ビジネスパーソンインタビュー

失業保険はもらわないほうがいい場合も!? 給付額や手続きについて弁護士に聞いてきた

申請するのにベストなタイミングは?

失業保険はもらわないほうがいい場合も!? 給付額や手続きについて弁護士に聞いてきた

新R25編集部

2019/03/15

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厚生労働省が公表した調査データによれば、現在、新卒の3年以内の離職率はおよそ30%。

早くに転職を考えたり、思わぬタイミングで会社を辞めるR25世代も少なくありません。

そんなときの強い味方が「失業保険」。きちんと知っておけば、次の仕事が決まるまで安心して過ごせるはず!

というわけで、“失業保険”でもらえる金額の計算方法や手続き、もらえる期間などについて、アディーレ法律事務所の弁護士、落合亮太さんに聞きました!

【落合亮太(おちあい・りょうた)】大阪府出身。弁護士・弁護士法人 アディーレ法律事務所、東京弁護士会所属。慶應義塾大学総合政策学部卒業。労働トラブルや債務整理、夫婦問題などに詳しい。悩める相談者の一歩を全力でサポートする、最も「身近な」弁護士。

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そもそも「失業保険」って何? 受給資格は?

ライター・いちかわ

そもそも失業保険はどういうものなのでしょうか。

落合弁護士

実は、正確には「失業保険」という保険は存在しないんですよ。正式には「雇用保険でもらえる失業給付」のことを指します。

これは失業中に安心して新しい仕事を探せるよう、お金を支給してもらえる制度です。そういう目的をもった制度なので、会社をやめた人がみんなお金をもらえるわけではありません。

ライター・いちかわ

てっきり、会社を辞めたらみんなもらえるものなのかと思っていました…

受給要件① 就職できる能力があり、かつハローワークで積極的に仕事を探していないといけない

落合弁護士

では、細かい失業給付の受給資格を見てみましょう。受け取るには大きく分けて2つの要件を満たしている必要があります。まずひとつめ。

雇用保険(失業保険)の受給要件①

1. ハローワークに来所し、求職の申込みを行い、就職しようとする積極的な意思があり、いつでも就職できる能力があるにもかかわらず、本人やハローワークの努力によっても、職業に就くことができない「失業の状態」にあること。

厚生労働省職業安定局

ライター・いちかわ

条件として記載されてる「就職できる能力」って、どういうことでしょう?

落合弁護士

「就職できる能力」は、「就職できる状態にあるかどうか?」で考えるとわかりやすいです。

たとえば、病気ケガのためすぐに仕事ができない人は「就職できる状態」ではないので、受給資格はありません。妊娠出産のため会社を辞めた場合も同様です。

ライター・いちかわ

なるほど。では「失業の状態」とは何ですか?

落合弁護士

「失業の状態」とは、仕事を探してはいるけれど就職できていない状態のこと。仕事がない=失業、というわけではないので注意が必要です。

ライター・いちかわ

「仕事をやめて休養期間をとりたい!」というふうに就職する気がない人は、失業給付をもらえないんですね。

落合弁護士

はい。受給するにはハローワークで仕事を探さなきゃいけないんです。

そのため、次の就職先が決まっている人も給付を受けられません。

ライター・いちかわ

でも、それって隠しちゃえばバレないのでは…?

落合弁護士

不正受給は絶対にダメです。

給付を受けるためには、辞めた会社からもらう「離職票」を提出する必要があり、ハローワークの窓口での面談もあります。自己申告が中心ですが、隠してもそこでバレてしまうと思いますよ。

もし、不正受給が発覚した場合、受給金額の3倍の金額の納付を命じられることもあります。

ライター・いちかわ

3倍…! それは恐ろしい…!

受給要件② 離職前に一定期間以上、雇用保険に入っていないといけない

雇用保険(失業保険)の受給要件②

離職の日以前2年間に、被保険者期間(※)が通算して12カ月以上あること。ただし、特定受給資格者又は特定理由離職者については、離職の日以前1年間に、被保険者期間が通算して6カ月以上ある場合でも可。

※ 被保険者期間とは、雇用保険の被保険者であった期間のうち、離職日から1カ月ごとに区切っていた期間に賃金支払いの基礎となった日数が11日以上ある月を1カ月と計算します。

厚生労働省職業安定局

落合弁護士

次に、失業保険をもらえる前提として、「離職の日以前2年間に1年以上雇用保険に入っていること」が必要です。要するに、これは2年間のうち1年以上働いていたか、ということですね。

ただ、注意しないといけないのは期間の「計算方法」です。被保険者期間が1月を単位として考えるのですが、会社に従業員として所属していた、ではなく「1カ月のうち11日以上」働いていないと被保険者期間として計算されません。

そのため、病気等で休みが重なって出勤日数が11日以下の月は「被保険者期間」であるとはみなされないことになります。

ライター・いちかわ

なるほど、所属だけではなく、実際に働いているということが重要なんですね。

落合弁護士

たとえば、失業保険を受け取ることを前提に、働き始めて通算1年が経過した段階で会社を退職したとします。もし11日以上働いていない月が1カ月でもあると「離職の日以前2年間に1年以上雇用保険に入っていること」という条件を満たさずに失業保険がもらえない、ということになってしまいます。

基本的には「2年間のうち1年以上働いていた」という認識で大丈夫ですが、退職前に確認はしたほうがいいでしょう。

ライター・いちかわ

なるほど、ちなみにこのなかの「特定受給資格者」「特定理由離職者」とは具体的にどういう人を指すんですか?

