ビジネスパーソンインタビュー
仕事もライフスタイルも、自分らしく。
仕事の99%はつらい。仲間とハイタッチする1%の幸せが原動力。
新R25編集部
リモートワークの浸透などと相まって、「はたらき方改革」が世間の潮流となって久しい昨今。
現場ではたらくビジネスパーソンの中には、「本気で仕事に打ち込もうと思ったらはたらき方改革なんて無理」「自分らしいはたらき方なんて難しい」と感じている人もいるはず。
そこで、パーソルグループとのコラボでお送りする本連載「“はたらくWell-being”を考えよう」ではモヤモヤを感じているあなたへ「令和の新しいはたらき方」を提案していきます。
“はたらくWell-being”とは、はたらくことを通してその人自身が感じる幸せや満足感のこと。それを測るための3つの質問があります。
①あなたは、日々の仕事に喜びや楽しみを感じていますか?
②自分の仕事は、人々の生活をよりよくすることにつながっていると思いますか?
③自分の仕事や働き方は、多くの選択肢の中から、あなたが選べる状態ですか?
3つの質問すべてに「YES」と答えられる人は“はたらくWell-being”が高いと言えます。「はたらくWell-beingを考えよう」では、日々、充実感を持ってはたらく方々へのインタビューを通して、幸せにはたらくためのヒントを探します。
今回、ご紹介するのは株式会社SEAM 代表取締役石根友理恵さんです。
石根さんは、大学卒業後、IT系企業2社でWebマーケティングを経験。その後、2017年に株式会社SEAMを設立し、低アルコール飲料の開発・販売を手掛けてきました。オリジナルのクラフトカクテルブランド「koyoi(こよい)」や低アルコールスパークリングブランド「AWANOHI(あわのひ)」は、お酒の飲み方の多様性の広がりとともに、20〜30代を中心に支持を広げています。
「この事業とは心中しても良い」と語り、文字通り人生をかけて低アルコール飲料業界での活動にチャレンジする石根さんに、これまでのキャリアを振り返っていただきながら、“はたらくWell-being”が達成されるのはどのような状態なのか、それを実現するにはどうしたら良いのか教えていただきました。
株式会社SEAMの代表取締役で一児の母。大学卒業後、サイバーエージェントに新卒入社。その後、スタートアップ企業に転職し、2社でデジタルマーケティングに従事。2017年に起業。当初は顧客のマーケティング事業を行っていたが、2020年に低アルコール飲料事業を開始。現在はクラフトカクテル「koyoi(こよい)」、低アルコールスパークリングワイン「AWANOHI(あわのひ)」を展開中
株主に「ごめんなさい」 自分の心に嘘をつかず、資金調達後に事業を変更
ーー(編集部)元々はIT系企業で働かれていたそうですね。昔から「いつかお酒をつくりたい!」というビジョンは描いていたんですか?
石根さん
いえ、お酒の事業をすることは起業するまで全く考えていませんでした!
社会人になるときに心に決めていたのは「経済的・精神的に自立する」ということだけで、明確に「この事業をする」というビジョンはなかったです。
ーー(編集部)「経済的、精神的自立」ですか。
石根さん
そう思うようになったのは、母の存在があります。
私の母は専業主婦で、毎日、年子の姉と私の世話をしながら家族の生活を支えてくれていました。
母のお陰で毎日の生活はとても幸せだったのですが、金銭的な報酬が得られないことで、私には母が不自由を感じているように見えたんです。
その影響もあって、高校時代から将来のキャリアの選択肢は第一に「経済的・精神的な自立」、その上でライフプランを考えていきたいと思うようになりました。
いざ就職というタイミングには、「30歳になる時には自分の名前で仕事する」という目標も掲げていましたね。
学生時代にそこまで考えてるってすごい!
ーー(編集部)「お酒をつくりたい」というよりも、「独立をするんだ」という意思が先行していたんですね。
石根さん
今考えると、会社に属した状態でも自立できると思うんですけれど、当時はとても生き急いでいました(笑)。周りに起業家の友人が多かったのも、独立意思の高まりに影響しているかもしれないですね。
新卒入社した会社を1年半で辞めて、2社目でデジタルマーケティングの仕事をしていたのですが、身の回りにいた人たちは起業家が多かったんです。
資金調達したり、一部をIPOしたり、本を出版したりしている友人たちを見て「私も起業できるんじゃないか…?」と思うようになりました。
大学時代に学生団体を立ち上げた経験もあったし、2社目にスタートアップの会社を選んだこともあって、0から1で何かをつくり上げていくことにも面白さを感じていたんですよね。
それもあって、独立し起業することを決意しました。
「0から1をつくり出す仕事ばかりしてきたし、それが好きなんです」
ーー(編集部)で、お酒をつくり始めた?
石根さん
いえ、まだつくり始めません(笑)。
起業家には「ゴールに一直線で向かっていくタイプ」と「歩きながら自分の登りたい山をさがしていくタイプ」の2種類がいると思うんですけれど、私は完全に後者で、迷子になりながら今の道にたどり着いたんです。
だから最初から「低アルコール飲料だ!」とはなりませんでした。
ーー(編集部)事業内容はどうやって決めたんですか?
