ビジネスパーソンインタビュー
「緑のお茶」「生理用品の広告」がすぐれているのはなぜ?
「広告がうざい」と最近言われるのは理由がある。GO三浦が語る“うざい広告、愛される広告”
新R25編集部
最近、いろいろな意味で「広告」が話題になることが多いように思います。
ただし、批判されてしまったり、「若者は広告を嫌っている」という文脈だったり、あまりいい意味では話題になっていない気が。
今週の新R25は、「いい広告って何だろう?」をテーマに、2人の広告人にお話を聞きます。
【三浦崇宏(みうら・たかひろ)】1983年生まれ、東京都出身。博報堂、TBWA HAKUHODOを経て現在The Breakthrough Company GO代表取締役。4月5日に『「何者」かになりたい 自分のストーリーを生きる』(集英社)を上梓。お母様はオペラ歌手らしい
1人目は、もちろん(?)この人。The Breakthrough Company GOの代表取締役であり、PR/クリエイティブディレクターとして活躍する三浦崇宏さんです。
“愛される広告って何?”という取材のため六本木のオフィスを訪れると、いつになく鼻息の荒い三浦さんが出迎えてくれました。
〈聞き手=天野俊吉(新R25副編集長)〉
三浦さん
ついにきたね。
天野
はい?
三浦さん
新R25、俺のところに来るときはイロモノみたいな取材ばっかりだったじゃん。
卒業文集見せてくれとか…
三浦さん
ついにド真ん中の俺の本業、広告についての取材に来てくれたわけだね。オッケー、やっていこう!
めっちゃウキウキしてる三浦さん。お願いします!
広告はそもそも「俺の×××はでけえ」という自慢話。“最近”とくに嫌われる理由とは…?
天野
最近“広告が嫌われてる”って言われたり、問題になったりすることも多いですよね。「愛される広告」ってどんなものなんでしょうか?
三浦さん
たしかに「最近広告が嫌われています」ってよく言う。でも、本来広告って嫌われて当たり前のものだと思わない?
だって、こっちは『水曜日のダウンタウン』が見たくてテレビ見てるのに、途中で「ウチの飲み物はうまいです!」って全然関係ない自慢話をされるわけだから。
いきなり「俺の×××はでけえ」っていうアピールを聞かされてるのと同じなのよ。
※下品なたとえですが、あえてキャッチーな言葉を使う三浦さんなりの優しさと解釈し掲載しました
三浦さん
最近、「愛されてる広告」って言ったら、何を思い浮かべる?
天野
ポカリスエットのCMは感動しましたね。まわりでも称賛する声をよく聞きました。
なんならちょっと泣きました
三浦さん
それも、大塚製薬の社長にいきなり「汗をかいたらポカリ飲め!」って言われたらうざいでしょ。
「愛される広告」になるには、あそこまで素晴らしいクリエイティブを作らなきゃダメだっていうのがよくわかる。
「広告はうざいものなんだから、美しく、あるいは面白くするのは最低限の義務だ」という意識があるから、ああいったすぐれた広告ができるんだよ。
天野
そもそも邪魔なものというのは同意しますが、最近とくに「うざい」と言われるようになったのはなぜなんでしょう…?
三浦さん
ずばり、テクノロジーの進歩によるものだよね。
具体的にいうと「ターゲティング」。
ターゲティング=過去に閲覧したページなどをもとに、ユーザーが興味を持ちそうな広告を表示させる技術
三浦さん
これまでの広告には、「お邪魔してすいませんね」という謙虚さがあった。
ところがターゲティングの技術が生まれて、謙虚に生活者のことを考えなくてもよくなったわけよ。
「どうせこういう商品に興味があるんだろ」「イスについて検索したんだから机もほしいんだろ」みたいなさ。
天野
全然関係ない広告が出るより、便利だと思うこともありますが…
でもたしかに、物件について検索したあと、どのサイトに行っても賃貸物件の広告が出てくるのとか萎えますね。
三浦さん
AIの精度も低いから“一生代官山の部屋探してると思ってんのか!”みたいなことが起きる。
クリエイティブを磨いてうざく思われないようにしよう…という工夫が失われて、こういう事態が起きているわけ。
「イケメンはだいたい話つまんないし、○○○○がヘタ(偏見)」みたいな話なのよ。
※下品なたとえですが(以下略)
三浦さん
タクシーアドも、YouTubeのアドも、クソみたいな映像ばっかじゃん。
天野
撤回してください。
三浦さん
これは俺の意見だから書いていいよ。
タクシー乗ってるんだからどうせ企業のマネジメント層だろ?って傲慢に見せつけるなんてクソだよ。
天野さんだって、次の取材までにタクシーのなかで資料読まなきゃいけないのに大声で会社名言う広告流れてきてイラッとしたことあるでしょ?
天野
え、ないですよ…
…ああいう動画は全部「クソな広告」なんですか?
三浦さん
もちろん、芸人さんを出したりして“愛されよう”とはしてるよ。でも、タレントの好感度だけでそれをするのは最終手段だと思う。
ポカリスエットのCMも、広瀬すずが走ってるわけじゃないけど感動したでしょ?
