ビジネスパーソンインタビュー

「障害者を助けよう」は驕り。乙武義足プロジェクトの発起人・遠藤謙が貫く“本当のフラット”

「人間が偏見をなくすのは不可能だと思います」

「障害者を助けよう」は驕り。乙武義足プロジェクトの発起人・遠藤謙が貫く“本当のフラット”

新R25編集部

2021/02/24

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先日、話題の音声SNS「clubhouse」で「新R25で取り上げるべき人を教えてほしい!」という内容の配信をおこないました。

その企画で紹介いただいたのが、今回登場する遠藤謙さん

ソニーコンピュータサイエンス研究所に所属しながら、株式会社Xiborgの代表として義足の開発に取り組んでいる遠藤さんは、乙武洋匡さんが最新のロボット義足で二足歩行にチャレンジする「OTOTAKE PROJECT」の発起人でもあるそうです。

遠藤さんが、義足プロジェクトを通して感じたというのが「障害者への向き合い方の違和感」…。ちょっと重いテーマかもしれませんが、私たちが意識するべき大切な姿勢を教えてもらいました。

【遠藤謙(えんどう・けん)】1978年生まれ。慶應義塾大学理工学部機械工学科を卒業後、同大学院に進学。在学中にマサチューセッツ工科大学でロボット義足の研究を開始。現在はソニーコンピュータサイエンス研究所に所属しながら、自身が代表を務める株式会社Xiborgで競技用義足をはじめとして義足の開発に取り組んでいる

〈聞き手=宮内麻希/文=福田啄也(新R25編集部)〉

「みんな健常者がスタンダートだと思ってる」乙武義足プロジェクトで感じた違和感

遠藤さん

遠藤です。おもに義足の開発をやっています。

宮内

遠藤さんの手掛けているプロジェクトで有名なのが、乙武洋匡さんが義足を付けて歩くというものですよね。

初めて見たとき「これはすごい!」って思いました。

@ototake_officialがシェア

2018年4月より、文科省が所管する科学技術振興機構「CREST」から助成を受け「乙武義足プロジェクト」が発足しました。現在も挑戦は続いていて、気になる方は乙武さんのYouTubeチャンネルをチェックしてみてください!

遠藤さん

あれはもともと、完全に遊びで始めたプロジェクトだったんです。

ロボット義足をもっと世の中に広めたいと考えたとき、「乙武さんが歩いたらめっちゃ面白いな」っていう話から始まって。

ちょっと…そんなノリで…

宮内

clubhouseでお話を聞いたとき、「障害のある方との向き合い方を話したい」って言ってましたよね。

遠藤さん

そうなんです。

プロジェクトが始まって、初めて乙武さんがロボット義足を付けて歩いたときの話なんですけど…

実際に歩いている姿を見た人が、みんな「よかったね!」と声をかけるんです。

僕にとって、それは想定外だったので驚きました。

宮内

え? 何が想定外だったんですか?

遠藤さん

乙武さんが歩いている姿を見て、みんな「技術の進歩ってすげえ」「義足すげえ」ってびっくりするだろうなって思ってたんです。

でも、実際の反応は「あの乙武さんが歩けるようになった、よかった」っていう感動チックなもので。

あれ? なんかストーリーが書き換えられてる気がするな…と違和感を覚えました。

宮内

なるほど…

遠藤さん

みんな「足がない人が歩けるようになれば幸せに違いない」って勝手に解釈してるんです。

「歩けてよかったね」の裏には、「私たちと同じようになれてよかったね」という気持ちがあるんじゃないか? とそのときに気付きました。

宮内

たしかに、私もなんとなくその感覚でとらえていたかもしれません…

義足はマイナスをゼロに戻すものというか…

遠藤さん

そのゼロって、どんな状態ですか?

宮内

えっ…? 健常者と同じ状態…あっ…!

ここまで話を聞いていたのに、まだ私も無意識に「健常者がデフォルト」だと思っちゃってますね…

宮内

遠藤さんの言いたいこと、なんとなくわかってきたかも。

その感覚って、以前から持っていたんですか?

遠藤さん

僕がこの感覚について考えるようになったのは、日本の大学院からMIT(マサチューセッツ工科大学)に入って、ロボット義足の研究を始めたころからです。

足がない人もデフォルト、足があってもデフォルト」という考えこそが本当のフラットだと思うようになりました。

「足があって、初めてデフォルトになれる」と考えていることが、健常者の驕りでしかないんですね。

後輩が難病になったことで、ロボット義足の研究のために留学を決意

宮内

ちょっとさかのぼって、遠藤さんが義足の研究をしようと思った経緯から教えていただけますか?

