ビジネスパーソンインタビュー
パワハラか否かを判断するキーワードは「優位性」
「パワハラの定義と対策」を人気産業医がわかりやすく解説! デキる先輩に相談しないほうがいいとは!?
新R25編集部
目次
- そもそも「パワハラ」という言葉の定義とは? ポイントは「職場内の優位性」にあり
- 近年のパワハラは3タイプ。事例とともに自分の状況が当てはまってないかチェックしよう
- 「昭和残存型」パワハラ
- 「不安表出型」パワハラ
- 「マウンティング型」パワハラ
- パワハラを受けないようにするにはどうすべき? タイプ別パワハラ対策をチェック
- 「昭和残存型」パワハラ対策
- 「不安表出型」パワハラ対策
- 「マウンティング型」パワハラ対策
- パワハラを訴えるためのポイントは「証拠」と「客観性」
- パワハラを訴えるためのポイント①「証拠はあるか」
- パワハラを訴えるためのポイント②「客観性はあるか」
- 「信頼できる先輩」にパワハラを相談するのはやめた方がいい!?
- パワハラについてもっと知りたい人はこちらもどうぞ
- そもそもパワハラが横行してる会社を選びたくない人はこちらもどうぞ
- 転職を考えている方はこちらもどうぞ
近年、ニュースなどでよく世間を騒がせている「パワハラ」。
ただし、「指導が加熱した結果だ」と主張する人もいるなど、その線引きは難しいのも事実。
働き盛り世代ど真ん中の身として、自分の身を守るためにも、あらためてパワハラとはなんなのか、その定義や分類、対策などについてチェックしておくべきでしょう。
ということで、人気産業医としてこれまで1000件以上のパワハラ相談を受けてきた実績を持つ大室正志さんにお話を聞いてきました。
〈聞き手=ライター・いちかわあかね〉
【大室正志(おおむろ・まさし)】産業医科大学医学部医学科卒業。産業医実務研修センター、ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社統括産業医を経て、現在医療法人社団同友会 産業保健部門 産業医。現在日系大手企業、外資系企業、ベンチャー企業など約30社の産業医業務に従事
そもそも「パワハラ」という言葉の定義とは? ポイントは「職場内の優位性」にあり
いちかわ
先日、友人が「上司のパワハラが許せない…!」と憤慨していたのですが、よくよく話を聞くと「それって本当にパワハラなのかな?」と思うこともあって。はっきり基準を設けて診断するのって難しいですよね。
大室さん
市川さんにとって、パワハラという言葉にどんなイメージを持っていますか?
いちかわ
「上司から部下に対する嫌がらせ」というイメージでしょうか。
大室さん
世間ではそういったイメージを持つ人は多いですよね。
でも、パワハラは必ずしも「上司から部下」に対してだけのものではないんです。
大室さん
パワハラの定義は国によって定められているんですが、覚えておくべきは「職場内での優位性」を背景としているという点です。
いちかわ
優位性、ですか。
大室さん
そうです。パワハラとは、カンタンに定義すると「職場内の優位性を武器にした嫌がらせ」。
だから、部下から上司に対しても起こりえます。たとえば、新しく部署に異動してきた上司に対して、部下が「こんなことも知らないんですか?」と罵倒したとしますよね。それも診断によってはパワハラになりえるんです。
近年のパワハラは3タイプ。事例とともに自分の状況が当てはまってないかチェックしよう
厚生労働省のHPによると、パワハラの種類は6つに分けられるとされています。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000126546.html職場のパワーハラスメントの6類型
1)身体的な攻撃
暴行・傷害
2)精神的な攻撃
脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言
3)人間関係からの切り離し
隔離・仲間外し・無視
4)過大な要求
業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害
5)過小な要求
業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと
6)個の侵害
私的なことに過度に立ち入ること
なお、これらは職場のパワーハラスメントに当たりうる行為のすべてについて、網羅するものではないことに留意する必要があります。
大室さん
パワハラの変遷は「セクハラ」のそれに近いと思うんです。
セクハラが問題になった当初は、女性のお尻を触るような上司がいたわけです。それから時代が変わると、今度は卑猥な質問をすることがNGとなりました。さらに基準が変わって今では「子どもを作る予定は?」という質問も問題視されています。
いちかわ
「行動のセクハラ」から「言葉のセクハラ」が注目されるようになったんですね。
大室さん
パワハラも同じで、かつては「部下の胸ぐらを掴む」といったわかりやすい行動が中心でした。
しかし、今ではかつてのようなわかりやすい“パワハラ上司”や“セクハラ上司”がいなくなってきたことで、診断の基準が難しい事例も多くみられるようになってきたんですよ。
大室さん
そこで僕は、最近よくあるパワハラのタイプを大きく3つに分けています。それぞれ説明していきますね。
「昭和残存型」パワハラ
昭和から続く風習に固執している人や、企業で多く見られるタイプがこのパワハラに当てはまるそう。
事例)「若手がやるべき」という押し付け
外回りの営業や飲み会でタクシーを呼ぶこと
や、
飲み会の席でお酌をすること
を強要される。「若手がやるものだから」と言われるが、腑に落ちない。「後輩だからいじってもいい」と思っているのか、飲み会のたびに上司からいじられるのも苦痛。
大室さん
「昭和残存型」は、体育会系に見られるような伝統的なパワハラです。
先輩が後輩に言う「俺の分の弁当買ってこいよ」という事例も、「若いうちはそういうこともするもんだ」と、もはや伝統芸のような扱いになってるんですよね。
いちかわ
執拗な「いじり」をする上司もこのタイプですか…?