本当にすぐれた企画とクリエイティブがあれば、タレントは必ずしも必要じゃない。
「緑の伊右衛門」「ユニ・チャームの生理用品の広告」が“自慢話”じゃない理由とは?
三浦さん
いっしょにいて面白い人、好かれる人って「話が自慢で終わらない」と思わない?
「この前会社でMVP獲って…」って話のあと、「まあじつは全部の案件赤字だったんだけど」「なあんだ」ってオチをつけるじゃん。
それと同じで、すぐれた広告は、自慢に聞こえないわけ。
天野
でも、広告って結局はアピールするものなので、本質的には自慢なのでは…?
三浦さん
…うん、これは本当にいい取材ですよ。声かけてくれてありがとうございます。
ただの自慢にならない広告には、何があるのか?『ACC 日本のクリエイティビティ 2020』(宣伝会議)を見ながら解説しましょう。
三浦さんの考えるいい広告①「伊右衛門」
三浦さん
この伊右衛門の広告は知ってる?
天野
ありましたね。今まで茶色かったけど緑になりましたという。
三浦さん
これ、ただ「お茶の色が緑になってうまそうだろ」っていう自慢じゃないんですよ。
緑を見せるために、面積が少ないラベルが採用されてたり、ラベルをはがした裏にイラストが描かれてたりするの。
しかも「ラベルレス」のボトルも販売されたわけ。根幹には“環境への配慮”があるんだよね。
天野
へえ…!
講義はまだまだ続きます
三浦さんの考えるいい広告②「#NoBagForMe」
三浦さん
「#NoBagForMe」というキャンペーンは知ってる?
天野
なんとなく字面に見覚えはあります…
三浦さん
「#NoBagForMe」っていうのはユニ・チャームの生理用品に関する広告なんだけど、生理用品って、コンドーム買うときと同じで、レジで茶色の紙袋に入れられるんだって。
つまり「恥ずかしいもの」扱いってことだよね。
それに対して、紙袋はいらない!と主張するキャンペーンなわけ。「恥ずかしいことではないし、これを機に女性の生理について話そう」っていう。
天野
だから「NoBag」なのか。
三浦さん
俺らは正直、生理用品の質ってわかんないけど…、たぶんどの商品もそこまで品質は変わらないじゃん。つまり商品がコモディティ化してる。
そういうときに、企業の「こんな社会にしたいと思っています」っていう姿勢に共感して購入するということが起きるんだよね。
三浦さんの考えるいい広告③「ユーグレナ“最高未来責任者”」
三浦さん
これもすごいよ。ユーグレナ社が18歳以下限定の「CFO(Chief Future Officer)=最高未来責任者」という役職をつくるという新聞広告なんだけど…
天野
ミドリムシを研究してヘルスケア事業を行ってる会社ですよね。
三浦さん
そうそう。バイオ燃料の開発とか、すごい事業をたくさんやってるんだけど、「ウチは未来に対していいことをしてるいい会社ですよ!」って言うより、「未来を生きる若者にこういう役職をつけて、活躍の場をつくっていく」っていうアクションを起こすことでそれを表現してるわけ。
「実際にアクションを起こし、磨き上げられたクリエイティブで美しく伝える」
天野
…三浦さんの言いたいことがわかってきました。
三浦さん
これらの広告に共通するものは何か。
それはまず「活動」、つまりアクションがあることだよね。
三浦さん
ただの自慢話をするんじゃなくて、企業が社会にとってよいアクションを起こしている。それを伝えるために、テレビCMや新聞広告がある…というのが今のトレンド。
これを、ブランドを体現し、ブランドをつくるための活動=「ブランドアクション」と言うんです。
天野
なるほど…! 実際にアクションしている「中身」があるから、自慢っぽく聞こえないんですね。
三浦さん
実際にアクションを起こし、それを磨き上げられたクリエイティブで美しく、楽しく伝える。
これが、今俺が考える「愛される広告」。
こういったものが世に出せれば、社会にいい影響を与えられるはず。俺が「どうせこれがほしいんだろ?」みたいな考えの広告をクソっていう理由がわかってもらえた?
わかったけどクソは言いすぎだと思います
三浦さん
広告の会社に入ると最初に習うことは「課題を解決するプロセスのことを広告と呼ぶ」ってことなんだよ。
CM流して、モノを知らせることだけじゃないわけよ。
天野
さすがの納得感でした。
三浦さん
どう? めちゃめちゃ広告くわしいだろ? 俺。
これ以上ないぐらいのドヤ顔でフィニッシュです
さまざまな広告事例を学べたうえで、明後日公開の記事では、我々が仕事にも取り入れられる“広告観点ですぐれた、拡がる言葉の生み出し方”を学びます。
キーワードは「持ち運び」と「弱さ」。
それっていったい…?
乞うご期待!
〈取材・文=天野俊吉(@amanop)/撮影=森カズシゲ〉
記事中で参考にさせていただいた「ACC年鑑」はこちら!
三浦さんの著書『超クリエイティブ』でさらに学ぶ
「〈本質発見力×世界の複数性の理解〉が革新的な発想を生む」「エッセンシャル消費へ――ポストコロナ時代の10の変化とは?」など、仕事に活かせるクリエイティブ術が満載の一冊です。
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