ビジネスパーソンインタビュー
前田高志著『勝てるデザイン』より
デザイナー歴は“フォント”でわかる。若手デザイナーに伝えたい「デザインの引き出し」思考
新R25編集部
元・任天堂デザイナーの前田高志さん。
大阪芸術大学を卒業後、任天堂で15年間にわたり宣伝広告デザインをしてきたプロのグラフィックデザイナーです。
2016年に独立し、現在は株式会社NASU代表、オンラインコミュニティ「前田デザイン室」オーナーとして活動しています。
有名企業を経て起業した前田さんですが、もともとは周りの人たちの才能に打ちひしがれていたそう。著書『勝てるデザイン』の中で、「凡庸でセンスもない、その筆頭が僕だった。でも必死に努力をし試行錯誤を続けた結果、“勝てる”デザインの真髄がわかった」と言います。
総クリエイター社会とも言われる今、凡人が一歩抜け出すためにはどうすればいいのか。
ビジネスパーソンにも通ずる、これからの個人の戦い方と仕事術を、デザイン視点から教えてくれる同書より抜粋してお届けします。
まずは“デザインの引き出し”を増やせ
僕はクライアントがOKを出してくれれば、自分のプレゼン案をWEBで積極的に公開しています。
するとたいてい、「よくそんなにたくさんデザイン案が思いつきますね」という感想をいただきます。
僕だって最初からこんなにたくさんの案を思いつきはしませんでした。
昔、「これだ!」と思って、…というか正直に言えばそれしか思いつかなかった渾身の一案を、大事に大事に磨いて育てて見せた結果がダメだった時の落胆ときたら、もう…思い出すと吐き気がします。
ではどうやって克服したかと言うと、デザインの引き出しの数を圧倒的に増やしたんです。
具体的にはまず、デザインの本を読みまくりました。
読んでみて自分に合っていた本もあるし、そうじゃなかった本も当然あります。
そういう話をすると、若いデザイナーからは当然のごとく、「おすすめの本はありますか?」と聞かれます。
一応優しく何冊か答えるんだけれど、本音では、「興味があるなら、すべて目を通すでしょ?」と思っています。
「あの人のおすすめ」だけを読もうという考えに、そもそも共感できないからです。
何かを極めたい時に、良いものだけを吸収したいという人からは、情熱を感じません。
極めるということは、選り好みせずに端から端からまでそれに向き合うことです。
僕はそうやってシャワーを浴びるかのごとく、デザイン本からアイデアや表現、伝え方を吸収してきました。
それを頭の中のデザインの引き出しに入れておくのです。
スピーディーにデザインが作れない原因を知ろう
①本質をつかめていない
デザインしていて迷ったり、手が止まることがあるかもしれません。
それは情報が不足しているからではないでしょうか?
解決するには自分の頭の中だけで考えていても答えは出てこない。
情報不足を補うしかありません。
上司やクライアントと積極的にコミュニケーションを取りましょう。聞きましょう。
何のためのデザインなのか。このデザインによって何をしたいのか。
当たり前のことに思われるかもしれませんが、これができていない人が意外と多い。
聞くことを遠慮しているのか、あるいは聞くことはプライドが許さないのか。
どっちにしてもデザインはクライアントの問題解決のためのもので、自分のものではありません。
情報が自分の中にないなら、潔く聞くしかないのです。自分の頭の中に答えはないのですから。
本当にいいものを作りたければその手間を絶対に惜しまないことです。
②引き出しが少ない
作業の手が止まる場合の多くがこれです。案が出てこない。
前項に書いた他人脳からのアイデア借りをとにかく実践してみてください。
引き出しを1000個くらい溜めてみましょう。
③そもそも動作が遅い
この対策は簡単です。
アドビイラストレーター、フォトショップなど、使うソフトのショートカットキーをとにかく覚えましょう。ショートカットキーのカスタマイズもおすすめです。
「それだけ?」と思われるかもしれないけれど、ちょっとした時間でも積み重ねるとその差は歴然です。
時短につながることには躊躇せず挑戦してみてください。
ウーバーイーツの販売員で月収100万円を超えた人の話が、WEBの記事で話題になったことがあることをご存知でしょうか?
