ビジネスパーソンインタビュー

指導のキモは「何を教えないか」。“自分で考えて動く部下”の育て方

篠原信著『上司1年生の教科書』より

指導のキモは「何を教えないか」。“自分で考えて動く部下”の育て方

新R25編集部

2019/07/30

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入社年次が上がるにつれて増えてくるのが「後輩への指導」。

後輩との上手い接し方がわからない」「部下が自分から動いてくれないから、結局疲れる」といった悩みは、先輩になったばかりの人に共通するあるあるです。

その悩み対して、「関わり方を間違えると、後輩を『指示待ち人間』にしてしまう可能性がある」と答えるのは農業研究者・篠原信(まこと)さん

篠原さんは「私の周りには、『指示待ち人間』が一人もいない」と言います。

自身が考えた人材育成方法をツイッターに投稿したところ、大きな反響を呼んだことで書籍化。

著書『上司1年生の教科書』から、後輩や部下の育て方に悩む人向けに、2本の記事をお届けします。

「指示待ち人間」はなぜ生まれるのか?

私の身のまわりには、いわゆる「指示待ち人間」が一人もいない。

不思議なことに優秀な人の周りに限って指示待ち人間がいたりする。

それはなぜなのか、考えてみた。

じつは、私のところに来たばかりの頃だと「指示待ち人間」候補と思われる人もいた。

初めから指示を待つ姿勢なのだ。

もし私がテキパキ指示を出していたら立派な指示待ち人間に育っていただろう。

しかしどうしたわけか、自分の頭で考えて動く人間に必ず変わった。

なんでだろう?

私の場合、指示を求められた時に「どうしたらいいと思います?」と反問するのが常。

私は粗忽(そこつ)できちんとした指示を出す自信がないので、相手の意見も聞くようにしている。

最初、指示待ちの姿勢の人はこの反問に戸惑う人が多い。

しかし私は引き下がらず、意見を求める。

「いや、私もどうしたらいいか分からないんですよ。でも何かしなきゃいけないから考えるきっかけがほしいんですけど、何か気づいたことあります?」と、なんでもいいから口にしてくれたらありがたい、という形で意見を求める。

そうするとおずおずと意見を口にしてくれる。

「あ、なるほどね、その視点はなかったなあ」

「今の意見を聞いて気づいたけど、こういうことにも注意が必要ですかね」

と、意見を聞いたことがプラスになったことをきちんと伝えるようにし、さらに意見を促す。

そうすると、だんだんとおずおずしたところがなくなり、意見を言うようになってくれる。

もちろん、私の希望とはズレた、的外れな意見も出てくることがある。

でもそれもむやみには否定せず、「なるほどね。ただ今回は、こういう仕事を優先したいと思っているんですよ。その方向で考えた場合、何か別の意見がありませんかね?」と言い、私が何を希望しているのか、伝えるようにしている。

こういうやりとりを繰り返しているうち、私が何を考え、何を希望しているのかを、スタッフや学生は想像できるようになってくるらしい。

そのうち「出張でいらっしゃらなかったのでこちらでこう処理しておきましたが、それでよかったでしょうか?」という確認がなされる。

大概ばっちり。

たまに私の考えとはズレた処理の場合もある。

しかしその場合でも「私の指示があいまいだったので仕方ないです。私の責任ですので、気にしないでください。ただ、じつはこう考えているので、次からそのように処理してもらえますか」と答えておく。

そうして、考えのズレを修正していく

まとめると次のステップになる。

私の考えを折に触れて伝える

後は自分で考えて行動してもらう

失敗(=私の考えとズレた処理)があっても「しょーがない」とし、改めて私の考えを伝えて、次回から軌道修正してもらう

『上司1年生の教科書』

この3つの注意点を繰り返すだけで、私の考えを忖度(そんたく)しながらも、自分の頭で考える人ばかりになる。

これに対し「指示待ち人間ばかり」とお嘆きの優秀な方は、少々違う対応をスタッフにとっているらしい。

特に3つめの「失敗」に対する対応にシビア。

「あの時きちんと指示しただろう!なんで指示通りやらないんだ!そもそも少し頭で考えたら、そんなことをするのがダメなことくらい分かるだろう!」

こういうことがあると、スタッフは叱られることにすっかり怯えてしまう。

そこで叱られないように、自分の頭で考えることを一切やめ、すべて指示通りに動こうとする

「指示通りにやっていない」ことを再度叱られないで済むように、「そんなことくらい自分の頭で判断しろよ」という細かいことにまで指示を仰ぐようになってしまう。

だから、 優秀な人は「指示ばかり求めて自分の頭で考えようとしない」と不満を持つようになる。

でも多分、「指示待ち人間」は自分の頭で考えられないのではない。

自分の頭で考えて行動したことが、上司の気に入らない結果になって叱られることがあんまり多いものだから、全部指示してもらうことに決めただけなのだ。

指示というのは本来、あいまいにならざるを得ない。

例えば「机の上ふいといて」と指示を出したとしても、どの布巾(ふきん)でふくべきか、布巾がそもそもどこにあるのか、ということすらあいまいなことが多い。

仕方がないので自分の判断で「これかな?」という布巾を見つけ、それでふいたとする。

その後の顛末(てんまつ)で多分、違いが出る。

「なんで新品の布巾でふくんだよ、ちょっと探せばここにあることくらい分かるだろう、なんてもったいないことをするんだ」と言えば萎縮して、今度から布巾はどれを使えばよいのか、どこにあるのか、細かいことまで指示を仰ぐようになる。

