ビジネスパーソンインタビュー
オンライン銭湯も話題!
「これからは、“暮らしのサブスク化”です」人気銭湯・小杉湯が構想する、小さなお店の生存戦略
新R25編集部
新型コロナウイルスの感染拡大により、経済的打撃を受けている業界が多くあります。
連載「サバイバーは上を向く」では、そんな逆境に立ち向かう人たちの奮闘をお伝えできればと思っています。
彼らの試行錯誤や考え方を広めることが、同じように苦しんでいる人たちの勇気や現状打破のヒントになり、さらには彼らを応援・支援する動きにつながれば幸いです。
今回オンラインで取材したのは、高円寺の銭湯「小杉湯」。
ライブイベントを開催したり、「交互浴の聖地」と呼ばれたり。
今年3月には、食事や宿泊ができるスペース「小杉湯となり」をオープンするなど、銭湯の新しい姿をアップデートしつづけてきた小杉湯は、現在、SNS上で銭湯の動画をアップして家で楽しめるようにする「オンライン銭湯」という動きを見せています。
ただ、リアルな客足は減っていることが予想される現状…。小杉湯のメンバーたちは、どう逆境を乗り越えようとしているのか、オンライン取材を申し込みました!
~登場人物~
平松さん
平松佑介さん…住宅販売会社勤務、人材系ベンチャーの立ち上げなどを経て、2016年から「小杉湯」三代目として活動。昭和8年から87年続く小杉湯に愛を注ぐ人
塩谷さん
塩谷歩波さん…建築設計事務所に勤務時代、心身の調子を崩したことがきっかけで、銭湯の魅力にハマる。現在はイラストレーター兼「小杉湯」番頭。銭湯の魅力をイラストで図解する著書『銭湯図解』(中央公論新社)が人気
加藤さん
加藤優一さん…もともとは小杉湯の客だったが、小杉湯の隣にあった風呂なしアパートで一緒に暮らしたメンバーと「株式会社銭湯ぐらし」を立ち上げ代表に。3月にオープンしたスペース「小杉湯となり」の企画・運営を務める。本職は建築家
天野
聞き手=天野…新R25副編集長。銭湯が好き。“水風呂があればサウナはマストじゃない”派
「オンライン銭湯」が話題になったけど…客数は4割減
天野
オンライン銭湯の動画、見せてもらいました!
天野
この動画は、どうやって思い付いたんですか?
塩谷さん
「焚き火動画」が人気だったことがあったじゃないですか。もともと「あれの銭湯版を撮りたいね」って話してたんです。
そんななかでこの状況になったので、銭湯に来たいけど来れない人も多いんじゃないかと思って、動画をあげてみたんですよね。
天野
テレビに取り上げられたり、100万回以上も再生されたり、すごい反響ですよね。
塩谷さん
ほかの銭湯に「オンライン銭湯をやりましょう」って呼びかけたら、60軒ぐらいが参加してくれたんですよ。
やっぱりどこも、営業してるけどあんまり大声で「来てください」とは言いづらいジレンマがあったんじゃないかなって思いますね。
天野
小杉湯は、今はどういうかたちで営業してるんですか?
平松さん
いろいろ悩んで試行錯誤したんですけど、結局「小杉湯は、街のインフラだ」と考えて、通常通りの営業にしてます。
ただ、「家にお風呂がある人はご遠慮ください」ってメッセージを出してるんですよね。
※現在多くの業種に休業要請が出されていますが、銭湯はその対象に含まれていません。公衆浴場法に「地域住民の日常生活において保健衛生上必要なもの」と定義されており、地域住民にとって必要なライフラインであることが考慮されたためです。小杉湯も、各種の消毒などじゅうぶんな配慮のうえで営業されています
天野
やっぱりお客さんは減ってますか?
平松さん
そうですね。
お客さんと売上は4割減ってます。
天野
それは厳しい…かなり苦しい状況なんじゃないですか?
平松さん
たしかに苦しくて、固定費や消耗品費を削りながら、政策金融公庫から3000万円の借入を行って何とか生き延びなければいけない状況です。
ただ、必死に考えているなかで、ひとつの“生存戦略”にたどり着いたんですよ。
お?
「壊滅度は低いかもしれない」小杉湯が悲観的にならない理由とは…?
天野
今後は「リアルに足を運ぶこと」が減ると言われてますよね。オフィスや出張に行く必要がなくなるとか…
銭湯にも影響が出ると思うんですが、まずはそれに対する見解を教えてもらえますか?
加藤さん
僕は、銭湯の魅力を「サイレントコミュニケーション」って呼んでるんですけど…
なんかカッコいい言い方
加藤さん
人間の根源的な欲求として、「人の存在を感じたい」ってある気がしてて。
会話しなくても、人の気配があるだけで寂しさがなくなる。都市において、そういう場所はすごく必要だと思うんですよね。
天野
それはわかります!