大室さん
いじるという行為は、本来は信頼関係のうえに成り立っているわけですよね。
それを「上の者は下の者をいじっていいんだ」と決めつけてやっている場合は、昭和残存型に当てはまるでしょうね。
大室さん
ちなみに、この昭和残存型は一流企業でもよく見られるパワハラなんです。
いちかわ
そうなんですか?
大室さん
盤石の経営基盤を持った会社の経営層を想像してみてください。
業績が好調なら、「社内の体制を変える必要はない」と考えますよね。その結果、昭和からの風習は変わらずに残りつづけるわけです。
いちかわ
なるほど…! 変化を怖がる環境ではパワハラが起こりやすいんですね。
大室さん
たとえば、商社や広告業界、省庁といった流動性の少ない業界では、定期的にパワハラが問題になりますよね。
これは、その業界でトップを走る企業の「上の人は絶対」といった伝統が、現代の価値感にそぐわなくなったからだと思います。
「不安表出型」パワハラ
仕事における不安な気持ちや、プレッシャーに耐えきれず突如爆発してしまうのがこのタイプだそう。
事例)人前での叱責
ほかの社員の目の前で、大声で叱責された。さらには「
こんなこともできないなんて、本当にどうしようもないやつだな
」と人格を否定するような言葉まで言われた。
大室さん
最近このタイプのパワハラは、もっとも増えていると言われていますね。
いちかわ
不安表出型のパワハラが増えた理由は何なのでしょうか?
大室さん
近年、年功序列がなくなり、ポジションが流動的になっている企業が増えていますよね。
そうなると「部下に先を越されるんじゃないか」というように、自分の立場に不安やプレッシャーを感じる人が多くなっているんですよ。
いちかわ
それがパワハラという形で爆発してしまうんですね…
「マウンティング型」パワハラ
自分の優位性を見せたい意識が強い人に多く、わかりやすいのは後輩にマウンティングをしてくるケースだそう。
事例)キツイ言い方の指導
上司に頼まれていた文書作成。提出したら、「
お前がつくった資料で使えるの、この『、』」しかなかったわ
」とすべて赤で直され、ロクなフィードバックももらえなかった。
大室さん
これは先ほど紹介した「昭和残存型」や「不安表出型」と違って、まわりにわからないようにやってくるので、訴えるのが難しいケースも多いんです。
例にあげたケースでも、上司は「わかりにくい資料を改良しただけです」とも言えるわけで。
この1件だけでパワハラだと診断するのは難しいですね。
いちかわ
これは一番イヤなパターンです…
パワハラを受けないようにするにはどうすべき? タイプ別パワハラ対策をチェック
大室さん
大事なのは、先ほど説明した「昭和残存型」「不安表出型」「マウンティング型」の3つのタイプのうち、相手のパワハラがどれなのかを見極めることです。
「昭和残存型」パワハラ対策
大室さん
相手が「昭和残存型」の場合は「一度腹を見せておく」という方法が有効です。
というのも、このタイプの人は他人が自分に懐いているのかどうかに敏感なんですよ。
いちかわ
「あなたを慕っていますよ」という態度を最大限見せればいいわけですね。
大室さん
そうそう。そこで「あなたのことが苦手です」という態度をとってしまうと、「こいつ、かわいくないな」と思われてますますパワハラを受けてしまうケースもあります。
もちろん、いつも上司に笑顔を振りまく必要はありませんが、たとえば飲みの席で「いつも本当にお世話になってます。ありがとうございます」って伝えておくだけでも違うかと。
いちかわ
なるほど。それぐらいだったら気軽にできそうですね。
「不安表出型」パワハラ対策
大室さん
「不安表出型」の場合は、もう少し分析が必要です。
相手をよく観察して、“キレポイント”を見つけ、その地雷を踏まないようにする必要があります。
この人が普段どんなことでよく怒るのか、意識して観察すると意外と見えてきますよ。大抵はその人の「不安」と連動しています。
いちかわ
でも、キレる基準がよくわからない上司っているじゃないですか。その場合はどうしたらいいんですか?
