三足の草鞋を履きこなして、仕事をするには?
お笑い芸人、ギャグ漫画家、絵本作家...3つの肩書は手段の1つ。伝える努力をし続ける『サラリーマン山崎シゲル』の作者・田中光の“はたらくWell-being”
新R25編集部
リモートワークの浸透などと相まって、「はたらき方改革」が世間の潮流となって久しい昨今。
現場ではたらくビジネスパーソンの中には、「本気で仕事に打ち込もうと思ったらはたらき方改革なんて無理」「自分らしいはたらき方なんて難しい」と感じている人もいるはず。
そこで、パーソルグループと新R25のコラボでお送りする本連載「“はたらくWell-being”を考えよう」ではモヤモヤを感じているあなたへ「令和の新しいはたらき方」を提案していきます。
「はたらくWell-being」とは、はたらくことを通してその人自身が感じる幸せや満足感のこと。それを測るための3つの質問があります。
①あなたは、日々の仕事に喜びや楽しみを感じていますか?
②自分の仕事は、人々の生活をよりよくすることにつながっていると思いますか?
③自分の仕事や働き方は、多くの選択肢の中から、あなたが選べる状態ですか?
3つの質問すべてに「YES」と答えられる人は「はたらくWell-being」が高いと言えます。「“はたらくWell-being”を考えよう」では、日々、充実感を持ってはたらく方々へのインタビューを通して、幸せにはたらくためのヒントを探します。
今回紹介するのは、田中光さんです。取材冒頭、田中さんは「僕は、お笑い芸人で、ギャグ漫画家で、絵本作家です」と話しました。
一見すると交わることがなさそうな3つの肩書きを持ち、Instagramで連載しているギャグ漫画『サラリーマン山崎シゲル』(ポニーキャニオン刊)は書籍化されるやいなや10万部のヒットを記録。現在は、約35万人にフォローされています。さらに「たなかひかる」名義で刊行した絵本『ぱんつさん』(小学館刊)での日本絵本大賞を皮切りに、受賞率100%の絵本作家としても活躍中。しかし、その裏には、お笑い芸人として鳴かず飛ばずの時期を過ごした経験や、自分の「したい」を叶えるための工夫がありました。
1982年京都府生まれ。京都精華大学で版画科を専攻していたが1年で中退し、お笑いの世界へ。2012年からSNS上で、ギャグ漫画『サラリーマン山崎シゲル』を投稿し始め、2014年に一コマ漫画作品集『サラリーマン山崎シゲル』(ポニーキャニオン)を刊行。2019年に刊行した初の絵本『ぱんつさん』(小学館)で日本絵本賞を受賞した。最新作『そそそそ』(ポプラ社)を2024年2月に刊行
「自分は面白いもん、変なもんを作って生きていくんや!」中学生のときに見つけた人生の核
ーー(編集部)お笑い芸人、ギャグ漫画家、そして絵本作家。田中さんは、二足ではなく三足の草鞋を履かれていますよね、すごすぎます!
田中さん
いやいや、全然です。肩書きは言いやすいように周りが増やしていっただけで、僕がやりたいことは子どものときから変わってないんですよ。
ーー(編集部)田中さんのやりたいこととは、なんですか?
田中さん
面白いもの、変なものを作りたい、です(笑)。これが僕の人生のすべてといっても過言ではないですね。
ーー(編集部)「面白いもの、変なものを作る」ですか。
田中さん
昔からとにかく絵を描くことや工作が好きだったので、子どもながらに「将来は何かを作って生きていくんやろうな」と思ってたんです。
それで中学生のときにお笑いに出会って、テレビに出ている芸人さんを見ては「俺のがもっとおもろいわ」と思ったことから「これや!」と。「自分は面白いもん、変なもんを作って生きていくんや!」と確信したんです。
「今思えば、勘違いもいいところです(笑)」
ーー(編集部)とはいえ、すぐにお笑い芸人になったわけではなく、一度は美大に行かれたんですよね?