こういう対応だと違ってくる。

「きれいにしてくれてありがとうございます。ん?新品の布巾を使ってよかったかって?ああ、いいですよそんなの。どこにあるか私も言っていなかったし。今度から布巾はここに置くようにしてくれればいいです」

自分の判断で動いても構わない、という経験をしてもらう。

「指示」にはどうしてもあいまいさが残り、部下が自分で判断して行動せざるを得ないもの。

そしてその結果を、ビシビシ「違う!」と怒ってしまうか、「そもそも指示があいまいですもん、ちゃんとできるほうがビックリ。やってくれただけでありがたい」と感謝するか。

そこが大きな分かれ道になる。

優秀な上司だと部下が指示待ちになり、私のような融通の利かない不器用者だとスタッフが私より優秀になるという皮肉。

しかし優秀な方は、私のやり方を即座にまねることもできるはず。

そうすれば優秀なリーダーに優秀な部下。

もう鬼に金棒。

自分の頭で考えるスタッフになってもらうには、失敗を許容するゆとりを持ち、むしろ自分の頭で考えて失敗するリスクを採った勇気をたたえること。

失敗に対してゆとりある態度を持てる社会になれば、指示待ち人間は、もしかしたらビックリするほど少なくなるのかもしれない。

人はみな、最初から優秀なのではない、失敗を繰り返しながら能力を育てていくのだ、と考えたほうがよいのかもしれない。

部下に答えを教えるなかれ

上司は部下に懇切丁寧に仕事を教えなければいけないと考えている人がいる。

しかし、あまりに丁寧に教えすぎると、仕事への情熱を奪い、「指示待ち人間」を生んでしまう。

上司の仕事は、部下の意欲を引き出すことである。

でもどうやって?

私自身がやらかしつづけたことでもあるので反省の弁を述べながらということになるが、 まず「教えすぎると情熱を奪う」ということが起きるので注意が必要だ。

部下が仕事に熱意を持ち、注意力を高め、初歩的なミスがどんどん減っていくように指導するにはむしろ、「何を教えないか」を意識したほうがよい。

人間は不思議なもので、丁寧に教えてくれる人がそばにいると考えなくなる。

「自分が考えなくてもこの人が考えてくれるから、まあいいや」というサボリスイッチが入るらしい。

思考のアウトソーシング(外注)」をやらかしてしまうのだ。

この現象を端的に示した言葉に「おばあちゃん子は三文安い」というのがある。

これは孫がかわいくて仕方のないおばあちゃんが、いくつになっても口までご飯を運んで食べさせてあげんばかりに世話をするので、やがて自分一人では何もできない人物に育ってしまう、という、レアではあるが昔から起きてしまいがちな現象を指す言葉だ。

もちろん、おばあちゃんに育てられたからといって、みんなこうなるわけではない。

ただ、ネコかわいがりしすぎて育てると、そうなってしまうことがあるようだ。

思い起こしてみよう。

誰に聞いたらよいか分からない手探り状態だったのに、自分一人の力でなんとか課題を克服する方法を見つけたとき。

あなたは心の中で、とても誇らしい気持ちになったのではないだろうか。

この感覚を自己効力感と呼ぶそうだ。

自分でも何事かをなし得た、というこの感覚は、教育心理学の言葉として成立するくらい、重要な概念だ。

何事かを自分の力で成し遂げることができた。

そんな自己効力感が得られた時、人は自信を持つことができる。

そして、もっといろいろなことにチャレンジしようという熱意が湧く。

ところが先回りして教えてしまうと、この自己効力感を味わえないで終わってしまう。

「そうすると失敗してしまうよ。こうしたほうがいいよ」。

先回りして丁寧に教えてもらえてありがたいけれど、自分自身の力で答えを見つけ出すという快感を味わえないで終わってしまう。

仕事がつまらなくなってしまう。

そうして、指示待ち人間になってしまう。

自分が味わったような苦労はさせまい、と親切心で教えようとしたことがアダになるのは残念なことだ。

しかし、あなた自身も、次のことは分かっているはず。

苦労は必ずしも苦い思いばかりではなかった、ということだ。

「できない」ことが「できる」に変わった瞬間、あなたは強い達成感を覚えたはずだ。

その達成感、自己効力感を、部下にいかに味わってもらうか、ということに考え方をシフトさせてみよう。

「答えを教える」よりも、「できるようになった快感」をどうやって強めるかを意識してみよう。

部下が自然と育つマネジメント法を学ぼう

農業研究者として、作物だけでなく、部下の育て方にも精通していた篠原さん。

上司1年生の教科書』にはほかにも、「部下を叱るときの注意点」「部下を評価する基準」など、部下に「教えない」育成法を紹介しています。

自分の力ではなく、みんなの力でチームを動かすために必要なスキルを身につけましょう!

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