ビジネスパーソンインタビュー

「みんな宇宙見上げて『暗い』って言ってる」武田真治が“諦めが人生を前進させる”と提言する理由

「無理なもんは無理」でいい。

「みんな宇宙見上げて『暗い』って言ってる」武田真治が“諦めが人生を前進させる”と提言する理由

新R25編集部

2022/01/21

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若いうちはとにかくガムシャラに頑張れ」。

耳にタコができるほど聞く、この手のメッセージ。わかります。その正しさ、頭ではよくよくわかってます。でも正直ちょっと…疲れてしまうときもあるのは正直なところ

そんな"頑張りすぎて疲れてしまったあなた"へ、このお方のインタビューをお届けします。

【武田真治(たけだ・しんじ)】俳優、サックスプレイヤー。1989年、高校在学時に「第2回ジュノン・スーパーボーイ・コンテンスト」でグランプリを受賞。ドラマ、映画、音楽の世界で幅広く活躍。2018年にはNHK「みんなで筋肉体操」で大きな話題を呼び、NHK「紅白歌合戦」にも出演している

俳優・武田真治さん。

昨年11月に上梓した書籍『上には上がいる。中には自分しかいない』で、"頑張りすぎて自分を追い詰めてしまった20代"と、そこから抜け出してたどり着いた「諦めるマインド」について綴った武田さんに、「頑張りすぎてしまいがちな若者へのエール」をいただきました。

〈取材=サノトモキ〉

サノ

書籍を拝読したのですが…しんどい時期に自分を肯定できるような言葉がたくさん書かれていて印象的でした。

とても優しい本だなと。

武田さん

ありがとうございます。

ただ、ひとつ誤解のないように言っておくと…これは「頑張りすぎて疲れちゃった人」のためにつくった本なんですよ。

頑張ってもいないのに「いいことなんて何もない…」などと嘆くのは、僕の好きな生き方ではありません

想像以上にストイックな返し来た

武田さん

人生、やっぱり「頑張る」ことは必要です。

ただ…若者に頑張れと言うからには、「頑張りすぎて挫折したときのマインドセット」まで一緒に教えるのが大人の責任だと僕は思っています。

今日は、そのあたりのお話ができたらうれしいかな。

ということで今日の講義内容は、「諦め学」です

「睡眠時間3時間で毎日働いても、月収20万円に全然届かなかった」キツい労働環境に置かれた20代

サノ

ご自身も、20代のころに頑張りすぎてダメになってしまったことがあったんでしょうか?

武田さん

20代の僕は、いわゆる…人気絶頂だったんだと思います。

「アイドル俳優」みたいな売れ方をしていて。

ホリプロ初の"ティーンアイドルアクター"として、事務所のスタッフにすごく押し上げてもらっていたと思うんですね。

当時、年に2〜3度はメンズノンノの表紙を飾っていたとのこと。まさに絶頂…

武田さん

ただ、時代性もあったので仕方のないことではあるんですけど…

若い方にキャーキャー言われてたあのとき、僕の給与形態って最低ランクだったんですね。

トヨタ、タカラ、資生堂、パナソニック…名だたる大企業のCMをやって"CMキング"と言われていたころ、給料が十数万円でした。多忙を極めるなか、アルバイトもしなきゃいけないというわけのわからない状況で。

武田さん

アルバイトと言っても、お金目的じゃなくて「ご飯目的」

副業禁止でお金は受け取れなかったから、友達の洋服屋さんやバーの締めを手伝ったあと、夕ご飯をご馳走してもらったり。

サノ

そ、そんな状況だったんですか…!

武田さん

役者の仕事でも、電車移動でしたから。

芸能人って「車で送迎される」みたいなイメージあると思うんですけど、ドラマの現場でも共演者が車移動するなか、僕だけ電車を乗り継いで追っかけていました。

毎日3時間睡眠、月29日くらい働いても大卒初任給を大きく下回るほどの薄給。激務でどんどん体調も悪くなっていく。「あれ、おかしいぞ」って。

武田さんの20代、壮絶すぎる

武田さん

でもね…それでも僕は若い方々に、「若いうちは担がれた神輿に乗れ」と言いたいんですよ。

サノ

そんな経験をしているのに、なぜ…!?

武田さん

「自分にスポットライトが当たる」って、長いキャリアのなかで本当に数回あるかないか。

「若さゆえに神輿に担がれる」というのも、与えられたチャンスなんです。

武田さん

どんな仕事もそうだと思いますが、自分よりデキる人なんていくらでもいる。そんななか、世の中に注目していただける瞬間が訪れるなんて奇跡みたいなことなんです。

だからこそ、そのチャンスは最大限に活かすべき。押し出されたら、行けるところまで行かなきゃいけない

「若手時代はいったん頑張れ」と言うのは、そのときにしか吹かない追い風があるからなんですね。

頑張った先に待っていた絶望からは「逃げの一択」

武田さん

ただ「上へ上へ」と頑張った人には、「どこまで行けばいいんだ」「いつまでやるんだ」という虚無感、ひいては「上には上がいる」とわかって絶望しちゃうタイミングが待ってるんですよね。

