ビジネスパーソンインタビュー

相撲界に根付く過度な“かわいがり”文化。元幕内力士と解決の糸口を探る

心身の強化や社会性を身につけるためには必要?

相撲界に根付く過度な“かわいがり”文化。元幕内力士と解決の糸口を探る

新R25編集部

2017/12/26

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元横綱・日馬富士の暴力事件で再び注目されている相撲界の“かわいがり”。シゴキの一種とはいえこのご時勢では“悪習”とみなされ、相撲界でも見直しを求める動きがある。

今回の事件が“かわいがり”の延長だったのかは定かではないが、いまだ相撲界にその習慣が残っていることは間違いない。問題視される“かわいがり”がなくならないのには、どういった理由があるのだろう

“かわいがり”が暴力とみなされるようになったのは、2007年の「力士暴行死亡事件」がきっかけ

ロイター/アフロ

※写真はイメージです

“かわいがり”が“暴力”とみなされたきっかけになった事件がある。2007年に起こった「力士暴行死亡事件」だ。

「07年名古屋場所前、犬山市の時津風部屋宿舎で時津風親方(元小結双津竜)が厳しさなどで脱走した17歳の序ノ口力士の額をビール瓶で殴った上、力士数人に“かわいがり”を指示。金属バットなども使った暴行で死亡させた。同親方と兄弟子3人が傷害及び傷害致死などの容疑で逮捕。同親方は相撲協会を解雇され、実刑判決を受けた」

https://www.nikkansports.com/battle/sumo/news/201711150000220.html

当時の時津風親方は、行き過ぎた稽古としての“かわいがり”を否定したものの、のちにビール瓶で殴ったことを認めた。このころから、世間に“かわいがり=暴力”といった悪いイメージが浸透した。

さらに最近では、“かわいがり”は稽古だけでなく、上(兄弟子)から下(弟弟子)への“しつけ”のための教育的体罰として拡大解釈されている現状もある。モンゴル出身の元小結・旭鷲山は、『スッキリ』(日本テレビ系)に出演した際、日馬富士から貴ノ岩への暴行について「兄貴、かわいがりなんですよ」と、酒席にいた横綱・白鵬が説明したと語っていた。

一方で、タレントのビートたけしは、「お相撲さんは稽古だか、いじめてるのかわからないときあるからね」と、“かわいがり”と呼ばれるぶつかり稽古の厳しさと迫力について、自身がキャスターを務める『新・情報7daysニュースキャスター』(TBS系)のなかで述べている。

「憂鬱な“かわいがり”が強くなっている実感に。土俵の外の指導は社会に出てからも役立った」

本来は強い力士を育てるためのぶつかり稽古を意味する“かわいがり”。まだ知られていないことも多い相撲界のことなので、元幕内力士の大至伸行氏にくわしく話を聞いてみることに。

新R25編集部撮影

「本当の“かわいがり”とは、土俵の中で1人に集中してその力士を強くするために胸を出す“ぶつかり稽古”のことなんです。これは1分もやれば本当にヘトヘトになるくらいハードで、それを30分以上やるんです。

こうした本来の意味での“かわいがり”があったからこそ、僕らは強くなれた。当たって押しての繰り返しを限界の限界まで続けるなかで、愛のムチとしての竹刀が飛んできたり。いまはそれがないから、骨っぷしが弱かったり、身体が締まっていない力士が増えてきているように感じますね」

大至さんは当時、“かわいがり”をどう思っていたのでしょうか?

「そんなハードさなので、ぶつかり稽古が近づいてくると『嫌だな』という思いしかなかったですが、その思いが毎日積み重なると自分が強くなっていく実感に変わってくるんです。

だからこそ、僕は厳しいぶつかり稽古は必要だと思うんです。だけど、世間からは暴力としてしかみられていない。『かわいがり=暴力』ではなく、あくまで強くなるための“稽古の一環”なんです」

ロイター/アフロ

※写真はイメージです

なるほど。ちなみに、“かわいがり”を含む先輩力士からの厳しい指導は土俵の外におよぶことも?

「ここまで(指導)しなきゃいけないという基準は特にないんです。だけど土俵の外でも、たとえば関取についてお客さんと一緒の宴席に同席していれば、相手のグラスが空になったらお酒を注ぐとか、トイレから戻ってこられたらおしぼりを渡すとか、座る位置とか、食べ方とか、そういった気遣いやマナーは自然と身につくもの。

相手に喜ばれることをすることによって、『ああ、この関取は(後輩力士に)こんな教育をしているのか』と結果的に先輩を立てることにもなるんです。関取からも自分に気を遣うより、相手に気を遣うんだよと厳しく教えられました」

そういった指導が役立ったと実感できることはありましたか?

