ビジネスパーソンインタビュー
想像を超えたスケール。地下350mで研究を行う「幌延深地層研究センター」を探検してきた

「原子力発電のごみの処分」って一体何…?

想像を超えたスケール。地下350mで研究を行う「幌延深地層研究センター」を探検してきた

新R25編集部

Sponsored by 原子力発電環境整備機構

2022/01/24

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世界各国で課題となっている原子力発電のごみの処分について、考えたことはありますか?

じつは日常生活と同様に、電気を作る過程でもごみが出ています。

特に原子力発電に伴って発生する、放射能レベルの高い廃棄物の処分が世界各国で課題となっているんだそう…。

北海道にある「幌延深地層研究センター」は、そんな“原子力発電のごみの処分”に関する最先端の研究開発を行っているそうです。

なんと今回は、実際に研究を行っている地下350mの施設を見学し、放射能レベルの高い廃棄物を地下に埋めても大丈夫なのかを教えていただけることに…!

知的好奇心をくすぐりまくる広大な地下施設の探検が、今スタートです

〈聞き手=藤田かんな(新R25レポーター)〉

お話を伺うのは、国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 核燃料・バックエンド研究開発部門 幌延深地層研究センター 総務・共生課 圷貴大(あくつ・たかひろ)さんです

圷さん

ここ「幌延深地層研究センター」では、地層処分技術に関する研究開発を行っています。

圷さん

一般の方にも自由に見学いただけるよう、センター内の「ゆめ地創館」では研究内容を紹介しているんですよ。では、ご案内しますね!

※「幌延深地層研究センター」は地層処分施設ではなく研究施設です

“原子力発電のごみ”って何? 危なくないの…?

藤田

そもそも“原子力発電のごみ”って、どんなものなんですか?

圷さん

簡単に言うと、原子力発電で使い終えた燃料のうち、再利用できない成分のことです。

原子力発電で使い終えた燃料は、冷却したのちに工場に運んで、まだ燃料として使えるウランやプルトニウムを取り出してリサイクルすることで、全体の約95%を再利用できるんですよ。

藤田

じゃあ、残りの5%が“ごみ”ということですか?

圷さん

そのとおり。リサイクルした後に残る廃液は、ガラス原料と溶かし合わせて固められるんですが…

それが“原子力発電のごみ”。専門用語では「ガラス固化体(高レベル放射性廃棄物)」と呼ばれます。

藤田

その廃棄物はどうやって処分するんですか?

圷さん

人間の生活環境に影響が出ないように何重ものバリアを施して、地表から300m以上深い安定した岩盤に埋めて処分するんですよ。

これは法律で決められている処分方法で「地層処分」といいます。

圷さん

そしてこちらが、地層処分実規模試験施設に設置している実物の“人工バリア”です。

藤田

“人工バリア”…?

圷さん

先ほどお話しした、“ガラス固化体”を処分する際に必要なバリアです。

中心に見える円柱が“ガラス固化体”の模型です。

その外側にある厚い金属製の容器が、“オーバーパック”と呼ばれているもの。これについては、後で詳しく説明します。

圷さん

“オーバーパック”の外側にある塊が、粘土を締め固めブロック状にした“緩衝材”。これは、地下水や放射性物質の移動を遅らせる役割があります。

藤田

こんなに厳重なんですね…! これを地下に埋めるってことですか?

圷さん

はい。この状態で地表から300m以上深い安定した岩盤に埋めます

地下深くの環境も、物質が移動しにくい性質と物質を閉じ込める力があり、これらの岩盤を「天然バリア」と呼んでいるんですよ。

藤田

ただ日本って、地震がすごく多いですよね。地下に廃棄物を埋めちゃって大丈夫なんでしょうか?

圷さん

そのために、私たちは地下350mにある施設でさまざまな研究を行っています。

今日は特別に、その研究を行っている地下施設までご案内しましょう!

いよいよ地下施設に潜入!地層処分技術に関する実験の全貌とは?

