ビジネスパーソンインタビュー
北朝鮮は同時に50発のミサイルを撃てる!?
ミサイルってどうやって撃ち落とすの?「日本の防衛」についてギモンを浴びせてきた
新R25編集部
ミサイル発射を繰り返す北朝鮮に「またかよ」なんて思いながらも不安は募る。
前編では北朝鮮の戦力や脅威について話を聞いたが、今回は日本の防衛の話。もし北朝鮮が日本へ向けてミサイルを撃ってきたら、本当に対処できるのだろうか…。
引き続き元航空自衛官で軍事ジャーナリストの潮匡人(うしお まさと)さんに、素朴な疑問をいろいろとぶつけてきた。
以下の質問のなかで気になるものがある人は、ぜひ本記事を読み進めてみてほしい。
✓ミサイルの発射は事前にわかるの?
✓発射から迎撃までの流れは?
✓迎撃したら核爆発してしまうのでは?
✓どれくらいの確率で迎撃できるの?
【潮匡人(うしお・まさと)】アゴラ研究所フェロー。国基研客員研究員。岡崎研特別研究員。防衛庁・空自勤務、聖学院大専任講師、防衛庁広報誌編集長、帝京大准教授、拓殖大学客員教授など歴任。TV出演等多数。著書には『安全保障は感情で動く』(文春新書)、『誰も知らない憲法9条』(新潮新書)などがある。
編集部・葛上
「安倍総理は北朝鮮のミサイル発射の兆候をつかんでおり、前日は公邸に宿泊している」という話を聞いたことがありますが、実際に事前に予測できるものなのでしょうか?
潮さん
安倍総理の件の真偽は不明ですが、ミサイルの発射のタイミングはだいたいわかります。
そもそも弾道ミサイルは発射したら終わりではなく、「テレメトリー信号」というものを弾道ミサイルから発信して、狙った通りに飛んでいるかチェックすることが必要です。
いざ発射してみて「信号が出ませんでした」となってしまっては困るので、ふつうは事前にテストをします。そのテスト用の信号を自衛隊が拾えるんですね。
編集部・葛上
テストをしているからそろそろ(発射)だ、とわかるんですね。
潮さん
そういうことです。とはいえ、撃つと思わせて撃たないなんてときもあるので、この信号をキャッチしたからといって事前に必ず「明日ミサイルが発射される」と断定はできません。
テレメトリー信号をはじめとするいくつかの兆候をつかんで、そろそろ来そうだと判断するわけです。
北朝鮮からしたら技術の進歩を世界中に伝えるために発射している面もあるので、むしろ発射することを知らしめたいケースも多い。だから兆候がつかまれるということについてマズいとは思っていないでしょうね。
編集部・葛上
ミサイル発射から迎撃までの流れはどうなっているんですか?
潮さん
まずアメリカ軍の「早期警戒衛星」が赤外線センサーで、エンジンの炎の熱をすぐに感知します。発射から数秒でアメリカ軍へ通知が届き、そこから1分以内に日本政府へ通告があります。
加えて日本のレーダーでも弾道ミサイルであることを確認して、発射を断定します。
編集部・葛上
そんなに早いんですね!
潮さん
ただし、この段階ではミサイルはほぼまっすぐ上に飛んでいるので、どこへ飛んでいくか判断できません。そこから角度がついてくると飛ぶ方向がわかり、おそらくこの辺りを狙っているだろうとコンピューターで予測します。
軌道を計算して、その予測ポイントに向けて海上自衛隊のイージス艦が搭載している「SM-3」を撃つ。万一これで撃ち漏らしても、航空自衛隊の「PAC-3」で迎撃します。
弾道ミサイルの一部を破壊して弾頭部分を無力化し、それ以上飛べない状態にする。これが迎撃の大まかな流れです。
日本の最新防衛システムのイメージ(画像は防衛省作成)
編集部・葛上
誰かが迎撃ミサイルの発射ボタンを押したりしているんですか?
潮さん
政府は公式に発表していませんが、人間が操作するマニュアルモードと、オートモードの2つがあるとされています。
編集部・葛上
日本の防衛設備でどれくらいの範囲を守れるものなんでしょうか?