田中さん
はい。中学生のときは「卒業したらNSCに入る!」と意気込んでいたんですけど、やっぱり好きだった絵も諦めきれなかったので美大に進みました。
でも、結局中退してNSCに行きましたね。
ーー(編集部)中退してNSCですか!私なら「せっかく大学に入ったから」と考えて、その決断はできない気がします。
田中さん
美大に入って1年経ったときにふと「絵って、年取ってからでも描けるな」と気がついてしまったんですよ。それこそ、NSCに入ってから趣味として続けてもいいし。
だけど、お笑いは芸事だから始めるなら早いほうがいいと思ったんです。なので、一気に方向転換しました。
ーー(編集部)中退となると周りからの反応も気になるのですが、ご家族はいかがでしたか?
田中さん
入学して1年で「辞めるわ」と言ったから、両親はポカンですよね。だけど、「お笑いをやりたい」と思いながら高い学費を払って通っていることが申し訳ない気持ちもあったので、それを素直に伝えました。
父は「やりたいことがあるなら、やってみたらええやんけ」と背中を押してくれましたね。「実は俺も落語家になりたかったんや」と言いながら(笑)。
一方で母は「大学は卒業しといたほうがええんちゃう……?」と言っていたので、100%納得していたわけではないと思います。
ーー(編集部)お母様の言葉がありながらも、お笑いの道へ進まれたんですね。
田中さん
僕、人生の選択の多くは「だろう」運転で進んできたんです。「きっと大丈夫だろう」「なんとかなるだろう」って。
そんな「だろう」運転でお笑いの道へ進んだのはいいものの、自分のやりたいことと、芸人として売れることのギャップが少しずつ出始めてきたんです。
仕事が増えたことで、生きやすくなった
ーー(編集部)自分のやりたいことと、芸人として売れることのギャップとはどういうことでしょうか?
田中さん
NSCを卒業してから僕は、一緒にNSCに入った幼馴染とコンビを組んでいたんです。今でこそ、お笑い芸人はYouTubeやSNSなどで活動できますが、当時は芸人といえばテレビに出る選択が一般的でした。
組んでいた相方も「売れたい」「テレビに出たい」という思いがあったので、僕も一緒になってテレビに出る努力をしていたんです。
ーー(編集部)よく聞く「番組で爪痕を残す」みたいなことでしょうか。
田中さん
そうですそうです。もともとあまり社交的な性格ではないんですけど、ひな壇から身を乗り出して「ちょっと待ってくださいよ!」と切り込んでみたり、先輩芸人さんに突っかかってみたり。
平場のトーク力やフリに対しての回答力、瞬発力など、気がつけば「面白いものを作る」以外のことに力を入れていることに気がついたんです。
ーー(編集部)なるほど。
田中さん
生活のためにアルバイトをしていたんですけど、性格矯正のためにあえて接客業やサービス業ではたらいてもいましたね。
ーー(編集部)お笑い芸人として売れる努力もされていたんですね。
田中さん
だけども、なかなか上達しないし、切り込んでいくのが得意な勢いのある若手芸人にどんどん抜かされてしまって。
さっきも言ったように、僕は「面白いもの、変なものを作りたい」が一番したいこと。だから、「お笑い芸人として売れたい」「テレビに出たい」という気持ちがほとんどなくて「もうテレビはええや」と諦めモードになると相方からは「お前、売れる気あるんか」と。
面白いものを作りたい、だけど芸人として活動するならテレビに出る努力をしないといけない。そしてそれがしんどい……。
「結果的に相方とは、目指す方向性の違いから解散してしまいましたね」
ーー(編集部)なかなかバランスがとれなかったのですね。
田中さん
そんなとき、先輩だったピースの又吉さんに「どうしたら売れるんですかね」と相談したら「売れるためというよりは、売れたときのために特技を伸ばしておいたらいいと思うよ」とアドバイスをいただいたんです。
それで「俺、絵が得意やな」と、SNSで大喜利感覚で投稿を始めました。
ーー(編集部)もしかして、それが『サラリーマン山崎シゲル』ですか?
