ビジネスパーソンインタビュー
沼田晶弘著『one and only ―自分史上最高になる―』より
小学生と実践してわかった、改善につながらない「PDCA」の“悪循環パターン”
新R25編集部
日本のあらゆるビジネスシーンで使われる「PDCA」という言葉。
社会人にとっては常識に近いワードです。そして、言うのは簡単なのに回すのは意外と難しい…というお悩みも、もはやビジネスパーソンにとってはおなじみですよね。
そんな「PDCA」を、なんと小学生の子どもたちに教えている(!)先生がいます。
沼田晶弘さん。ユニークな教育手法で知られ、数々のメディアに引っ張りだこの人気小学校教諭です。
小学校1年生にPDCAを教え、学校生活のなかで実践させているうちに、子どもたちがハマりがちな“悪循環”にはとあるパターンがあることに気づいたんだとか。
沼田さんの著書『one and only―自分史上最高になる―』から、そんな独自の教育を経て気づいた「PDCAの意外な落とし穴」をご紹介。
“小学生のPDCA”には、大人も学べるヒントがたっぷり詰まっていました。
大人も陥りがちな「ダメなPDCAサイクル」2パターン
昨年から、子どもたちにひたすら「PDCA」を教えています。
大人のビジネス用語を用いることで特別感がアップして、子どもたちのワクワク感を生みます。
しつこいほど分析・改善にこだわりますから、当然、学習のレベルも格段に上がっていきます。
子どもたちを見ていると、PDCAがウマく回っていないとき、どうやらいくつかパターンがあることがわかってきました。
悪循環を招いているパターンは、大きく2つ存在します。主に「D」と「C」においてです。
パターンその1:「Dループ」
最初の「P」はしっかりあるけれど、「D」をひたすらくり返し、ループし続けているパターンです。
Planを立てたとき、どんな人だって、最初は一生懸命、Doに取り組みます。だけど、Doの後には毎回必ずCheck、つまり徹底した振り返りや分析、評価があるべきです。
そして、さらにその後には、Actionとしての途方もない量のシミュレーションと、意図的なトレーニングがあるべきです。
それらを怠っている、Doからいつまでも抜け出せない状態を、「Dループ」と呼んでいます。
「やればできる!」とか言われたことはありませんか。
とにかく実行、素早く実行。動きだしてから考えればいい!
まぁ決して間違いではないと思うんですが、なんの準備も戦略もなく実行して、CとAの伴わない同じ実行をくり返してしまうのでは、ナンセンスです。
子どもたちも、なにかで失敗したとき「もう1回やらせて!」と言います。
もちろん何度でもやったらいいのですが、なぜ失敗をしたのか? 分析し、シミュレーション&トレーニングを積んでからにしないと、また失敗して、失敗体験が重なってしまいます。
Checkに移行することなく、「ウマくいくまで、同じことを同じようにやり続ける」。
これがDループの特徴なんです。
たとえばゴルフがウマくなりたいなら、同じスイングを何度も何度も、自己流で振っていても仕方ありません。
どうすればダメなスイングが上向くか? 現状のスイングを撮影して、プロのスイングと見比べたり他人からアドバイスをもらったりしながら分析・検証を行った上で(Check)、改善点を意識しながらもう一度振ること(Action)。
黙々と降り続ける自己流のスイングは、Dループの極みです。とりあえず、このDループから抜け出すこと、そうすれば、次のCに進めます。
パターンその2:「フェイクC」
Dループをなんとか抜け出し、評価をする、Cの段階へ移ったとします。ここで陥りやすいのが、よかったところばかり振り返る「いいところ探し」のC。
いいところを見つけ、自分で自分を褒めるのも、大事なことです。けれど、よくよく俯瞰してみたら、1の成功に対し、実は9の失敗があったりするわけです。
「ほとんどダメだったけど、1個はウマくいったんだから、よかったよかった!」ってそんなノンキな。それはいただけません。評価として、フェイクです。
「いいところ探し」は、やる気を保つためのケアとして必要な場面もありますが、度を越したポジティブは、自分を過大評価しているだけ。
たとえばウマくいったときでも、1回目の成功は、褒められてもいいでしょうが、勝ち続けた喜びに浸るだけでなく、「勝てていない」部分に目を向ける日がこなければなりません。
「できていないところ」を分析すれば、「勝ちグセ」を支える筋力と思考力は、磨かれていきます。
