ビジネスパーソンインタビュー

正解はこう導け。仕事を辞めたい人の悩みをキャリア支援バーのマスターに相談してきた

「給料上げろ」「退社時間早くしろ」なんて文句言ってない?

正解はこう導け。仕事を辞めたい人の悩みをキャリア支援バーのマスターに相談してきた

新R25編集部

2019/02/28

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「もう仕事辞めたい」

会社と家との往復を繰り返し、社内外の面倒な人間関係に振り回される毎日のなかで、ふとそんな思いが頭をよぎる瞬間はありませんか?

家で密かに転職サイト転職エージェントをチェックしている…なんて人もいるかもしれません。

とはいえ、大事なプロジェクトが進行しているなかでは「辞めたい」と軽々しく言えないし、甘えだと思われるのも嫌だし、自分の辞めたい理由が真っ当なのかもよくわからなかったりして、すぐには辞められないのも事実。

そこで今回は、人材業界では知らない人はいない(!?)キャリアに悩める学生や社会人のための駆け込みBAR「助家」を営む元リクルート・鈴木康弘さん「仕事辞めたい」と思ったあとに取るべき行動などについて、具体的なアドバイスをいただいてきました。

〈聞き手:ライター・松本紋芽〉

【鈴木康弘(すずき・やすひろ)】新卒で入社したリクルートエージェント(現リクルートキャリア)にてキャリア支援のスキルを磨いたのち、海外でベンチャー企業の立ち上げと取締役として経営と人事業務を経験。29歳で就活生がキャリア相談に集まるBAR「とこなつ家」を起業して独立(現在は店長に譲渡)。仕事に行き詰まった人、自分の人生を考え直したい人に寄り添う、コンサルティング機能を持った銀座の隠れ家BAR「助家」を経営しながら、キャリア関連の書籍を書いたり、人事系フリーランサーとしてマイペースに人助け活動中

現状を「数字」で把握できれば、“辞めたら終わり”とは思わなくなる

松本

今回はぜひ、プロの目線から「仕事辞めたい」と悩んでいる人が少しでも前向きになれるヒントを教えていただきたいです。

あまりこういった悩みに的確にアドバイスできる人っていないんですよ。

鈴木さん

あのね、正直なところ、すべてケースバイケースです! なのに、今の若者って万人に当てはまる「正解」を求めちゃうんですよね。

なので今回は、「正解」自体を伝えるのではなく、どのケースでも解決できるように「自分なりの正解を導く力」を中心にお話しようと思ってます。

というわけで乾杯〜!

なんてフランクなキャリア相談所なんだ

鈴木さん

さっそく始めますよ〜! まず前提として、「自分なりの正解を導く力」を向上させるためには、「現状」を正しく把握する必要があります。

というわけで、質問します!日本でオフィスワークをしている会社員は、人口の何%だと思いますか?

先生、見当もつきません

松本

考えたこともないですね。うーん…55%!

鈴木さん

答えはなんと10%です。さらに言うと、東証上場および、ハイパーベンチャー企業で働いているような人は全体の人口の2%。

松本

そんなに少ないんですか?

鈴木さん

そうなんだよ! それなのに「ほとんどの人が会社で働いている」って思っているから、それ以外の存在になったらダメな気がしない?

松本

思ってます。極端な話、「会社を辞めたら自分のキャリアは終わりなんじゃないか」って…

鈴木さん

それが、実は辞めても大丈夫なんだよね。単純に10%の生き方を出て、そうじゃない90%の生き方を選ぶだけのお話だから。

一方で、世の中の求人関連のメディアに流通している仕事の情報って、ほとんどが大活躍中の会社員の人たち、すなわち全体の2%くらいの人のお話がメインに流通している。

だから、「社会の55%が会社員だから、辞めたらヤバすぎる」って多くの人が間違って思い込んでいるわけです。

ものすごい勘違い!

鈴木さん

もう少し細かく見ると、日本の失業率は今、2.4%(2018年12月現在。参考:総務省統計局)。ということは、仮に今の仕事を辞めたところで次の仕事に就けない確率は2.4%しかない。

だから、辞めたって死んだりはしないし、97.6%の確率で次の仕事だってある、という見方もできるよね。こうやって現状を数字でしっかり把握すれば、ヘンに思いつめすぎなくて済みますよね!

Q1:新卒や2年目で辞めたら 「甘え」と言われてしまう?

松本

じゃあここからは具体的なケースで教えてください。

新卒1年目、2年目ぐらいだと「辞めたら『甘え』と言われるんじゃないか? 」「履歴書に傷がつく」と悩んでいる人が多そうです。

やはり一般的に言われている通り、最低でも3年は働いたほうがいいのでしょうか?

