ビジネスパーソンインタビュー

“全社員リモート”のCOOが「仕事のモチベーションは上げるな」と極論を言うのでツッコんできた

「モチベーションを上げない、一体感も作らない」「ビジョンへの共感もいらない」

“全社員リモート”のCOOが「仕事のモチベーションは上げるな」と極論を言うのでツッコんできた

新R25編集部

2021/06/06

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800人の社員全員がフルリモートで稼働しているという、株式会社キャスター。さまざまなビジネスの現場で利用される、オンラインアシスタントサービスを運営する会社です。

そんなキャスター社、取締役COOの石倉秀明さんが「“すべてをあきらめる”というマネジメントスタイルを取材してほしい」と連絡してきたのは、5月の暑い日のことでした…。

メッセより

「モチベーションを上げない、一体感も作らない」

「ビジョンの共感もいらない」

「リモート時代での上司に大切なのは『あきらめ力』」

メッセージに書かれている趣旨を見ると、仕事へのモチベーションも“会社のビジョン”も不要、というかなりの極論が展開されています。

石倉さんの最新著書のタイトルは『これからのマネジャーは邪魔をしない。』。昨年の著書は『会社には行かない』『コミュ力なんていらない』…。

基本極論だな…。いちビジネスパーソンの等身大な意見を大事にする新R25としては、正直ツッコまざるを得ません。

フルリモートだから、取材に来ていただくオフィスがないんですよね(笑)」と言うので、編集部までお越し願いました。

〈聞き手=天野俊吉(新R25副編集長)〉

【石倉秀明(いしくら・ひであき)】リクルート入社後、2009年に当時社員5人のリブセンスへ。「ジョブセンス」の事業責任者として入社から2年半で東証マザーズへの上場に貢献。その後、DeNAのEC事業本部で営業責任者を務めたのち、新規事業、採用責任者を歴任。2016年より株式会社キャスター取締役COOを務める

リクルート時代のあだ名は「軍曹」。メンバーを泣かせていた過去…

天野

今日はマネジメントに関する「あきらめ力」というテーマでお話ししてくれるとのことですが…けっこうな極論じゃないかなと思っています。

そもそも石倉さんも、リクルートではゴリゴリの営業マンだったんですよね?

石倉さん

1年目は、リクルートの求人広告の営業をしてたんですけど、毎月全目標を達成してたかな。

MVPを獲らせてもらう“常連”でしたね。リクルートっていろいろなMVPがあるおかげだとは思うんですけど(笑)。

それで2年目からチームリーダーを任せられることになったんです。

天野

すごいスピード出世だな…

石倉さん

ただ…メンバーを激詰めするようになっちゃって…

2年目なのに「軍曹」って呼ばれてたんです。

今では軍曹みのかけらもないルックスですが…

石倉さん

僕のなかでは「達成しないとかあり得ない」っていう感覚なのに、普通に「未達です」って報告されるから、めちゃくちゃイラッとするわけですよ。

天野

優秀な人にありがちなやつ。

石倉さん

メンバーが、やるって決めたことをやってなかったり“テレアポがつらい”とか言ってきたり…

なんかこう…「会社は学校じゃねえんだよ」みたいな気持ちになってしまって…

優秀な人は皆その名言にたどり着くのでしょうか?

石倉さん

マネジメントといってもよくわからないから、先輩のマネをしてとりあえず「お前はどうしたいの?」って言って(笑)

あとは達成できない言い訳をロジカルに潰していくみたいな…ミーティング中に泣き出すメンバーもいました

みんな、徐々に体調崩しはじめたり、ミーティングの欠席が増えたり、勝手にアポをかぶせるようになったり…

天野

地獄の職場や…

石倉さん

さすがに僕も会社行くのがキツいなと思っていたころ、異動してきたメンバーに「石倉さんは、何もしなくていいんですよ」と言われたんです。

それが「あきらめてみよう」と思ったきっかけでした。

天野

そこからスタイルを変えたと。

石倉さん

そしたら…不思議と、チームがうまくいくようになったんです

ポイントだけ抑えつつ“何もしない”ようにしたら、チーム全体の数字がどんどん上がるようになって…

そのうちなぜか「石倉はマネジメントがうまい」って言わたりして、いろんなメンバーを任されるようになったんです。

そんな進研ゼミみたいな展開ある?

一人前じゃないメンバーを“放っておけない”のは当然では?

天野

メンバーに対して「何もしない」「あきらめる」っていうお話にツッコませていただくと…

リモートワークだと、メンバーに「何してるかな」「ちゃんと仕事進んでるかな」って心配になることは当然ありますよね?

石倉さん

そういう人にはこう言ってます。

恋人から1時間おきに『今何してる?』ってLINEが来たらどう思う」って。

たとえがややメンヘラな石倉さん

天野

恋人はそうかもしれませんけど…

一人前のメンバーならともかく、まだ成果がちゃんと出せるかわからないヤツだったら「1人で大丈夫か?」って考えるのは当然ですよね?

石倉さん

「一定の成果を出したら信頼する」ってみんな言うんですけど、そこがマネジメントにおける「信頼」のキモで…

どんな相手でも、無条件に信頼するべきなんです。

「こいつはまだ一人前じゃないから」「オレの信頼を勝ち得たら…」って思いがちじゃないですか。

でもそれって、一生来ないんですよ。ケチはいくらでもつけられるから。

それはまあわかる気もする

天野

…ちょっと本気でツッコんでいいですか?

放っておきたくてもできないのはなぜかというと、“任せておいて月末フタを開けたら未達成だった”が怖いからだと思うんですよ。そうじゃないですか?

