ビジネスパーソンインタビュー
“はたらくWell-being”は与えられるもんじゃない。自ら探し出せ
プロ野球選手系ユーチューバーのパイオニア・高木豊が語る“挑戦し続けるために大切なこと”。「チーム」「考えないこと」そしてもう一つは?
新R25編集部
リモートワークの浸透などと相まって、「はたらき方改革」が世間の潮流となって久しい昨今。
現場ではたらくビジネスパーソンの中には、「本気で仕事に打ち込もうと思ったらはたらき方改革なんて無理」「自分らしいはたらき方なんて難しい」と感じている人もいるはず。
そこで、パーソルグループとのコラボでお送りする本連載「“はたらくWell-being”を考えよう」ではモヤモヤを感じているあなたへ「令和の新しいはたらき方」を提案していきます。
「はたらくWell-being」とは、はたらくことを通してその人自身が感じる幸せや満足感のこと。それを測るための3つの質問があります。
①あなたは、日々の仕事に喜びや楽しみを感じていますか?
②自分の仕事は、人々の生活をよりよくすることにつながっていると思いますか?
③自分の仕事や働き方は、多くの選択肢の中から、あなたが選べる状態ですか?
3つの質問すべてに「YES」と答えられる人は「はたらくWell-being」が高いと言えます。「“はたらくWell-being”を考えよう」では、日々、充実感を持ってはたらく方々へのインタビューを通して、幸せにはたらくためのヒントを探します。
今回紹介するのは、横浜ベイスターズ・日本ハムファイターズに所属していた元プロ野球選手。引退後はコーチ・解説者として活動する傍ら、2018年に自身のYouTubeチャンネル『高木豊チャンネル』を開設し、現在では登録者47万人を超える高木豊さんです。
プロ野球選手としても、その後のコーチ・解説者としても、順風満帆なキャリアを歩んでいた高木さんがなぜ、当時誰も開拓していなかったYouTubeの世界へ飛び込んだのか。
還暦を過ぎても挑戦をやめない高木さんに“はたらくWell-being”を聞きます。
1958年10月22日生まれ。80年にドラフト3位で横浜大洋ホエールズ(現・ 横浜DeNAベイスターズ)に入団。抜群の野球センスと日々の努力で入団一年目より開花、常に野球ファンを魅了し、チームを代表した選手。94年に生涯通算打率2割9分7厘を残して現役を引退。その後は、野球解説に加え、CM・TVドラマの出演もこなし、2001年 古巣ベイスターズの強い要望により守備・走塁コーチとして、選手の良き兄貴分としてチームに貢献。2004年日本代表チーム監督に就任した長嶋茂雄氏の要請により守備・走塁コーチとして“JAPAN”のユニフォームに袖を通した。 2012年 横浜DeNAベイスターズ ヘッドコーチに就任。2013年退団。現在は、野球解説、講演会、野球指導教室等で活躍中。野球指導においては、少年から社会人(実業団)チームと領域が広く、基礎動作はもとより、ハイレベルな視点、見地で選手の能力を引き出す適切なアドバイスは、まさにプロフェッショナル。2018年からYouTubeチャンネルを開設。レベルに合わせたわかりやすい野球指導や講演活動など多方面で活躍している。 3人の息子達がプロサッカー選手となり、父親としての家庭教育の考え方についても注目を集めている
自分の利益だけを考えずにみんなで盛り上げることが常道
柳田
高木さんが自身の公式YouTubeチャンネルである『高木豊チャンネル』を開設された頃は、元プロ野球選手で本格的にYouTubeを配信していた人はいなかったと思います。ですので、高木さんはプロ野球系YouTube界の野茂英雄(パイオニア)なのではないかなと感じておりまして…
高木さん
そんな大げさなもんじゃないと思うけどね(笑)。
でも、僕が『高木豊チャンネル』を開設せずに、サト(里崎智也・元ロッテマリーンズ)や片岡(片岡篤史・中日ドラゴンズヘッドコーチ)をYouTubeに誘っていなかったら、今みたいに多くのプロ野球OBが参入する状況になるには、もう少し時間がかかっていたかもしれないね。
柳田
本日は高木さんが還暦を過ぎても、新しいことに挑戦し続けられる秘訣を教えていただきたいです。そもそもプロ野球の世界で、選手としても解説者としても十分な成功を納めていた高木さんが、なぜYouTubeという新しい領域にチャレンジしようと思ったのでしょうか?