作業服に着替えて、いよいよ地下に潜入。ご案内いただくのは、核燃料・バックエンド研究開発部門 幌延深地層研究センター 深地層研究部 堆積岩処分技術開発グループ 大野宏和(おおの・ひろかず)さんです

藤田

ぐんぐん下っていく…! 今どれぐらいの深さですか?

大野さん

だいたい300mぐらいですね。

藤田

300m…!

下っていく様子がモニターでも見れます。東京タワーの逆だ…(?)

大野さん

ここから徐々に減速して、地下350mに到達します。

…はい、到着しました。

藤田

…!すごい…!!

ワクワクが顔に出ちゃってる藤田

大野さん

ここでは、“地層処分”に関するさまざまな研究を行っています。

まずは先ほど挙がった地震に関する観測です。この図のように、地上と地下の坑道に5つの地震計を設置し、地震の影響がどのくらいあるのか計測しています。

大野さん

その地震計で計測したデータを見てみると、地上の揺れの大きさに比べて、地下の揺れは1/3〜1/5程度なんですよ

藤田

そんなに違うんですか!? 地下のほうが揺れるのかと思っていました…!

大野さん

一般的には、地上に比べて地下のほうが揺れが小さいんです。高いビルの上層階のほうが揺れが大きいのと同じですね。

しかも、ガラス固化体を金属容器に入れて粘土で覆い、地下深くに置いたあとは、坑道全体が埋め戻されて岩盤と一体になります。

なので、地震の揺れでガラス固化体が壊れたりすることはありません

この施設では、ほかにもさまざまな研究を行っているので、1つずつ紹介しますね。

①地下水水質調査…地下深部の水の“由来”とは?

大野さん

まずは「地下水水質調査」。ここでは地下水の由来、つまり「どこから来たどんな水か」を調べる方法について研究を行っています。

藤田

由来…? どうやって調べるんですか?

大野さん

ひとつのヒントとなるのは“水の重さ”。じつはひと口で“水”と言っても、構成する原子の違いによって重さが違うんです。

同じ水でも、重い水は、軽い水に比べて蒸発しにくいという性質があるんですが…

蒸発せずに残った地表の水や海水には、降水と比べると重い水が多く含まれているので、その重さを精密に測ることで、水の由来がわかるんですよ。

大野さん

同じような考え方で、ここの地下深部の水を詳しく調べた結果…

地層中に閉じ込められた数百万年前の海水が熟成されながら残っていることがわかりました。

藤田

数百万年!?

いやスケールがデカい

大野さん

はい。このような水は、海水の化石なので“化石海水”とよばれます。

ここの地下水は、浅いところでは軽く、深くなるほど段々と重くなっていきます。

そのことから、浅いところには降水に由来する地下水が、深いところには“化石海水”と混ざり合った重い地下水が存在していることがわかりました。

藤田

ふむ…

大野さん

“化石海水”が残っているということは、深いところほど水の流れが遅いということ。

つまり、地下深部には放射性物質の移動を遅らせる役割があるため、地下にガラス固化体を埋めても危険はないと考えられているんですよ。

②オーバーパック腐食試験…“1000年ももつ金属容器”とは?

大野さん

ここでは「オーバーパック腐食試験」という研究を行っていました。

大野さん

オーバーパックは、先ほどご紹介した人工バリアの一部。ガラス固化体を覆い、地下水に触れるのを防ぐ金属製の容器のことを指します。

ガラス固化体の放射能は、1000年程度の間に99%以上低減します。

つまりオーバーパックには、少なくとも放射能が低減するまでの1000年間、ガラス固化体が地下水と接触するのを防ぐ役割があるんです

藤田

そもそも、1000年間も地下水と接触するのを防ぐ金属なんてあるんですか…?

