ビジネスパーソンインタビュー
労働時間に注目することが大事
転職先を“定着率”で判断すると失敗する。人材紹介のプロが語る会社選びの6つのポイント
新R25編集部
転職を考えている人にとって、悩みのタネとなる会社選び。
会社が発信している情報はたいてい魅力にしか触れていないため、入社前に良し悪しを見極めるのは至難の業です。それでも働きやすい環境を求めて、社員の定着率や福利厚生などに着目する人は多いでしょう。
ですが、人材紹介会社を経営し、3000人以上の転職をサポートしてきた郡山史郎さんは、それらの指標を判断材料にすることに警鐘を鳴らしています。
今回は郡山さんの著書『転職の「やってはいけない」』より一部を抜粋し、「会社選びの6つのポイント」をお届けします。
【郡山史郎(こおりやま・しろう)】株式会社CEAFOM代表取締役社長。1935年生まれ。一橋大学経済学部卒業後、伊藤忠商事を経て、1959年ソニー入社。1973年に米国のシンガー社に転職後、1981年ソニーに再入社し、取締役、常務取締役、ソニーPCL社長、同社会長、ソニー顧問を歴任。2004年、プロ経営幹部の派遣・紹介をおこなう株式会社CEAFOMを設立し、代表取締役に就任。人材紹介のプロとして、これまでに3000人以上の転職・再就職をサポートしてきた。著書に『転職の「やってはいけない」』『定年前後の「やってはいけない」』(青春出版社)などがある
会社選びのポイント① 社員の定着率アップに取り組んでいても働きやすいとは限らない
なんらかの指標に基づいて会社を比較することで、よりよい転職先を探し出せると考える人は多い。そんな人が着目する指標の1つに「定着率」がある。
厚生労働省の調査によれば、新規学卒者(平成27年3月卒業)の3年以内の離職率は31.8%だった。
会社経営に携わる多くの人が、せっかく採用した若手が次々と辞めていく事態をなんとかしたいと考えているのは想像に難くない。
転職希望者の視点に立つと、定着率向上を目指して、積極的に策を講じている企業は、そうでない企業よりも働きやすそうに見える。
定着率向上に取り組む姿勢を“従業員ファースト”として捉え、その企業の職場環境に期待を寄せているのである。
しかし、このような分析、判断をしているとしたら、それは正しくない。
よく考えてみてほしい。仮に、そうした企業の姿勢に嘘偽りがないとしても、定着率向上に取り組まなければならないのは、そもそも離職率が高いからである。
そう考えると、定着率向上に取り組む必要がない企業のほうが、働きやすいということにならないだろうか。
別の見方もある。毎年業績を伸ばしていて、フレックス制やテレワークなど働きやすい職場環境を実現している企業にはいいイメージがあり、そのイメージだけで就職希望者が大勢集まってくる。
結果、就職後に「希望していた仕事内容ではなかった」「仕事量が多すぎる」というような不満を抱く人が大勢あらわれ、大量離職につながるのである。
結局のところ、良好な職場環境を実現していたとしても、それが1人ひとりの転職者にとって働きやすい職場なのかどうかはわからないということだ。
魅力的な職場環境がどこかの企業にあったとしても、それは定着率で判断できるものではない。離職率や定着率などの指標は、会社選びでは参考程度にしかならないと考えるべきだろう。
ただし、小さな企業で、離職率が高いケースには疑いの眼差しを向けたほうがいい。
その要因がどこにあるのかも気になるところだが、小企業や零細企業で離職率が高いと、最悪の場合、会社の存続に深刻な影響を及ぼすことになる。
新天地は、末永く勤められる会社を選ぶことを優先したい。
会社選びのポイント② 福利厚生よりも、実質的な労働時間に注目すべき
福利厚生の充実ぶりも、定着率と同じように、転職希望者が着目する指標の1つになっている。
福利厚生には、法定福利厚生と法定外福利厚生がある。法定福利厚生とは、社会保険料や厚生年金保険料の負担など、法律で定められた福利厚生である。
一方の法定外福利厚生には、住宅手当や社員寮の提供、健康診断をはじめとする健康サポート、社内食堂を通じた食事の補助、社内サークルの運営補助、保養所やリゾート施設の利用優待、慶弔費の支給、特別休暇制度、キャリアアップ支援などがある。
企業によって大きく異なるのは、後者の法定外福利厚生である。だが、法定外福利厚生に力を入れている会社がいい会社かといえば、そこには疑問がある。
