ビジネスパーソンインタビュー
甘く見てる会社員にはリスクも…!?
「働き方改革」って何が変わる?残業は減る? 関連法案の中身を専門家がわかりやすく解説
新R25編集部
2019年4月から始まっているらしい「働き方改革」。しかし実際に働き方の変化があったかというと、あまり実感できていないのが正直なところ…
そこで今回は、「働き方改革の内容」や「会社員が注意すべきポイント」について、専門家に取材しました。
教えてくれるのは、働き方改革総合研究所株式会社・代表取締役の新田さんです。
新田さんによれば、働き方改革を甘く見ている会社員にはリスクがあるのだとか…!?
【新田龍(にった・りょう)】働き方改革総合研究所株式会社代表取締役、ブラック企業アナリスト。労働環境改善のコンサルティングやブラック企業関連のトラブル解決などをおこない、多数のメディアで労働問題を語っている。著書に『ワタミの失敗~善意の会社がブラック企業と呼ばれた構造~』(KADOKAWA)や『人生を無駄にしない会社の選び方』(日本実業出版社)などがある
「働き方改革」とは、働き方の問題を解決するための法整備
いちかわ
そもそも「働き方改革」って何のことなんですか?
新田さん
ざっくりいうと、働き方の問題を解決するための法整備のこと。厚生労働省のWebサイトでは、次のように説明されています。
https://www.mhlw.go.jp/content/000474497.pdf「働き方改革」は、働く方々が、個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を、自分で「選択」できるようにするための改革です。
いちかわ
“ブラック企業”の問題なんかもよく話題になってますもんね。これまでよりもみんながラクになりそうです。
新田さん
確かにこれだけ見ると、「従業員を甘やかしてくれるものだ」と捉えてしまう人もいそうですが、それは誤解です。
いちかわ
そうなんですか?
新田さん
もちろん残業時間が減るなどのメリットは期待できますが、政府側の大目的は、“少子化による労働力不足”の解消です。
法整備をおこない、長時間労働などの問題を解消して国民の生産性を上げることを狙ってるのが働き方改革なんです。
いちかわ
そんな背景があったんですね…! 実際にはどんなところが変わるんでしょう?
新田さん
ポイントは3つあります。
ポイント①:残業時間の上限設定(時間外労働の上限規制の導入)
ポイント②:有給休暇を取得させる義務付け(年次有給休暇の時季指定)
ポイント③:不合理な待遇差の禁止(同一労働同一賃金)
新田さん
これだけだとわからないと思うので、それぞれについて解説していきましょう。
働き方改革のポイント①:残業時間の上限設定
新田さん
1つ目の変化は、残業時間の上限が明確に定められたことです。これまでは、しかるべき手続を踏めば、実質いくらでも残業させ放題な状態だったので、これは大きな変化といえます。
一方で注意点もあります。会社員は、短時間で業務をこなすことが求められるので、仕事の仕方を見直す必要が出てきます。
「残業時間の上限設定」の詳細
・2019年4月から大企業を対象に施行、2020年4月からは中小企業に対しても施行
・残業時間の上限が下記の通り定められた
原則 | 特別な事情があり、労使が合意する場合 |
---|---|
45時間/月 360時間/年 | 100時間未満/月 平均80時間以内/複数月(※) 720時間以内/年 |
(※)「2カ月平均」「3カ月平均」「4カ月平均」「5カ月平均」「6カ月平均」がすべて1月当たり80時間以内になるようにしなければならない
働き方改革のポイント②:有給休暇を取得させる義務付け
新田さん
2つ目は、労働者が有給休暇(有休)を取りやすくなったこと。有休消化をさせるよう企業側に義務付けられたんです。
職場への配慮などを理由になかなか有給が取れない人もいるので、その場合は「この期間で休みを取ってください」と企業が時季を指定することも可能になりました。
「有給休暇を取得させる義務付け」の詳細
・2019年4月より施行
・年に10日以上の有給がある人は、毎年最低5日は有給消化することが義務づけられた
・労働者の申し出による有給取得はもちろん、使用者(企業)が時季を指定して取得させることもできるようになった
・すでに5日以上の年次有給休暇を請求
・取得している労働者に対しては、使用者による時季指定はできない
働き方改革のポイント③:不合理な待遇差の禁止
新田さん
3つ目の変化は、「同一労働同一賃金」。正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間で、不合理な待遇差が禁止されます。
「正社員の自分には関係ない」と思う人もいるかもしれませんが、場合によっては正社員でも、手当金がなくなる、成果を出していない人の給与が下がるといったケースが出てくるかもしれません。
「不合理な待遇差の禁止」の詳細
・2020年から施行
・正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間で、基本給や賞与などの個々の待遇ごとに、不合理な待遇差を設けることが禁止される
・非正規雇用労働者は、「正社員との待遇差の内容や理由」など、自身の待遇について説明を求めることができる
働き方改革で変わる世の中を生き抜く方法
いちかわ
正直、「残業時間が減った」などの変化について実感はないんですが…実際のところ、ちゃんと変わってるんですか?