潮さん
まずはじめに迎撃するイージス艦の「SM-3」は迎撃高度500kmともいわれ、かなり広い範囲まで迎撃できます。
ただし、航空自衛隊の「PAC-3」の迎撃範囲は最大20kmくらい。東京の山手線の真ん中から迎撃する場合だと、山手線の中は安全でしょうがそれより外には届きません。
編集部・葛上
え、そうなんですか!? ちょっと不安ですね…。
潮さん
「PAC-3」は台数も多くないので、現状では全国に漏れなく配備することはできないですね。
編集部・葛上
核ミサイルを迎撃したら核爆発が起きてしまうことはないんでしょうか?
潮さん
それはほぼありえません。
「核爆発を起こす」というのはかなり技術的難易度が高く、攻撃する側が狙ったタイミングで思い通りのことができないと起こりませんから。
こちらが核兵器に衝撃を与えたら核爆発するわけではないです。
編集部・葛上
核爆発が起きてしまった場合と迎撃した場合で、どれくらい被害が変わるものなのでしょう?
潮さん
東京上空で核爆発が起きると数十万規模の死者数が予想されますが、迎撃によって破片が落ちたり燃料が漏れたりする程度であれば、数人程度の被害におさまる可能性が高いでしょう。
編集部・葛上
核爆発を防げたとしても、迎撃して漏れた放射性物質が本土まで届いてしまう可能性はないんですか?
潮さん
それはないとは言い切れませんが、高い高度で迎撃できれば放射性物質は地上に落ちるころには無害化されます。
編集部・葛上
1発の弾道ミサイルに対して、1発の迎撃ミサイルで対応するんでしょうか?
潮さん
政府は正式に公表していませんが、1発の弾道ミサイルに対して複数の迎撃ミサイルを撃つことになるでしょう。
編集部・葛上
1発で当てるのはやはり難易度が高いんですか?
潮さん
過去の実験結果では、1発の迎撃ミサイルの命中率は80%程度ですので、けっして低くはありません。ただし、この前提が変わってしまうこともあります。
たとえば「ロフテッド軌道」という、こちらの迎撃ミサイルが届かないほど高いところまで到達する撃ち方をされると迎撃の確率は低くなります。
編集部・葛上
高くまで上がるミサイルの迎撃が難しいのはなぜなんですか? 迎撃可能な範囲まで入ってくれば、撃ち落とせそうですが。
潮さん
より高い高度から落ちてくるので通常のミサイルとは向きが違う上に、よりスピードが速くなっているんです。
編集部・葛上
なるほど。ほかにも迎撃が難しくなるパターンはありますか?
潮さん
ミサイルを同時にたくさん撃ってこられた場合ですね。これが一番恐い。
北朝鮮は日本に届く「ノドン」を最低200発は持っています。発射台の制限があるので仮に50発しか同時に撃てないとしても、それを一気に東京に撃たれたら残念ながらすべての迎撃はできません。
編集部・葛上
北朝鮮は50発を同時に撃てるということですか…?
潮さん
私はその可能性があると考えています。
「ミサイルは一気に撃てても、核弾頭はそんなにたくさん持っていないから大丈夫だ」と政府関係者が言っていますが、その考え方は決定的に間違っています。
編集部・葛上
そうなんですか?
潮さん
仮に同時に撃った50発のうち20発しか核が搭載されていないとしても、迎撃するイージス艦から、どうやってそれを見分ければいいのでしょう?
編集部・葛上
確かに…。結局すべてを迎撃しないといけないですね。
潮さん
レーダー上ではすべて同じ弾道ミサイルにしか見えないので、核を搭載しているかどうかは判別できません。
あるいは、まずすべて偽物(核を搭載していないミサイル)を撃って、日本が迎撃ミサイルを使い果たしたあとに本物(核ミサイル)を撃つなど、大きな被害が出るパターンはいろいろ考えられます。
こういったことを総合的に考えれば、北朝鮮の能力は過小評価されているというのが私の見解です。
編集部・葛上
たしかにそうですね…。
ちょっと不安になる部分もありましたが、自衛隊の防衛能力についての理解が深まりました。わかりやすい解説をありがとうございました!
前回の記事とあわせて、なんとなく怖いと思っていただけだった北朝鮮の脅威と日本の防衛についてだいぶ理解できた。
日本がいますぐ攻撃されるなんてことはないだろうけど、今後の北朝鮮や国連、そして日本の外交の動向はきちんと追っていきたい。
〈取材・文=葛上洋平(新R25編集部)/協力=渡辺将基(新R25編集長)〉
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