ビジネスパーソンインタビュー
座って休憩するのもNG!?
すぐ復習するのはNG!? 8つの「ダメな勉強法」とその解決策をベストセラー医師が解説!
新R25編集部
キャリアアップを目指して資格やTOEICの勉強を始めたものの、いまいち効率が上がらない…と悩んだ経験はありませんか?
ついダラけてしまったり、何度も同じ箇所を繰り返し勉強するもののなかなか覚えられなかったり…もしかして学生のころのほうが勉強できたのでは!?
でも勉強の効率が悪いのは、何気なくやってしまってる「ダメな勉強法」が原因かも。「ダメな勉強法」とその改善策について、『アウトプット大全』などのベストセラーを生み出している精神科医の樺沢紫苑先生に教えていただきました!
〈聞き手=森伽織〉
【樺沢紫苑(かばさわ・しおん)】精神科医、作家。1991年、札幌医科大学医学部卒。インターネットを駆使し、累計40万人以上に、精神医学や心理学、脳科学の知識をわかりやすく発信している。「メルマガ、毎日発行13年」「Facebook、毎日更新8年」「YouTube、毎日更新5年」「毎日3時間以上の執筆11年」「年2~3冊の出版、10年連続」「新作セミナー、毎月2回以上9年連続」など、日本一情報発信している医師としてアウトプット術を公開した『アウトプット大全』(サンクチュアリ出版)は40万部突破のベストセラーに
ダメな勉強法① やる気が出るまで待つ
森
今回は、ついやってしまいがちな「ダメな勉強法」を教えてもらいたいのですが…勉強法を工夫する以前に、そもそもやる気が出ない日が多くて困ってます。
樺沢さん
やる気をつかさどっているのは、脳の「側坐核(そくざかく)」という部分。
ここを刺激すれば、意欲を湧かせる神経伝達物質「ドーパミン」が放出されてやる気が起きます。
森
では、その側坐核を刺激する方法を教えてください!
樺沢さん
とにかく作業を始めましょう。
森
やる気がないのに…?
樺沢さん
側坐核は手足を動かすなどの運動、あるいは多少でも脳を働かせることなどで刺激されます。つまり、やりはじめないとやる気は起こらないんですよ。
問題を1問解く、教科書を1ページ読む、といった簡単なことでいい。はじめは嫌々でも、少しやればやる気が湧いてきますよ!
森
めんどくさいと思ってたことでも、やりはじめたら調子が出てきた…なんてことがよくあるのは、そういう理由だったんですね!
ダメな勉強法② 長時間ぶっつづけで勉強する
森
受験勉強をしていたころを思い返すと、一度スイッチが入ったら何時間もぶっつづけで勉強してた経験があるんですが、効率的にはどうなんでしょう?
樺沢さん
休憩を挟まずに長時間勉強するのは非効率ですよ。
具体的には40分を境に集中力は下がる一方、15分ごとに軽い休憩を挟むと、一定の集中力が維持できるという実験結果があります。(※1)
森
えっ、休憩を入れるサイクルが短い…!
樺沢さん
東京大学の池谷裕二教授がベネッセコーポレーション協力のもと、中学生を対象に勉強時間に関する実験をおこないました。
この実験では、1時間ずっと英単語を勉強した「60分学習」グループよりも、休憩を挟みながら勉強した「15分×3(計45分)学習」グループのほうが集中力を維持でき、翌日のテストで高い点数を得られたという結果が出ています。
さらに1週間後には、そのテストの差が広がりました。勉強の合計時間は「15分×3(計45分)学習」のほうが少ないにもかかわらず、ですよ。
森
なるほど。こまめに休憩を挟んだほうが、集中力も記憶力も、よりよいパフォーマンスを発揮できるんですね。
樺沢さん
ただ、どれくらいの時間を1サイクルにするかは、作業内容によって調整したほうがいいでしょう。
集中力の持続単位は、15分・45分・90分なので、単純な暗記なら15分、文章を書くなど集中力を要する作業は、45分か90分おきに休憩を挟むといいでしょう。
ダメな勉強法③ 休憩中は座ってゆっくり休む
樺沢さん
森さんは、休憩中どんなふうに過ごしていますか?
森
休憩中ですか? スマホでLINEを返したり、Twitterを眺めたりしていますが…
樺沢さん
それはもったいない。休憩中は軽い運動をしましょう。
森
運動ですか!? 休憩なのに…
樺沢さん
体を動かすと血流がよくなるので、きちんと脳に血液がいきわたり、集中力が高くなります。
また、記憶力にも効果があります。筑波大学の研究(※2)によると、10分間の低強度の運動(ゆっくり歩く、ヨガ、太極拳など)によって記憶力が高まることがわかりました。
森
運動が記憶力アップにもつながるんですか!