鈴木さん

「3年続けろ」とまでは言わないけど、新卒で入社してから1年以内に辞めることを2回連続では繰り返さないほうがいいかなぁ。

辞めグセがついちゃうし、2回やると「ブラック社員履歴」を作ったことになる。

松本

ブラック社員履歴…?

鈴木さん

採用して赤字のまま退社してしまった履歴のことです。

実は1年目の新人って、教育研修などにお金がかかるからほぼ儲けにはつながらない存在なんです。4年目以降も在籍して、ようやく会社にとってプラスになるぐらいが平均値。

切ない現実です

鈴木さん

ということは、1年目で辞めた人は採用した会社にとって経営上の損失を出しているんです。これを1回だけに止まらず2回以上連続してやっている人は、どれだけ優秀でも採用されにくいよね。

松本

「また辞めちゃうんだろうな」って思われますよね。

鈴木さん

たしかに、人間、間違いはあるし、就職も転職も失敗することはある。だから、どうしてもツラすぎる職場であれば1年目で辞めることを止めはしません。でも、次はちゃんと反省して考え抜いて仕事を選び、1年以上は続けてほしい。

これは、「何年やったら辞めてよし!」という決まった正解のあるお話ではなくて、雇われた会社に対して「利益」でちゃんと貢献をして一人前になってから辞めようね、ということです。

もし、1年もいたくなかったら、ほかでもやっていけるように実績を作ろう。それがないのに逃げ出したら、履歴書に何も書けなくなっちゃうし、今在籍している会社よりも良い会社からのオファーってなかなか来にくいから転職をしても損をする可能性が非常に高いです。

松本

でも、ツラいから逃げたいわけじゃないですか。それなのに実績を作るって…

鈴木さん

ツラいなら辞める期限をすぐ決めて、死ぬほどがんばったらいい。

僕も会社に入って1週間で「辞めたい」って思ったよ!どちらかといえば落ちこぼれ社員の部類でしたから。だから、2年目の春に「29歳で独立して自分のバーを開業しよう!」って決心して、キャリアアドバイザーの仕事をすんげぇがんばりました!

鈴木さん

そしたら1年後ぐらいに社内の部署では、業績1位になったんだよね。たった一度だけど(笑)。飲み屋になった今でもそのときに身に着けたキャリアの相談スキル、役立ってるでしょ?

もしも、24歳のあの時、負けたまま逃げるように辞めていたら、その後、会社役員になることも、独立してから9年間自分のお店を続けられることもなかったと思います。

松本

辞めることをゴールにして、必要なスキルと実績だけ作る…! 戦略的辞職、アリですね…!

Q2:休職を勧められたら、休んでいい? 迷惑にならない?

松本

ちなみに、会社によっては「辞めたい」って言ったときに休職を勧めてくる場合もありますけど、それに甘えるのはどうなんでしょうか…?

鈴木さん

辞めても、次が決まっていないことがストレスになることもある。だから、休職ができるならしたほうがいい。そのあと辞めることにしてもいいし。

松本

ただ、「自分が休んだら迷惑かかるし…」って悩む人もいそうです。

鈴木さん

ぶっちゃけ1人がいなくなったくらいでは会社は潰れないよ。それに、人手不足はあなたのせいではまったくなくて、社長と人事部長のせい。

1人が休んだだけで業務がまわせないなんて、人をうまく雇えてない証拠だよ!

松本

じゃあ自分だけで責任を背負いこむ必要ないんですね。

鈴木さん

ないない、絶対ない! 心身共にボロボロな状態になっているのに、休みを取ることを責める会社があったとしたら、きっとそこは働く社員の幸せよりもお金を儲ける事ばかりを考えている経営者の会社の可能性が高い。

お金がなくて残業代も出さず、夜遅くまで働かせて人を潰しながら利益を生もうとしてる。そんな会社潰れたほうがいいし、とっとと辞めたほうがいいね!

Q3:「やりたいことと違う」という理由なら辞めてもいい?