高木さん
まずはこの先、テレビやラジオの解説者だけでやっていけるのかなっていう自分の未来への不安があったよね。
あと、自分が持っている野球の技術論を多くの子供たちに伝えていきたいという想いもあった。
若い世代はもうテレビは見ないっていうじゃない?だから自分のYouTubeチャンネルを開設したほうが、自分が伝えたい情報を子たちに届けられるんじゃないかって思ったんだよね。
柳田
とはいえ、新しいジャンルを開拓しなくても十分やっていけたのではないですか?
高木さん
まあ、きっとそういう性格なんだろうね。
チャレンジ精神というかそういうのが旺盛で、いろいろなものに手を出したくなる性分なんだよ。
プロ野球を引退した後も解説者をやる傍ら、芸能事務所に所属してタレント活動をしていたんだけど、プロ野球選手が引退した後の既定路線として解説者だけに収まるんじゃなくて、別の世界を見てみたいという想いもあった。おかげで視野もだいぶ広がったよ。
柳田
YouTubeチャンネルの登録者数がどんどん増える中で、何か意識していたことはありますか?
高木さん
最初の頃は自分の利益をあまり考えなかったかな。
例えば、視聴回数を増やすために、いろいろなゲストやYouTubeチャンネルとコラボしたんだけど、彼らに来てもらうための労力や投資は惜しまなかった。
まあ、新しいジャンルを切り開くわけだから自分一人の力だとなかなか難しいし、自分の利益だけを追い求めていたら協力者も集まりにくいよね。
柳田
なるほど…
高木さん
東京駅のラーメン横丁なんか典型的だけど、いろいろなラーメン屋がひしめいていて、お客さんがそれぞれ自分の好みの店に入っていくプラットフォームの役割を果たしているじゃない。
それと同じで野球系YouTubeも、僕一人がやるんじゃなくて、みんなで盛り上げていったほうがいいよね。いろいろなカラーのYouTubeがあったほうがもっと盛り上がる。
そういう意味もあって、何人かの仲間に声をかけてみんなでYouTubeをやることにしたんだ。
若い世代は非常に賢い。僕は彼らから学んでいる
柳田
最近のプロ野球界を見ていて感じることはありますか?
高木さん
これはプロ野球の世界に限ったことではないと思うけど、最近の若い世代は本当に頭がいいし、情報が豊富なのでよく勉強しているよね。
野球技術に関する一般的な知識はすでに頭に入っている。だからこそコーチや解説者も、世の中に出ていないオリジナリティある情報を彼らに教えたり話したりしなくちゃいけないんだけど、そういう発想の人はまだまだ少ないと思うよね。
柳田
年配者のアップデートができていないと?
