ビジネスパーソンインタビュー
「20代の頃は、“魂売ったな”とも言われました」
「やりがいとか、何難しいこと言ってんだよ!」西川貴教にキャリアを相談したら最強に励まされた
新R25編集部
将来のキャリアのこと、どこまで考えてますか?
「なりたい未来から逆算して、キャリアを考えよう」。そんな言葉も耳にしたりしながら、僕たちはそれなりに将来のことも考えつつ、会社を選んだり仕事をしたりしてますよね。
しかし! 今回はそんな「逆算型キャリア論」とは真逆のキャリア論を持つ方のインタビューです。
【西川貴教(にしかわ・たかのり)】1970年生まれ。滋賀県出身。1996年5月、ソロプロジェクト「T.M.Revolution」としてシングル「独裁 -monopolize-」でデビュー。「HIGH PRESSURE」「HOT LIMIT」「WHITE BREATH」「INVOKE」などヒット曲を連発する。故郷滋賀県から初代「滋賀ふるさと観光大使」に任命され、県初の大型野外ロックフェス「イナズマロック フェス」を毎年主催している。
1996年にT.M.Revolutionとしてデビューして以来、今年50歳(ご、50歳!?)を迎える今もエンターテインメントの最前線で活躍し続ける、アーティスト・西川貴教さん。
声優、俳優、実業家、はたまたNHK Eテレ『天才てれびくんYOU』の人気キャラクター・マーヴェラス西川など、いちアーティストの枠を超える幅広い分野で活躍されていますが…
実は西川さん、「10年先を見据えるのではなく、行き当たりばったりでいい」というキャリア論をお持ちなのです。
はたしてその真意とは…?納得必至の西川劇場、とくとご覧あれ!
〈聞き手=サノトモキ〉
「20代前半までは劣等感しかなかった」“西川貴教”ができるまで
サノ
西川さん、「キャリアなんて行き当たりばったりでいい」と仰ってましたけど…
今の“西川貴教”も、狙ってブランディングしたわけじゃないってことですか?
西川さん
全然だよ!
僕、今いろんな仕事やらせてもらってますけど…
自分でやりたいと思って始めたものなんて、一つもないんで(笑)。
えっ!?
西川さん
僕はもともとバンドマンです。20代前半の頃までは自分が書いた曲しか歌いたくなかったし、バンド以外の活動なんてしたくないと思ってたんですよ。
ソロで活動することだって、考えたこともなかった。
サノ
そうだったんだ…!
西川さん
でも、いざデビューしても全然売れなかったんです。同時期にデビューした人たちがどんどん結果を出すなか…もう劣等感しかなくて。
そんなとき、なんでも自分で決めたがる僕の性格を見抜いた当時のレーベルやマネージャーが、「君はソロのほうが向いてるね」と言ってきたんですよ。
西川さん
内心「なんだテメエら、俺のこと全然わかってねえくせに…!」とか思ってたんですけど、葛藤しつつ「T.M.Revolution」をやってみたら、だんだん評価してもらえるようになって。
今思うと、「バンドで生きていく」という目標にこだわるのをやめた瞬間から、僕のキャリアはどんどん形になっていったんですよね。
サノ
目標を捨てたら、キャリアが形になり始めた…?
西川さん
「君のパフォーマンスにお芝居的要素を感じるんだけど、ミュージカルとかどう?」と言われて挑戦したり、舞台を観た方に「ぜひキャストになってほしい」と言われて映画に出たり…
“自分では気づいてなかった素質”を誰かに見出してもらうことの連続で、今の僕は作られてるんですよね。
西川さん
今の時代って、そういった「目標にこだわらない力」がすごく大事になってきてると思うんです。
世の中の変わる速度が急激に速まっている今、目標もどんどんアップデートできる柔軟な人じゃないと生き残れなくなってきてるんじゃないかって。
サノ
…!
西川さん
僕が売れてなかった10代、20代の頃にうらやましいと思ってた人たち…今はほぼいないんです。この業界にはもう、いらっしゃらない。
これは「今思うと」って話でしかないんですけど、僕が今でも充実した活動を送れているのは、「軸足を持たなかったから」だと思うんですよ。
先日の自粛期間も、僕はわりとずっと忙しくて。
西川さん
レコーディングもあったし舞台の準備もしていたし、ニュース番組やバラエティー番組にも出演させていただいて…
バンドにこだわるのをやめたことで複数のところからインカム(収入)を供給できる「たこ足配線」ができて、時代の変化にもなんとか対応できたんですよね。
「なりたい将来像」に向かってキャリアを積むのはもちろん素晴らしいこと。でも、掲げた目標がダメだった時にすぐ「2の船、3の船」に乗り換えられる柔軟さも、今後は強みになっていくんじゃないかな。
「これやっといて」と押しつけられた時こそが、“たこ足”を増やすチャンス
サノ
そんな「時代に対応できるたこ足配線」って、どうやって増やしていけばいいんでしょうか?
西川さん
「これがお前のタスクだ」って渡された仕事を、120%やり切ってみる。
もう、これだけですよ!
仕事を振られるって、チャンスをもらってるんです。自分では絶対習得しなかったはずの「2の船、3の船」を得られるチャンスを。
サノ
でも、20代ってそれなりに「やりたいこと」を持って社会に出てるわけで、「つまらない仕事を振られること」への抵抗感ってあると思うんですけど…
西川さん
いやいや、何言ってんだよ!
世の中や会社も、状況は常に流動的に変わっていくわけだから、「僕はこれしかやりません」みたいなスタンスだとやれることなんてどんどんなくなってくよ。
逆に、「君はもう、これだけやっといてくれればいいから」しか言われなくなったら、超怖くない?