大室さん
もうそれは、一定の距離をとるしかないですね。
相手に引っ張られず、あくまで自分のペースで堂々としていましょう。
「マウンティング型」パワハラ対策
大室さん
「マウンティング型」は、実は一番対策がカンタン。とにかく褒めまくればいいんです。
大室さん
このタイプには、「認めてほしい」という承認欲求が強い人が多いので、「あなたは有能なんですね」と認めて、持ち上げるのがいいですね。
強い言葉で指摘されたときも、“尊敬+反省の構文”で。たとえば「さすがです、自分の考えはまだまだ浅かったです…」のように返しましょう。
パワハラを訴えるためのポイントは「証拠」と「客観性」
大室さん
ただ残念ながら、「こんなにツラい思いをしました」という個人の感情のみで告発するのは難しいんですよね。
なので、訴えるなど法的措置を取りたい場合や、社内で正式に告発したい場合に押さえておくべきポイントを紹介しましょう。
パワハラを訴えるためのポイント①「証拠はあるか」
大室さん
まず大事なのが「証拠があること」。たとえば、第三者が目撃している場合も証拠になります。
「人前で大声で怒鳴る」というパワハラであれば、社内の人が目撃していますからそれが証拠になりますね。
いちかわ
目撃者がいないケースの場合、証拠になりうるものはないんでしょうか?
大室さん
上司からのメールも証拠になります。
人格否定や罵倒するような言葉が記録として残っていれば、パワハラとして立件しやすくなります。
いちかわ
ただ、よく考えるとパワハラで証拠が残るケースって少ない気がします…。
たとえば、会議室に呼び出されて長時間いびられたら、証拠は残らないじゃないですか。
大室さん
そうですね。
2人きりの状況での嫌がらせはわかりにくいですが、会議室で数時間詰められていた場合、まわりが「ずいぶん長い間戻ってこないな」と気がついてくれて、それが証拠になった事例もありますね。
いちかわ
なるほど。何かしらの形で第三者が気づいていれば、それが証拠になるんですね。
パワハラを訴えるためのポイント②「客観性はあるか」
大室さん
証拠のほかにポイントなるのが「客観性」です。
世間一般から見て「これはいきすぎ」と判断される内容であれば、社内で問題にできる可能性は高まります。
1人の感じ方だけで問題にすることは難しいですが、社内で同様に感じている人が複数人いれば、客観的に「上司に問題がある」となるわけですね。
いちかわ
なるほど。パワハラを訴えるためのポイントがわかりました!
「信頼できる先輩」にパワハラを相談するのはやめた方がいい!?
もしもあなたがパワハラを受けているという場合、一番いいのはまず会社のコンプライアンス窓口やホットライン、人事に相談することだそう。
いちかわ
でも社内の相談窓口だと、「パワハラの加害者に報告がいくのでは?」 と思って相談できない気がします…
大室さん
しっかり運用されている会社が多いですが、残念ながら、会社の体制によっては、なんとも言えないというのが正直なところですね。
ただそれが心配だからといって、信頼できる先輩に相談するのはやめましょう。
いちかわ
えっ、なぜですか?
大室さん
信頼できる先輩って、仕事で成果を出していることが多いじゃないですか。成果を出している人は、本人も気がついていないうちに会社にうまく順応していることが大半なんです。
なのでいざ相談しても、遠回しに「耐えろ」というアドバイスされて、ますます傷ついてしまうことが多いんです。
いちかわ
なるほど…でもそれじゃあ、一体誰に相談すればいいんですか…!
大室さん
相談って、人とタイミングなんですよね。
大室さん
同じアドバイスだとしても、全然身に入ってこないこともあれば、すっと入ってくるときもある。
自分の精神状態や環境が変われば、必要とするアドバイスも変わってくるじゃないですか。
いちかわ
たしかに、それはわかります。
大室さん
最近はネットで同じ職種のコミュニティを探せたり、多くの人とつながれる時代ですよね。
自分の置かれている状況を多角的に見られる状況をつくっておくと、いざというときに相談すべき相手がわかるようになるはずです。
だから、会社だけでなく、いろいろな場所に複数のつながりを持っておきましょう。
相談窓口のご案内|あかるい職場応援団 -職場のパワーハラスメント(パワハラ)の予防・解決に向けたポータルサイト
あかるい職場応援団は職場のパワーハラスメント(パワハラ)、いじめ・嫌がらせ問題の予防・解決に向けた情報提供のためのポータルサイトです。
厚生労働省の相談窓口はこちら。
大室さんのわかりやすい解説でクリアになってきたパワハラの線引き。
ただ、企業のパワハラ対策は、まだまだ時代に追いついていないのが現状のよう。
この記事を読んで「これってパワハラかも…」と感じたら、今回教わった対策を実践したり、周囲の人に相談するなどして、自分の身を守ってくださいね。
〈取材・文=いちかわあかね(@ichi_0u0)/編集=宮内麻希(@haribo1126)〉
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