高木さん
野球の技術論は、僕が現役だった頃と比べて格段に進化しているんだよ。
技術も感性も私がやっていた頃とは全然違うものになっている。だから僕は、最近人に教えるのが本当に怖いもの。
自分が若い頃の体験談を話しても参考になるものなんてほんの少ししかない。だから、年配者こそどんどん学習して、自分をアップデートしていかないと時代についていけないと思いますよ。
柳田
高木さんの考え方は、だいぶ柔軟な気がします。
高木さん
現場で起こっていることが最先端なのは間違いないと思う。
僕のYouTubeチャンネルにダル(ダルビッシュ有・現サンディエゴ パドレス)やマエケン(前田健太・現シカゴ カブス)に出てもらったけれど、メジャーリーグの第一線で活躍している彼らに対して、僕はその豊富な知識を教えてもらう立場だと思っている。
そういうメンタリティで常に現役選手とは接しているよ。
柳田
すごく謙虚ですね。
高木さん
今の選手は僕の現役時代と比較してずいぶんレベルが高いし、考え方もしっかりしている。
そもそも僕らの時代のプロ野球選手を今の基準で考えたら、アスリート失格と言われても仕方ない選手がたくさんいたと思うよ(笑)。
(煙草もガンガン吸っていたし、酒も朝まで飲んでなんぼやっていう社会ですよ。)
柳田
最近は若い世代と、年配者の間に溝のようなものもできているような気がします。
高木さん
プロ野球の世界で言うと、昔の指導者には「何が何でもこいつを一人前にしてやる」っていう「熱」のようなものがあったよね。それが伝わりづらい世の中になっているとは思う。
今は少し厳しいことを言うとパワハラとか言われてしまうけど、それは誰に言われたかでだいぶ違ってくると思うんだよね。
そこまでの信頼関係が築けるかどうかがポイントだと思う。今はみんな怖がってコミュニケーションをとらないでしょ。これではいい社会にはなっていかないし、寂しい社会になっちゃうよね。
柳田
寂しい社会ですか。
高木さん
野球の技術論が今と昔で全然違うのと同じように、世間もだいぶ変化している。だからこそ年配者はもっと謙虚になって若い人から学ぶ姿勢を持ったほうがいいんじゃないかな。
一方で、若い人も年配者の言うことを「時代遅れ」と言って、すべてを切り捨ててしまうのではなくて、良いと感じたことは積極的にとり入れるべきだよね。成功者は歴史から学ぶなんて言われるじゃない?「古い」 「新しい」じゃなくて、時代を超越した普遍的な価値ってあると思う。
例えば第二次世界大戦中の軍人だった山本五十六が、後進の育成法で良いこと言っているじゃない?
柳田
「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ。」ですか?
高木さん
そうそう。あの言葉なんてどの時代でも通じる普遍性があると思うよね。古いから全否定って感じじゃなくて、お互いの良いところは尊重しあって、悪いところは改善し合うような関係になれればいいよね。
正直なところ、今の若い世代の感性は僕には理解しづらい部分もあるよ。でもそれを理解し合いながら進んでいくことが大切。
年配者は豊富な経験の伝え方について考えなくちゃいけないし、若い世代も思い込みに囚われずに情報を集め、選択する努力をするのがいいんじゃないかな。
仕事を楽しみたいなら、まずは体力をつけるべし!
柳田
高木さんは仕事のどういった部分に楽しみややりがいを見出しているのですか?
高木さん
これは染みついたものかもしれないけど、ひとつは数値だよね。現役時代から打率3割を望まれてそれを目指していたし、今だとYouTubeの登録者数とか、再生回数。そういったものを追い求めていくのが性に合っているような気がする。
ただどこに楽しみを見出すかは人によって違うと思う。僕は野球やYouTube以外にもタレント業や飲食店経営などいろいろな仕事をしてきたけど、結局全部楽しかった。
それはいつでも能動的に「楽しい」と感じる部分を探してきたからで、ただ受け身でいても仕事は楽しくならない。例えば飲食店を経営していた頃なんかは、店のどんなところに気を配ればお客さんが満足するのかを考えることが楽しかったし、営業が終わった後の打ち上げでの反省会も楽しかった。
YouTubeも同じで、どういう企画がウケるのか考えることはとても楽しいし、新しいことを経験できることも刺激的。そして何よりチームで動くのは楽しいことだよね。
柳田
プロ野球系YouTuberがたくさんいる中で、高木豊チャンネルは長い間ずっと安定した注目を集め続けていますよね。
高木さん
それはひとえにチャンネルを作っているチームメンバーの力が大きいよね。最初の頃は今ほど再生回数も回っていなかったし、登録者数も少なかった。
そんな黎明期を乗り切ることができたのは、熱量が高いメンバーを集めて持続可能性のある組織を整えることができたからだと思う。
柳田
チーム作りですか?
