ビジネスパーソンインタビュー
冨田和成著『営業』より
こうやってスムーズに本題に移行せよ。営業を有利に進める「戦略的雑談」
新R25編集部
同じやり方でも、時と場合によって結果が変わってしまうのが営業。
そのため、営業のノウハウは体系化されづらく、「やる気」「根性」といった精神論で語られがちです。
しかし、「トップセールスは皆、ベースとなる同じ考え方を持っている」と元野村證券“伝説のセールスマン”である冨田和成さんは主張します。
不確定要素の多い営業において必要な考え方とは、一体何なのでしょうか?
今回は、冨田さんの著書『営業』より、営業を有利に進める2つの考え方をお届けします。
相手との共通の話題や体験を持つ
人間的信頼関係を築くうえで大切なのは、相手のことをよく知り、共通の話題や体験を持つことだ。
前職のとき、ある優秀な先輩営業パーソンから「社長室に連れて行かれたら、通された瞬間からまずあらゆるものを見ろ」と口グセのように言われていた。
椅子やデスク、パソコン、筆記用具、あるいは張り紙など言外の要素から、相手がどんな人なのか見えてくる、と。
その最たる例が車だ。
経営者には、車好きの人が多い。
私はどちらかといえば車の知識については苦手な方だったが、それでもレクサスやポルシェ、ベンツ、マセラッティなどの高級車が大体どれくらいの価格帯で、どのような特徴があるのかくらいは最低限、頭に入れておいた。
たとえば同じレクサスでも、「LS」シリーズはざっくりと1000〜1500万円。
「GS」なら500〜800万円、「IS」は400〜600万円くらいの価格帯だ。
そうしたことを踏まえておくと、営業先の経営者がレクサスに乗っていれば「いい車ですね」と単純に言うだけでなく、「外においてあった車、もしかして社長さんのですか?あのLS、もしかしてキャッシュでお買い上げに…?」といったように、会話の展開の余地をつくれる。
私が車の基礎知識を頭に叩き込んだのは、共通の話題を創出するためだ。
極端な雑学王になる必要は一切ないが、やはり営業である限り知識の広さは重要だし、特定の領域の知識については深さを持っておくのは立派な武器になる。
あとはよくコミュニケーション本で書かれている「共通項を探すこと」も鉄板だ。
同じ地方の出身であるとか、同じ大学であるとか、同じ趣味を持っているとか、共通の知人がいるといった共通項が多いほど人間的信頼関係は強くなるものだ。
私も経営者の趣味や出身地や出身大学などの情報をネット検索していたし、ちょっとした共通点のヒントを求めてアポの10分前に現地に行って、会社や自宅周辺をぐるぐる回りながら情報を集めるようなこともしていた。
トライアスロンが趣味なら、マラソンまたは水泳だけ始めてみるだけでも、共通の話題に加え、共通体験が生まれることになる。
一緒に食事やゴルフに行くのもなおさら強い共通体験だし、共通体験が多く・深くあることで、そもそも会話が盛り上がるし、共感を感じやすくなる。
そういったことが人間的信頼関係につながっていく。
戦略的雑談で自然と本題に入る
リラックスした雰囲気をつくり、顧客に心を開いてもらうために行うアイスブレイク。
「季節」「道楽」「ニュース」…と、定番の雑談ネタの頭文字を集めた「木戸に立てかけし衣食住」のなかから話題を探している人もいるだろう。
それも立派な型だ。
でも、それが初めての面談だとしたら、雑談を雑談で終わらすのはもったいない。
先日、私のところに金融機関から若い営業が来た。
昔の自分を思い出しながら、相手の営業がどうやって話を切り出してくるのか楽しみにもしていた。
彼は私の過去の本を読んできてくれたようで、最初にサッカーの話を持ち出した。
彼も学生時代サッカーをやっていたそうで会話はそれなりに盛り上がったのだが、時計をチラッと見た瞬間に急に真面目な表情になって「…で、そろそろ本題なのですが」 とトーンを変えて来たのだ。
せっかく和らいだ空気だったが、その流れがブチっと切られてしまった。
相手の趣味に合わせた話題を切り出せば人間的信頼を得られるだろうと考えることは決して間違いではない。
私も相手のコミュニケーションスイッチが入りそうなキラートピックを事前に調べてアイスブレイクに使うこともあった。
でも、そうかといって本題と完全に切り離してしまうのは、人情型営業がやりがちな典型的な話の展開の仕方だ。
相手の課題(と思われる話)の遠からず近からずのところから始めて、いつの間にか本題に入っている。
これが理想の面談だ。
私はこれを戦略的雑談と呼んでいる。
もしサッカーの話から入るのであれば、監督の話にシフトして個性派集団を束ねる難しさの話でもして、そこから会社経営に持っていってもいいし、スター選手の高額年俸やその運用方法の話をして、優秀な人の採用の難しさや資産運用の話にしてもいいだろう。
上記の流れのまま税制対策を切り出すなら、プライベートバンクの聖地スイスでの脱税で有罪判決を受けた、リオネル・メッシ選手の話から入ってもいいかもしれない。
とにかく流れを切らないことが重要になる。
話題展開を事前に想定する
戦略的雑談をするときにどんな話題から始めてどうやってスムーズに本題につなげるのかは、パターンが無限にある。
ただ、個人的な話(車の話など)をした後に本題に移行するときには話がブツ切れになりやすいので注意したい。
事前にどんな話題を振るかわかっていれば、話の流れを想定しておくのがベストだろう。
たとえば、「車」から「燃費」の話に振って「生産効率」の話に振るとか、「車」から「税金」の話に振って「税務対策」の話に持っていくといった、いくつかの展開ルートを持っておくと戦略的雑談が楽になる。
もし、会社や業界、経済、市況などのビジネス寄りの話から入るなら、話題も限られているのでパターン化しやすい。
参考までに、帝国データバンクなどで得られる企業情報をもとに話を始めて、本題につなげていくときの話題展開例を下に用意した。
金融機関による経営者層開拓営業を想定しているので、決して汎用的な例ではないし、ここで紹介しているのはそのごく一部でしかないが、話題の展開の仕方は言語化できること、そして事前に情報収集した分だけ話のきっかけが増えるという2点を、せめてご理解いただければと思う。
その上で、本題をご自身の商品・サービスに置き換えてみて、それぞれどういった展開なら自然につながるのか、チームでブレストしてみることを強くおすすめしたい。
それはきっとチームの財産になるはずだ。
また、企業情報以外にも、私は話のきっかけとして「失業率」「市況」「年金制度」 「有効求人倍率」「政治」「ヒット商品」のような時事ネタも多用していた。
特に経済ニュースは同じような話題が周期的に出るので、たとえば「失業」というキーワードから本題につなげる展開例などを検討して紙に書き出しておくと、あとあと非常に重宝する。
営業の思考法から実践的スキルまでを体系的に学ぼう
営業 野村證券伝説の営業マンの「仮説思考」とノウハウのすべて
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「成果を出すには量をこなすしかない」というのが、営業の一般的なイメージ。
しかし、正しい“型”を学べば「エースもベテランも1年でブッちぎれる」と冨田さんは言います。
そんな営業の“型”が体系的にまとめられた『営業』。
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冨田さんにはこちらの記事でも営業の極意を解説していただいています。
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