樺沢さん
会社でできる運動としては階段の上り下り。スペースをとらないスクワットなどで効果が出るでしょう。取り入れやすい形でやってみてください。
ダメな勉強法④ 1日中同じ場所で勉強する
森
私は、今日は勉強するぞ!と決めた日は、1日家にこもっていることが多いのですが、勉強に向いている場所ってあるんですか?
樺沢さん
記憶力をアップさせるためには、特定の場所にいつづけるのではなく、数時間ごとに移動するのがおすすめです。
ミシガン大学の研究者らがおこなった実験(※3)では、学生に10分×2回の学習時間を数時間あけて与えた場合、1回ごとに勉強する部屋を変えた学生は、そのほかの学生よりテストの正当率が40%以上高かったという結果が出ています。
森
それはすごい! 移動することが、記憶力とどう関係しているんですか?
樺沢さん
場所を変えると、記憶をつかさどる海馬にある「場所ニューロン」が活性化し、記憶力がよくなるのです。
なのでカフェ、会議室や図書館、公園、自分の家など、場所を転々としながら勉強すると、この効果をうまく利用できますよ。場所を移動するたびに、運動がはさまりますので、さらに脳は活性化します。
外出が難しければ、書斎、リビング、応接間など、家の中を移動するのでもいいですね。
ダメな勉強法⑤ 勉強した内容をすぐに復習する
樺沢さん
新しいことを覚えたら、復習をするタイミングも重要です。
森
復習って、すぐにすればいいものじゃないんですか?
樺沢さん
いえ、効率のいい復習のタイミングは実験によって導き出されています。
アメリカの研究グループが2008年に発表した論文(※4)によると、「勉強をしてから復習するまでの期間:復習をしてから試験までの期間」を「1:5」程度に設定した場合、最もテストの得点が高くなるという結果が出たんです。
なので、本番が1カ月後なら5日後に復習するのがベストです。5日対:25日(1:5)となるからです。
森
復習のタイミングって、そんなに重要だったんですね! ちなみにタイミングさえおさえれば、復習は1回すれば十分ですか?
樺沢さん
きちんと定着させるには、5回やるといいでしょう。5回以上やっても記憶の定着率はあまり変わらないことが実験(※5)でわかっています。
森
は、残り4回の復習は、いつやるのがいいですか?
樺沢さん
1回目の復習日は「1:5の法則」で設定し、2回目以降の復習日は、そこから試験日まで均等な間隔で配置すればOKです。(※6)
ダメな勉強法⑥ 徹夜で朝まで勉強する
樺沢さん
よく知られている話ですが、「徹夜の勉強」も効率が悪いのでやめましょう。
記憶は睡眠をはさむことで定着しやすくなります。実際に、運動技能に関する実験では、新しいスキルを身につけてから一晩睡眠をはさんで12時間後にテストを受けた場合、テスト結果が20.5%向上したという結果が出ています。
同実験で、学習からテストまで何もせず4時間を過ごしただけの場合は、テスト結果に3.9%の向上しか見られませんでした。(※7)
ただ起きているよりも、一旦、寝たほうが記憶の定着率はよくなるのです。
森
なるほど。寝るのは長時間であることが必須なんでしょうか。昼寝でも記憶定着効果はありますか?
樺沢さん
記憶の定着に6時間以上の睡眠が必要とされますが、どうしてもとれない場合は、昼寝でも同様の効果が期待できます。
カリフォルニア大学のサラ・メドニック氏の研究(※8)によると、昼寝と夜間の睡眠効果を比較したところ、1時間半の昼寝は、1晩分の睡眠に等しい効果を示したそうです。
森
それはすごい! でも1時間半か…けっこう昼寝しないとダメなんですね。
樺沢さん
15分~30分でも効果が見られた実験も多数あります。なので、短くてもいいので昼寝を取り入れるのがおすすめです。
ダメな勉強法⑦ 学習済みの範囲だけテストする
森
覚えた箇所に関する練習問題を解くことってありますよね。あれの効果をよりよくすることって可能ですか?
樺沢さん
初めて取り組む領域でも、覚える前に「事前テスト」に取り組むことも有効だとされてます。(※9)
森
知らない問題なんて解けるわけないのに、意味があるんですか?
樺沢さん
はい、解答は間違っていても、事前にテストを受けることで長期的な記憶保持を促進する「プレテスト効果」が発揮されます。
森
間違えてもいいんですね…!
