ビジネスパーソンインタビュー
23歳、社員50人の生活を背負って…
ポルカドットスティングレイ・雫が、ゲーム業界でも音楽業界でも“ごぼう抜き”を達成できたワケ
新R25編集部
結成からわずか2年でメジャーデビューを掴みとり、今月結成5周年を締めくくる3rd FULL ALBUM『何者』をリリースしたロックバンド・ポルカドットスティングレイ。
バンドの知名度を猛烈な勢いで押し上げたのは、音楽制作にとどまらず、SNSプロモーション、グッズ制作など“徹底的なマーケティング戦略”でバンドを牽引してきたフロントマン・雫さん。
【雫(しずく)】1992年生まれ。ロックバンド・ポルカドットスティングレイのボーカル・ギター。新卒でゲームクリエイターとして一般企業に入社。社会人になり趣味で始めたバンドが、結成わずか2年でメジャーデビュー。グラフィック、映像制作などクリエイターとしてさまざまなスキルを駆使しバンドを牽引する
「私はマーケティングしてみんなが欲しい曲を書いてるだけ。私個人の想いとかメッセージとか、どうでもいいんです」と断言するほど、自他ともに認める“ニーズ至上主義”な雫さん、じつはもともとゲーム会社のディレクターという経歴の持ち主。
相手が求めていることを察知し、応える。「ニーズに応える力」はビジネスパーソンにとっても大切なスキルですが、バンドマンである雫さんがそこまで「ニーズ」にこだわる理由とは…?
〈聞き手=サノトモキ〉
“好き勝手やって結果が出る天才”じゃない限り、好き勝手やってる場合じゃない
雫さん
あの…なんかすみません。
サノ
え? 何がですか?
雫さん
アディダスとアディダス…完全に部屋着で来てしまいました。
想像の8万倍どうでもよくてかわいい心配事でした
サノ
今日は雫さんが「ニーズにこだわる理由」を深ぼっていきたいのですが…
最初に雫さんの仕事ぶりを教えてください。「ニーズにこだわる」って、具体的にどういうことをされてるんですか?
雫さん
まず、ポルカのことを呟いてくれる人のツイートをめちゃめちゃ見ますね。
性別、年齢、恋人の有無、最近感じていること、モヤモヤしていること…「ユーザーが求めるもの」を徹底的にリサーチしてから手を動かすんですよ。
楽曲もグッズもプロモーションも、リリースしたら反応を入念に調べて次の制作に反映。ひたすらこの繰り返しです(笑)。
サノ
完全に“デキるビジネスパーソン”の働き方だ…
でも、アーティストの方が「マーケティングで曲作ってます」と言うのって珍しいですよね。こう…批判されちゃうこととかはないんですか?
雫さん
いやー、めっちゃ言われましたよ。
最近はだいぶマシになってきたんですけど、インディーズのころは“ニーズに合わせて曲作るとかロックじゃねえ警察”が湧きまくって「マジだりぃ」と思ってました (笑) 。
あっ、この人包まないタイプの人だ
雫さん
「うるせえ、お前はお前の好きな音楽聴いてろ! こっち来んな!」ってずっと思ってましたね(笑)。
そういう人たちは「ニーズに合わせて曲を作る=やりたい音楽を捨ててる」みたいに決めつけてくるんですけど、そうじゃない。
「ニーズに応えられる音楽」こそがまごうことなき“私のやりたい音楽”なんですよ。
サノ
どういうことですか?
雫さん
「ニーズに応えて結果を出すこと」こそが、仕事に誇りと責任をもつことだと私は思ってるので。
遊びや趣味なら好き勝手やりたいようにやればいいけど、仕事なんでね。
会社にお金出してもらってモノ作ってるわけですから、“好き勝手やって結果が出る天才”じゃない限り、好き勝手やってる場合じゃないんですよ。
これは真理かも
雫さん
私の性癖に刺さるとか、自分の内面を表現したいとか、どうでもいい。
お客さんによろこんでもらう。クライアントの期待に応える。これが私の生き甲斐なんです。
なんで、「お前らの狭い視野で人の生き甲斐に口出ししてくんじゃね~!」とは正直思いますね(笑)。
ここまで言われると清々しい
「私、天才かも?」と思っていた23歳。挫折で出会った“一生ものの才能”
サノ
「ニーズに応える」ってビジネスパーソンには欠かせない視点だと思うんですけど…意外と意識できていない人も多いと思うんです。
「ニーズに応える大切さ」に気づけたきっかけって、何かあったんでしょうか?
