ビジネスパーソンインタビュー
橋口幸生著『100案思考「書けない」「思いつかない」「通らない」』より
インプットは忘れるまでが1セット。電通コピーライターが教える「100案出す人の習慣」
新R25編集部
サービスの発案、売れるプロダクト企画、人の心を動かすプレゼンや提案内容…
ユニークなものを生み出すには、そもそもの「アイデア」がないと始まりません。
でも、「そう簡単にだせない…」というのが本音ですよね…。
ギャラクシー賞やグッドデザイン賞など多数受賞をしているコピーライターの橋口幸生さんは著書『100案思考「書けない」「思いつかない」「通らない」がなくなる』(マガジンハウス)で「才能やセンス、道具がなくても、コツを掴めば誰でもアイデアメーカーになれる」と言っています。
100案とは言わずとも、数多くのアイデアをだすためのコツを同書より一部抜粋してお届けします。
「調べる:アイデアを出す」は「8:2」がいい
僕の経験した実例を紹介します。
図書館で借りてきた絵本を、子どもたちに読み聞かせをしたことがありました。
タイトルは『ツバメのたび5000キロのかなたから』(偕成社)。
ツバメがひな鳥を生むために、遠い外国からさまざまな困難を乗り越えて日本にたどり着くまでの様子を、感動的に描いた絵本です。
リビングで読み聞かせをして、子どもたちと一緒に「ツバメって、すごいね!」と驚いたことが記憶に残っていました。
その後しばらくして、「ANA」の広告制作を担当する機会がありました。
広告の目的はビジネスクラスの快適さを伝えること。
ANAのビジネスクラスは格付機関から5スターの認定を受けるなど、世界的に評価が高いのです。
シートの快適さ、機内食のおいしさ、充実のエンターテイメント設備など、訴求ポイントはいろいろあるものの、そのまま説明しても広告としてはインパクトに欠けます。
どうしたものか…と悩むうちに、『ツバメのたび』のことを思い出しました。
ツバメたちが命がけで飛ぶ一方、人間はふかふかのシートに包まれて、機内食や映画を楽しみ、ぐっすり熟睡しながら外国まで行ける。
ツバメたちに比べてなんて贅沢なんだろう…と気づいたのです。
そこで広告には、次のコピーを使いました。
「人間だけが、時速900キロで熟睡できる。」
ANAのコピーを書いたのは、絵本『ツバメのたび5000キロのかなたから』を読んでから数年後でした。
このコピーのおもしろさは、「渡り鳥」と「ビジネスクラス」という、一見なんの関係もないものをつなげているところにあります。
無関係なものがつながるまでには、それなりの時間が必要なのです。
しかし、そんな悠長なことを言っていられない場合もあります。
ご安心ください。
直接仕事に活かせるインプットについて、説明したいと思います。
たとえばあなたが仕事で「新しいスニーカー」のアイデアを考えることになったと仮定しましょう。
最初にやるべきなのは、新しいスニーカーのアイデア出しではありません。
まずはスニーカーについて、徹底的に調べることが必要です。
自分がはいているスニーカーや今、お店で人気の商品など、その程度で満足してはいけません。
過去の名作からスニーカーの歴史、高値で取引きされているお宝スニーカーのこと、スニーカーのブランドの変遷と特徴、そして「そもそもスニーカーとは何か」まで調べるのです。
本当なら、もう調べることがなくなるくらいまでやったほうがいいのですが、そこまで時間が割けないことも多いと思います。
僕の場合は「調べる:アイデアを出す」を「8:2」くらいの時間配分で取り組んでいます。
多くの人は、対象物について調べずに、いきなりアイデアをひねり出そうとします。
だから行き詰まるのです。
8割の時間をインプットに費やせば、まったくアイデアが出ないという状況は、まず起こりません。
さあ、ぜんぶ忘れていい
ひととおり、インプットスキルについて説明してきました。
後はどうアイデア出しに活かすかがわかれば、完ぺきですね。
多くの人は、このようなイメージを抱いているのではないでしょうか(ここでは、あなたが自動車メーカーで働いていると仮定して、説明します)。
『100案思考』クルマの情報についてインプットする
⇩
メモ帳の「クルマ」欄にメモしておく
⇩