石根さん
まずひたすら事業計画案を100個くらい出して、それをしらみつぶしにマーケティング調査して、テストして…というのを3年くらい繰り返しました。
その後実は、子供の教育動画事業をメイン事業にしようと動き出したんです。
資金調達をして、動画を100個くらいつくって、数字的にも手応えを感じて量産しようというところまできた時に、ふと「私、この事業に人生かけられるか?」と自問自答しちゃったんです。
そこで、「できないな」ということに気づいてしまいました。
えっ!そこまで進んだのにやめるってありなの?
ーー(編集部)え…でも、資金調達までしていたんですよね?!
石根さん
はい。でも「この事業とは心中できない」って気づいてしまったんです。
マーケット的にはグロースする見込みがあったけれど、率直に言うと、このプロダクトがあることで自分自身がハッピーになっているイメージが湧かなかったんです…。
真剣に自分自身の心に向き合ってみたら、私がハッピーにしたい対象者は、今の私のような人なのかもしれないと気づきました。
それでチームメンバーにも、株主さんにも「ごめんなさい。この事業、できません。」と謝罪しました。
自分の心に嘘をつかない姿勢、憧れます。
ーー(編集部)「この事業をやめたい」と伝えた時の周りの反応はどんな感じでしたか?
石根さん
株主さんからは、「あなたが主導権を握って事業を推進していくんだから、あなたが乗り気じゃなかったら絶対うまくいかないでしょ」という返答をもらい、承諾していただきました。協力してくれていたチームメンバーからも「それが正解だと思います」と言われました。
事業を興すということは、これからの人生をかけて取り組んでいくものを決めるということ。
真剣に向き合えない中途半端さではダメだ。だからこそ、心底「やりたい」「やるべきだ」と思えて、心中する覚悟が持てる事業を選ばないといけないと思いました。
それでやっと、”低アルコール事業”という山を見つけたんです。
「心が燃やせる事業がしたかったんです」
アルコール依存症の父の死が、低アルコール飲料事業の道へ繋がった
ーー(編集部)なぜ未経験のお酒の世界に飛び込むことにしたんですか?
石根さん
まず1つ目の理由は、元々私自身がお酒好きだったことです。事業を進める上で、自分が本当に好きなものを前提にしました。
2つ目はマーケティング的な理由で、お酒にまつわるマーケットのあり方が、コロナ禍を経て大きく変わったということです。飲み会が減ったことでアルコールに対する世間一般の風潮が変わりはじめました。
ーー(編集部)たしかにコロナ禍をきっかけに「無理してアルコールを飲む必要はない」みたいな考え方が浸透してきた気がします。
石根さん
もう1つ、「飲める人も、気分や体調にあわせて度数を調整する」っていう考え方もありますよね。
世界的には低アルコールやノンアルコールのマーケットが拡大しているのですが、日本で「低アルコール」というと、あるブランドの一強で、まだまだ開拓の余地が大きい分野なんですよ。
スタートアップとしては、強いブランド認知が複数ないマーケットの中、20〜30代の若い世代の間をターゲットとしデジタルでブランド認知を得られるチャンスがあるんじゃないかと思ったんですよね。
…と、ここまではマーケターとしての考えなんですが、もうひとつ低アルコールにこだわる理由があるんです。
ーー(編集部)ほう…。
石根さん
実は私が24歳の時に、52歳の父を亡くしているんです。亡くなった理由のひとつは、アルコール依存症でした。アルコールを飲んで気分が激しくアップダウンする父は、家族に対して暴言を吐くこともあり、大学時代から関係が疎遠になっていきました。
しかしなんの因果か、成人後は私もお酒好きになったのです。友人とのコミュニケーションの場やお祝いの席などでお酒を嗜み、ハッピーな気持ちになる経験をしてきました。
私は0だった気持ちを10や20に引き上げるような、ハッピーをもたらしてくれるアイテムとしてお酒とつき合ってきました。
0しかし父にとっては、悲しい・辛い・苦しいというマイナスな気持ちを0に戻すためのツールがお酒だった。だから、それに依存してしまったのでしょう。
もし父がお酒に溺れていた時に、低アルコールの商品が一般的に流通していたら父の人生は変わっていたんじゃないか、と思ったんです。
「父の死によって『いつ死ぬかわからない、後悔だけはしないで生きていきたい』ということにも気づかされました」
ーー(編集部)お父様への想いもあって、酒造へのチャレンジの気持ちがますます湧いていったんですね。酒造業界というと伝統が重んじられている印象で、心を決めたとしても大変なこともあったのでは?