石倉さん

それって、相手を信頼することと、能力的なサポートをしないことがごっちゃになってると思うんですよ。

天野

…!?

「“結果点”を押さえれば、あきらめるマネジメントができる」

石倉さん

“あきらめるマネジメント”、言い換えるなら「信頼しながら、成果を出してもらうマネジメント」のポイントのひとつは、ゴールまでの間に「結果点」を設けること。

天野

結果点?

石倉さん

人はゴールまでの道筋がわからないとどう動いたらいいかわからないし、成果なんて出せない。

だから、100万円っていう売上目標があったら、「1件売ったら10万円になるから、10件売る必要がある」「10件売るためには、商談を30件はする必要がある」「30件商談するためには、100件アポ取る必要がある」…のようにブレイクダウンする。

“100万円”にたどり着くまでの、顧客数、商談数、アポ数…という「結果点」をつくってあげるんです。

石倉さん

もちろん、実際にはここまで単純ではなく、どんな「結果点」が必要かは人によっても違うので、細かく設定する必要があります

ただ、この「結果点」をもとに報告してもらったり、次の行動を示してあげたりすれば、マイクロマネジメントではなく、最小限のマネジメントができるんですよ。

天野

…なるほど。

石倉さん

これのいいところは、「人の能力を成長させようとしていない」ことです。

仕事を教えるっていうと、「営業トークを教える」とか、その人の能力を成長させてあげようとするじゃないですか

また極論っぽい

天野

え、成長させないほうがいいんですか…?

石倉さん

人は成長したから成果が出るんじゃなく、成果が出たから成長するものなんです。

だから、メンバーに成長を求めるのは間違っている。

仕事のノウハウじゃなく、結果点を示して「達成の仕方」を教えることです。その先に成長があるはずなんですよ。

「モチベーション上げなくていい」ってことはなくないですか?

天野

じゃあ、「モチベーションは上げなくていい」っていう話はどうですか?

さすがに、モチベーションが高いほうが成果が出るのは間違いないと思いますが。

石倉さん

たとえば『新R25』のメンバーが、モチベーション高く記事をいっぱい企画したとします。

それ、出してみて30本連続でハズれたらどうなりますか?

天野

それは…

石倉さん

結局モチベーションって、成果が出ないと下がるんですよ。

モチベーションが高いから成果が出るんじゃなくて、成果が出るからモチベーションが上がるんです。

そうかも

石倉さん

だったら、成果を出すことにフォーカスしたほうがいいですよね?

それ以外のことで、メンバー全員のモチベーションが上がるようなことを会社や上司がするのは難しいです。

天野

飲み会とか表彰とか…?

石倉さん

そういう施策ってよさそうですけど、じつは一部のメンバーの“存在を否定”してしまうことにもなっている。

飲み会が好きじゃないとか、家族の都合で参加できない人からすれば、飲み会がマストになると価値観や存在が否定されるような気持ちになるじゃないですか。やりたい人だけでやればいいっていうのが健全だと思います。

僕もありましたね。リクルート時代に表彰に行かなかったら上司にキレられたことが。人前でコメントを言わないといけないのがイヤで…

表彰されてるのに行かなかったんだ…尖ってたんですね

天野

じゃあ…

サイバーエージェントとかリクルートみたいに、飲み会、表彰が多い会社のマネジメントはよくないと言うんでしょうか…?

(※新R25はサイバーエージェントの子会社によって運営されています)

さあ、どう答える…?

石倉さん

いや…

そういう会社って、採用の時点でその社風を全面に打ち出してるでしょう。それだからすごくいいんですよ。

入社する前から社風がわかっている人が入ってくる。ミスマッチが起こりにくいから、会社側の施策でみんなのモチベーションを上げてあげやすい。

採用のときに、会社のカラーを強烈に打ち出すのは、そういう意味で有効なんですよね。

天野

必ずしも「この社風はダメ」というわけではないんですね。

石倉さん

そうです。これは、会社のビジョンへの共感度についても言えること。

“ビジョンへの共感で一体感を高めよう”とする施策は、ヘタするとビジョンへの共感以外の理由でその会社で働いている人の存在理由を否定してしまう。

会社がそういった施策をするほど、モチベーションを下げてしまう可能性があるなら、避けたほうがいいと思うんです。

少なくともビジョンへまったく共感できない人はその会社にはいないはずなので、会社や管理職の人が心配しすぎなんですよね。

天野

なるほどなあ。全否定されたらどうしようかと思いましたが…いろんな会社で取り入れられる手法なんですね…

案外極論でもないのかも…

無粋にツッコませていただきありがとうございました…! もはや軍曹みのかけらもないさわやかな石倉さんでした

・まずは無条件に相手を信頼する

・「結果点」を設けて、成果を出させてあげる

・モチベーションやビジョンの押し付けで、メンバーの存在を否定しない

など、シンプルながらも納得感のある「あきらめる」マネジメント姿勢。

最初は極論に思えましたが、どれも納得でした…!

〈取材・文=天野俊吉(@amanop)/取材・文・構成=市川茜(@ichi_0u0)/撮影=長谷英史(@hasehidephoto)〉

石倉さんのマネジメント論は、こちらでくわしく学べます!

「働き方が変わるということは、マネジメントも変わっていく必要があるのです」

リモート時代にマネジメントに携わるR25世代、必読と言ってもいい(かもしれない)書籍が、石倉さんの『これからのマネジャーは邪魔をしない。』。

記事内に出てくる悩みを持ったことがある方や、副業、フリーランスなどさまざまな働き方の人と関わる方は、ぜひチェックしてみてください!

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