後日、新車のアイデアを出す仕事を担当することになる
⇩
メモ帳の「クルマ」欄を開く
⇩
そこに書かれていることを見ているうちに、「そうか!」とひらめく…
読書術やメモ術の本には、インプットした内容を忘れず管理する方法について、多くのページ数が割かれています。
確かに、このようにインプットを活用しようと思えば、記録と管理が欠かせないでしょう。
しかし、僕は断言します。インプットした内容は、忘れても大丈夫。
そもそも人間は「忘れる生き物」です。
その生理に反したやり方で最高の案が出るわけがない。そう思いませんか。
人間の脳はハードディスクではありません。
インプットした情報をフォルダに分け、保存しておいて、都合のよいタイミングで取り出して…なんてことができるわけがないのです。
「重要なのは忘れないことより、インプットの流れを絶やさないこと」です。
僕がかつて仕事をしたクリエイティブ・ディレクターは「今、見ているものをヒントにアイデアを出す」と言っていました。
そう思って彼の作品を見てみると、前の晩に見たバラエティ番組や、最近ハマっている本など、すごく身近な題材がインプットとして活用されていたのです。
このことに気づいてから、僕は忘れないようにメモを整理したりする努力を、いっさいやめました。
メモを取るのも、忘れないためというより、文字にすることで思考のプロセスを明確にするためにやっています。
特別な努力をしなくても、過去のインプットをふと思い出して、仕事に活かせる場合はあります。
記録の管理は、先に述べたツイッターやツイログを活用すれば、十分です。
「役に立つこと」がアイデアを殺す
アイデアを考え出すには、まずインプットから。
さんざんこう書いてきて矛盾しているようですが、インプットを仕事に役立てようとしてはいけません。
仕事を意識した瞬間、視野が狭くなり、インプットの量と質が下がります。
先述のANAのコピーの例を思い出してください。
もし僕が「仕事に役立てるぞ〜」と意気込んでいたら、仕事と無関係な子どもの絵本のことなど、すぐに忘れていたでしょう。
「役立つ、立たない」などとチンケなことを考えず、純粋な好奇心でインプットする。
結局、そのほうが仕事の糧かてになるし、のちのち生きてくるのです。
「役に立つ、という言葉が社会をダメにしていると思っています」これはオートファジーの研究で2016年ノーベル生理学・医学賞を受賞した大隅良典教授の、受賞会見での言葉です。
『100案思考』「この研究を始めたときにオートファジーが必ずがんにつながる、人間の寿命の問題につながると確信していたわけではありません。
基礎的な研究はそういうふうに展開していくものだと理解していただければ。
基礎科学の重要性を強調しておきたいと思います」
「科学で役に立つということが、数年後に企業化できることと同義語みたいに使われているのは問題。
本当に役に立つとわかるのは年後かもしれないし、100年後かもしれない。
将来を見据えて、科学を1つの文化として認めてくれるような社会にならないかなと強く願っています」
大隅教授の発言は科学だけではなく、ビジネスにもそのまま当てはまると思います。
役に立たなくてもいい。整理整頓しなくていい。忘れてもいい。
くり返しますが、大切なのはインプットの流れを絶やさないことです。
インプットのスキルを意識しながら生活していると、「人生の解像度」を高める効果があります。
何十冊も速読したり、セミナーに足しげく通ったりする必要はありません。
見飽きたと思っていた近所の光景も、注意深く観察すれば、まだまだ新たな発見があることに気づくでしょう。
日常的なインプットからアイデアは生まれる
『100案思考』「クオリティ度外視で、とにかく100案出す。
これは鉄則です。
よほどの天才ならいざしらず、なんとなく考えた1案が優れていることなんて、ありえません。
量と質はセットなのです」
と、橋口さんは言います。
『100案思考』には、より数多くアイデア出しができるようになるノウハウが詰まっています。
自分ならではのアイデアで周りと差をつけていきたい、結果を残したい人におすすめの一冊です。
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