高木さん
うちのスタッフはしつこいよぉ(笑)。野球に関するちょっとしたネタでもすぐに「撮影しますか?」「どうしますか?」って連絡が来る。
YouTubeと野球が好きじゃないとできないよね。
でも、「楽しい」と思っていなかったら続かないよね。そういうメンバーを集めることができて一緒にはたらけていることが、チャレンジを持続できている大きな要因だと思う。
柳田
僕は「楽しい」ことを見つけることが下手で、情熱を維持することができないんです。どうすればいいですかね。
高木さん
これはね。身も蓋もない話だと思いますが、体力だと思いますよ。僕は還暦を過ぎても食欲は一向に落ちないし、体力もある。だからやりたいこともすぐに見つけることができるんだと思うんだよね。
大企業の経営者でも、ランニングやウェイトトレーニングを習慣にしている人多いでしょ。最後にものを言うのは体力だと思うんですよ。
体力がないとやる気もなくなる。やる気を失うと体力も落ちる。といった具合で悪循環になるんだよね。仮に今「楽しい」ことが見つからないし、情熱もない、目標がないっていう若い人がいたら、まずは体力をつけろとアドバイスする。
(悩んでいる人は、腕立てやランニングしてまずは体力をつけろよと)
柳田
(真理…)
高木さん
あとは、失敗したらどうしようとか小難しいことは考えないことだよね。だいたい考えているうちはチャレンジできないですよ。人間考えるとだいたいネガティブになっていくんで、感性に従って動くことが大切だと思う。
失敗=経験だからね。仮にチャレンジに失敗したとしてもそこから経験値が得られるわけでしょ。そういう意味では、継続しないから「失敗」になってしまうんだよ。失敗という経験が次に活きるとか信じて頑張っていくしかない。良い経験したと思えば何も怖くない。
年を重ねても新しい挑戦をしたいと考えている若い世代へ
柳田
アスリートは他の業種に比べて職業寿命が短いと思います。プロ野球選手のセカンドキャリアについて考えていることがあれば教えてください。
高木さん
これは人それぞれ考え方があると思うんだけど、個人的にはトライアウト※を受けるくらいなら、別のキャリアを模索したほうがいいと思っている。
仮に合格したとしてもプロ野球の世界にいられるのはせいぜい数年間だよ。だったら少しでも早く次のステージに進んだほうがいい。
いろいろな業界を見て多様な職業人に会って、きちんとキャリアを選択したほうが人生トータルで見たときに豊かになると思うんだよね。
柳田
僕も次のステージに行くのが怖くて、転職するのにずっと躊躇してしまっていた時代がありました…
高木さん
変化するのは誰にとっても怖いことだよね。ましてプロ野球選手はずっと野球しかやってこなかった人たちだからさ。
新しい世界に飛び込むことに対する恐怖は大きいと思う。だけど、そこはぜひ勇気をもって第一歩を踏み出してほしいんだよね。
柳田
確かに人生にお金は大切だけど、これからは心の時代でしょ。心を豊かにしないといけないのに、「自分にはこれしかない」と、ひとつの選択肢に固執するのは、僕はあまり好きじゃない。
高木さん
世の中には楽しいことはたくさんありますから。いろいろな人に出会えて、いろいろな話を聞けて、そこから得られるものもたくさんある。自分でそう思うことができれば、今はすごく素敵な世界ですよ。
※トライアウト:日本野球機構(NPB)の12球団が合同で行う、自由契約選手を対象としたトライアウトのこと。プロ野球12球団への加入を希望する選手同士による実戦形式のテストを行い、それを観たスカウトが所属球団で戦力になると判断した場合、5日以内に選手へ電話で連絡しオファーする。合意に達すれば契約となる。球団から戦力外であることを通知されたがプロ野球へ返り咲きを狙う選手にとって、アピールの場となっている。
柳田
今後の活動で高木さんがやってみたいことはありますか?
高木さん
今は日本人メジャーリーガーが増えますからね。「高木豊チャンネル」で流している動画に英語の吹き替えや字幕をつけて海外向けに発信したいなぁと考えてるんだ。
あと、まだ構想段階ですが、チャンスがあればYouTubeとはまったく別のジャンルで起業してみたいと思っているよ。
もう一度飲食店を経営してみるのもいいよね。この間、住んでいる場所の近くで、たまたま飲食店が一軒つぶれたんだよね。そこは立地的にも最高の場所でさ。スーパーの斜め前で人は集まる。となりは駐車場。駅からは100m。これは良いところ空いたなぁと。今はあの場所で何かできないかなと虎視眈々と狙ってます。
柳田
やりたいことが次から次へと溢れてきますね。本日はありがとうございました!
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