ビジネスパーソンインタビュー
「俺がうまくいってるのは、芸人として諦めたからです」
ノブコブ徳井「夢は叶わないから諦めてください。たけしさんも井筒監督も言ってる」
新R25編集部
「プレイヤーであれ、批評家にはなるな」とは、ビジネスの現場でよく語られる話です。常に自分が行動を起こし、評価される側であるべきだという論理は至極真っ当。
その一方で、「人を批評する」ことによって存在感を見せつけている人がいます。平成ノブシコブシ・徳井健太さん。
【徳井健太(とくい・けんた)】1980年生まれ、千葉県出身。2000年に吉村崇と「平成ノブシコブシ」を結成。バラエティ番組『ピカルの定理』への出演などで人気を博す。その後、『ゴッドタン』の企画「腐り芸人セラピー」などの企画で、芸人たちを鋭く批評する視点が注目されている
「自分はネタも書かない」と公言しながらほかの芸人たちを批評する審美眼の鋭さと、その際の奇妙な面白さが話題となっています。
徳井さんに、「プレイヤー」として戦わない異例のポジションの築き方をきくと、「すぐ夢を諦めること」が大事とのこと…。
仕事に悩んでいる皆さん、“とっとと諦めたほうがいい”らしいですよ…!
〈聞き手=天野俊吉(新R25副編集長)〉
向いてないかも?と思う人は、その時点で向いてない。夢は諦めろ!
天野
ビジネスの世界だと、「批評家になっちゃダメだ」と言われることが多いんですが、徳井さんは“批評する姿が面白い”っていう反則的な立ち位置じゃないですか(笑)。
どうなったらそのポジションにいけるのかなと思っていて…
徳井さん
昔、井筒監督がジャルジャル主演で『ヒーローショー』って映画を撮ったんですけど…
『パッチギ!』の井筒監督ね
徳井さん
それがすごく残酷な映画なんですよ。
ジャルジャルの2人がくすぶった若者を演じてて、最初東京で頑張ってるんですけど、結局事件に巻き込まれて田舎に帰っちゃうんです。
天野
はい。
徳井さん
どういう意味なんだろう…って思ってたら、「夢なんてみんながみんな叶うもんじゃない。とっとと諦めたほうがいい」っていうのがメッセージだったんですって。
「才能ないヤツがほとんどなんだから、夢なんか見るな」って。
天野
シビアなメッセージ…!
徳井さん
若いときは俺もうわー…って思ったんですけど、たけしさんも同じことを言ってるんですよ。「夢は叶わない」って。
俺が今のポジションで面白いって言ってもらえてるのもそれなんですよ。早い話が夢を諦めたから。
芸人として諦めたから、うまくいってるんです。
徳井さん
最近の自己啓発書なんかでは「夢を持とう」「夢は叶う」とか言いますけど、残酷な話だよなと思いますね。間違った教育ですよ。
芸人やっててプレッシャーで体調崩したり、アイドルで過呼吸になっちゃったりする人とかいるじゃないですか。
誰が悪いとかじゃなく単純な意見として思うんですけど…、その時点でその仕事に向いてないと思うんですよ。
天野
(すごい言いたい放題だ…)
徳井さん
夢目指して東京に来て働いたけど「向いてないかな」って思ったら…マジですぐやめたほうがいいですよ。
仕事なんて20年も30年もやることじゃないですか。
2、3年で「向いてないのかも?」って思う人は、本当に向いてないんだと思います。その時点でやめたほうがいいと思います。
「すぐ諦めろ」をめちゃくちゃ連呼する徳井さん
徳井さん
他の仕事をやってみて、「こっちの仕事めっちゃ向いてるわ!」ってなったらその仕事をやればいいし。イルカのトレーナーとか。
天野
(なんでイルカピンポイント?)
徳井さん
大学も会社もそうですけど、日本人って「一回入ったらそこで頑張りつづけるのが正義」って思ってるじゃないですか。
でも、欧米だとそうでもない。何回でもやり直していいし、何歳からでも新しいことやっていいよ、って感じじゃないですか。日本もそうなればいいですよね。
ゴールデンの番組で、自分の“ズレ”を痛感。徳井さんが夢を諦めた瞬間
天野
「諦めるべき」という強い信念は伝わりましたが…。徳井さんが夢を諦めたのはいつごろなんでしょうか?
徳井さん
こんな俺ですけど、NSC(吉本興業の養成所)に入るときは「日本一面白い芸人になろう!」って思って入ったんですよ。
そこで会ったのが、ピース。
まだほぼ素人みたいな“卵状態”の二人ですよ。そんな状態でも、めちゃくちゃ面白かった。「ムリだ、こいつらがいる以上おれは日本一になれない」って思ったんです。
徳井さん
だから、「夢」という意味ではそのときに終わってます。諦めた状態でずっとやってますね。
芸人やめようと思ってたんですけど、吉村から誘われて…せっかくならやってみようと、『ピカルの定理』ぐらいまではなんとかやって。
でも、『ピカル』が人気になってからも、やっぱりムリだなって思って…
※『ピカルの定理』=2010年から2013年に放送されたバラエティ番組。ピース、モンスターエンジン、ハライチ、渡辺直美など当時の若手お笑い芸人たちがコントを披露した
天野
…なぜですか?