「当時はなぜ気遣う相手がお客さんなんだ?と思いましたが、この経験は一般社会に出たあとにも非常に役に立ちました。だから、自分も若い衆には相手への気遣いについては同じように指導しましたね。しかし、こうした指導がおざなりになってきているから、最近は社会人としてのマナーやルールが守れない若者が増えているように思います。

それに、“相手の気持ちを読む”という土俵の外でのこうした学びは、相撲の立会いでもすごく役立つ。対戦相手はいまどう思っているのか、どういう手でくるのか、勝負の駆け引きをするうえでも大切なことなんです」

“かわいがり”がなくならないのは、「体罰なしでは指導できるわけがないと思っている」から?

心身の鍛錬のため、また社会性を身につけるために適切な範囲での厳しい指導が必要なことは、僕ら社会人にもわかる。けれど、やはり相撲界でいまだにチラつく度を越した“かわいがり”には疑問の声も多い。

魔界(?)きっての相撲通として、NHKの相撲解説まで務めてしまうロックミュージシャンのデーモン閣下は、2007年の死亡事件以降、“かわいがり”をなくす意思を示したはずの日本相撲協会自体に対し、「多少の体罰なしでは指導できるわけないんじゃないかと思っている。750人いる相撲協会の人のうち740人ぐらいまでそう思ってる」と、『ひるおび』(TBS系)出演の際に指摘した。

2017年12月6日付の『日本経済新聞』のコラムでは、「結局、相撲はスポーツというよりも、日本人が大切にしたい文化」だと指摘。“かわいがり”を含めた上下関係、封建社会の構築が相撲文化には必要という考えは想像以上に根深く残っていそうだ。

過度の“かわいがり”に頼らない指導のためには、部屋の垣根を超えたコミュニケーションが必要

甘くしすぎると身体的にも精神的にも“強さ”がなくなる。でも、過度な“かわいがり”は暴力につながる。これはどのように解決していけばいいのだろう?

デーモン閣下は、『withnews』の取材に対し、“暴力なしでの育成方法の確立”方法として「どうやったらすべての部屋が体罰や暴力なしで後進の育成をしていくかのメソッドを確立して、みんなで情報共有をしていかないといけない」と提言している。

まずは、「こうしたらうまくいった」「こうしたらどうだろう」といった情報や意見をオープンに共有し合うことが“暴力に依らない指導”への第一歩という意見だ。

また、今回取材した大至氏も、部屋の垣根を越えたコミュニケーションの必要性を次のように語っている。

「ほかの部屋の力士たちと交流を持つことはすごくいいこと。ほかの部屋の力士と稽古することもそうですし、食事をしたりするなかでも相撲について語り合う。そうしたコミュニケーションのなかで、この人はこんな考え方をもっている、あの部屋はこんな稽古をしているなど、人の考え方や相撲界の状況を把握し、学ぶ機会になりますから。

指導の強度は、親方の方針でも違いますし、部屋に集まってくる弟子の気性にもよります。『ここの部屋の先輩たちはみんな怖いなぁ』というのもありましたよ。自分たちは先輩から殴られて厳しい指導を受けてきたけれど、下の若い衆にそれをそのままやるのではなく、個々人を見てこれはやろう、ここまではやめておこうと、切り分けをしながら指導していこうと(関取同士で)話すこともすごく大切なこと。

いまはそうした関取同士、親方同士のコミュニケーションがないことが、指導の “加減”を知らないままに育ったいまの世代による自制のきかない“かわいがり”につながっているのかもしれません

新R25編集部撮影

厳しさを経験してきた現在の親方たちが、若い力士の個性や気性をみて最適な指導方法を探る…。大変なことかもしれないが、これを実現するにはやはり閉鎖的な業界を変えていく必要がありそうだ。

また、『運動部活動の理論と実践』(大修館書店)の著者で早稲田大学スポーツ倫理学の友添秀則教授は、2017年12月8日付の『毎日新聞』の記事で、「マナーや礼節は、知的な理解があってこそ身につく。命令と服従では身につかないから今回のような事件が起きる」と指摘。さらに、「選手の主体性を重んじた創造的な環境でこそ、国際的に通用する強さが身につく」ことも強調。

近年は厳しいプロスポーツの世界でも精神論偏重の考え方は否定されはじめているが、それは相撲界も例外ではないようだ。

しかし、閉鎖的な社会で生きる力士たちには、社会性を身につけるためにある程度厳しい“しつけ”が必要であるという主張にも共感できる。

コミュニケーションが活発でオープンな相撲界になることで、暴力と指導の境界線がクリアになることを願うばかりだ。

〈取材・文=新R25編集部〉

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