大野さん

その有力な候補が“炭素鋼”というものです。

炭素鋼は、水と酸素があると容易に腐食してしまうんですが、地下深くにはもともと酸素がほとんどないので、腐食のスピードが遅いのではないかと考えられています。

ただ、地下施設をつくることによって地上とつながり、多くの酸素が行き届いて腐食しやすくなる可能性も考えられますよね。

藤田

たしかに…!

大野さん

そこで、実際の人工バリアと同様に、地下深くの坑道に粘土で覆った炭素鋼製の“模擬オーバーパック”を埋め、腐食していく過程を調べました。

大野さん

最初の数か月は、酸素がある地上と同じ程度の速度で腐食していきましたが、その後は腐食の進行が抑えられ、想定していたよりも遅くなることがわかりました。

少なくとも1000年間は十分にもつことが確認できています。

移動中、何かを発見した藤田

藤田

大野さん! これはなんですか?

大野さん

あぁ、これは約500万年前の地層です。

藤田

!?

大野さん

正式には稚内層(珪質泥岩)と呼ばれるもので、約500万年前の泥や単細胞生物の遺骸が固まって堆積したものです。

やっぱりスケールがデカい…

③人工バリア性能確認試験…再現した実物大の人工バリアで計測しているのは?

大野さん

ほかにも、人工バリアに関する研究を行っています。

藤田

どんな研究なんですか?

大野さん

たとえば「人工バリア性能確認試験」では、地下坑道に実物大の人工バリアを再現することで、その性能を観測しています。

この図のように、粘土を締め固めてブロック状にしたもの(緩衝材)と模擬オーバーパックを埋め、坑道の一部を埋め戻しています。

大野さん

ガラス固化体の発熱を模擬したヒーターの加熱と、岩盤からの地下水の浸みだしを模擬した人工注水によって、粘土の温度、水分量、水質などがどのように変化するかをセンサーで観測。

さらに、この観測結果とコンピュータシミュレーションの結果を比較し、シミュレーションが適切かどうかも評価しています。

藤田

へぇ〜。すごく緻密な研究をされているんですね。

④トレーサー試験…岩盤中の物質の流れはどうなってるの?

大野さん

そうですね。その評価手法が本当にうまくいくのかを確認することが重要となります

これまで約7年にわたって試験を行ってきた結果、ヒーターの加熱によって粘土の温度がどうなるか、粘土の中にどのように地下水が浸みていくかなどがわかってきました。

現在は、加熱したヒーターの温度を下げたときに、粘土の状態がどのように変化するかを確認しています。

大野さん

天然バリアに関する研究で、「トレーサー試験」というものもあります。

藤田

それは、どんな試験なんでしょう?

大野さん

もし人工バリアで放射性物質が閉じ込められなくなった場合、今度は天然バリアである岩盤の閉じ込め性能が発揮されます。

ここでは、岩盤中の粒子のすきまや割れ目に、目印となる非放射性の物質(トレーサー)を流し、岩盤が有する物質の閉じ込め性能を評価するための試験を行っていました。

その結果、たとえば吸着性が強いと言われている“セシウム”は、岩盤中の粘土鉱物に吸着することがわかりました。つまり、移動のスピードは非常にゆっくりだということです。

藤田

今日はありがとうございました。そもそも地層処分のことも知らなかったし、こんなにいろいろな研究がされていることに驚きっぱなしでした…!

大野さん

地層処分技術の信頼性向上や安全評価手法の高度化等に向け、私たちはこれからも研究を続けていきます。

興味を持ってくださった方は、ぜひ「幌延深地層研究センター」まで見学にいらしてくださいね!

※地下施設の見学には事前の予約が必要です。

一見無縁そうに聞こえる“地層処分”ですが、日々電気を使う以上、我々にとっても無視できない課題です。

平和な日常のウラには、「幌延深地層研究センター」で行われているような想像を超える緻密な研究と見えない努力があることを感謝しつつ…

この日常を、当たり前と思わずに噛み締めようとひしひしと感じた取材でした。

探検の模様を、動画でもお届け!

〈文=石川みく(@newfang298)、編集=サノトモキ(@mlby_sns)〉

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