松本

「自分のやりたいこと」ってあるじゃないですか。それが今の仕事と合致していないから辞めたいという人も多いと思うんですけど…

鈴木さん

あのね、「楽しい仕事」なんてないよ!カラオケで歌う、おいしいご飯を食べる、スノボに行く。全部お金払ってるよね? 楽しいことは、お金を払わないとできないんだよ。

逆に、人がやりたくないこと、めんどくさいことをお金を払ってやってもらうことで社会が成り立っている。みんながやりたくないことの集合体が「仕事」なんですよ。

鈴木さん

だから外から見たら楽しそうかもしれないけど、どんな仕事もツラい瞬間はあるはず。その中からどのツラさを選び、自分でどう楽しさを見出すか? が大事なんです。

松本

そう言われると、なんとなくわかるかも…

ライターとして文章を整えるのってものすごく面倒だと思います。でも、まわりの人にちゃんと届いたらうれしい。それに、なぜかツラい作業も燃えるんですよね(笑)。

鈴木さん

いいね〜、大人だね!それが誰かにとっては「やりたくないこと」なんだよね。

面倒な仕事の中でも自分に合ったものを選ぶには、この3つの観点で見るのがおすすめ。

・発生する作業に耐性がある
・ほかの人より処理速度が速い
・顧客が喜ぶことに喜びを感じられる

鈴木さん

もし今の仕事がこのどれにも当てはまっていないんだとしたら、辞めて、キャリアを作り直すことを真剣に考えましょう。

向かないことを努力して克服することは大切だけど、向いていないことをいつまでも一生続けるのはツラすぎるじゃん?

自分がいるべき場所を見極めるために「縦・横・数字」の視点を持とう

松本

じゃあいざ辞めるとして、転職をどういうふうに進めたらいいのか悩んでいる人もいると思います。そういう人はどうすればいいですか?

鈴木さん

うーん。それは現役の人材会社の人たちがプロだからプロに聞いてください(笑)。

僕から何かお話をさせていただくとしたら目先の転職テクニックのことじゃなくて、

もっと先のことや、本質を考えられるようになってほしいな。そのために大事なのが、「縦・横・数字」の視点を持つこと!

松本

「縦・横・数字」って何ですか?

鈴木さん

「縦」は日本の経済史です。日本には、これまで歩んできた長い歴史があるよね。景気の変動もあるし、さまざまな産業がどうやって今に至っているのかをちゃんと知って未来を予測してください。

松本

残念ながら、まったくわかりません。

鈴木さん

そこは勉強してください(笑)!

はーい

鈴木さん

そして「横」は世界経済です。世界の景気変動で日本の経済も変わるから、普段からちゃんとニュースを見ておくこと。世界情勢を押さえておくことで、これからどんなことが起きるのか予測できるようになるんですよ。

松本

バラエティ番組と、朝の情報番組をだらだら見ている私には、やるべきことが多そうです(笑)。

では「数字」は何ですか?

鈴木さん

世の中の数字を正しく把握して、考えること。さっき、日本の人口の何%の人がオフィスワークをしているかっていう話をしましたよね。

その数字を間違って捉えている時点で、雇用のマーケットを正しく認識できていない。そもそものスタート地点がズレてる。

松本

スタートの時点で間違っていたら、すべて正しい方向にいかないってことですね。

鈴木さん

基本的にはこの「縦・横・数字」を意識すれば、全体の「構造」を見られるようになります。

ゲームを攻略するときも、そのゲームの構造を知ってから最短ルートを探るでしょ?

松本

ですね。いかにムダを省いてボスを倒すか考えます。

「ゼルダの伝説」をプレイしていた、幼少期の思考回路が浮かぶ

鈴木さん

そういうふうに、「構造」を見て行動を決めてほしい。

たとえば「構造」を見た結果、自分が携わっている産業が衰退しそう、もしくは衰退していることがわかったとするじゃん。その場合、そこにずっといてもお金は稼ぎにくいから、今後発展する産業に移ったほうがいいよね。

産業ごとの市場規模の伸び率も、求人の需給バランスの推移も、平均給与も、ネットで調べれば簡単に出てきます。ちゃんと数字を見て考えればある程度判断がつくようになるはず。

自分自身にとって最適なキャリアを自分で考えて判断できるようになるために、経済誌で勉強したり、情報を集めるたりするんです。

松本

歴史をふまえて先が予測できるようになれば「自分がどこにいるべきか」というキャリアプランが立てられるんですね。

「メタ認知」ができていなければ、会社に残っても転職しても失敗する

鈴木さん

みんな「給料上げろ」「退社時間早くしろ」「賞与はたくさんくれ」とかよく言ってるでしょ?

私の心の願望をすべて読んでいる…?

鈴木さん

でも、これはぜんぶ自分軸なだけで、「メタ認知(自分の思考などを客観的に捉えること)」できていないんですよ。

今の会社に残るにしても、辞めるにしても、まずは「メタ認知」をできるようにならないとダメなんです。

松本

どういうことですか?

