ビジネスパーソンインタビュー
売上が半減しても、幸せを増やしつづける。人気レストラン・sioは愛を忘れずサバイブする

レシピ公開も「優秀なレシピと言われるためにやったんじゃない」

売上が半減しても、幸せを増やしつづける。人気レストラン・sioは愛を忘れずサバイブする

新R25編集部

連載

サバイバーは上を向く

2020/04/30

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新型コロナウイルスの感染拡大により、経済的打撃を受けている業界が多くあります。

連載「サバイバーは上を向く」では、そんな逆境に立ち向かう人たちの奮闘をお伝えできればと思っています。

彼らの試行錯誤や考え方を広めることが、同じように苦しんでいる人たちの勇気や現状打破のヒントになり、さらには彼らを応援・支援する動きにつながれば幸いです。

今回オンラインで取材したのは、代々木上原にある人気フレンチレストラン「sio」のオーナーシェフ・鳥羽周作さん

32歳でシェフに。料理業界の革命児・鳥羽周作「これができれば年齢なんて関係ない」|新R25 - シゴトも人生も、もっと楽

サッカー選手、小学校教師を経た異色の経歴

サッカー選手、小学校の教員を経て、32歳で料理人の世界へ飛び込んだ鳥羽さん。2016年3月より代々木上原「Gris」のシェフに就任。2018年7月、同店のオーナーシェフとして、「sio」をオープンしました

鳥羽さんは、自身の考案した料理レシピをTwitterで公開する企画「おうちでsio」をスタート! 大人気となっています。

「コロナショック」で多くが苦境に立たされている飲食店オーナーとして、鳥羽さんが考える“サバイブ術”とは?異色のシェフの語る「愛の話」をお楽しみください。

〈聞き手=天野俊吉(新R25副編集長)〉

おうちでsioが大反響。「“鳥羽さんのレシピ優秀”って言われるためにやってるんじゃない」

天野

「おうちでsio」の広がり、Twitterで拝見してます!

鳥羽さん

いま、こういうかたちで“料理”を求めてる人が多いんだなって痛感しますね。

フォロワーも9000人ぐらい増えたんですよね。

天野

そんなに!

でも、フランス料理店であるsioが、家庭向けにレシピを公開しはじめたのはなぜなんでしょうか?

普段のsioは、こんな素敵なメニューを出されています

鳥羽さん

幸せの分母を増やす」ことが料理人の仕事だと思ってるからっすね。

天野

幸せの分母…?

鳥羽さん

俺らがレストランをやるうえでのビジョンです。料理を通じて、世の中の「幸せ」を増やしていく

そのために「」を持ってお客さんを観察して、求められているものを想像するんです。

「おうちでsio」は、ほとんど家でしか食事できなくなったいま、“誰がつくっても、高い確率でおいしくできるレシピ”が求められている、と考えて始めたんです。

天野

だからハードル低い焼きそばとかなのか…

鳥羽さん

そう。レシピに“書かないこと”にも気を付けてるんすよ

たとえば、Twitterのレシピを見て料理つくろうと思って、材料に「イタリアンパセリ」って書いてあったらどう思います?

天野

何それめんどくさ」ってなります。

鳥羽さん

ですよね。僕はレシピに“余白を残す”ように書いてます。手に入りやすい材料にアレンジしてもらうの大歓迎。

「おうちでsio」は、「鳥羽さんのレシピ優秀だよね」って思ってもらうためにやってるんじゃない

どこにでもある材料でつくれる」「家にある調理器具でつくれる」「洗い物が少ない」…いろんな観点から、みんなのことを想像してるんすよ。

天野

洗い物のことまで考えられてるんですね…!

酢豚のレシピで、セブンイレブンの肉団子が使われてたのにもビックリしました。

鳥羽さん

いやいや、あれめっちゃうまいですよ!!!

