ビジネスパーソンインタビュー
「前澤さんにもちゃんとツッコむんだけど…」
「失敗から学んだことです」波瀾万丈の起業家が“年上・年下を意識する”意外な理由
新R25編集部
シーラホールディングス取締役会長の杉本宏之さん。
不動産販売のエスグラントコーポレーションを創業し、業界最年少の28歳で上場させたものの、30歳で400億円の負債を抱え、その後自己破産…。しかし、その後2010年にはシーラホールディングスを創業。ワンルームマンションの開発・販売などを手掛け、年商200億円を上げるなど、見事な“復活”を遂げています。
波瀾万丈な杉本さんですが、まわりの経営者の方からは「いい意味で“人たらし”」と、人心掌握に長けているという声が多く聞こえます。
“かわいがられる経営者”である杉本さんに、我々でもマネできそうな「人たらしのコツ」をきいてみました。
〈聞き手=天野俊吉(新R25副編集長)〉
「目上の人は気を遣われすぎてるから、イジられると喜ぶ」とよく聞くけど…杉本さんの実践例
天野
杉本さんは、立場が上の人からも“愛される”キャラだと聞きました。
目上の人って「ふだん気を遣われすぎてるから、イジられると喜ぶ」とかよく言いますけど、実際難しくないですか…? 何かコツがあるんですかね?
杉本さん
ひとつは、「まわりの人がツッコめないときに、ちゃんとツッコんであげる」ってことじゃないですか。それは失礼じゃなくて愛情だから。
杉本さん
たとえば以前、前澤(友作)さんと飲んだんです。
そのときに、彼が「最近、ブラッド・ピットに似てるって言われるんだよねえ」って言いだしたんですよ。
え…ええっ?と思って。
「ええっ?」が顔に出すぎてますて
杉本さん
まわりのスタッフの人も、「ああ、たしかにこの角度から見ると…」とか言ってるんですよ。ええ~!?と思って。
天野
それでどうしたんですか?(笑)
杉本さん
「いやいや、間寛平師匠のほうが似てますわ」とちゃんとツッコんであげました。
ほかにも、前澤さんってよく「お金のない世界に行きたい…」とか言い出すんですよ。だから、「あんたからお金取ったら間寛平師匠に似てるただのおじさんだわ!」ってツッコんであげるとか。
いろんなことを相談する尊敬する方なんですが…似てるのは事実なので、ちゃんとツッコんであげないと(笑)。
「言えるか」ってツッコみたい
「古いかもしれないけど…」杉本さんが“先輩後輩”の関係を重視する理由
天野
杉本さんの本のなかに、「相手の年齢をきいて、年上だったら頭を下げて『先輩ですね!』ってあいさつする」って書いてあったんですが“先輩後輩”っていうのはかなり意識されてるんでしょうか?
杉本さん
うん、「年齢が上」って根源的に意識したほうがいいと思うんですよ。
1個ぐらいならいいけど2個とかだとちゃんと先輩として立てないといけないと思う。
天野
ええ…けっこう体育会系ですね…。それはこう…ヤンキー的なノリっていうことですか?
杉本さん
いや(笑)。
「年長者を敬う」って、古い価値観に見えるかもしれないけど、僕にとってはそのとき調子がいいか悪いかで態度を変えないっていう尺度になるんですよ。
杉本さん
経営者として売上が上とか下とか、経営がイマイチだとか…ヒエラルキー的なものって、ぶっちゃけあるんです。
そういう仕事のアップダウンで、人の扱いが変わってしまうことって世の中にはたくさんあるでしょ。
天野
ああ~わかる気がする…
杉本さん
でも、何があれど“人生の先輩”を「先輩として立てます」っていうスタンスを持ってると、付き合い方を変えずに済むんですよね。
天野
仕事の状況とかによって友だちとの関係性変わっちゃうこと、正直ありますね…よくないよなあ。
杉本さん
これは、28歳で上場を経験したエスグラント社時代の失敗から学んだことです。先輩方が僕に何も言えなくなってしまったし、僕も先輩の言うことなんか耳に入らなかった。
先輩から「すごいな…」しか言われなくなってた。そうなったら人間終わりです。
30代で会社の倒産、自己破産を経験した人がこれを言う重みよ…
杉本さん
1000億円あっても1兆円あっても、謙虚な姿勢は変えちゃいけない。
仮に仕事がうまくいってなかったり、失敗したりした人でも、その「失敗」を経験されてるじゃないですか。
人生のなかで上下していくもので、付き合いかたを変えない。“愛される”とか“かわいがられる”っていう前に、基本的な考えとして大事だと思いますね。
天野
ホント、おっしゃる通りですね…
「人間関係は投資だが、リターンは期待しない」杉本さんが語る“千三つ”の感覚
天野
社会人になると、人間関係にもさまざまな利害関係がからんできますよね。
ちょっと漠然とした質問ですが、杉本さんはどういう感覚で人間関係をつくっているんですか?