鈴木さん

会社員って、会社と雇用関係を結んでいるよね。だから、会社がスポンサーで、会社員はそれに尽くして利益を生むことで給料がもらえている。

なのに、なんでお金をもらう側が自分の欲求ばっか考えてんの? …おかしくない?

松本

すごいグサッときたんですけど(笑)。

鈴木さん

そうでしょ?給料を出すスポンサー側の立場に立って、どう貢献できるのか考えましょうよ。それができなければ、望むような待遇は得られません。

松本

でも貢献って…たとえばどういうことでしょう?

鈴木さん

実はその方法って、2つしかない。ひとつは売上を増やすこと。もうひとつは経費を下げること。どちらかで貢献しないと、会社に給料を交渉する権利はありません。

松本

なるほど…

鈴木さん

逆に言えば「私はこうやって売上を増やせます」「こう経費を抑えられます」って言えれば転職もうまくいく。

そして「いろんな会社を見たときに、この会社だったら一番売上を上げられると思いました」ってところまで言えたらいいね。

松本

会社に注文つけたがっていた自分が恥ずかしいです…

でも、売上を増やすことは簡単じゃないですよね。何かヒントありませんか?

鈴木さん

たとえば、人と接する仕事である接客業や営業職だったら「自分のことを好きになってくれる人」の種類ってあるはずなんだよね。そこをターゲットにできる仕事なら売り上げが立ちやすいと思います。

僕のキャラクターだったら、おじいちゃんおばあちゃんより、会社役員やバリバリ働く若手のビジネスマンを相手にしたほうウケがいい! ハッキリものを言いますからね。

たしかに、好き嫌いは分かれます。でも、全員に好かれる人なんていないし、好かれる必要もない。自分と相性の良いお客様をお相手にする仕事を選ぶと成果を出しやすいということです。

松本

自己分析をして、ターゲットを明確にするのが大事なんですね。

では、経費を抑えるにはどうしたらいいんですか?

鈴木さん

たとえば、会計士になって支払う税金を少なくするとか、エンジニアになって業務効率化をして人件費を下げるとか…。専門知識が求められるケースが非常に多いです。それができないんだったら…

売上で会社の利益に貢献しましょう。

鈴木さん

だから、会社に不満を持ったり、キャリアプランに悩んだりするヒマがあったら、自分が誰の幸せに貢献できて、何をすればより多く売り上げを立てられるようになるのかを考えてほしい。

大抵の会社は、自分が出した利益の15%から25%くらいはお給料がもらえるようにできています。それが雇用のシステムの原理原則です。

雇う側の会社の視点、お客様側の視点も鑑みずに、自分軸だけで「自分は何をやりたいか」を考えている限り、望む環境が得られなくて何度でも転職を失敗しますよ。

ゲームの構造を理解して、ゲームの攻略方法を考えましょう!

松本

そういうことなんですね。

いや〜、鈴木さんの話は本当におもしろいな〜!見た目と違って、中身はインテリジェンス(笑)。

鈴木さん

ありがとう!みんな幸せになってほしいです!そんだけ!

今回触れたのは一例だけど、「仕事辞めたい」と思う人の状況はそれぞれ違います。ネットに落ちている記事や診断だけでは一概に「こうしたほうが良い」なんて確実な正解はないんですよ。

だから、みんなが自分で自分自身のキャリアに関して考え、「この仕事をがんばってやろう!」という意思を決められるようになってくれたら一番うれしいです。

鈴木さん

それでも、行き詰まるときは必ずあるので、1人で抱え込んでモヤモヤするくらいなら、ぜひ誰かに相談してみてください。僕のキャリア相談はドリンク代のワンコインのみでやっています。

…ただし、小さなお店で席の数が8席しかないので…お店の場所はナイショです(笑)。

ご縁があれば、きっと銀座の街のどこかで会えると思いますから、ぜひ探してみてください!

ジョークを挟みながらも、すべての働く人の幸せを願う鈴木さん。

キャリアについて考えるときは「自分なりの正解を導く力」を伸ばすために、「縦・横・数字」で物事を捉える力を養う必要があること。そして、会社員も転職中の人も、採用をする側の経営者の目線を持つことで、自分のキャリアがうまくいきやすいことを教えてもらいました。

ただ、心が病気になっていても続けるべき仕事はありません。

鈴木さんの言葉をヒントに、改めてこれから起こすべき行動について考えてみてください。

幸せになるために、働こう。

〈取材・文=松本紋芽(@Sta_iM)/編集・撮影=いしかわゆき(@milkprincess17)〉

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