遠藤さん

もともとはすごいロボットオタクで、日本の大学院でASIMOみたいな二足歩行ロボットをつくる研究をしてたんです。

でも、その研究をしている最中、高校時代の後輩が足を切断しないといけない病を発症して。

宮内

えっ…

遠藤さん

骨肉腫」という骨に発生するがんなんですけど、転移したら生存率がぐっと下がる病気なんです。

彼のお母さんが泣き崩れているのを見て…自分のロボット研究を彼のような人のために活かしたいと思ったんです。

宮内

それで義足の研究を?

遠藤さん

いえ、最初は彼のために、人間が乗れる二足歩行型のロボットを作ろうと思ったんですよ。アニメやマンガに出てくるやつみたいな。

でも、彼にその話をしたら「ありがとう。でも、俺は自分の足でまた歩きたいんだ」って言われて。それがすごくショックだったんですよね。

そんな矢先に、学会でロボット義足の研究をしているMIT(マサチューセッツ工科大学)のヒュー・ハー教授を知ったんです。

MITメディアラボに所属するヒュー・ハー教授

遠藤さん

彼は10代のときに、登山時の凍傷で足を失ったのですが、自分でまた山を登れるように義足の研究を始めたんです。

彼のもとならば、その後輩の願いも叶うし、自分の研究も役立てられるだろうと思って、すぐにMITの博士課程に入りなおしました。

後輩の方は足を失ってしまったものの、今は元気にされているとのことです

宮内

MITで義足の研究をするなかで、遠藤さんのなかで障害者の方への見方になにか変化があったのでしょうか?

遠藤さん

めちゃくちゃ変わりました。

障害がハンデとは限らない」と思うようになったというか。

MITのヒュー・ハー教授はロボット義足だったんですが、あるとき彼が僕に、「お前の足は年をとってどんどん衰えていくだろう? でも俺の足は年月を重ねるほどにどんどんアップグレードしていくんだぜ」って言ったんです。

宮内

えっ…かっこいい!!

そんな先生とずっと接していると、足がないことを障害だと感じなくなりますね。

遠藤さん

そうなんです。

僕がやっている研究は、人間の欠損の部分を環境に合わせられるようにデザインしていくこと。

それは「助けよう」と思っているわけではなく、人の暮らしを便利にしようとしていることと何ら変わっていません

「ダイバーシティ」に一番必要なのは「無関心」だ

宮内

ただ、私たちが遠藤さんと同じようなスタンスを自然と身につけられるようになるのは、やっぱり難しいと思っていて。

どうしても意識してしまうというか…

自分のなかの「偏見」がなくならない気がするんです…

遠藤さん

僕は、人間が偏見をなくすのは不可能だと思います。

人間に備わっている認知バイアス「総意誤認効果」って知ってますか?

宮内

そういごにん…?

遠藤さん

自分の意見が世の中のスタンダードであると錯覚してしまうバイアスです。

逆に自分の意見と違うものは「間違っている」と認識してしまう。

人間はこんな性質を持っているんだから、自分と違う属性の人に対する「偏見」は避けようがない。

障害がある人に対して何らかの偏見を持つことも、言い方は悪いですが“自然なこと”と言えるんです。

宮内

なるほど…むしろ偏見を持つことは当たり前のことだと。

でも、それだと「多様な人と分かり合おう」という“ダイバーシティ”は難しいんですかね…?

遠藤さん

“だからこそ”というか…

僕はダイバーシティに一番必要なのは「無関心」だと思っているんですよね。

宮内

無関心…!

それでいいんですか?

遠藤さん

自分と異なる意見を、心の底から受け入れて認めるのは難しい。

自分が偏見を持っている」「人間は偏見を持ってしまうもの」と認識したうえで、「無関心」でいられるのが、あるべき状態なんじゃないかと思っています。

障害者と接するのも同じ。

「障害者だから~」と言って接し方を変えるのではなく、「障害がある」ということに対しても無関心でいることで、初めてフラットな接し方ができるようになるんだと思います。

宮内

真のフラットとはそういうことなんだと…多様性が必要だと言われる今だからこそ、重要な考え方ですね…!

ダイバーシティに一番必要なのは無関心」。

「乙武さんが歩けるなんて、感動…」という受け取り方で取材に来ていた私たちにとって、意外だけどとても重要なことを教えていただいたように思います。

遠藤さんの言う通り、自分の中からすべての偏見をなくすことはできないけど、その偏見を認識することはできるはず。

まずはその小さな一歩から始めてみようと思います。

〈取材=宮内麻希(@haribo1126)/撮影・文=福田啄也(@fkd1111)/編集=天野俊吉(@amanop)〉

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