企業が給与待遇や福利厚生を拡充するのは、突き詰めれば、それが利益につながるからだ。離職を防ぎ、一生懸命に働いてもらわなければ利益を上げることはできない。
一方で、持続的な発展を目指すには、1人でも多くの社員に長く働いてもらう必要がある。そうした視点から、休暇をしっかり取ってもらわなければならないし、健康管理に取り組んでもらう必要もある。
こう書くと、企業は利己的で冷徹な存在だと思うかもしれない。しかし、経営者が利益拡大に積極的に取り組まなければ、好業績を上げながら待遇アップを実現することはできない。
ただし、企業が本気で社員を大切にしたいなら、優先して取り組むべきは、やはり労働環境の整備だと私は考える。
福利厚生がどんなに充実していても、長時間労働を強いられたり、休暇を取りづらい雰囲気が漂っているような労働環境では、社員一人ひとりが働きやすさを実感できるはずがない。
したがって転職希望者には、福利厚生の手厚さに目を奪われることなく、その企業が働きやすさの実現にどう取り組んでいるかという、本質的な問いを持ってほしい。
特に実質的な労働時間に注目することが肝心だ。就業規定や休暇制度を確認するのは言うに及ばず、過重労働を抑制するための取り組みなども調べてみると、労働環境の整備改善に対する会社の本気度が見えてくる。
女性の転職希望者の場合は、出産休暇や育児休暇、育児時短勤務など、ライフイベントに関わる制度の充実ぶりは会社によって大きく異なるので、あらかじめ詳しく確認しておいたほうがいい。
会社選びのポイント③ 自由を与えて社員を大切にしているか
転職先候補の企業が社員の働き方をどう考えているか知ることは、転職を成功させるために極めて重要だ。
私が考える働きやすい会社とは、「社員の人格を認めて、社員に最大の自由を与えている会社」だ。
である。一言でいえば、「社員を大切にする企業」である。
「自由」は、1人ひとりが幸せを実感しながら人生を歩んでいくために、最も基本的かつ重要な要素である。
しかし、ともすればビジネスパーソンは、組織の一員という立場に縛られ、私生活にも口出しされながら、会社優先で生きていかなければならない。
経営層や管理職が社員に対して「俺のいう通りにやれ」と、無理難題を強要することもある。実際、社則を盾に、服装や髪型、靴にまで難癖をつける会社もあると聞く。
給与待遇で満足できても、そんな経営者の下で働けば、日々、重圧のなかに身を置くことになるのは目に見えている。そんな会社に入社したら、やりがいをもって仕事に打ち込むことはできないだろう。
自由がはっきりと認められている会社は風通しがよく、社員に対してチャレンジの機会を積極的に与えてくれるものだ。
とある会社と協働して進めるプロジェクトの打ち合わせがあり、その会社を訪問したときのことだ。打ち合わせに参加したのは、同社の社長と企画の責任者Aさんだった。
プロジェクトメンバーの人選と役割分担について話し合っていると、その社長が、その場にいないBさんについて、「彼を、このセクションに入れようと思っているんです」と話した。
すると驚くことに、Aさんは社長の言葉を遮るように、「社長、プロジェクトチームの編成は私がやっているので、メンバーの配置は私に任せてください」といったのである。それに対して社長は「そうだったな」といって、それ以上口出しすることはなかった。
このやりとりを驚きの眼差しで見ていた私だったが、「これはいい会社だ」と思った。
一社員が、平気で社長に反対意見をいえるのは、社長が社員を尊重し、1人ひとりの自由を大切にしているからにほかならない。
そうした職場環境が確立しているからこそ、社員は自律的に仕事に取り組み、事業の拡大に力を注ぐようになるのだ。
転職を機に一段成長したい、新天地で大いに力を発揮したいと考えるなら、目指すべきは自由な社風がある会社だ。
職場で上司のいうことに服従しながら、小さくなって過ごすというような生き方は、誰も望まないはずだ。
会社選びのポイント④ 社員が“さん付け”で呼び合っているか
では、自由な社風であるかどうかをどのように判断するかだが、私の場合は社員同士のコミュニケーションに着目している。
地位や立場にかかわらず“さん付け”で呼び合う文化がある企業なら、大いに期待できるというのが私の見立てだ。
