ビジネスパーソンインタビュー
アラン・B・クルーガー著『ROCKONOMICS 経済はロックに学べ!』より
ストリーミングから音楽業界の新時代が始まる。サブスクサービスがもたらす市場の変化とは
新R25編集部
通勤中に聴いてやる気をだしたり、仕事からの帰り道に聴いて癒やされたり...
日々何気なく音楽を聴く機会は、多いのではないでしょうか?
そんな感覚的な「音楽」の世界に「経済」の思考が隠されていると語るのは、オバマ大統領の経済ブレーンを務めたアメリカ屈指の経済学者アラン・B・クルーガー氏。
今年、邦訳版が出版された『ROCKONOMICS 経済はロックに学べ!』(ダイヤモンド社)で、クルーガー氏は次のように語っています。
ROCKONOMICS 経済はロックに学べ!アメリカの労働市場はスーパースターが席巻する勝者総取りの世界になった。(中略)
どうしてこんなことが起きているか、誰にとってもうまくいくもっと公平な経済を実現するにはどうすればいいかを、ロックな経済学(経済学による音楽稼業の研究)で説明するのだ。
音楽の視点から経済を見ることで、わかることとは一体...!?
ストリーミングの強みは、ユーザーに合わせてカスタマイズできること
ストリーミング・サービスはいろんな面で互いに競い合っている。
大手の業者はどれも、似たような曲のカタログを作って割増料金を払った購読者に提供している。
でも、業者はそれぞれ違うプレイリストを設計しているし、音声応答機能やなんかの特徴もそれぞれだ。
ラジオの放送局と違って、ストリーミング業者はユーザーそれぞれの音楽の選び方の履歴に関する情報を山ほど集め、その情報を使ってユーザーそれぞれにしつらえた、おすすめの曲のリストを作る。
音声応答サービスは当たり前にフリーダムなものだから、アマゾン・エコー・ドットやグーグル・ホームは、画面を介するもっと型にはまったストリーミング・サービスよりも、それぞれに独自の情報(たとえば、晩ごはんのときに流す音楽の好みとか)を集められる。
そんな情報を使って、利用者に合わせてカスタム化したプレイリストとかおすすめなんかを作り出せる。
その上、ストリーミング業者はメタデータに投資して、曲のいろんな特徴をコードに書いて、曲の選別をユーザーの好みにもっと合わせようとしている。
そんな個人個人に合わせたサービスには1つ大事な面があって、それは、ストリーミング業者にとって情報は資産だということだ。
この資産は「個人の特性に適合することによる資本」だ。
つまり、聴き手の履歴を見られるストリーミング・サービス業者は、見られない競合相手より、購読者それぞれにもっとうまく合わせたサービスを提供できる。
個別の購読者それぞれにより合わせたサービスを提供できる業者ほど、購読者が他へ乗り換えてしまう可能性を低く抑えられるし、長く使ってくれてるお客が相手でも値上げが検討しやすくなる。
ストリーミング業者は、もともとの事業から派生した補完的なサービスを提供しているし、また補完的な製品も創り出している。
たとえばスポティファイは、レコードを出すアーティストに、ストリーミングでの実績データを指標の形で提供している。
アーティストたちは指標を見て、自分たちのファンやターゲットにする購読者層の特徴を読んだり、ツアーで回る場所を選ぶのに使ったりできる。
アップルも同じようなサービスをやっているし、アマゾンも「参戦するぞ」と公言している。
そしてスポティファイはコンサートディスカバリーサービス・ソングキックと手を結び、ユーザーの関心に基づいてコンサート情報を提供している。
業者の中には物販サイトにもリンクを張っているところもある。
ストリーミング業者にはいろんな面で規模のメリットがある。
彼らは大きければ大きいほど、レーベルとの交渉事で強く出られるし、ユーザーの好みのデータがたくさんあるほど聴き手にもアーティストにもよりよいサービスができるというものだ。
地域進出、価格差別...ストリーミングが音楽市場を変えていく
ストリーミング業者が払う印税は売り上げのだいたい一定割合だけれど、一定で変わらない、だからお客が増えても増えない費用(ウェブサイトやおすすめのアルゴリズムを開発する費用なんかがそう)だってある。
その結果、いろんなストリーミング業者の間では、もっと成長しよう、世界の中でもインドやラテンアメリカなんかの新しい地域に進出しようって競争が激しく行われている。
規模と他にはない特徴が音楽のスーパースターを生み出すのと同じように、ひと握りのストリーミング業者が先々で音楽市場を牛耳るお膳立ては、もう整っている。
ストリーミング業者のビジネスモデルには、最後にもう1つ書いておきたい切り口があって、彼らは売り上げを最大化し、利用者の数を増やすべく価格差別を始めているってことだ。
一番よくある購読料は月に9.99ドルだけれど、この料金はサービスの内容や使う機器の数、使う家族の人数なんかで変わってくる。
今、アマゾンはアマゾン・プライムの会員に、制限つきのカタログ(全部で200万曲)をタダで、無制限のカタログを月に7.99ドル(エコー・ドット1台だけのサービスなら月に3・99ドル)で、さらに家族のメンバー6人までなら無制限のカタログを月に14・99ドルで提供している。
スポティファイは広告アリのオンディマンドのサービスをタダで、広告ナシのサービスをプレミアム個人会員と家族プランの購読者に提供している。
アップル・ミュージックはタダのサービスを提供していないけれど、個人プランは月に9・99ドル、家族プランはメンバー6人まで月に15ドルで提供している。
ユーチューブは圧倒的に広告アリでサービスを行っているけれど、最近、音楽を広告ナシで月に11.99ドル、家族プランを月に17.99ドルで提供している。
学生相手には料金を安めにしている業者も多い。
そんな価格戦略で彼らが目指しているのは、料金に敏感でない消費者には高めの料金を課し、売り上げを増やして市場シェアを高めることだ。
ストリーミング・サービスがこれからどうなるか、確かなことは誰にも言えない。
でも変わっていくことだけは確かだ。
映画のストリーミング・サービスと映画の制作を両方やる例(ネットフリックス、アマゾン、ディズニー)を見ると、音楽もそういう方向へ向かうのかもしれないと思う。
もしそうなったら、音楽業界の経済学はまたしてもひっくり返るだろう。
誰にとっても身近な音楽と経済
著者のアラン・クルーガー氏は、次のように語っています。
「ほとんど誰だってなんらかの形で音楽業界とつながっている」
日々の買い物や食事、遊びや仕事など、こうした生活そのものが「経済活動」と呼ばれるように、経済も音楽と同様に身近なものです。
同書を通じて身近な経済と音楽の関係を知ると、私たちがふだん何気なくしている行動の意味や、音楽との新しい付き合い方が見えてくるかもしれません。
ぜひ一度、読んでみてはいかがでしょうか。
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