杉本さん
「千三つ(せんみつ)の世界で投資をしてる」って感覚かなあ。
天野
千三つ…。千のうち三つぐらいしか本当じゃないっていう意味ですよね。
杉本さん
そう。投資業も「千三つ屋」なんて言い方するんだけど(笑)。
“不確かなものだから、あんまりリターンに期待するなよ”って感じですかね。
人間関係は「投資」だと思って計算をするんだけど、リターンは期待しないっていう感覚。
天野
なるほど…。ある程度は「投資」だと思って、貸し借りを考えて人付き合いしたほうがいいと?
杉本さん
そう、ギブ&テイクの計算がなかったら絶対ダメです。
たとえば若者で、何の意図もなく“頭のなかお花畑”で「○○さん~! なんかしてくださいよ~!」みたいな子いるでしょ。
そういう人はもう、シャットアウトされますよね。
されたくない
杉本さん
だから、すべてにおいて投資という意識を持つ。人間、良くしてくれた人には悪くはしないから、人に時間や愛情を投資するっていう考え方です。
でも、矛盾するようだけどリターンは期待しない。
天野
ふむふむ。
杉本さん
僕も会社員だったころは、お客さんに仕事中に「パチンコ行こうよ」って言われて、お客さんは負けまくったのに僕だけ確変が出て、「そのお金でスナックおごってよ」って全部お金を使わされたり、結局その人の家に泊まってご飯をごちそうになったり…
仕事とは関係のない人間愛というか…、人と話すのが好きなんでしょうねえ。
普段はそれぐらい「ギブ&ギブ」でいいんだと思います。でも、そんな不確かな世界のなかでも、「いつかこの経験から“テイク”しよう」っていう計算を心のどこかでしておくことですよね。
杉本さんが“すごい人たらし”と思うのは、やっぱりあの起業家…
天野
そんな杉本さんから見て、「この人は人たらしだなあ」と思う人っていますか?
杉本さん
いろいろいるけど、やっぱり前澤さんかな。
関係者を増やす、仲間を増やすのが圧倒的にうまいなと思いますね。
天野
ほ~! やっぱりすごいんですね。
杉本さん
前澤さん、今Twitterで「お金贈り」をやってるじゃないですか。
あの企画を「いっしょにやってくれ」と頼まれたんですよ。
※「お金贈り」…前澤さんと、賛同する経営者などがテーマを決めて、該当する人にお金を贈るTwitter上の企画。杉本さんは2月15日週に「飲食店従業員500名様に2万円with杉本宏之さん」として参加しています
杉本さん
ただ僕も今の会社でIPO(上場)を目指してるから、「ツイッターでお金を配ります!」って立場的にもなかなか難しいわけですよ。
だからちょっと渋ってたら、前澤さんから直接電話が来るんですよ。
天野
なんて言われるんですか?
杉本さん
「俺には、親友ってお前しかいないんだよね」「スギしかいないんだよ」って…
天野
めちゃくちゃウェット…!
杉本さん
で、そのあと長文でLINEが来るんですよ。
「この緑のTシャツの男になってくれ(土下座の絵文字)」(※LINE内容の公開については、前澤さんサイドにご快諾いただいております)
杉本さん
「日本の寄付文化を大きく変えるきっかけになった最初のフォロワーになってくれ」と、この動画が送られてきたんです。
見たことある方も多いのでは? 裸で踊る男と、いっしょに踊りだす「最初のフォロワー」。世界を変えるムーブメントを起こすには、「勇気あるフォロワー」が大事だというメッセージの動画です
杉本さん
折を見て「親友」とか「俺の最初のフォロワーに…」とかいう言葉を使って、すっごくウェットに巻き込んでくるんですよ。
ズルいでしょ?(笑)
絶対断れないんですよ。
天野
メリットを提示したり、ロジカルに説得したりすると思いきや…
杉本さん
ウェットなんですよねえ。彼は本当にそういうところがある。
ツイッターでも「僕の親友の杉本が賛同してくれて…」とまわりに発信するわけです。
仕事でも同じようなことをやっているんだろうなって思うんです。そうやってウェットに仲間を増やしていける人が、最終的には強いですよね。
天野
そうやってズルくても人を巻き込む人が強いのか…なるほどな~。
杉本さん
そのくせ、僕が前澤さんに頼みごとをすると、あっさり断られたりするんですけど…(笑)。
でも最近、シーラで社運を賭けた企画に協力してほしいとお願いしたら、「スギちゃんがそこまで言うなら協力する」と、あっさり快諾してくれて、プロジェクトが進んだんですよ。
そうなると、断られつづけた振り子が急に揺れて「友作、好き…」ってなっちゃう。
やっぱりズルいですよね(笑)。
壮絶な失敗経験を経ても、杉本さんが力強く再起できたのは、まわりの人に愛される不思議な魅力があるからでしょう。
多忙のなかオフィスで丁重に取材陣に応対してくれた姿から、その“人たらし”力が垣間見えました。
ウェットに、そして相手の年齢を意識して謙虚に。
仕事を通じてたくさんの人に“かわいがられ”ていこうと思います。
〈取材・文=天野俊吉(@amanop)/撮影=森カズシゲ〉
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