ビジネスパーソンインタビュー

転職市場は“売り手市場”ではない。人材紹介のプロが明らかにする「転職市場の真実」

大企業は、人はいるのに欲しい人材が足りてない

転職市場は“売り手市場”ではない。人材紹介のプロが明らかにする「転職市場の真実」

新R25編集部

2020/02/21

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転職市場は売り手市場といわれる昨今。

世の中の流れに乗って、年収アップの実現や、仕事のマンネリ化を打破するために、転職をお考えの人も多いのではないでしょうか?

ですが、ちょっと待った。人材紹介会社を経営し、3000人以上の転職をサポートしてきた郡山史郎さんは、「今を『売り手市場』と勘違いしてはいけない」と主張しています。

企業は人手不足で、転職希望者は引く手あまた。そんなイメージを覆す「転職市場の真実」を、転職のリアルな極意が詰まった郡山さんの著書『転職の「やってはいけない」』から抜粋してご紹介します。

【郡山史郎(こおりやま・しろう)】株式会社CEAFOM代表取締役社長。1935年生まれ。一橋大学経済学部卒業後、伊藤忠商事を経て、1959年ソニー入社。1973年に米国のシンガー社に転職後、1981年ソニーに再入社し、取締役、常務取締役、ソニーPCL社長、同社会長、ソニー顧問を歴任。2004年、プロ経営幹部の派遣・紹介をおこなう株式会社CEAFOMを設立し、代表取締役に就任。人材紹介のプロとして、これまでに3000人以上の転職・再就職をサポートしてきた。著書に『転職の「やってはいけない」』 (青春出版社)、『定年前後の「やってはいけない」』(青春出版社)などがある

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統計的には、転職市場は「売り手市場」に見える

今、転職市場は「売り手市場」、つまり職を求める人に有利な状況といわれている

厚生労働省が発表している「一般職業紹介状況」の「有効求人倍率」は2019年8月の数値で1.59倍。

有効求人倍率とは、ハローワークで1人の求職者に対してどれだけ求人があったかを示す数値で、1を上回れば売り手市場、下回れば買い手市場とされている。

2017年4月に、バブル期のピークであった1990年7月の1.46倍を上回ってから現在まで、有効求人倍率は高水準をキープ。新聞やニュースでは「空前の売り手市場」「バブル期以降最高の売り手市場」などと報道されている

しかし、人材紹介会社を経営し、実際に転職の現場に立っている私自身は、「空前の売り手市場」「企業の採用熱」といったことはまったく感じていない

確かに一部の20代、30代にとっては売り手市場である。有効求人倍率が示すように求人自体も少なくない。私の会社にもいろいろな会社から「こういう人が欲しい」という注文がたくさん来る。

ところが、TOEICの点数800点以上が最低条件など、求められるスキルが非常に高いのだ。

そのため、その企業に合いそうな人を紹介できなかったり、紹介できたとしてもなかなか採用に結びつかなかったりすることも多い。

普通の人は、今の状況を「売り手市場」と勘違いしてはいけない

企業側もそんな優秀な人間は転職市場に出てこないことを承知で、人材紹介会社に「一応求人だけ出しておく」のである。

求人しておいて採用者が決まらないまま半年も1年も経過するというのも珍しくない。

つまり、そのポジションに人がいなくても、その会社はまわっているということだ。

大学入試とは違い、募集したからといって必ずしも一定枠を採用する必要もない。若くて優秀な人ならばぜひとも採用したいが、バブルの頃のように誰でもいいから人手が欲しいわけではないのである。

そのうえ今、日本経済は成長しておらず、ほとんどの企業が守りに入っている。採用には1人当たり約50万円のコストがかかるといわれており、できるだけ採用コストを圧縮したいというのが企業の本音だ。

つまり、今は「求人票はあるけれど、実際の求人はない」 という不思議な現象が起きているのだ。

だから、企業の採用熱が特別高いわけではない。私にいわせれば、今は単に「転職市場」が活気を帯びているだけ

転職市場が活況なのは、1つには求人サイトや転職フェアをやると儲かる企業があるからだ。それもそういう企業が一生懸命に旗を振っていて、実態以上に盛り上げている感がある。

優秀で伸びしろのある一部の20代、30代の転職希望者にとっては、確かに「売り手市場」といえる。しかし、それ以外の普通の人は、今のこの状況を決して「売り手市場」と勘違いしてはいけないのだ。