樺沢さん
ただし、できないからといってはじめから諦めるのではなく、問題を解こうと真剣に考える過程が必要ですよ。
解答を推測してからだと、あとで勉強をする際に「覚えたい」という意識がより強く働くんです。
森
理屈を聞くと、納得感ありますね。
ダメな勉強法⑧ 問題集を解くよりも暗記に時間をかける
樺沢さん
本を読むだけで満足して、インプットとアウトプットのバランスが悪いケースも多いので気をつけてください。
森
それって、正しいバランスがあるんですか?
樺沢さん
はい。インプット3割、アウトプット7割が理想の比率です。
樺沢さん
コロンビア大学の心理学者アーサー・ゲイツ博士が子どもたちを対象に、人物プロフィールを暗唱させる実験(※10)をおこないました。
そのなかで、与えられた9分間のうち約30%の時間をインプットに費やし、残りをアウトプットに費やしたグループが高得点を獲れたという結果が出ています。
森
つまりだいたいの人はインプットに時間を割きがちなので、実践的な問題集を解いたりすることに、もっと時間を割くべきだと。
樺沢さん
そうですね。脳は「短期記憶」として取り込んだもののなかから、残しておくべきだと判断したものだけを、「長期記憶」として保管します。
脳が長く残しておくべきだと判断するのは、それだけ重要だと認識したもの。つまりアウトプットを重ねることで、脳に「これはよく使う情報だ」と認識させれば、長期記憶の“倉庫”に入るんです!
森
なるほど! アウトプットのなかでも、特に効率のいい方法ってありますか?
樺沢さん
アウトプットは、「手で書く」ことが重要。たとえば、パソコンに打ち込むよりも手書きで記録したほうがよく内容を覚えられるという実験結果が出ています。(※11)
問題集を解くにしても、頭のなかで回答せずノートに答えを書き出しましょう。電車内など筆記用具を広げるのが難しい状況であれば、指で手のひらに書いてもOKですよ。
「人に教える」と思い込むだけでも学習効率アップ
樺沢さん
また、人に教えるのも良いアウトプットです。
森
なぜですか?
樺沢さん
人に教えるには、学習内容を完全に再現できる状態になっていないといけません。教える過程は、いわば自分自身の理解度をテストしている状態です。
森
でも身近に教える人がいないケースも多い気が…
樺沢さん
その点についてはご心配いりません。「教えなきゃいけない」と思ってるだけでも学習効率は上がります。
森
え!?
樺沢さん
ジョン・ネストイコ博士の研究(※12)によると、「あとでテストする」と伝えて勉強させたグループと、「あとで別の人に教えなければならない」と伝えて勉強させたグループにテストを受けさせたところ、後者のほうがいい結果を出したそうなんですよ。
勉強に対する姿勢によって、学習効率に差が出るということですね。
森
「この内容を誰かに教えるぞ」と意識するだけでも、学習の効果が上がるんですね。そんな方法でも効率化できるとは…! 盲点でした。
やはり脳の仕組みをうまく利用できていないと、効率の悪い「ダメな勉強法」になってしまうみたい。
いっぺんに取り入れるのは大変なので、まずは簡単なことから…ということで、休憩中はスマホをいじらず体を動かすようにしてみたいと思います!
〈取材・文=森伽織(@orca_tweet1)/撮影・編集=葛上洋平(@s1greg0k0t1)〉
参考文献
※1 Yuji Ikegaya,et al.「Synfire Chains and Cortical Songs: Temporal Modules of Cortical Activity」(2004)
※2 Kazuya Suwabe,et al. 「Rapid stimulation of human dentate gyrus function with acute mild exercise.」(2017)
※3 StevenM.Smith, ArthurGlenberg, RobertA.Bjork「Environmental context and human memory」(1978)
※4 Cepeda NJ,et al. 「Spacing effects in learning: a temporal ridgeline of optimal retention」(2008)
※5 Karpicke JD,Roediger HL 3rd.「The critical importance of retrieval for learning」(2008)
※6 Karpicke JD,Roediger HL 3rd.「Expanding retrieval practice promotes short-term retention, but equally spaced retrieval enhances long-term retention」(2007)
※7 Walker MP,et al. 「Practice with sleep makes perfect: sleep-dependent motor skill learning」(2002)
※8 Mednick S,Nakayama K,Stickgold R.「Sleep-dependent learning: a nap is as good as a night」(2003)
※9 田中 紗枝子,宮谷 真人「事前テストにおける誤答と記憶定着」(2015)
※10 Karpicke JD, Roediger III HL 「The Critical Importance of Retrieval for Learning」(2008)
※11 Pam A. Mueller,Daniel M. Oppenheimer「Corrigendum: The Pen Is Mightier Than the Keyboard: Advantages of Longhand Over Laptop Note Taking」(2014)
※12 Nestojko JF,et al.「Expecting to teach enhances learning and organization of knowledge in free recall of text passages」(2014)
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