田中さん
はい。投稿を始めると意外にも反響をいただいて、たまたま書籍化のお話が舞い込み、気がつけばギャグ漫画家になっていましたね。
ーー(編集部)ギャグ漫画家は、芸人ではないけど「お笑い」ができる新しい道ですね。
田中さん
ほんとそうですね。しかもギャグ漫画家になってからは、「テレビに出なアカン」と思っていたときと比べると、めちゃくちゃ生きやすくなったんです。
田中さん
今までは、ネタを作ったら相方と練習して、自分が作ったものは自分が表に出て披露しないと評価されなかったじゃないですか。
だけど漫画は、構想を練って下書きして描いて公開して、全て1人で完結できる。自分は表に出なくていいのに、自分が作った面白いものを自分の名前で発表できるという。すごくないですか(笑)?
もともと「いつかは絵を描こう」と思っていたので少し早まったぐらいの感覚です。
ーー(編集部)ずっと好きだった絵を描くことに「お笑い」がプラスされたような。
田中さん
まさにです。それは絵本も同じで、自分が「面白い」と思ったものを最小限の絵と言葉で表しているに過ぎません。
周りから見ると肩書きがたくさんありますが、やりたいことはずっと変わってない。出し方が変わっただけですね。
ーー(編集部)出し方。
田中さん
自分が面白いと思ったものを、舞台でコントとして出すか、漫画として出すか、絵本として出すか、それだけの違いです。僕からすると全部が「お笑い」で、ネタも漫画も絵本も手段の1つでしかない。「面白いもの、変なものを作りたい」なんです。
ーー(編集部)いろんな努力をされてきた田中さんが、最終的に中学生のときに戻ってきたんですね。
田中さん
ほんまそうです。いろんなことに手を出して努力をしてみたけど、結局は戻ってきた(笑)。
俺もそうやったけど、今の若手の人らも考えていることが多い気がするんですよね……もっとシンプルでいいと思うんです。自分は何が嫌いで、何が苦手なのか。逆に、何が好きで、何が得意なのか。
ーー(編集部)確かに、自分のやりたいことと、仕事でしなきゃいけないことのギャップで悩む人が多い気がします。
田中さん
僕は、30歳のタイミングで積み上げてきたものを一旦整理したんです。テレビタレントになる努力をしたけどやっぱり苦手で、人前に出るのもしんどい。だけど、絵を描くことは好きで、大喜利が得意。
それならこの2つだけに自分の全エネルギーを注いでいこうと決めたんです。
SNSも仕事も、その先には“人”がいる。伝える努力を怠っちゃいけない。
ーー(編集部)改めてお伺いするのですが、田中さんは今のはたらき方が好きですか?
田中さん
好きですね。自分がしたいと思っていることをできている状態だと思います。
ーー(編集部)ちょっと気になったことがあって、SNSでは好きなことを発信できますが、例えば仕事としてクライアントさんがいる場合だと田中さんの意向と異なる要求をされることもあると思うのですが、いかがですか?
田中さん
いや、僕、クライアントワークでも自分の好きなものを作っているんですよ。
ーー(編集部)え、そうなんですか!
田中さん
僕は自分が「面白い」と思うものを作って、その「面白さ」をブラさずに伝わる言語にする工夫をしています。
伝わる言語にする!?
田中さん
クライアントがいるいないに関わらず、SNSでも自分が「これ、おもろいわ!」と思った頭の中をそのまま出すことはしていません。
本質は変えずに、伝え方にちょっと一手間加えるんです。例えば、情報が溢れるSNSで一瞬目に入っただけで「なんだこれは」と思ってもらえるように目を惹く絵や言葉をいれたり、自分が作った「面白さ」が伝わるような補足説明をいれたり。
クライアントさんがいる場合も同じですよね。もちろん相手の希望があるわけですけど、それを真正面から受け取るんじゃなくて、自分が「面白い」と思った表現と相手の希望を掛け合わせて伝わるようにする。
ーー(編集部)な、なるほど……!