雫さん
きっかけは完全に、ゲームクリエイター時代の挫折経験ですね。
私、幼稚園のころから暗いし友達もいなくて、ゲームばっかりしてたので、「ゲームを作る人」になるのがずっと夢で。
その分こだわりや熱量も強かったので、新卒でゲーム会社に就職できたときは「私がいいと思う最高のゲームを作るぞ!」みたいなことを考えてたんですよ。
サノ
ほうほう。
今とは真反対に、「自分の作りたいもの」を作ろうとされてたんですね。
雫さん
そうです、そうです。
で、しかも私…ぶっちゃけ評判よかったんですね、社内で。
あっ自分で言うんだ
雫さん
「ものづくりの才能がある」「こいつの作るゲームは絶対面白くなる」って、先輩たちたちからすごく褒めてもらって。
おだてられるままバリバリ働いてたら、23歳くらいでディレクターになれちゃったんですよ。23歳のディレクターってけっこう珍しかったので、テレビの取材とかもきて。
正直自分でも、「あれ私、天才なのかなあ?」とか思ってたんですよね(笑)。
サノ
いや、それは普通に思っちゃうだろうな…
雫さん
でも、いざ自分で企画したゲームをローンチしたら、見事に空振りだったんですよ。
ユーザーの動きとか売上を毎日数字で追うんですけど、自分が響くと思って打った施策が全然当たってなくて。
「私、全然天才じゃねえじゃんって」
雫さん
で、当時うちの会社、私のチーム以外、全員次回作の開発に当たってたので…会社の収入源、私のチームが運営してるゲームだけだったんですよ。
自分のプロジェクトで、社員50人の生活を支えなきゃいけない。
こんな局面で「自分の作りたいものを作りたい!」とか言ってたらマジで子どもじゃんって、そのときようやく気づいたんです。
サノ
23歳でとんでもない経験をされている…
そこで目線が、「やりたいことをやる」から「結果を出す」に切り替わったと。
雫さん
そこから、リリースしたゲームを徹底的に分析しました。
何がうまくいって、何がネックになっていたか。数字やデータで確認しまくって、「お客さん視点」で全部洗いだして、抽出できた要素を全部次のゲームに反映させたんです。
そうしたら、そのゲームが『App Store無料ゲームランキング』で1位を獲ったんですよ。
雫さん、続けてたら普通に有名ゲームクリエイターになっていたのでは?
雫さん
もう、「これだ!」って。「私のやるべきことは“マーケティング”だ」って確信しました。
ものづくりの才能はないけど、お客さんの目線をものづくりに反映させる才能は、人より少しだけあるかもしれないって。
そこからですね。ニーズにこだわる大切さとやりがいに気づいたのは。
スピード出世の秘訣は、「求められていることを把握」→「できることに変える」の繰り返し
サノ
他にも、「ニーズに応える」という視点が役に立った経験ってありますか?
雫さん
そうですね…
今思うと、ゲーム制作未経験だった私が23歳でディレクターになれたのも、「会社からのニーズ」を意識したおかげだったのかも。
どういうことですか…?
雫さん
私、将来の夢はゲームクリエイターとか言いつつ、大学時代はゲームを作る知識も技術も全くなかったんです。
専門学校に通ってひとりでゲーム作れるような人もたくさんいたので、このまま新卒で入っても使い物にならないぞって焦りはじめて。
そこで私、海外留学で培った「英語力」を活かして“翻訳アルバイト”としてゲーム会社に飛び込んだんですよ。
サノ
翻訳アルバイト?
