ビジネスパーソンインタビュー
「会った瞬間にお客さまのパーソナリティがわかる」
技術がなくてもNo.1になれる。“日本一予約が取れない美容師”が20代で気づいたトップへの近道
新R25編集部
記事提供:20's type
「月間200万円売り上げれば、人気美容師の仲間入り」と言われる中で、たった一人で月1200万円を売り上げる男。
月500ある予約枠は3分で埋まり、今「日本一予約が取れない美容師」と話題なのが、人気美容室『OCEAN TOKYO』代表の高木琢也さんだ。
現在34歳になった高木さんの若手時代を聞いてみると、「俺はカット技術がズバ抜けていたわけじゃなかった。それでも20代の頃は『日本一の美容師になるにはどうすればいいのか』をずっと考え続けていました」と笑って振り返る。
自らを「天才じゃない」と語る高木さんは、いかにして誰もが認める‟カリスマ”の地位を手に入れたのか。20代の頃の試行錯誤を聞いた。
【高木琢也(たかぎ・たくや)】OCEAN TOKYO 代表取締役。1985年生まれ。早稲田美容専門学校卒業後、都内のサロンにて勤務。2013年9月に『OCEAN TOKYO』を立ち上げ。「月間技術売上1200万円」の偉業を成し遂げ、『ホットペッパービューティーアワード』の全国メンズヘアスタイル部門で、2万超の作品の中から3年連続日本一に。18年10月にはNHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』に美容師として初出演した。19年6月には初の著書『這いつくばった奴が生き残る時代 道 あけてもらっていーすか?』を上梓、‟発売前重版”という驚異的なスピードで売上を伸ばしている
「日本一の美容師になりたい」先輩に嫌われてもカットの質・量を爆上げする工夫を続けた
俺は20歳で美容室に就職して、シャンプーしかできない時から「日本一の美容師になる」って宣言するような生意気な新人でした。
だってどうせやるなら、日本一を目指さないとカッコ悪いじゃないですか。
日本一の美容師になるなら、売上も指名数もダントツのトップにならなければいけないと思ったので、「より満足してもらえるように質を上げて、よりスピーディーに髪をカットしてお客さまの数を増やす」戦術でいこうと考えていました。
でも、その考えは先輩や上司たちからはなかなか認めてもらえなかったんです。
「ゆっくり切って、お客さまに“丁寧感を演出”しろ」とか、「どんなに素早くカットしても、1カ月で300人以上を対応するなんて不可能だ」って散々注意されて。
「いや、あなたたちはそうかもしれないけど、俺は違うから」。ずっとそう思っていましたね。
たった10分でも顧客満足度の高いカットはできるはずだし、無駄を削って浮いた時間を使って月500人は切れる。
俺にたくさんのお客さまがつけば、他の美容師にも還元できるし店の売上も上がるから、良いことだらけだと思ってたんですけどね。全然認めてもらえなかったんですよ。
それが正しいって、証明するためには結果が必要でした。皆が「高木には勝てない」って状況をつくるしかなかったんです。
だから、死に物狂いで「速くてうまい」技術を身に付けました。
俺はもともと器用な方ではなかったので「人の100倍やらなきゃいけない」と思って、閉店後は夜明けまで練習に打ち込んだし、流行の髪型を知るためにファッション誌を読み漁った。
先輩に頭を下げて、自分の髪を切ってもらって、技術を盗んだりもしました。遊んでる暇なんて全くなくて、とにかく自分の考えを証明したい気持ちでいっぱいでしたね。
その結果、23歳でスタイリストデビューして、25歳の時には売上も指名数も店のトップになりました。
でも、結局何も変わらなかったんですよ。むしろ状況はもっと悪くなった。
上の人たちは、今までと違うやり方で俺がトップを取ったから、自分のやり方を否定された気分になったんだと思います。
やたら否定されたり、妬まれて、妨害もされて…散々戦ってはいたんですけど、全てダメでした。
「それなら、俺のやり方が正しいって証明してやるよ」と独立を決意。27歳の時に『OCEAN TOKYO』を立ち上げて、今は渋谷・原宿・大阪に6店舗展開しています。
目の前のお客さんのNo.1になれば、日本一になれる
25歳で店のトップになってからは、右肩上がりに売上を伸ばしています。数字が落ちたことは一度もありません。
でもそれって、俺が特別「カット技術が優れてる」とかそういうことじゃないんですよ。
正直スキルだけでいったら、俺はそこまで上手くないんじゃないかとすら思う。カラーもパーマも、俺より上手い人はたくさんいました。
それでもなぜ今ここまでこれたのかっていうと、月並みな表現になってしまうけど「目の前のお客さまを大切にしたから」の一言に尽きると思うんですよね。
もちろん、俺も始めからちゃんとできていたわけではありません。