徳井さん
ひとつは、老若男女向けっぽい番組に呼ばれたときに「自分はまわりの人と感覚が合わない」って痛感したんですよ。
ゴールデンの「なんとか映像100連発」みたいなの見ても、何とも思わないんです。
「ハワイの映像に『きれい』ってリアクションをすればいいところで、別にきれいと思えなくて。インドの汚い街並みのほうが面白いって思っちゃう」
徳井さん
世間的にはそこで、「努力すればいいじゃん」って言われると思うんですけど、俺には努力の仕方がわからないんですよ。
ウソのリアクションと、本気で思ってる人のリアクションって歴然とした差があるじゃないですか。そんなウソついてもどうせまわりに勝てないから、ウソつくのやめようって思って。
天野
頑張って努力したところで、そもそも向いてないんだから意味ないと。
徳井さん
あとは、当時ひな壇にいた後藤(輝基)さんとか小籔(千豊)さんとか、サバンナ高橋さんを見て、「俺にはムリだ」と思いました。
見えないくらい切れ味がすごいんですよ。ボケる、まともなことも言って仕切る、ウケる。この3つを同時にやってるんですよ?
それだけの実力がないと、どんどん新しい人が出てきて、入れ替えられちゃう。「このローテーションのなかで戦うのしんどすぎるな」「5年とか10年は持たないな」って、完全に夢を諦めましたね。
「諦めて降りちゃうと、自分が輝ける場所が勝手に用意されることがある」
天野
ただ「この仕事向いてないかも」と思っても、すぐにポジションから降りるって難しいと思うんですよ。
徳井さんは、“いい諦め方”ってあると思いますか?
徳井さん
「降りちゃったほうが逆にうまくいく」って思えばいいんですよ。
「いつでもポジションを降りられる人、めちゃくちゃ活躍してる説」、あると思いません?
徳井さん
蛭子さんとかまさにそう。蛭子さんがなんでテレビで面白いかって、漫画家っていう別の仕事があるからなんですよ。
アンミカさんはモデルがあるし、梅沢富美男さんはお芝居があるでしょ。「テレビの仕事がなくなっても生きていける人たち」じゃないですか。
だから、テレビでなんでもできると思うんですよね。
天野
たしかに、自分にウソつかず自由に振る舞ってる…
徳井さん
ピースの又吉くんなんか最高の形ですよね。
小説家という道があって「テレビはムリして出なくてもいい」と思えるからこそ、又吉節全開でいけるし、それがウケる。
テレビ側は、又吉が出たいと思う面白い番組を作ってくれるようになっていく。自分が輝ける場所が勝手に用意されるようになってるんですよ。
「僕も何か別の道があればいいなと思ってて、気がついたら“評論家”みたいな不思議なものが手に入ってました」
プライドが邪魔をするときは、考えの変え方を身につけよう
天野
「自分は向いてない」と認めて諦めるときに、プライドが邪魔をしてそれをできないってこともありそうです。
ライバルや後輩に先を越されたときにプライドが傷つくってことはないんですか?
徳井さん
プライドとか、売れたいっていう欲は捨ててきてますね。後輩のオリエンタルラジオとかはんにゃとかが売れても、何にも思わない。
“ダニング=クルーガー効果”っていう、能力が低い人ほど自己評価が高い、プライドが高いっていう法則があるんですけど、それでいうと俺は能力も自己評価も低いっていう。
ダニング=クルーガー効果を解説する徳井さん
徳井さん
考えの変え方を身につけたら、大して傷つかなくなるんですよね。
俺、最近金がないときがあるんですけど、昨日も電車に乗る金がなくて赤坂から家まで歩いて帰ったんですよ。
「金があったらなあ…」って思いそうになるんですけど、歩きながら「紅葉きれいだな」とか、有名なカレー屋のオーベルジーヌ見つけたんで「あっ、オーベルジーヌってここにあるんだ」とか考えて。
徒歩1時間かかりましたけど、1時間で話すネタふたつ見つけたら安いもんか、と自分を洗脳してます。
天野
お金がないっていうのは、たまたま現金がないとか、小銭がないっていう話ですか…?
徳井さん
いや、本当に金がなくて。今日ようやく吉本ファイナンスっていう借金の会社から振り込まれて、今なんとか生きてます。
本当に、もう終わってるんです俺は。でもいいんですそれは。
これ以上ツッコめませんでしたが、徳井さんは無類のギャンブル好きだそうです…こわい
徳井さん
でもひとつ、なぜか自信があることがあって。最終的に金持ちになる気がしてるんですよね。
「最後はどうせ金持ちになるだろうから、借金はいくらしても大丈夫だ」って思ってるんです。
諦めてると、謎の楽観視が身につくんですかね(笑)。
最後は徳井さんの闇の部分を垣間見てしまいました…。
諦めているなかで、今後芸人としてどうしていきたいか?ときいてみると、
「芸がないんで、俺が芸人と名乗っていいのかもわからないです。神から与えられた小さいポテンシャルの容器では頑張ってるつもりですけど…どうなるかはわからないですね」
とのことでした。
独特の人生観を披露してくれた徳井さんですが、その教えに救われる人も、けっこう多いのでは?
2021年、「諦めること」を考えてみるのもいいのかもしれません。
〈取材・文=天野俊吉(@amanop)/構成・文=いぬいはやと(@inuiiii_)/撮影=飯本貴子(@tako_i)〉
前編の記事はこちら!
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