落合弁護士

「特定受給資格者」と「特定理由離職者」は受給資格の種類のことですね。判別のポイントは、退職理由にあります。

一般離職者   = 完全に自己都合による退職

特定理由離職者 = 正当な理由(ケガ、妊娠など)ある自己都合による退職

特定受給資格者 = 会社都合(倒産、解雇など)による退職

厚生労働省

ライター・いちかわ

少しわかってきた気がします…!

落合弁護士

失業給付をもらえる条件は、会社都合か完全な自己都合かで大きく変わるんです。

ざっくり言うと、会社都合や正当な理由ありきの退職であれば、用保険に入っていた期間がここ1年間のうち6カ月以上あればOK。

一方で、完全な自己都合による退職の場合、雇用保険に入って働いていた期間がここ2年間のうち1年以上はなければいけません。

ライター・いちかわ

なるほど。ケガや倒産で退職するパターンは突然起きやすいから、そこに配慮をしてるんですね。

受給要件のまとめ

✔ハローワークで積極的に仕事を探していて、就職できる能力があるのにもかかわらず失業中であること

✔自分の都合で退職する場合は直近で雇用保険に1年入っている必要がある。ケガや倒産などの理由で退職した場合は6カ月でOK

失業保険で給付される金額はおよそ前職の5〜8割くらい。 計算方法は?

ライター・いちかわ

失業給付って、およそいくらもらえるものなんでしょうか?

落合弁護士

もらえる金額のベースになるのは、辞める直前の6カ月分の給料。さらには年齢などの条件も加味されて決まるので一概には言えませんが、だいたい前職の5割〜8割くらいになります。

1日にもらえる金額(基本手当日額)の計算式は下記になります。

基本手当日額=退職前の6カ月間の給与÷180日×(45%〜80%)

ライター・いちかわ

この%部分に、年齢やなどの条件が加味されているんですね。

落合弁護士

そうですね。直前6カ月の収入が多い人ほど、収入に対する給付金は少なくなり、収入が少ない人ほど、高い割合が適用される仕組みになっています。

失業保険がもらえるのはいつから? 「退社理由」で給付タイミングや給付期間が変わる

落合弁護士

また、退職理由によって、給付の「期間」と「タイミング」が大きく変わります。まず、保険に入っていた期間が1年未満で、自己都合の退職の場合は給付はありません。

そして、保険加入期間が1年以上だった場合は、「加入期間の長さ」によって給付の期間が変わります。

【自己都合退職(一般離職者)の給付期間】

雇用保険に加入していた期間

基本手当の給付期間

1年未満

-

1年以上10年未満

90日

10年以上5年未満

120日

20年以上

150日

落合弁護士

一方、会社都合の場合は、1年未満(6カ月以上)であっても90日の給付を受けることができます。

自己都合の場合と違って、年齢によって給付期間に差があったり、最長180日の給付になっているのもポイントです。

会社都合退職(特定受給資格者)の給付期間

雇用保険に加入していた期間

年齢

基本手当の給付期間

1年未満

全年齢

90日

1年以上5年未満

30歳未満

90日

1年以上5年未満

30歳以上35歳未満

120日

1年以上5年未満

35歳以上45歳未満

150日

5年以上年10年未満

30歳未満

120日

5年以上年10年未満

30歳以上35歳未満

180日

5年以上年10年未満

35歳以上45歳未満

180日

落合弁護士

さらに、給付を受け取れるタイミングも、自己都合の場合はかなり遅くなります。手続き後から給付をもらうまで、3カ月待たなければならないんです。

ライター・いちかわ

えーっ、給付まで3カ月もかかるんですか…! 自己都合退職の場合、損している感が否めないです…

なんとか会社都合にできる例はないんでしょうか?

落合弁護士

自分で退職を決めていても、会社をやめざるを得なかった場合には会社都合扱いになるケースがありますよ。

見落としがちなのは、こんな例です。

【会社都合(特定受給資格者)の例】

・パワハラ/セクハラがある

・初めに提示された労働条件が事実と著しく異なる

・給料の3分の1を超える額が支払期日までに支払われない

・残業が多すぎる(離職の直前6カ月間の残業が平均1カ月で80時間以上)

ハローワーク

ライター・いちかわ

なるほど。表面的では自己都合に見えても、会社に非があった場合は会社都合として失業給付を受けられるんですね。

落合弁護士

そうなんです。なので、もし自分から退職を決めた場合でも、ネットで調べたりハローワークの職員に相談したりすることをおすすめします。

申請手続きから給付までの流れを解説! 定期的なハローワークへの訪問が必須⁉

ライター・いちかわ

では、実際に失業給付をもらうには何をすればいいんでしょう?