サノ
たしかにそれはイヤだ…!
西川さん
仕事を振られるって、要は「今その場で絶対に必要とされているスキル」を教えてもらえてるわけじゃん。
「これをできる人が必要なんです!」ってめちゃくちゃわかりやすくチャンスをもらえてるのに、それをやらないってどういうこと!?
「こんなラッキーなことなくない!?」
西川さん
そして、やる以上は120%を目指すことが大事。
中途半端じゃ評価はされないし、小さいたこ足をいくら増やしたところでそれぞれのワット数が少なかったら意味がないから。
サノ
でも、やりたくも得意でもない「振られた仕事」を120%頑張りつづけるって、めちゃくちゃ大変じゃないですか?
うまくいかなくて、すぐ挫折しそうな気がするんですけど…
西川さん
いやいやいやいや!
なんでみんな、やりたくない仕事を振られてうまくできなかったときに、「挫折」って思っちゃうの!? みんなそこですぐ、「挫折」とか「自分には価値がないのかも…」みたいなこと言うじゃん。
はあああ~~~!? 何言うてんねんと。
ノってきた西川さん。「はあああ~~~!?」の音圧がすごい
西川さん
人に言われてやってるんだから、いいんですよ、人のせいにすれば!
自分がやりたいことならともかく、やりたくないこと「やれ」って言われてやってんのに、最初からできるわけないじゃん。
何が悪いの? 「お前がやれって言ったんだから、お前の見る目がなかったんだろ」って思っときゃいいんですよ。
サノ
そ、それでいいんですか!?
西川さん
いい、いい。そんなことでイチイチ傷つかなくていいんですって。
俺も、舞台で演出家に「なんか違うんだよなあ」って言われた時、「いやお前がこの役できると思ったから主役やらせたんだろ、お前のせいじゃねえか」って思ってるから(笑)
ダメだこれ止まらねえ
西川さん
でも怒ってると、同時にどこかに生まれるんですよ。「なんかこのままで終わるの悔しいな」みたいな気持ちが。
それを繰り返してるうちに、だんだん「人から仕事を振られること」が「自分の可能性を広げるチャンスをもらっている」ってことに気づいて、感謝できるようになるから。
僕も今では、人との出会いで全部成り立ってるってくらい、人に助けられて生きてきたと思ってますからね。
「魂売ったな」と言われたT.M.Revolutionも、褒められれば生き甲斐に
サノ
「本当にやりたかったこと」を諦めてたこ足配線を増やしていくのって、虚しくなっちゃったりしないんでしょうか…?
西川さん
最初は僕も、「求められたものに応える」ってスタンスに肯定的になれなかったんですよ。
「いや僕、全然興味ないです。そこ目指してないんで」って逃げたりもしてた。
でも大丈夫。周りの評価さえついてきたら、勝手に「生きがい」になっちゃうから!
西川さん
20代半ばで「T.M.Revolution」としてソロで活動を始めた時、僕だって悩みましたよ。
あんな衣装来て、あんな曲歌って…(笑) 10代の頃一緒にやってたバンド仲間に「お前、魂売ったな」とも言われました。「売れればなんでもいいのかよ」って。
でも、周りの評価がついてきたら、「いや、これはこれでありだよ!」って思えるようになった!
サノ
…!!
西川さん
「全然面白くないし、やりがいも感じないんだけど」みたいに思ってても、「お前、この前のマジかっこよかったぞ!」とか言われるようになったら…
「…そ、そーお?」みたいに、まんざらでもなくなっちゃうのよ!
めちゃくちゃわかる気がする
西川さん
それと一緒よ!仕事はそれの連続だから!!
「いいねいいね!」っておだてられて、「そうっすかあ?」なんて言ってたらなんか続くようになっちゃって…そんなことの連続なんですよ。
「やりがい」とか「キャリア」とか、何難しいこと言ってんのよ! まずは褒められるまでやってみるんだよ!
サノ
「今求められてること」を、まんざらでもなくなるまでやってみる。
…なんだか、仕事がすごくシンプルなものに思えてきました。
西川さん
「腑に落ちないな…」って思うこともいっぱいあると思うけど、熱かろうが苦かろうが一回全部飲み込むんですよ。ギーって言いながら飲むの!
「腹立つなア~~~!!!(でもちょっぴり感謝っ)」くらいの気持ちでいたらいいの!
「俺に期待してんだろ!? 俺が欲しいんだろ!?」ってさ。
今日はありがとうございました!
最後に、「また20代の背中を押せるような企画を思いついたら、ご相談させてください!」と言ったところ…
「いやいやそんな…いざ20代がグイグイ伸びてきたら僕多分、叩いて潰しちゃいますからね、その杭。ライバルなんで!(笑)」
あくまでも現役、いつまでも挑戦者。西川さんの柔軟さと揺るがぬ闘争心、めちゃくちゃかっこよかったです。
自分の目標に一途に突き進むのももちろん素敵だけど、もらった仕事を必死に打ち返していく戦い方も、ともてかっこいい生き様なんだと気づいた今回の取材。
大志を抱きつつ、柔軟に。目の前の小さなことも、侮らず頑張っていきたいと思います。
〈取材・文=サノトモキ(@mlby_sns)/天野俊吉(@amanop)/長谷英史(@hasehidephoto)〉
本インタビューの様子はYouTubeでも公開されます!
本インタビューの様子は新R25のYouTubeでも公開されます(8月17日&8月18日、両日ともに19時公開)。
西川さんの熱いエネルギーに触れたい方、ぜひチャンネル登録してお待ちください!
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