「本塁打王にはなれたけど、チャンスで打てないときは、たくさんあった。なぜだろう?」と、さらに自問自答できる打者が、本当の一流バッターになれる、という話ですね。
できないところを直視するのは、誰だってツラいことです。
だけどそれをしないかぎり、できないところはいつまでもできないままで、同じような失敗の連鎖を、止められない。
CがフェイクならAはNothing、Aが存在しないのに立てるプランはFuzzy P(あいまいなプラン)。
もうこうなると、なんのことやら、PDCAサイクルの妄想回転が始まります。
人が成長していくためには、フェイクCではなく、痛みを伴った評価=リアルCをしていきましょう。「できないことを認める勇気!」です。
「フェイクC」から「ディープC」へ
リアルCができるようになると、「ディープC」が可能になります。さらに高い次元の成長へつながる、自己への深い、振り返りです。
自分自身を徹底的に掘り下げて、深い部分での評価ができるようになると、トラブルや逆境に負けない思考力や対応力が、養われます。
弱点を認めることができれば「失敗は恥ずかしくない!」「次につなげればいいんだ!」という、本当の意味での強いメンタル、マインドセットができます。
「犬も歩けば棒に当たる」ってことわざがありますね。
『広辞苑』(新村出編『広辞苑 第7版 机上版 あ―そ』岩波書店、2018年)を見てみると、
「物事を行う者は、時に禍いにあう」という戒めの意味と、「やってみると思わぬ幸いにあう」という、まったく反対の意味が共存しているところが、このことわざのおもしろいところです。
まぁどちらの意味でもいいんですけど、個人的には「で、棒に当たった後どうする?」と聞きたいのです。
「当たっちゃった」とか「痛かったー」って終わるのではなく、せっかく手にしたその棒を、いかにして使うかが、大事ではないでしょうか。
ボクは、それを武器にしてほしいと思います。
思いがけなく棒に当たった=失敗、を分析し「なんで当たってしまったのか?」を正しく振り返れば、棒はただの棒きれから、次の一歩を踏み出すときにトラブルやストレスと戦える、「黄金の杖」になるのです。
その棒が「幸運」だった場合もそう。「いやー、よかったラッキー」じゃなくて、棒に当たった場面を分析して、またその幸運に巡り合うためのサンプルにしてください。
武器を使って、新しいActionを起こせばいいのです。リアルCとディープCができれば、質の高いActionは自然に生まれます。
そうすればさらにワクワクする、新たなPlanも湧き上がるでしょう。
これが、ボクと子どもたちが導き出したPDCAサイクルのゴールデンモデルです。
もう転ばない子のPDCA
毎日子どもたち全員と交換してる日記に、こんなことを書いてきた1年生がいました。
「校門で転んでしまったので、PDCAしました」
登校するときに、どうして自分が転んでしまったのか。その子なりにPDCAサイクルで、改善策を考えてみたそうです。
それはおもしろい。ニヤニヤしながら日記を読み始めました。
登校する=Plan、校門をくぐる=Doの後、Checkの段階で、いくつかの検証結果が出てきました。
「走っていたので、転びやすかった」
「ランドセルを背負っているのでバランスがくずれやすい」
「友達や警備員さんにあいさつして、気がそれる」
「校門は段差があるので転びやすい」
お見事です。
素晴らしいリアルCだと思います。校門の段差に気づいたというのが、特に素敵です。
自分のことだけでなく、周囲にも目が届いた証拠であり、おそらく今後は、自分以外の転びそうな子のことも助けられるような、対応力のあるディープCになっています。
そして、この子は「登校中に多少は走ってきたとしても、校門をくぐるときは危ないと覚えておく」という、立派なActionを導き出しました。
ただ単に「転ばないようちゃんと気をつける」という結論を出していたら、たぶんまた転んでいたでしょう。それだとDループです。
PDCAサイクルを頭のなかで回し、適切な自己改善をできるようになった、お手本のような例といえますね。
カリスマ教師が子どもたちと学んだ「成長のヒント」が満載!
『one and only―自分史上最高になる―』には他にも、沼田さんが子どもたちとともに学ぶ日々の中で発見した「成長のヒント」がたっぷり紹介されています。
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