雫さん
ゲーム内容を翻訳する仕事なんですけど、とにかく現場に飛び込んで「ゲームクリエイターに求められるスキルが何なのか」を把握するところから始めようと思ったんです。
「求められていること」を把握して、一個ずつ「できること」に変えていくしかないなと。
まわりは「この英語だけできる大学生、誰?」みたいな感じだったんですけど、「絶対いち翻訳アルバイトからごぼう抜きしてディレクターになってやる」って決めて、毎日深夜まで仕事してました。
生き様がとことんかっけえ
雫さん
無事新卒プランナーとして入社させてもらった後も、「求められていることを把握→できることに変える」の繰り返し。
「英語が喋れる」→「企画書が書ける」→「シナリオが書ける」→「レベルデザインができる」→「フォトショが使える」→「仕様書が書ける」…
これを繰り返すうちに、気づいたら23歳で「ディレクターとしてゲームを作れる」にたどり着けてたんですよね。
サノ
職場からの「ニーズ」に的確に応えつづけたからこそのスピード出世だったと。
雫さん
私、「仕事がデキる人」って、ニーズに応える努力をしてきた人だと思うんです。
スポーツ選手でも何でも、仕事である以上必ず、求められるスキルとレベルがある。
「好き」という気持ちだけじゃどうにもならなくて、「求められていること」に応えられる自分になっていかなくちゃいけないんですよね。
苦手なことや、やりたくないことを求められたら…?
サノ
でも、「求められること」のなかには、苦手なことや、やりたくないこともあったりしますよね。
そういうときはどうされてるんですか?
雫さん
やりたくないならやらなければいいんじゃないですかね?
私これ、学校の勉強と同じだと思ってて。
雫さん
「私、勉強向いてなかったんだよね~」っていう人いますけど、「いや勉強なんてやったかやらんかったかや」ってマジで思うんですよ。
世の中、本気で努力したら「できるようになること」のほうが多いと思うんです。ほとんどの場合、「できない」ときは自分が頑張ることを選択していないだけ。
仕事もそれと同じで、「頑張れるかどうか」のテストをされてるんだと思うようにしてます。
サノ
「頑張れるかどうか」の、テスト。
雫さん
「やりたいこと」を目指す過程で求められた「やりたくないこと」は、頑張るしかない。
そこで「やりたくない」が勝って頑張れないようなら、そこまでやりたいことじゃなかったのかなと。それなら仕事を変えてみればいいと思いますし。
とりあえず私は、「ここで頑張れなかったら、この先なんも頑張れないだろうな」ってマインドで、勉強も仕事も頑張ってきた気がしますね。
サノ
雫さん、今日はありがとうございました!
ニーズにこだわる視線、僕ももっと意識してみようと思います…!
雫さん
いやあ、今までやったことないタイプの取材だったので、楽しかったです!
音楽の話ゼロだったの、めっちゃいいな~~。
(雫さん、このあと新アルバムの紹介パートあるんですけど…!)最後まで清々しい本音トーク、ありがとうございました!
誰しも、自分のことしか見えなくなってしまったり、「自分はこうしたいんだ!」と頑固なこだわりを持ってしまったりする瞬間はあると思います。
そんなときこそ一度冷静になって「まわりから求められていること」に考えを巡らせることができれば、意外な突破口を発見できるのかもしれません。
筆者も、雫さんのようにちゃんと頭を使って生きていこうと思います…!
〈取材・文=サノトモキ(@mlby_sns)/編集=天野俊吉(@amanop)/撮影=中澤真央(@_maonakazawa_)〉
ポルカドットスティングレイの最新アルバム『何者』が12月16日発売!
ポルカドットスティングレイ結成5周年を締めくくる、3rd FULL ALBUM『何者』が絶賛発売中!
前作、前々作のミニアルバムからタイアップ曲を出し惜しみなく収録するのみならず、数々の革新的なアニメーションを手掛ける「神風動画」とのコラボMV を発表した「化身」を筆頭に、先行配信楽曲含むCD 初収録8 曲を含む全13 曲を収録。
ジャンルレスにバズを狙い続けるバンド、ポルカドットスティングレイとは「何者」なのかが、この作品で明らかになるはず…!
気になった方はぜひチェックしてみてください!
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