大企業は「人はいるのに欲しい人材が足りていない」

売り手市場といわれる際、その理由として挙げられるのが「少子高齢化による人手不足」「2020年の東京オリンピック・パラリンピックによる人材需要アップ」だ。

確かにこの2つの要因が有効求人倍率を押し上げている面はあるだろうが、だからといってこれらが転職市場に影響を与えているとか、以前よりも転職しやすくなっているということはない。

その理由は、少子化やオリンピック需要で人手不足になっているのは労働集約型の職種が中心で、これらは求職者から避けられる傾向にあるからだ。

例えば、オリンピック需要として真っ先に思い浮かぶ職種としては建設業、そして海外からのお客様が増える、いわゆるインバウンド需要によるホテルやレストランなどのサービス業が挙げられる。

厚生労働省が発表した2019年6月の「一般職業紹介状況」によると、「飲食物調理の職業」「接客・給仕の職業」などを含む「サービスの職業」の有効求人倍率(パートを除く。以下同)は2.99倍。「建設・採掘の職業」は5.43倍、そのうち「建設躯体工事の職業」に至っては11.59倍である。

つまり、1人の求職者に対して11以上の求人があるのだ。確かにこれらの職業に就きたい人にとっては、「超売り手市場」といえる。

対して、知識集約型である「一般事務の職業」「会計事務の職業」などを含む「事務的 職業」では、有効求人倍率は0.43倍。こちらは完全に「買い手市場」、つまりは採用する側に有利な状況だ

では、東京オリンピックが決定する前の2013年8月の数字を見てみよう。「サービスの職業」の有効求人倍率は1.26倍、「建設・採掘の職業」は2.34倍。「事務的職業」は0.22倍となっている。

つまり、オリンピック開催決定前でもあとでも、もともと売り手市場の職種は売り手市場で、買い手市場の職種は買い手市場なのだ

あわせて企業の規模別の求人状況も見てみよう。

2019年6月の「一般職業紹介状況」の「規模別一般新規求人」(新卒・パートを除く)によると、ハローワークに最も多くの求人を出しているのは従業員数29人以下の企業で、求人数は35万9991件。対して、従業員数1000人以上の企業からの求人数は6251件、約60分の1だ。

有効求人倍率の高水準を支えているのは中小企業で、大企業に入りたいと思えば、そこは狭き門であることには変わりない。

こうした現状を踏まえて考えると、少子高齢化による人手不足という理由についても、首を傾げざるを得ない。

では、買い手市場であるはずの大企業は人手不足で困っていないかというと、そうではない。

実は今、大企業では「雇用のミスマッチによる人材不足」が起きている

「雇用のミスマッチ」とは、求職側と求人側とのあいだでニーズが一致すると思われたため、一度は雇用に至ったものの、あとから不一致や食い違いが発覚することをいう。

建設業界や飲食業界で起きているのは、求人を出すものの応募が1人もないという「物理的な人手不足」だが、大企業はそれとは別の「人はいるのに欲しい人材が足りていない」という問題が起きているのだ。

つまり、企業に求められるような人材でない限りは、何社受けても絶対に採用されないということだ。

「人手不足」のニュースを見聞きして、「今こそ転職のチャンス」などと思ってはいけない。

今の企業は適応能力がある「即戦力」を求めている

では、「企業にとって役に立つ有能な人材」とはどんな人材だろうか? それはズバリ、「即戦力になる人間」である。

なぜ企業が即戦力を求めるかというと、今、企業は社員を育てる余裕がないからだ。

即戦力として転職してきた人材は、仕事を一から教える必要がないし、入社したら「即」とはいわないまでも、短期間で会社に貢献してくれる。

仮に雇用のミスマッチが発覚して辞められたとしても、新人を育成したときのようにコストも時間もかかっていないので、ダメージが少ない。

「即戦力」というと、専門的なスキルや豊富な経験がある、特別な資格があるといったことをイメージするかもしれないが、それだけではない。

もちろんスキルや経験、資格があるに越したことはないが、即戦力には「適応能力がある」「コミュニケーション能力がある」といった「社会人としての心構え、態度」も含まれている

いくら経験豊富でも、入社したその日から戦力として働ける人はいない。

経理のような特別なスキルなら、職場が替わってもすぐに1人で仕事がこなせる場合もあるだろうが、 それ以外はたとえ同じ職種であっても、会社が替われば仕事のやり方が違うものだ。