ソニーがそういう会社だった。セクハラなどという言葉が生まれるはるか以前から、男性社員は女性社員に対する言動を厳しく教育された。また、管理職は部下への接し方を厳しく教育され、相手が誰でも“さん付け”で呼びかけ、敬語で話すことがルールになっていた。
もっとも、自由な社風にこだわって選んだ転職先であったとしても、転職後は率先して組織に溶け込む努力が求められるのは言わずもがなだ。
また、社風が自由であるからといって、どんな立ち回りをしてもいいというわけではない。
自由が許される一方で、明確な成果を求められるのが今どきの会社であるということは、心に留めておきたい。
会社選びのポイント⑤ 急成長している会社は避けたほうがいい
急成長している会社を避ける――これも転職先を探す際の重要な留意点だ。
売上げを倍々ゲームで伸ばしているような会社は一見、羽振りがよさそうに見える。しかし、急成長したのであれば、急降下する可能性もある。
一時的なブームで成長を遂げても、いつの間にか業績が悪化しているという企業のケースは、数えきれないほど多い。
転職するのであれば、やはり長期にわたって業績が安定している企業を選ぶことが肝要だ。
例えば、さほど大きな規模でなくても、中途採用で50人も募集するような会社はたくさんある。そういう会社には注意を要する。
無理して業績を伸ばしている場合が多いので、入った転職者は、あとで相当に苦労することになる。
経営者と従業員が一丸となって地道に努力して、少しずつ儲かっていくというのが、会社の正しいあり方なのだ。そこで少し欠員が出てしまったから、その分を補充しようという会社が、転職先としては一番よい。
人さえたくさん入れば儲かる、というような会社は最初からよくない。急成長している会社は、往々にして社員を大事にしない傾向がある。
そんな会社では、社員は使い捨てにされてしまうのがオチだ。
会社選びのポイント⑥ 転職先の候補に迷ったら“直感”で決めていい
ここまで転職先の会社選びに役立つ情報について述べてきた。不確かな情報に惑わされず有用な情報を豊富に集めることができれば、転職活動にプラスになるのは間違いない。
ただし、転職先候補となる会社が複数ある場合、今度はどんな観点から候補を絞り込めばいいかが問題になる。手元の情報が多いほど、迷いはかえって大きくなるものだ。
そんなときは、いったん頭をリセットするといい。「どの会社も似たようなもの」と考えてみるのだ。
そのうえで、はっきりと好感を持てる要素が見つかった会社があるなら、転職を考えてみてはいかがだろうか。
会社の内情を徹底的に調べ上げたとしても、そもそも、その情報は会社の一面をあらわしているに過ぎない。条件のよさがはっきりしても、自分自身が腰を据え、やりがいを持って働けるかどうかは別問題だからだ。
その答えがはっきりするのは、入社して、組織の一員として働くようになってからである。そこで細かく考えるのはやめて、「ここがいい」と思える要素が1つでもある会社を選んで先に進むのだ。
基本的に、10年以上続いている日本企業の99%はいい会社だと思っていい。だからこそ、会社は直感で選んでもいいのだ。
私はこれまで3000人以上の転職を見てきたが、うまくいった転職は直感で決めたものが多い。
一方、転職先がなかなか決まらない人や、入社後にトラブルを起こして再び転職活動をしなければならなくなる人には、徹底してデータを集めて転職先を調べ上げようとする傾向がある。
しかし、さまざまな情報を見比べるうちに、自分がなぜ転職しようと思ったのか、転職先でどんなことをしたいと思ったのかがわからなくなるのではないだろうか。
もしかしたら、転職に成功する人が直感的に見出している転職先のいいところが、データを調べ上げてから決めようとする人には見えづらくなるのかもしれない。
科学的な根拠があるわけではないのだが、長年、転職希望者を見てきた経験から、こうした傾向が存在すると私は確信している。
転職活動でやってはいけないことを徹底解説している一冊
「よい会社は、定着率や福利厚生ではわからない」「転職先に迷ったら、直感で決めていい」。郡山さんが明かす転職の心得は、目からウロコの連続でした。
これらの会社選びのポイントをもとに、しっかりと候補の会社と向き合うことで、転職の失敗は防げそうです。
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