田中さん
自分が面白がっていることを、伝わる状態に直す作業っていうのはすごく重要ですよね。
SNSであれ仕事であれ、相手は“人”じゃないですか。伝える努力を怠ったらダメだと思います。
ーー(編集部)自分の好きを大事にしつつ他者目線も持ち合わせているからこそ『サラリーマン山崎シゲル』のヒットや、日本絵本賞の受賞などに繋がっているのですね。
田中さん
僕は「面白いもの、変なものを作りたい」と思っていて、それは言い換えれば、誰かを驚かせたい、喜ばせたい、感動させたい、になるんです。多くの人の「〇〇したい」も、元を辿ればここに集約されるんちゃうかな。
たぶん、スティーブ・ジョブズもiPhoneを作ったとき「どや!こんなすごいもん作ったで!見て見て」と思っていたと思います(笑)。
「あんなんできたら、びっくりしてもらいたいやないですか」
ーー(編集部)私だったら人に見せたくてしょうがないです(笑)。
田中さん
自分が「したい」と思っていることをできていることが“はたらくWell-being”だと思いますが、「したい」の先に人がいることを忘れちゃいけないですよね。伝えるための努力、伝わりやすくするための努力は必要だと思います。
ただ根本は変わっていないから、芸人も漫画も絵本もどの仕事も楽しいですし、どんな仕事も好きなんです。
<取材・文=田邉 なつほ>
「“はたらくWell-being”を考えよう」
信頼してくれる人を裏切らない。「サスティナブルな情報交流」を仕掛けるブランドディレクターの、“はたらくWell-being”
新R25編集部
Sponsored
多様性を認める文化を、花の世界から。フラワーサイクリスト® 河島春佳が「規格外な自分」から見つけ出した使命
新R25編集部
Sponsored
「はたらくWell-being AWARDS 2024」授賞式&トークセッションに潜入! そこには、はたらくを楽しむためのヒントが満載だった
新R25編集部
Sponsored
「日本が世界に勝てるものを見つけた」植物工場で世界の名だたる企業から200億の資金調達を達成したOishii Farm 古賀大貴が使命を見つけられたワケ
新R25編集部
Sponsored
プロ野球選手から公認会計士試験合格。異色の転身をした池田駿さんの“はたらくWell-being”
新R25編集部
Sponsored
実はコンビニより多い。神社というインフラから考える日本の「はたらくWell-being」
新R25編集部
Sponsored
ビジネスパーソンインタビュー
「ビジネス書を読んでも頭に入らない…」インプットの専門家・樺沢紫苑先生に相談したら、さまざまな“間違い”を指摘されました
新R25編集部
【老害おじさん化回避】若者と絡むな、パーカー着るな。“いいおじさん”のすべて【イケオジへの道】
新R25編集部
「仕事と家庭で“顔”を変えろ」本音が話せない28歳にコミュニケーションのプロ・安達裕哉さんが“シーン別の戦い方”を教えてくれました
新R25編集部
またスゴいことを始めた前澤さんに「スケールの大きい人になる方法」を聞いたら、重たい宿題を出されてしまいました
新R25編集部
「学生時代の経験を活かそうとか、論外です」北の達人・木下社長に“社会人1年目の働き方”を相談したら、キャリア観が180度変わりました
新R25編集部
【朗報】誰もが『頭のいい人』になれるたった一つの方法を学んだら、Fランでも無双できそう
新R25編集部
“愛嬌でここまで来た…”新卒女子に、話し方のプロ千葉佳織さんが授けた「信頼される魔法」
新R25編集部
【不満も希望もないから燃えられない…】“悟っちゃってる”Z世代の悩みに共感する箕輪厚介さんが「幸せになる3つの方法」を伝授してくれた
新R25編集部
「実家のお店がなくなるのは悲しい… 家業を継ぐか迷ってます」実家のスーパーを全国区にした大山皓生さんに相談したら、感動的なアドバイスをいただきました
新R25編集部