新しい職場に馴染もうとし、その会社のやり方を早く覚えようとする「適応能力」、仕事を指示する上司や一緒に仕事をする同僚との信頼関係を早く築くための「コミュニケーション能力」といったことも、企業では重要視しているのだ。

いや、スキルや経験よりもむしろ、適応能力やコミュニケーション能力のほうを重視しているといってもいい

同じ年齢で、高いスキルと豊富な経験を持つがコミュニケーション能力に欠けるAさんと、スキルと経験ではAさんに負けるが適応能力やコミュニケーション能力が高いBさんという2人の候補者がいたら、採用担当者は間違いなくBさんを選ぶだろう。

希望と根拠を伝えれば、年収アップなどを実現できる可能性は大いにある

採用というと企業が求職者を選ぶ、つまり、企業側が優位だというイメージがあるかもしれない。

しかし、本来求人側の企業と求職者は対等な関係である

「労働」は日本人にとって義務であり権利でもあるので、両者が対等であることは法律でも保障されている。

労働基準法第2条には「労働条件は、労働者と使用者が、対等の立場 において決定すべきものである」「労働者及び使用者は、労働協約、就業規則及び労働契約を遵守し、誠実に各々その義務を履行しなければならない」としっかり明記されている。

だから、採用では企業ばかりが欲しい人材の条件を挙げているように思うが、求職側も自分の権利や希望を述べてよいのである。

もしその希望に合わなかったら入社しなくてもいいし、希望を主張すれば企業がそれに合わせて条件を譲ってくることもあるからだ。

転職に成功した人のケースを紹介しよう。転職希望のITエンジニアAさんを、私が経営する人材紹介会社のクライアント企業B社に紹介した。

Aさんは面接の際に希望年収を聞かれたので、前職での年収を踏まえながら、希望年収とその根拠となる「前職で担当のクライアントの売上げを2倍に伸ばした」という実績を話した。B社からは前職の年収より50万円アップで内々定が出たという。

ところが、Aさんはほかの人材紹介会社を通じてC社の面接も受けていた。C社からも希望する年収を聞かれ、B社で出された給与の話をすると、うちは前職より100万円アップした年収を出す、という。

C社に行くことを決め、B社に内定辞退の報告に行くと、その理由を問われた。正直に答えたところ、「だったら、うちはもっと出す」とB社からさらによい条件を提示された。

C社にその話をすると、さらによい条件が出され、結局、前職の年収の200万円アップでC社に行くことが決まったのだ。

もっともAさんは、それほど多くの年収アップを望んでいたわけではなかった。C社に入社を決めたのは、その熱意にほだされたからだという。

しかし結果的に、自分の希望を伝えたことで、いい方向に転んだというわけだ。

日本人は交渉下手なので、面接で希望年収を聞かれても「御社規定に従います」などと答えがちだ。しかしAさんは希望年収とその根拠を述べたことで、年収の大幅アップに成功した。

こういったケースを見ていると、今は誰にとっても「売り手市場」ではないけれども、決して企業側が圧倒的に優位な「買い手市場」でもないことがわかる。

大企業でも雇用のミスマッチによる人材不足であることも既述の通りで、企業はやはりいい人材は欲しいのだ。そもそも企業は人を新しく補充していかなければ存続できない。

だから、転職は企業側にアドバンテージがあるように見えて、実は求職者の論理で成り立っている。企業は求職者に選ばれなければ、求職者を選ぶことができないからだ。

今は求人がたくさんあるのだから、転職希望者はそのなかで自分の条件が合うところに入ればいい。

自分も相手の条件を満たしていれば、相手はさらに条件をよくしてくれることもある。いくつか話が来ているのなら一番条件のいいところに行けばいい。

このように求人側と求職側は対等であり、双方の歩み寄りがあるので、上手に転職活動をすれば非常にいい条件で転職できる可能性は大いにある。

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転職活動でやってはいけないことを徹底解説している一冊

求職者からすると、どうしても企業側が有利だと思いがち。郡山さんの「双方は対等な関係だ」という指摘にハッとさせられます。

年収アップなどの好条件を勝ち取るには、「売り手市場」「買い手市場」という言葉に惑わされず、まずは自分が求められている場所を見極めることが大切になりそうです。

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