ビジネスパーソンインタビュー
成田悠輔著『22世紀の民主主義』より
成田悠輔「政治家はネコやゴキブリになる」この極論が意外にも合理的な理由
新R25編集部
22世紀の民主主義今世紀に入ってからの20年強の経済を見ると、民主主義的な国ほど、経済成長が低迷しつづけている。
選挙や政治、そして民主主義というゲームのルール自体をどう作り変えるか考えることが大事だ。ルールを変えること、つまりちょっとした革命である。
昼は日本で半熟仮想株式会社代表、夜はアメリカでイェール大学助教授として活躍する成田悠輔さんはこう言います。
まだまだ働き盛りのR25世代。社会や経済を好転させるための動きとして、どのような可能性が考えられるのでしょうか?
“民主主義のルールを変える革命”の構想が書かれた成田さん初の著書「22世紀の民主主義」(SB新書)より、これからの政治家のあり方について一部抜粋してお届けします。
(読了目安:5分)
政治家は人間でなくてもいい
現在、代議者や政党にあらゆる政策・立法を委ねる「間接代議民主主義」で、政治家が担っている役割は主に2つある。
22世紀の民主主義① 政策的な指針を決定し行政機構を使って実行する「調整者・実行者としての政治家」
② 政治・立法の顔になって熱狂や非難を引き受け世論のガス抜きをする「アイドル・マスコット・サンドバッグとしての政治家」
である。
私は「調整者・実行者としての政治家」は、ソフトウェアやアルゴリズムに置き換えられ自動化されていくと思っている。
そして「アイドル・マスコット・サンドバッグとしての政治家」はネコやゴキブリVTuberやバーチャル・インフルエンサーのような仮想人に置き換えられていくと読んでいる。
現在の複雑すぎる社会では、政治家が経済や医療や軍事などあらゆる課題を理解して適切な判断を下すという建前には無理がある。
みんな薄々気づいているが、それを言っちゃおしまいなので、人間たちが大問題についてそれっぽいことをまくしたてるテレビの政治討論を倦怠感とともに眺めている。
本音では、しかし、政治家が果たすべき最大の役割は無数の課題に対する合理的判断ではなく、「いい感じのキャラ」を提供することだとわかっている。
人としての器が大きい感じ、マンガ・アニメキャラのコスプレでもして一笑いさせてくれる感じ、単にイケメン・カワイイ・イケボ、そしていつまででも噂や悪口を言いたくなる飽きさせない見出し力といったものだ。
だが、嚙めば嚙むほど味が出るキャラが必要なだけなのであれば、なぜ人間でなければならないのだろう?
政治家はネコやゴキブリになる
たとえばネコ。
ネコに被選挙権を与えたとして、ネコにキャラで勝てる人間政治家は何人いるだろうか?
アイドルとしての政治家を代替できるのはネコで、スケープゴートとして袋叩きにする政治家を代替する存在は別に作り出せばいい。
ゴキブリなどを使うのがいいかもしれない。
そう、ゴキブリだ。
私たちの社会はだんだん「人間を属性で区別するな」という社会になっている。
男女で区別するな、年齢で区別するな、人類皆同じと考えようという方向にだんだん向かっている。
この流れが今後も続くと、人間とそれ以外の動物や生命も区別するなという方向にいくと予想できる。
ある種のベジタリアンやビーガンの友人たちと話すと、解体される鶏や〆られるサバが感じる痛みへの共感を切々と語ってくれることがある。
あの感じだ。
数百年から数千年かけて優しく非暴力的になりつづけている人類史を考えると、だんだんとベジタリアン・ビーガン的なあの感じが人類全体に拡がっていくのだろう。
すると、ネコと人間の区別や、人間とゴキブリの区別は薄れて大事ではなくなっていく。
そうなれば政治家の好かれるキャラはネコで、嫌われるキャラはゴキブリか何かに分解しておけばいいのではないか?
本気でそう考えている。
じつはネコは“出馬済み”
ネコが政治家になる世界は思ったより早く到来しそうだ。
実は本物のネコがすでにアメリカ大統領選に出馬済みである。
1988年の大統領選挙に出馬したオスネコ「モリス」だ。
モリスは当時人気のキャットフードの広告塔だった。
テレビや雑誌に出まくっていたモリスの露出度は抜群で、そこらの政治家より高い知名度を誇っていた。
「立候補するには人間でなければならない」という制約は、大統領選の規則には実はなかった。
この穴を突いて立候補したのがモリスだった。
開かれた出馬記者会見で代理人の人間はこう述べたという。
「モリスは、第30代大統領カルビン・クーリッジの静かな態度、第35代大統領ジョン・ケネディの動物的な魅力、そして第16代大統領アブラハム・リンカーンの正直さを兼ね備えた候補者だ」
名演説だ。
結果としては惜しくもジョージ・H・W・ブッシュ(父ブッシュ)に敗れたモリスネコは、しかし、爆発的な注目を集め広告塔を務めていたキャットフードの売上を爆増させたという。
これほどの「政商」がかつていただろうか?