新田さん
働き方改革は今が過渡期なので、現状では変化を感じにくいかもしれません。
しかし、これまで見過ごされてきた大手企業の違法残業が大きなニュースになったり、飲食業界でも年末年始に休業する動きが出てきたりと、少しずつ変わっている気配がありますね。
5~10年後には大きな変化になっているはずです。
いちかわ
その変化に向けて、今から準備しておくべきことってありますか?
新田さん
はい。変わる世の中を生き抜くコツをお伝えしましょう。
働き方改革のなかを生き抜くポイント①:生き残れる企業を見極めよう
新田さん
ブラック企業に限らず、儲からない事業にしがみつき、社員の残業でなんとかカバーしているような会社は、これから生き残れなくなります。
いちかわ
企業は収益を保ちながらも、労働時間を減らさないといけないんですもんね。
新田さん
働き方改革の本質は、「儲かる事業をやっていい労働環境にしよう」という「ビジネスモデル改革」です。
個人としては、そうやって生き残れるような企業を見極めておくことが必要でしょう。
いちかわ
たとえばどんなところですか?
新田さん
業界でいうと、今後も伸びていきそうなのは、IT・Web業界です。
日本のWeb業界は、2020年には47兆円もの市場規模になると予想されていて、これは10年間で約4.5倍に拡大している計算になります。
雇用者数も増えて、優秀な人材の争奪戦になることから、各社が良い労働環境づくりに努めています。
いちかわ
逆に、これから厳しい業界はありますか?
新田さん
長時間労働に頼りがちな「労働集約型」の業種は、基本的に厳しくなっていきます。たとえば、飲食・宿泊などのサービス業、物販など小売接客業、運送物流業などです。
いちかわ
でも、労働集約型の業界にいる方はたくさんいますよね。その方々はもはや転職するしかないのか…
新田さん
必ずしも労働集約型の業界がダメというわけではありません。個々の企業がどんな改革に取り組んでいるかで判断しましょう。
たとえば、労働集約型の業界で経営改革に成功した企業として「ワークマン」があります。
〈「ワークマン」とは〉
元々は小売店だったが、店舗運営をフランチャイズ化して、本部は商品開発や店舗運営支援に特化した。その結果、高収益を実現。現在は作業関連用品チェーンで日本最大手に。
新田さん
もし経営者に改革の姿勢が見られない場合は、転職を考えてもいいでしょう。そのほかの業界でも、成長の余地があるかをよく考えてもらいたいですね。
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働き方改革のなかを生き抜くポイント②:「ひとり働き方改革」を実行しよう
新田さん
これからは会社員に求められる生産性の水準も上がってきます。
ダラダラ時間をかけて「残業前提の間延びした仕事」をしていた会社員にも、短時間で仕事をこなし「定時までに絶対に仕事を終わらせる」という、本来あるべき姿が求められます。
いちかわ
それは大変そうですね…
新田さん
そこで「ひとり働き方改革」実行しましょう。“株式会社自分”という企業を経営しているつもりで、時間内に価値の高い仕事をやりきることを意識するんです。
いちかわ
自分の働き方を見直すわけですね。
新田さん
たとえば、メールを受信トレイに溜め込まず、「返信する」「削除する」「後で時間をとって対応する」と決めてすぐ処理するなどで、事務作業の生産性は何倍にも高まります。
いちかわ
なるほど。ただ、自分だけ「ひとり働き方改革」を実践するのは気まずい気もします…
新田さん
たしかに「上司たちが残っているのに、先に帰るのは気が引ける」と思うことはありますよね。
でも、まずは自分の工夫から始めて「こんなやり方で残業時間を減らせました!」と周囲に伝えれば、働き方改革のモデルケースにもなります。
そのうえで、部署内の余計な手作業をシステム化したりと、上司も巻き込みながら効率化できるといいですね。
いちかわ
まずは自分の働き方から変えて、それをまわりに広げていくことで気まずさを消すってことですね。
新田さん
そういうことです。国が主導で働き方を変えようとしていますが、働き方改革は与えられるものではなく、我々自身が実現していくもの。
経営者はもちろん、管理職なら「部署のタスクを棚卸しして、効率的な職場環境をつくる」、会社員なら「生産性を上げ、定時までに仕事を終わらせる」ことが大切です。
まずは「残業せずに仕事が終わるはずない」という意識を変えることから始めたいですね。
これから大きな変化が期待できそうな「働き方改革」。
余暇が増えるメリットを享受するには生産性を高める必要があり、決して甘いものではないことがよくわかりました。
自分ごととして生産性を高める働き方を意識しつつ、充実した仕事ができるよう、工夫していきましょう!
〈取材・文・撮影=いちかわあかね(@ichi_0u0)/編集=葛上洋平(@s1greg0k0t1)〉
「働き方改革」の実現に向けて|厚生労働省
「働き方改革」の実現に向けてについて紹介しています。
厚生労働省による、働き方改革に関する取り組みはこちらから確認できます。
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