

3日で職場を辞めたことも…
“逃げ”が失敗かどうかは自分が決めること。20代で9回転職した女社長の「逃げの哲学」
新R25編集部
「転職はとりあえず3年働いてから」とよく耳にします。イヤなことからすぐ逃げるのは根性がない気がしますし、実際に3年続けることを目標にして耐えている人も多いでしょう。
しかし、どんなところにも異例はあるもの。株式会社イイコ社長・横山貴子さんは、まだ転職サイトや転職エージェントが発展していなかった当時、20代のうちに9回も転職をしたという異色の経歴の持ち主です。
転職を繰り返したのちに独立し、飲食業界で起業。食べログ3.5以上をマークするような「看板のない人気店」をいくつも輩出してきました。
9回も転職して、職場から逃げつづけているようにも思えますが、一体どんな意図があったのか。多数の業態変更も含めて、「逃げの哲学」について伺いました。
【横山貴子(よこやま・たかこ)】1963年9月17日生まれ。株式会社イイコ代表取締役。20代で9回の転職を繰り返し、30歳から3年で500万円を貯めて独立。看板を一切出さない“隠れ家スタイル”で、いくつものお店をオープンし、現在は4店舗を経営している
納得いかないことに使う時間がもったいないので、逃げていた

ライター・森
横山さんは20代で9回転職されたんですよね。どうしてそんなに何度も会社を変えたんでしょう。

横山さん
入る前とのギャップを感じて辞めることが多かったですね。一番長く続いた職場でも、29~33歳までの4年間。3日で辞めた職場もありました。

ライター・森
3日ですか!? 転職する際に会社について調べたりはしていましたよね…?

横山さん
30年ほど前ですから、まだインターネットが発達していなかった時代。今みたいに転職サイトや会社のホームページを読み込むなんてできなかったから、新聞広告や求人情報誌に書かれているわずかな情報で判断していたんです。

ライター・森
たしかに、それだと把握できることはわずかですね。

横山さん
「広告代理店」という響きに憧れて入ったら、風俗の広告を専門で扱う会社だと後から知ったこともあります。
面接などで教えてくれていたらいいのですが、まったく言及されず、怪しい会社だと思って辞めました。

ライター・森
情報が少ないということは、「思っていたのと違う」という理由で辞める人が当時は多かったんですか?

横山さん
そう思いますよね。でも、転職する人は今より少なかったんです。新卒で入った会社で定年まで働きつづけるのが普通でした。
当時の世間的には、最初に入った会社で定年まで勤め上げるのが立派だったかもしれません。でも私は「自分の意思で変えられることなのに、わざわざ我慢する必要はない」と思っていました。
納得いかないことに使う時間がもったいないので、“逃げる”ことを選んでいたんです。

ライター・森
でも何度も転職を続けていると、「どうせすぐ辞めるだろう」と思われて、周りに距離を置かれてしまうのでは?

横山さん
そんなことはありませんでしたよ。すぐに辞めても職場の人と信頼関係を築けます。元同僚や取引先とは、転職後も定期的に連絡を取っていました。

ライター・森
そうやって積極的にやり取りをしていたから、縁を保てていたんですね。その縁が仕事に活きた経験はありますか?

横山さん
立ち上げの時期のアクセサリー会社へ入ったときに、その前にいた職場の同僚に「こっちの会社に来ない?」と引き抜きを持ちかけたら、5人くらい付いてきてくれましたね。

ライター・森
それはすごい! 短い期間でも引き抜きできるほどの仲になれるんですね。信頼関係を築くためのコツがあるんでしょうか?

横山さん
逆説的な言い方になりますけど、意識的に「仲良くしよう」なんて思わないことですかね(笑)。
職場の人に対してそんなこと思っても、どうせ薄っぺらい関係しか築けないと思いませんか?
たしかに…

横山さん
本当に大切なのは、どんなときも本音で話せる相手かどうか。仕事や利害関係抜きに、「これからも飲みに行きたい」と思える人とだけ、つながりを持ちつづけていました。
そういう人との関係のほうが、結果的に仕事に役立つものですよ。
「このままだとダメだ」という空気を感じたら、すぐに次の手を打つべき

横山さん
転職を繰り返して30歳になり、ようやく会社に所属すること自体が向いていないんだと気づきました。思いきって独立してからは、20年間ずっと飲食業を続けています。

ライター・森
逃げつづけていたようにも見える横山さんが、どうやってずっと続けられるようなことを見つけたのでしょう?