ネコ市長が実質的に誕生したこともある。
アメリカのアラスカ州タルキートナ市だ。
出馬した人間候補者を気に入らなかった住民たちが勝手にネコ市長候補「スタッブス」を擁立し、投票用紙にネコの名前を記入する運動をくり広げた。
フタを開けてみると、なんと他候補を破ってしまったという逸話だ。
ネコだけの特権ではない。
68年のアメリカ大統領選挙にはブタが、88年のリオデジャネイロ市長選挙にはチンパンジーが、97年のアイルランド大統領選挙には七面鳥キャラが立候補し、多くの票を獲得した。
動物が人間から政治家という職業を奪うまであと一歩だ。
ネコではなく「VTuber」でもいい
こうしたことを言うと「しかしネコやゴキブリは言葉をしゃべれない」と言ってくる人が多い。
だが、数百年前のヨーロッパ人植民者たちは、自分たちの言語が通じない植民地の他民族のホモ・サピエンスをコミュニケーション相手や(被)選挙権の主体だなどと思っていただろうか?
ほとんど動物と同じだと見なしていたからこそ、ごく自然に奴隷として酷使できたのではないだろうか?
その精神性が時間をかけて変わってきた。
ネコやゴキブリも同じだ。
そもそも言語を通じてゴキブリやネコとやりとりする必要もない。
今の社会でも人間同士が言葉を使って議論して理解し合うよりも、ネコと人間がハグして共鳴する方が、はるかに話が早く納得感が高いことも多い。
溢れるネココンテンツを見ても明らかだ。
人間以外の種が使っている色々な表情やジャレ合い、音波や化学物質と、人間が使っているコミュニケーション手段の間に、何らかの翻訳が成立する予感もある。
ちょうど画像生成AIが人知を超えた独自のコミュニケーション言語を獲得したと報告されたところだ。
ネコやゴキブリを愛し憎み、コミュニケーションした気になって責任を押しつけられる、そういう時代がくるかもしれない。
ネコやゴキブリでなくてもいい。
より現実的で短期的には、VTuber(VirtualYouTuber)やバーチャル・インフルエンサーのようなデジタル仮想人がそういう存在になっていくだろう。
VTuberが政治家の身代わりになって、生身の人間政治家への誹謗中傷を引き受ける。
そんなサービスが出てくれば生身の人間も仮想人もWin-Winだ。
そして、VTuberや仮想人の人権を大マジメに議論する時代がくる。
「政aaS」のようなソフトウェアが導入される
残るは実務家としての政治家だ。
思い出そう。
企業の中間管理職や事務職の役割は業務支援SaaS(SoftwareasaService)によってどんどん小さくなっている。
個人の投資や健康・買い物の管理もどんどんアプリに委ねられるようになっている。
政治だけ例外だと考える理由はない。
「政治家asaService(政aaS)」のようなソフトウェアが生まれるのはほぼ必至だと思われる。
その小さな芽をすでにいくつか見てきた。
であれば、人間が無理をして誹謗中傷に晒されながら身も心も粉にして政治家という機能を果たすより、無意識民主主義ソフトウェアのアップデートに委ねる方が楽なのではないだろうか?
ソフトウェア・アルゴリズムには嫉妬や粘着も戸惑いもなく、無駄に心をすり減らす必要もない。
毎分更新される民意データにしたがって「あっさり自分の信念の旗をひるがえして別の旗を颯々としてかかげ」るだけである。
読めば社会の見え方が変わる一冊
同書は、歴史で起きたことや今世界で起きていること、これからのトレンドなど、あらゆるデータをもとに“今とこれからの民主主義”を考える一冊です。
達観した成田さんの構想を読めば、きっと社会の見え方が変わって視野が広がるはず。
成田さんが、西野亮廣さん・箕輪厚介さん・尾原和啓さんと「ワンマイル(=身近)な未来」を語り尽くす『ワンマイル未来予測』も、ぜひチェックしてみてください!
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