをバッシングの対象にしてしまうリスクもあった。

アンチの声も最大限受け入れ、万全の対策を打ってオンラインコンサートを決行した。

平日水曜日、午後7時スタートという時間設定だったにもかかわらず、なんと2000人を超える人々が配信チケットを買ってくださった

イベント開催の詳細を発表したのは3月27日だから、わずか数日で2000人を動員したことになる。

音楽業界初の挑戦は雇用と大きな利益を生み、パンデミックの渦中で音楽家が活動していくモデルケースとなった。

それから半年もすると、オンラインによる有料配信イベントは、音楽業界のみならずお笑いでもトークイベントでも当たり前になっていた。

パンデミックのせいでエンタメ業界が総倒れになってたまるものか。

その執念がイープラスをはじめ、多くの人々の心を動かした。

暗闇の中に身を投じる精神が、パンデミック時代のエンタメの可能性を切り拓いたのだ

次代の革命② noteに音源をアップ

第1回目の緊急事態宣言が発出され、世界中が異様な緊張状態に陥っていた2020年5月25日、実験的プロジェクトに挑戦した。

noteにブルグミュラー(ドイツの音楽家)が作曲した「25の練習曲」の音源をアップしたのだ。

noteは文章に限らず、写真や音楽、動画など作品を何でも手軽に配信できる。

無料で見せることもできるし、課金制にしたり、投げ銭(チップ)を受けつけることも可能だ。

このプロジェクトは評判を呼び、わずか1週間で100万円以上の収益を上げた。

無料ではなく最初から有料課金制にしてnoteで収益を上げるという発想は、当時はまだ新しかった。

「ネットに載っている記事はタダで読めるのが当たり前」という風潮がはびこる中、「売れなかったらどうしよう」と日和れば、プロの演奏を無料で公開して苦しむ自縄自縛に陥る。

収益を上げて、プロのピアニストとしての活動をコロナ禍においても継続したかった

次代の革命③ プレイヤーとマネージャーの二刀流

ピアニストでありながら、経営者としての顔ももつ人は日本では少ないと思う。

そんな経営者の仕事にかまけていたら、練習時間と自分の持ち時間を奪われてしまう。

しかし、音楽家が演奏のことだけを考え、演奏だけに専念できる時代なんて、歴史を振り返れば決して長くない。

モーツァルト(1756~91年)やベートーヴェン(1770~1827年)はプレイヤーとして活動しながら、自ら先頭に立って資金繰りに奔走し、経営(お金のやり繰り)を実践していたのだ。

どんなに素晴らしいプレイヤーだとしても、演奏の素晴らしさを宣伝し、ファンを呼びこむマーケティングが欠けていれば客席は埋まらない。

モーツァルトやベートーヴェンはそこまでこなしていた。

僕が、大手レコード会社の日本コロムビアと過ごした期間は3年間だった。

契約を延長し、大手レコード会社の庇護のもとで活動を続けるべきか。

はたまたモーツァルトやベートーヴェンのように、独自にマネジメントを進め、活動の幅を広げるべきか。

批難もあったが、僕は後者を選んだ。

そして2018年11月に、株式会社NEXUSを設立して代表取締役社長に就任した。

次代の革命④ 自前のレーベルを設立

自分が思い描いた野望を遂行するために、会社を設立する必要があった

ただし単なる形だけの会社ではない。

世の中の仕組みについて勉強しながら、自分のお金を投入してコンサートを作ってみたかった。

経営者として赤字を出さず、利益を生み出し、演奏者もスタッフもプロモーターも皆で発展していきたい。

2019年7月には、イープラスとの共同事業として、自身のレーベル「NOVARecord」を設立した。

自前のレーベルを作ったのは、日本クラシック音楽界で僕が初めてだ

ロックをやっているインディーズバンドの世界では、自分でレーベルを立てることは全然珍しくない。

ロックの世界で可能なのであれば、ピアニストが自分のレーベルをもったって構わないと思った。

大手レーベルに所属していると、いつも自分がやりたい仕事ばかりができるわけではない。

音楽業界に限らず、どんな分野会社でも赤字を出さずに利益を生み出すことが最重要課題だ。

今の時代にフィットした売れ筋の企画を考え、CDを出したりコンサートを企画するのは当たり前だと思う。

でも「売上ありき」という姿勢で音楽をやるのは僕にはできない

そもそもCDがなかなか売れない時代なのに、自分の本意ではないCDを収録して、作品として発表したくはない。

アーティストに寄り添い、本人が録りたい曲を残していくのがベストだと思う。

アーティスト目線で丁寧に仕事を進めていくためにも、自分のレーベルを立ち上げるのが一番だった。

次代の革命⑤ オンラインサロンの立ち上げ

2021年5月、オンラインサロン「Solistiade」(ソリスティアーデ)を立ち上げた

数年前からオンラインサロンを立ち上げ、活況を呈している著名人やイノベーターの活動からヒントを得た。

今の時代に合わせて自分も音楽家やクラシックファンが集うオンラインサロンを運営してみようと考えた

まずは無料でサロンを立ち上げると、たちまち3万人を超える会員が集まった。

年会費5000円のレギュラー会員、年会費3万円のプレミアム会員の枠を設けたところ、有料会員数は順調に増えている。

そして、未公開映像や音源、メッセージをオンライン上で配信したり、会員の皆さんとリアルに触れ合えるファンミーティングも企画している。

まったく無名のアーティストであっても、インターネットとスマートフォンの力によってブレイクする例はこれから増えるだろう。

そんな未来のスーパースターが次々と誕生すれば、オンラインとオフライン双方でクラシック音楽業界全体が盛り上がっていくはずだ。

「人生とは、終止符のない音楽なのだ」

ヤンチャをしてピアノに向き合えなかった時期や苦難や危険に晒される機会を乗り越えて、音楽を続けてきた反田さん。

「夢を持たずとも、目の前にあることを突き詰めてやり抜くことが大切である」と反田さんは言います。

あきらめず、続けることの大切さを証明している反田さんの人生について、知れる一冊ですので、ぜひお手に取ってお読みください。

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