石根さん
業界自体に歴史があり、「新しいことに取り組むことに難しさがある」と感じることもありましたね。
ネットで検索して全国津々浦々の酒蔵さんに電話をかけまくりましたが、「小娘がなにか言っているな…」という感じで、あしらわれてしまうことも多々ありました。
なかには私のことを心配して、「酒造は儲からないから辞めたほうがいいですよ」とアドバイスをくれた方もいましたね。
ーー(編集部)参入までの障壁も高いんですね…。
石根さん
どうにか協力してくださる方を見つけ出してkoyoiをリリースしてからも、もちろん思う通りに事業はいかず、「もう来月には資金がショートするかも!」というところまで追い込まれたこともありました。
その時は眠れなかったです。資金調達のために、徹夜で投資家の方に見せる資料をブラッシュアップすることもありました…。
来月には資金がショート…想像するだけで胃がキリキリしてくる
ーー(編集部)私が石根さんの立場だったら、とっくに心折れている気がします。なんでそんなに頑張れるんですか?
石根さん
仰るとおり、「会社員として働いていたらこんなに辛い思いをしなくてすむのに、私は一体何をやっているんだろう…」って思うことは、実はいまだによくあります(笑)。
でもそもそも、私にとって仕事は99%つらくてしんどいものなんですよね。
その上で、責任の所在が全部自分にある状況が好きだし、しんどい中でも、時々パズルのピースがカチッとはまり、成果が出る瞬間がたまらなく楽しいんです。
ーー(編集部)すべてを忘れられる瞬間があるんですね。
石根さん
「やった!」と言いながら、仲間とハイタッチする時間と、お客様が「美味しい」「この商品があってよかった」と言ってくれる1%の瞬間があるから、どんなに辛くても続けられています。
“want”が“must”にならないように 自分の道はいつも自分が選んでいる
ーー(編集部)石根さんが起業したのは妊娠中だったとお聞きしました。仕事を頑張りたい時期にライフステージの変化がある人は多いと思うんですよね。そういう時期に直面している人になにかアドバイスいただけますか?
石根さん
私は、ちょうど娘が生まれる一ヶ月前に起業したんですよ!
働くのが大好きな私でも悪阻の時期は体が辛くて、 生まれて初めて「仕事をやめたい」と思いましたね。仕事が好きな私ですらそう思うのだから、「おそらくこれは多くの人が抱える問題なんだろうな」と思いました。
だからこそ、「私がライフステージの変化と仕事のバランスをとるロールモデルになるぞ!」という気概を持って起業に踏み切っています。
…とかっこいいことを言っていますが、実際には働きながら家庭を運営していくのは本当に難しいです。子供との時間のつくり方には今も悩んでいます。
「休みの日に携帯を見すぎて、娘に怒られることもあります…」
ーー(編集部)どういうところで難しさを感じていますか?
石根さん
今、家庭と仕事の「両立」ができていないなと思うんです。
なので、両方を立てる「両立」よりも、家庭と仕事がともに存在している「共存」を目指すようになりました。
どっちも100%でやろうと思うと、しんどくなってしまいますからね。
ーー(編集部)「共存」、素敵な考えです。
石根さん
私にとっては仕事も子供もかけがえのないもの。
だから都度、優先するべきものを柔軟に変えていこうと思っています。
以前は「仕事ばっかりしていたら、子供が可哀想かな」と思っていましたが、今は楽しそうに働いている背中を見てもらうことが、きっと子供にも良い影響を与えると信じています。
かっこいいなぁ
ーー(編集部)私も子供がほしいなと思っているのですが、フリーランスになったばかりで仕事も頑張りたい時期なんです。なんで大切なことが同じタイミングに重なるんだろうと思って、ネガティブになってしまうことがあります。
石根さん
「したい」と思って始めたことでも、気負ってしまうと「しなきゃいけない」に変化して、ネガティブになっちゃうことってありますよね。
それって、人生においてとってももったいないことだと思うんです。
もし「must」になってきちゃったら、もう一度「want」を選んだ時のポジティブな考えに立ち戻れるといいですよね。
「やめる」とか「続ける」とか、いろんなカードがあるなかから、自分はそれを選び取っているんだという感覚は忘れたくないなと思います。
「自分が選んでいる」という感覚が、人生の満足度を変える気がするんですよね。
ーー(編集部)確かに...!石根さんが考える「はたらいて、笑う」ために必要なことを教えてください。
石根さん
なにはともあれまずは、「自分が楽しむこと」が必要だと思います。
楽しむためには、「自分は、どんなことをすれば楽しくなるのか」というツボを知っておくことが大切なのではないでしょうか。
私で例えると、成果が出て仲間とハイタッチできる1%の瞬間ですね。
ーー(編集部)最後に、今後の展望を教えてください。
石根さん
私たちのミッションは、「ココロが満たされ、カラダにも優しいアルコール文化をつくっていく」です。
市場自体にもまだまだ成長余地があると感じているので、他社と手を取り合って拡大を進めていきたいと思います。
より大きくなった低アルコール・ノンアルコールの業界でナンバーワンになり、仲間たちとハイタッチできる瞬間が訪れるといいなと夢見ています。
〈取材・文=市川みさき〉
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