彼がやっていた工夫はたくさんあるけれど、一言で言えば「いかに無駄をなくすか」に尽きます。
まるでアスリートのごとく1分1秒を短縮するための工夫を積み重ねることで、仕事が速くなり成果にもつながるという話です。
では、僕らデザイナーにとっての時短方法は何だろう? と考えたら、それはショートカットキーやツールを駆使することです。
素人とプロの差は「フォント」
素人とプロのデザインを分かつもの。それは間違いなく、文字です。
逆に言えば、文字さえ押さえればプロっぽくは見えます。
だいたいのデザインに文字は入っていますから「この人はどれくらいのデザイナー歴なのか」ということが、文字を見たらほぼわかります。
『人は見た目が9割』という本がありますが、デザインは文字が9割なんです。
実は、フォントにもクオリティがあります。
あまりデザイン経験のない人は「このフォントはちょっとな」というものを割と使っていたりします。
いいフォントを使うだけでもデザインのレベルは上がります。
だからまずは、「このデザインにはどのフォントか?」ということにこだわってみてください。
一番いけないのは、「このフォントは有料だから」と躊躇することです。
無料フォントにも品質が高いフォントもありますが、最初は見極めが難しいでしょう。
有料には有料の理由があります。
買って試して、合わなかったら次から買わなければいいだけです。
そのフォントを買えばデザインが良くなるかもしれない、という未来が想像できれば買わない手はありません。
もちろん懐事情はそれぞれだろうけれど、クライアントワークならば、いいデザインにするための有料フォントが必要だと交渉するとか、それ込みのデザイン料にするなど工夫の余地はあるはずです。
料理だってそう。
一流の料理人なら、どういう素材でもどういう条件でも美味しいものを作るでしょう。
でも、食材がいい方がより美味しくなるに決まっています。
デザインも同じことです。
じゃあ具体的に「いいフォント」とは何なのかを書いてみます。
①造形の美しさ
デザイナーにはお馴染みかもしれませんが、僕はまず「モリサワフォントを入れてみて」とアドバイスします。
先ほども書いた通り、やはり有料フォントはクオリティが高いんです。
具体的に言えば、読みやすく、形がいびつじゃない。
また、レイアウトを組んだ時の気持ち悪さがない。
そのへんの造形の美しさを保つための細部調整に時間を割いているかどうかが、フォントの良し悪しを分けます。
もちろんフリーフォントでもいいものはあります。
ただし、玉石混交でばらつきがあります。
使いながら「なぜこのフォントがいいのか?」「目的に沿っているか?」考えるくせを、ぜひつけてみてください。
②世界観に合っているか?
デザインの世界観に合ったフォントを選べているか、も重要です。
大きく言えば、明朝かゴシックかに大別できます。
繊細なデザインなら細い明朝でしょうし、ポップで明るい感じならゴシック系。
その文字を声に出して読み上げる時のテンションで考えてみるとよいでしょう。
早口なのか、ささやく感じなのか? 自信満々な感じなのか?
よくある事例なのですが、初心者であるほどスタンダードなフォントでは弱いと感じ、特殊なフォントを選びがちです。
イラストや写真とフォントの世界観が合っていないものもよくあります。
文字を選ぶ際は、世界観に合っているかを気にかけてみてください。
③使い方は合っているか?
フォントには、文字として読みやすいものと、ロゴとして使うと造形が美しいものの2種類があります。
この2つのフォントは役割が違うので、使い分けしましょう。
見出し用のフォントを本文に使うと、読みにくいので機能しない。
逆もしかりで、本文用のフォントを見出しに使っても見出しとして映えないのでやはり機能しません。
④大きさは適切か?
次に重要なのが、フォントの大きさです。
情報には優先順位があります。
だいたいダメなものは、なんとなく全部が大きい。
チラシにしても見せる順番があります。
最初にここを、次はここを読んでもらってという視線の設計が必要です。
⑤文字間は適切か?
文字間とは、文字と文字の間のスペースのことです。
デザインをしない人のために補足すると、世の中のデザインは、パソコンで入力した文字をそのまま並べているわけではなく、すべてデザイナーが文字間を調整しています。
それは0.1mm単位以上の細かさに及ぶものです。
そうすることで視覚的に見やすい、気持ちの良いデザインになっているんです。
デザイン事務所に入ると、まずは文字間を叩き込まれるそうです。
タイポグラフィー、つまり文字の扱いは宇宙と言われるくらい、やり出したら答えがありません。
餅は餅屋と言いますが、作ったロゴタイプをフォントデザイナーに見てもらうデザイナーもいるくらいです。
⑥行間は適切か?
最後に、行間。
行間が詰まっていたら読めないし、空きすぎていても読みにくい。
ベストのポイントがあります。
雑誌とかがわかりやすいですね。
「読みやすく、美しく」。
自分の中の最適解を持ち、これを意識していたら、次第に美しくなります。
以上6つを扱えているかいないかで、プロと素人の差が出ます。
飽きがこなくて、いつ見ても気持ちが良くて、忘れられない文字を目指しましょう。
グラフィックデザイナーは、視覚情報の気持ち良さに取り憑かれた「視覚ジャンキー」です。
その深く苦しくも美しい沼に、今日も全国のデザイナーが潜り続けているのです。
デザインは、デザイナーだけのものではない
昔から絵が好きだった前田高志さん。
5歳にも満たなかった前田少年は、ある日、忍者ハットリくんの塗り絵をしていたところ、お父さんがカラーペンで簡単な斜線を引いただけで全体が見事に彩られ、強く感動したことを鮮明に覚えているといいます。
そんな「視覚ジャンキー」な著者が語るデザイン論には、デザイナーだけでなく、あらゆるクリエイター、ビジネスパーソンにとっても学びになる知見が豊富に詰まっています。
ぜひプロのデザイン思考、デザインの知見を、あなたの仕事にも取り入れてみてください。
「一歩、次に進みたい」、そんな思いを抱く人に、おすすめの一冊です。
ビジネスパーソンインタビュー
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