美容室に就職した時は、出勤初日から「とりあえずカラーぐらいまで覚えたら、辞めようと思ってます」って言い切ってたんですよ(笑)。
かなり生意気ですけど、「日本一の美容師になるためには、日本一の美容室に入らなきゃいけない」と思ってたので、早く人気美容室に移りたかったんです。
だけど、そんな下っ端の俺にも「高木にシャンプーしてもらいたい」とか「高木のブローが好き」ってお客さまがつきました。
いつか辞めようと思っているのに、1週間後には俺のシャンプーを指名してくれる人がいる。その人に黙っていなくなるなんて、裏切りだし筋が通らないなって思っていたら、辞められなくなりました(笑)。
そのうち「俺に会いに来てくれるお客さまは、どうしたらもっと満足してくれるんだろう?」と考えるようになりました。
それでよくよく周りを観察してみると、美容師のどうでもいい世間話とか、無難な提案、余計な気遣いが多いんじゃないかってことに気付いて。
だって、お客さまが俺らに求めているものは、過剰なサービスでもお世辞でもなく、「満足できる髪型にしてもらうこと」なはずです。
もちろん、美容師に髪型を提案してもらいたい人もいるし、無難な髪型を求めてる方もいるので、「一人一人異なる、満足のいく髪型」を目指したいなと。
だからその人にとって無駄なことは一切排除するために、「そのお客さまが求めている髪型と対応を、出会って5秒で判断できるようになろう」と思いました。
それからは、この人はどんなことを求めるお客さまなんだろう、どういうことをされると嬉しいのかなって、「人」を知るためのデータ集めを始めました。
自分のお客さまだけじゃなくて、隣の席の会話を聞いたり、他のスタイリストのカラーやブローもどんどん手伝って、「人のデータ」を集めていったんです。
何百人、何千人のお客さまのパターンを覚えていくと、会った瞬間にその人のパーソナリティーが分かるようになりました。
そうすると無駄な会話ややりとりも減っていくので、どんどん切るスピードも早くなるし、どれだけお客さんが増えても仕事のクオリティーを維持することができたんです。
始めは目の前のお客さまを満足させるために始めたことが、結果的に俺の信条だった「速くて質の高いサービス」を実現させることになりました。
その時に「俺の仕事は、日本一の美容室に入ることでも、小手先のテクニックを磨くことでもなくて、目の前のお客さまを満足させることなんだ」と気付いたんです。
しかも、目の前のお客さまが「今までの美容室でここが一番良かった!」って思ってくれたら、その方が広告塔になって、周りの友だちが新しく来てくれるようになりますから。
そうやってお客さまが増えてくれた結果、俺は今1カ月で900人の髪を切っています。
たった一人、目の前のお客さまを満足させることが、実は日本一への一番の近道だったんですよね。
小手先のテクニックはいらない。とにかく周りの人を大事にしろ
よくうちの若手に「高木さんみたいになるにはどうすればいいですか」なんて聞かれたりするんですけど、俺はカット技術とかテクニックより「友だちを大事にする」、「関わった人たちを大切にする」ことが一番重要だって言っています。
さらに、できれば自分が好きな友だちだけじゃなくて、「こいつ気が合わないなぁ」とか「俺には分かんないなぁ」みたいな人にこそ、あえて近づいてみてみた方がいいと話しています。
例えば普段は接点がほとんどないアイドル好きな人と話してみると「そんなに1人の人に入り込めるくらい、熱い奴なんだな」って気付けるし、そういう人の考えってベクトルは違ってもすごく参考になるはず。
いつも同じ居酒屋で同じ仲間と話してるだけじゃ気付けなかったことが分かって、絶対に自分を成長させてくれると思うんですよね。
俺の場合は、その存在がお客さまでした。
たくさんの方に出会って、いろんな話を聞けたから、どんな人にも対応することができたし、自分の視野も広がったと思っているんです。
とはいえ、20代のうちにもっと遊んどけば良かったなと思うこともあります。
俺は未だにUSJも行ったことないし、クラブも合コンもほとんど行ったことがない。LINEスタンプの買い方も、Uber Eatsの使い方も分かんないんですよ(笑)。
20代の頃にいろんなところに遊びに行けていたら、もっとたくさんの出会いや発見があったのかなって思います。
多くのお客さまと話をして学ぶことはたくさんあったから、結果的には良かったんですけどね。
もしそうやって人と出会わないような仕事をしている人なら、20代のうちにできるだけ多くの人と関わった方がいいと思います。
成長、成功、というとどうしても自分のテクニックを磨きたくなりますけど、一番大事なのは目の前の人を大事にするっていう、超基本的なこと。
俺は20代で早いうちにそのことに気付けてよかったって、今改めて思っているんです。
〈取材・文=石川 香苗子/撮影=赤松洋太〉
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