僕もそうだったんですけど。

武田さん

先ほどのような労働環境だったことに加えて、「王道スターとして売れろ」という事務所の売り出し方も、僕には苦しかったんです。

きっと僕は、ポップでマスな人間ではなくて。おそらく少し風変わりなんだと思うんです。

サノ

そんな卑屈にならなくても…

武田さん

いや、考えてみてください。90年代のスターがどれだけマルチでタフな活躍を求められたか。少なくとも僕は、王道を長期的に歩めるほどのスターではありませんでした。

そのギャップと厳しい労働環境が加わって、心身ともにボロボロになってしまって。仕事に喜びも楽しみも見出せなくなりました。

押し出されるまま上を目指して頑張ってきたけど、「もうこれ以上頑張れない」と。

サノ

そこから、どうしたんでしょうか…?

武田さん

逃げましたね

「めちゃイケ」以外の仕事をやめて、一時的に北海道の実家にひきこもったこともありました。20代のキャリア選択として正しかったのかはわからないけど…

無理なもんは無理。でもね、これでいいと思うんですよ。

サノ

「無理なもんは無理」で、いい。

武田さん

本気で頑張りつづけると、どこかで「これ以上は上がれない」という限界点に辿り着くんです。でも「まわりにはもっと頑張ってるすごい人がいるのに…」って、立ち止まる自分を責めてしまう。

でもそれは上を目指して飛んで、ようやく誰もいないような綺麗な青空にたどり着いたのに、さらに上の"宇宙"を見つめて「暗い…」と言っているようなもの。

いやいや待てと。「少し降りてこい、空は青いぞ」って。

武田さん

高度を下げて冷静に見渡したら、空は青かった。全然青かった。まだまだ上はいるけど、自分にしては思いがけない高さまで来れていた。

僕も上を見つづけて自分を否定ばっかりしちゃっていたけど、自分が楽しめる、もしくは楽しみを見出せそうなところまで行ければそれで十分だったんですね。

サノ

なるほど…。

武田さん

「まだまだ上がいる」「そして、それを乗り越えるのが俺だ」と思っているうちは、どうぞその先にいったらいい

でも「これ以上頑張れない」となったら…上じゃなくて、自分を見つめてみたら? と。

もともといたところから、どれだけ飛んできた?そこまで頑張れた自分を認めて、上に行くのを諦めてもいいんです。

サノ

つまり、頑張って上に上がったなら、聞こえは悪いかもしれませんが、きちんと「諦める」ことも大事だと。

武田さん

もう、しょうがないんですよ。「自分にはこれ以上はない」っていう、それだけ。

進学にしても恋愛にしても就職にしても、何かに行き詰まったとき、人生を大きく捉えると、次に進むのに大切なのは「引き際を見極めること」にあると思います。

そしてまた、自分らしく頑張れる別のことや同じことでも自分のスタンスで飛び立てばいい。人生って、"「頑張る」と「諦める」の繰り返し"ではないでしょうか。

上に上がるときに注意すべきこと

サノ

ちなみに武田さんは「逃げた」あと、サックスや筋トレなどで見事再ブレイクされましたが…

20代のころとの頑張り方に変化があったのでしょうか?

武田さん

汗をかく頑張り方」。これを意識したことかなあ。

汗とお金が比例していない時は危ない」というのが、20代の経験則としてあるので。

少なすぎても、多すぎてもね。

武田さん

僕の20代は、「時代の波に乗ってうまいことやれた」という側面も正直あったんです。

「アイドル俳優」というポジションがなかった時代に、パッとスポットライトを浴びることができた。

それによって急上昇はできたけど…今振り返ると、そこでたしかな「実力」を積み上げられた感覚ってあんまりないんですよね。

サノ

どういうことですか?

武田さん

時代の波に乗ってるときって、自分の実力を測りにくいもの。よくもわるくも「波」次第だから、どれくらい「自分の力」によって前に進んで結果を出せてるのか、イマイチわからないんです。

本当の実力がわからないままキャリアを重ね続けるって、けっこう危ういですよね。慢心して然り。

サックスや筋トレは、汗をかいて努力して積み上げた「自分の力」。そういう時代の波と関係なく培った力のほうが、キャリアにおいて確かな足腰になっている感覚が強くあります。

サノ

若いときほど「時代の波に乗って一気に急上昇を」と狙ってしまう気がするんですけど、意外な落とし穴だったのか…

20代の頑張り方、すごくしっくりきました。今日はありがとうございました!

武田さん

いやいやもう、失敗談ばかりで恥ずかしいですけど…

でも、人より遅くても「自分という人間のスケール感から考えたら、最短で来ている」。その感覚でいいと思います。

頑張って、諦めて、また頑張ってみてください

今日はありがとうございました!

〈取材・文=サノトモキ(@mlby_sns)/編集=福田啄也(@fkd1111)/長谷英史(@hasehidephoto)〉

書籍『上には上がいる。中には自分しかいない』が絶賛発売中!

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デビュー後すぐに大ブレイクするも次の一歩が踏みせず、次第に長いトンネルに入った武田さん。事務所からは「売り時は終わった」と言われ、別の仕事を探すべきなのか悩んだそう。

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