声がデカくてZoomの音声が割れました

鳥羽さん

肉団子をゼロからつくる細かいレシピを書いても、「幸せの分母は増えるのか?」って話なんすよ。

コンビニのものをアレンジしてもいいなら、普段料理しない旦那さんでもつくれますよね。

いま、「酢豚つくったら奥さんが喜んでくれてよかった」ってリプライをたくさんもらえてます。そういうのでいいんすよ

天野

「リプライ」で思い出したんですが、鳥羽さん、「おうちでsioつくってみた」っていうツイートに、全部リプライしてますよね?

鳥羽さん

料理人の「愛」ゆえっす

料理人は、料理を出して終わりじゃない。どういうふうに食べてもらえてるかを見届ける義務があるんです。

「テイクアウトはカンタンじゃない」理由

天野

今はお店のほうは、ソーシャルディスタンスに配慮した営業をしつつ、テイクアウトに注力されてるんですよね?

鳥羽さん

そうっすね。

ただテイクアウトに関しては、けっこう悩んでる部分もありまして。

さっきまで豪快だったのに…どうした

鳥羽さん

テイクアウトって、「食材詰めればいいからカンタン」って思われてるかもしれないっすけど難しいんです

お店では1日20食つくってた料理を、300食、400食つくるようにしないといけない体制面、そして当然衛生面にも対応しなきゃいけないし。

天野

たしかに…

鳥羽さん

一番難しいのは「おいしさの担保」…

パスタってできたてはおいしいけど2時間後にはとても食べられないじゃないですか。そこで、ゼロからクリエイティブを発揮しないといけないんすよね。

天野

作り手からすると全然別物なんですね。

鳥羽さん

そこを考え抜いて生まれたのが、テイクアウト用の新メニュー「hey!バインミー」です。

鳥羽さん

苦み、甘み、など味を構成する「五味」にスパイスを掛け合わせ、sioの考える料理のロジックを1本のパンに詰め込んだんす。

1000円という食べやすい値段で、sioというレストランを体感できるミニマル(=最小限)な表現ができたと思ってます。

天野

1000円で「料理のロジック」が味わえる…説明だけで食べたくなってきました。

鳥羽さん

ウーバーもすぐに導入するのが難しいので、こういったメニューをお店のスタッフみんなで配達してます。「トーバーイーツ」って言ってるんすけど

以前運送の仕事をしてたメンバーがいて、彼が配達のコースを考えてくれて、みんなで配達してるんですよ。

トーバーイーツ…絶妙のネーミングセンス

鳥羽さん

5月からは、新しく「贅沢弁当」も始めるんです。

外食が難しい日常のなかで、ちょうどいい贅沢をしてもらえればなと。

「難しい」というテイクアウトでも、さまざまな打ち出しを続ける鳥羽さん。「愛」だな…

鳥羽さんが考える「新しい飲食業のモデル」とは…?

天野

「コロナの影響で飲食店はかなり苦しくなる」と言われてますが、正直、お店の経営はいかがですか…?

鳥羽さん

売上は4割ぐらい減ってます。飲食業はやっぱり固定費が重かったりして、キャッシュフロー的に難しいっすね。

だからこそ以前から、新しい飲食業のモデルをつくっていくことを考えてたんですよ。

天野

それ気になります。

鳥羽さん

店の運営だけじゃなく、もっと大きなものをプロデュースするというかたちに、飲食店を拡張するんです。

商業施設がオープンする段階、あるいは都市開発の構想段階からsio株式会社としてコンサルティングに入る。

天野

sioプロデュースの商業施設、めちゃくちゃよさそう…!

鳥羽さん

ビジネスとビジョンの両軸を大事にしていくことをやりたいんす。

いち飲食店としてお客さんに愛を与えつつ、企業として力があるからこそできる「幸せの分母の増やし方」ってあると思うんです。

“sioが1兆円の企業だったら、こういう状況のときにもっと大きな支援ができたかもしれない”とよく思うんすよ。

天野

支援…。よく「飲食店が大変だから応援しよう」って聞きますけど、そういう話ではなく?