落合弁護士

退職後、給付を受けるまでの流れはこのようになっています。

【雇用保険(失業保険)のもらい方】

①離職

②ハローワークで申請(受給資格の決定)

③ハローワークで雇用保険受給説明会

③ハローワークで求職活動

④ハローワークで失業認定 

⑤受給

継続する場合:毎月1回、失業認定日にハローワークへ

ハローワーク

ライター・いちかわ

ということは、失業保険をもらうためには少なくとも3回、さらには毎月1回ハローワークに足を運ばないといけないってことなんですね…!

落合弁護士

失業保険は就職する意思があるのに、就職できない状況にある人のためのもの。

だから、定期的にハローワークへ行って、その意思と就職できていない状況を認めてもらう必要があるんです。

ライター・いちかわ

ちなみに、毎月ハローワークに行くのは必須なんですか…? たとえば家でもネットで就職活動もできますよね…?

落合弁護士

残念ながら、そうはいかないんです。ハローワークの窓口で失業認定を受けなければ、給付を受けられません。

ただ、求職活動は必ずしもハローワークでなくても大丈夫です。民間のエージェントなどを使っても問題ありませんよ。ただし、転職エージェントとの面談や転職フェアへの参加だけでは「求職活動」とみなされない可能性もあるので、やはりハローワークにいって求職活動を行うほうが確実です。

受給期間は延長できるの?

ライター・いちかわ

ちなみに、期間内に就職ができなかったり、何らかのトラブルが起きたりした場合、受給期間は延長することができるんですか?

落合弁護士

離職日の翌日から1年間の「受給期間」内に働くことができない状態が30日以上続いた場合は、手続きを行うことで、延長することが可能ですが、下記の条件であることが必要です。

(1)妊娠・出産・育児(3歳未満に限る)などにより働くことができない

(2)病気やけがで働くことができない(健康保険の傷病手当、労災保険の休業補償を受給中の場合を含む)

(3)親族等の介護のため働くことができない。(6親等内の血族、配偶者及び3親等以内の姻族)

(4)事業主の命により海外勤務をする配偶者に同行

(5)青年海外協力隊等公的機関が行う海外技術指導による海外派遣

(6)60歳以上の定年等(60歳以上の定年後の継続雇用制度を利用し、被保険者として雇用され、その制度の終了により離職した方を含む)により離職し、しばらくの間休養する(船員であった方は年齢要件が異なります)

ハローワーク

落合弁護士

然るべき手続きを行うことで、受給期間を最長、離職日の翌日から4年以内まで延長することができますよ!

ライター・いちかわ

それは安心ですね!

落合弁護士

ただし、引き続き職業に就くことができないと発覚してから1カ月以内に申請をしないと、基本手当の所定給 付日数のすべてを受給できない可能性がありますので、できるだけ早期の申請がオススメです。

すぐに再就職できそうなら、失業保険は受け取らないほうがよい⁉

ライター・いちかわ

ちなみに、受給を受ける際の注意点って何かありますか?

落合弁護士

自己都合で退職する場合は、失業保険の給付タイミングをしっかり吟味したほうがいいですね。

ライター・いちかわ

どういうことですか?

落合弁護士

次の会社に就職するまでの期間が1年以内であれば、転職の前後で雇用保険の加入期間を合算できるんです。

冒頭でお話した通り、雇用保険に加入していた年数は失業保険の受給額や受給期間に関わってきますから、長く保持しておいたほうが有利なんですよ。

ライター・いちかわ

そうなると、失業保険の使いどころが難しいですね…

落合弁護士

たとえば、僕が自己都合で今の会社をやめるとしましょう。

その場合、もしすぐに次の会社が見つかりそうなら、次の会社をやめざるを得なくなったときのためにとっておいたほうがいいでしょう。

ライター・いちかわ

自己都合の退職の場合、もらえるタイミングは遅いですし、給付期間も短めでしたもんね。

落合弁護士

そうなんです。次の仕事のあてもないし、何をしたらいいかもわからない。そんな状態のときに保険の給付金があれば、だいぶ安心できますよね。だから、意図しない退職に備えてとっておくのがよいと思います。

せっかく積み上げてきた雇用保険を無駄にしないためにも、今が申請するべきタイミングなのかどうか、よく考えて判断しましょう。

不本意なタイミングで仕事を失っても、再就職を後押ししてくれる失業保険。

失業をしているにもかかわらずお金がもらえるシステムは、一見「おトク」なようにも見えますが、あくまで最低限の生活をサポートし、就職を後押しするためのもの。

ほとんどの場合は就職してから得られる収入のほうが多いので、失業保険は新しい環境にチャレンジするためのお守り程度に捉え、就職活動に励んでいきましょう!

〈取材・文=いちかわあかね(@ichi_0u0)/撮影・編集=いしかわゆき(@milkprincess17)〉

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