横山さん
きっかけは節約です。

ライター・森
節約…ですか?

横山さん
30歳で独立を思い立ってから、3年間で500万円を貯めようと目標を立て、節約を始めました。そしたら物欲がパタリとなくなって、貯金自体が趣味になってしまったんです。
ただ、そんな時でも、友だちとおいしいご飯を食べに行くことはやめられなかった。それならこれが私の歩むべき道なんじゃないかと悟りました。

ライター・森
お金の使い道を制限してもやめられないことこそが、本当に好きなもの、というのは納得感がありますね。
ただ、消費者として食べるのが好きなのと、仕事として扱うのってギャップがありませんでしたか?

横山さん
そう、やってみると全然違うんですよ。だから一貫して続けるのは難しくて、お店の業態変更は何度もおこなっています。今まで10店舗を開店して、合計13回の業態変更をしてきました。

ライター・森
えーっと、それって多いんでしょうか?

横山さん
飲食店を経営している友達から「そんなに業態を変えてて失敗続きだと思わないの?」ってよく言われるので、普通ではないでしょうね(笑)。

ライター・森
そうなんですね(笑)。それでも変えることをやめないのは、なにか考えがあってのことなのでしょうか? 「もうちょっと続けたらよくなりそう」みたいなこともありそうですが。

横山さん
もちろん、私も最初からコロコロ業態を変えてたわけではありません。はじめは売り上げが落ちても、そのままの業態で足掻いていました。でも売り上げが大きく改善したことはなかったんです。
だからリピーターが減るなど、「このままだとダメだ」という空気を感じたらすぐに次の手を打たないと手遅れになってしまうと学びました。

ライター・森
繰り返される業態変更は、きちんと考えたうえでの予防策だったんですね。
ただ、従業員からすると“振り回されてる感”が出てしまって、人が離れていってしまいそうな気もしますが…

横山さん
「せっかくここまで頑張ったのに!」と影で文句を言う人はいますけど、そういう人は自分の視点でしか見てないから、説明しても伝わりません。
一方で店長や料理長など経営側の視点を持っている人は賛同してくれることが多いです。
私たち経営者は社員のご機嫌を取るために仕事をしているわけではないので、お客さんに喜んでもらった結果として社員もうれしくなる、という順番を間違えたくないですね。
現状維持が大きな失敗につながることもある

ライター・森
横山さんは、何度も繰り返す転職や業態変更の際に「失敗するかも」と不安に思わないんですか?

横山さん
いえ、むしろ現状維持だけで変化しないことのほうが不安です。

横山さん
コロコロ変わることを人によっては「失敗だ」と言うかもしれませんが、チャレンジが失敗かどうかって、自分が決めることですよね?
私にとっては、職場を離れたり業態を変えたり、前向きにチャレンジしつづけているうちは失敗じゃありません。他人から見た失敗なんて、怖がらなくていいんですよ。

ライター・森
でも、私だったら人目がどうしても気になってしまうんですが…

横山さん
「逃げる」という言葉のイメージが、あまりにネガティブに寄りすぎている感じはありますね。でも、逃げることも成功のために必要な行動のひとつなんですよ。

ライター・森
どういうことですか?

横山さん
その場にいつづけることが大きな失敗につながることもある、ということです。

横山さん
以前、新聞で見かけた小学生の投稿に「動物は生きていくために逃げるのに、どうして人間は逃げたら怒られるの?」という質問がありました。この疑問は核心をついてますよね。
お店も、潰れる予兆を感じながらそのまま続けているだけでは、ダメになってしまう。現状から逃げて環境などを大きく変化させることは、捉え方によっては前向きな行動にもなるんです。

ライター・森
現状維持だけではダメで、時には変わることが大事ってことですね。

横山さん
はい。「とにかく続けることが美しい」みたいな風潮はおかしいですよ。
他人から「失敗だ」と評価されることを恐れず、先に進むために必要なら積極的に逃げるべきだと思います。
横山さんの話を聞いて、「逃げる」ことのネガティブな面にばかりに自分がとらわれていたと気がつきました。現状にモヤモヤとした思いを感じたら、耐えることだけでなく、前に進むために「逃げる」という選択肢も忘れないようにしたいです。
〈取材・文=森かおる(@orca_tweet1)/取材・撮影・編集=葛上洋平(@s1greg0k0t1)〉
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