オンライン飲み会も、「人の気配」がないから寂しいときありますよね…
加藤さん
そうそう。SNSとかネットの逆で、銭湯は「名前は知らないけど顔は見たことがある」という、ほどよい距離感の付き合いがたくさんあるんですよ。
それは「お店という場所がある」からこそなせるワザですよね。
平松さん
ちょっと前に、小杉湯のやっていることを再定義したんです。
そのとき、僕らのビジネスは「ケの日のハレをつくることだ」と決めたんですよ。
※ハレ(晴れ)は冠婚葬祭や祝祭など特別な日、ケ(褻)は日常。民俗学者の柳田國男が日本の文化を分析した言葉
平松さんも元ベンチャー起業家なので、めっちゃビジネスっぽい語り口。小杉湯カルチャーは濃いな…
平松さん
つまり、日常のなかのちょっとした幸福感をつくることです。
こういう時代になって、人がわざわざ移動しなくなると「家や街にいること、日常をすごく大切にすること」が当たり前になる。
そうなったときに、「ケの日のハレ」が求められることがどんどん増えていくんじゃないかと思っているんです。
天野
なるほど…
平松さん
ブロガーのちきりんさんが「壊滅度別の業界リスト」っていうブログを書いてたんです。いろんな業界を、コロナによるダメージ度合いで1から5の段階に分けるという内容なんですけど…
たとえば、一番危ない「5」は、旅行やイベントなどのエンターテインメント系。
平松さん
逆に壊滅度が低い「1」は、家とか日常に接続されている業界なんですよ。
天野
「パソコンメーカー」「保存食メーカー」…ほんとですね。
平松さん
だから、“飲食店や銭湯などのお店=ビジネス的に弱い”と言われると…
違う見方もできるんじゃないか?と思うんです。
小杉湯も、ライブとかのイベントはできなくなりましたけど、イベントはマネタイズポイントではない。あくまでファンをつくるためにやっていたことなんです。
天野
(そこまで考えてイベントやってたのか…)
加藤さん
3月にオープンしたスペース「小杉湯となり」も、銭湯のお客さんや地域の方に向き合うために、大々的なオープニングイベントをしなかったんです。
今も高円寺限定でデリバリーを始めたり、店内の書斎スペースは会員限定にして、できるだけ安全で安心できる環境をつくっています。
こちらが「小杉湯となり」の様子。すてきだ…
小杉湯となりが考える“これからの生存戦略”は、「街を家にすること」…?
加藤さん
その延長で、これからの“小さいお店の生存戦略”があって…
小杉湯となりで一番やりたいことは「暮らしのサブスク」モデルを実現することなんです。
またキャッチーなワードが
天野
なんですかそれは?
加藤さん
10万円ぐらい払えば、住むところにくわえ、街のお風呂や食堂が利用できるサブスクです。
今は、1~3万円で小杉湯と小杉湯となりを使える会員プランがあるんですが、今後は不動産店やほかのお店と連携して、「街全体が家になる」という暮らしをつくっていきたいという構想なんですよ。
天野
「小杉湯となり」は会員になればコワーキングスペースも銭湯も使い放題なんですよね? それを街全体に拡張していくってことか…
平松さん
天野さん、小杉湯となりは「コワーキングスペース」じゃないです。
天野
えっ。
なんでだよ、コワーキングじゃん
平松さん
本当は、当初「銭湯付きコワーキングスペース」って言ってたんですよ。
でも、「コワーキング」っていう言い方だとお客さん集まらなかったんです。
天野
そうなんですか?
平松さん
作業スペースの切り売りになってしまったんですね。「コワーキングスペース」としては渋谷、新宿に勝てなかったんですよ。
「ごはんとみそ汁無料」にして“家”を打ち出したら、会員が増えていきました。
天野
概念から違うと。
加藤さん
これまでは、自分の家ですべてを所有しきるのが「豊かさ」だと言われてました。
でも、これからは身近な“家のまわり”で、いろんな街の機能をシェアしてもらうというのが、我々のような小さな店の生存戦略です。
高円寺がひとつの家だったら、借りる家は風呂なしでもいいかもしれない。実際僕は風呂なしアパートに住んでますし…
平松さん
人が移動しなくなればなるほど、家に接続しているサービスの強さが浮き彫りになる。
NetflixやSNSがそうなっているように、銭湯や飲食店もアップデートできると思うんです。
天野
小さなお店で、街全体を家として利用できるようにするってことか…! ようやく理解できました…!
ちなみに、3階の居住スペースを見せてくれるという加藤さんのお言葉に甘えたら…
ほんとに人が住んでました。だれ
平松さん
「イベントはマネタイズのためじゃなかった」と話しましたが、実際、過去にコラボした方たちが、入浴剤として使えるものを送ってくれたりするんですよ。
ハーブとか漢方、米ぬか、酒粕、果物の皮、お茶とか…
天野
これまでの活動が今につながってるんですね。
平松さん
そうですね。
少し遠方の方のためには、ECで「銭湯のある暮らし便」を販売しようとしてるんです。
小杉湯で取り扱っている消臭剤や「IKEUCHI ORGANIC」のバスタオル、小杉湯となりで湯上りに楽しめるクラフトコーラとかをセットにして、自宅でも銭湯を味わってもらえればと。
天野
本当にいろいろ考えて動かれているんですね…
「経営が危ないんじゃないか」なんて言ってすみませんでした!!!
近いうちにこの空間をまた訪れたいものです
小杉湯と「小杉湯となり」の皆さん のお話は、単にひとつの銭湯の経営ということだけでなく、人々の“暮らし方”をアップデートする意識にあふれたものでした。
「家を拡張し、街で暮らす」という概念は、コロナ後の日本には欠かせないものになるかも…。Zoom越しでも、銭湯のようなアツさを感じた取材になりました。
今週には、「銭湯のある暮らし便」の詳細が明らかになるそうなので、気になったかたは、ぜひチェックをお願いします!
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〈取材・文=天野俊吉(@amanop)/取材時銭湯撮影=池田博美(@hiromi_ike)〉
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