鳥羽さん

っていうか俺らは、お客さんを応援したいんすよね。

天野

普通と逆じゃないですか…!

鳥羽さん

飲食店が大変だって言ってもらいますけど、飲食店以外も、みんな大変じゃないっすか

船が沈没しそうなときに、ひとつの救命ボートにまわりを押しのけて乗るようなことはしたくないんす。みんなが助かる道を模索したい。

そのためにはやっぱり、お店の“イズム”を守りながらビジネスでも勝つ。そうやって幸せの分母をちゃんと増やしていくことっすよね。

天野

鳥羽さん…! アツすぎます…!

「音楽」や「おしぼり」まで提供。鳥羽さんの深い愛はどこから来るの?

天野

余談ですけど、「おうちでsio」っていうプレイリストも公開されてますよね。

めっちゃよかったです!

鳥羽さん

お、マジですか。それ絶対書いてくださいね(笑)。

プレイリストは、普段お店でかかってる曲を入れてるんです。いま、メシに“音楽”があったらうれしいと思いません?

天野

たしかに…! めちゃくちゃ思います。

鳥羽さん

“食”って料理以外にも深掘りできるところがあると思ってるんですよ。

これから、「おしぼり」も売ろうとしてて

天野

おしぼり?

鳥羽さん

お店で出してる、「IKEUCHI ORGANIC」っていうメーカーの最高のおしぼりがあるんすよ。

バインミーとおしぼりのセットをテイクアウトして、sioのプレイリストで音楽も聴いてもらえれば、新しい「家でのレストラン体験」になるんじゃないかと。

プレイリストは「一部の人しかわからない難しい曲じゃなくて、いろんな人に喜んでもらえるようにしてる」とのこと

天野

あらためて、“お客さんのことを想像する”鳥羽さんの「愛」のスゴさを感じます。

鳥羽さん

俺は「恩送り」って言ってるんですけど、お客さんや、いろんな人がsioに対して優しくしてくれてる。それを返してるだけなんすよね。

こういう状況になって、どういうスタンスで人間と付き合っているかが浮き彫りになるようになったなと思ってます。

天野

sioとお客さんは、“与えあう”最高の関係ができているんですね。なぜそんなことができるんでしょうか?

鳥羽さん

状況に合わせて「愛」を与えるのは、普段からやっていることなので、本質的には変わってないと思ってます。

これまでも、フランス料理の店なのに、ラーメンやナポリタンやプリンもつくってきた。

天野

なるほど…

鳥羽さん

レシピやプレイリストを公開するのも、バインミーやおしぼりを届けるのも…

求められてるものに応えてるだけそれの見え方が変わってるだけなんすよね。

だから、「覚悟を持って愛を与えつづけていく」っていうことに尽きると思います。

こちらは以前取材させていただいたときの写真。またお店で取材できる日を楽しみにしています!

Twitterでレシピを公開する…

一見ポップなその行動の裏側には、「人のことを想像し、覚悟を持って愛を与えつづけていく」という鳥羽さんの理念がありました。

この原稿は、鳥羽さん作成の「おうちでsio」プレイリストを流しながら書きました。

プレイリストの最後の2曲は「愛はおしゃれじゃない」(岡村靖幸)と、「ここにいる」(中村一義)。

たくさんの人に愛を与えながらお店を続ける、鳥羽さんからのメッセージのような気がしましたが……考えすぎかもしれません。

鳥羽さんの愛の結晶を味わってみたくなった方は、下記の情報を参照して、“幸せの分母”を増やしてみてください!

〈取材・文=天野俊吉(@amanop)/取材時撮影=いしかわゆき(@milkprincess17)〉

sioのデリバリー、テイクアウト情報は鳥羽さんのTwitterをチェック!

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