仕事をネガティブに捉える世の中にはしたくない
キャリアアップだけが正解じゃない、 私たちが“はたらくWell-being”を重視する理由
新R25編集部
リモートワークの浸透などと相まって、「はたらき方改革」が世間の潮流となって久しい昨今。
現場ではたらくビジネスパーソンのなかには、「本気で仕事に打ち込もうと思ったらはたらき方改革なんて無理」「自分らしいはたらき方なんて難しい」と感じている人もいるはずです。
そこで、パーソルグループ×新R25のコラボでお送りする本連載では、「はたらくWell-being(ウェルビーイング)を考えよう」と題し、「令和の新しいはたらき方」を応援するとともに、さまざまな人のはたらき方や価値観を通して、ビジネスパーソン一人ひとりが今もこれからも「幸せにはたらく」ための考え方のヒントを探していきます。
今回は、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓さんとパーソルホールディングス株式会社グループコミュニケーション本部長の村澤典知さんの対談をお届けします。
「育て上げネット」はすべての若者が社会的所属を獲得し、「はたらく」と「はたらき続ける」を実現できる社会を目指している認定NPO法人です。
はたらきたいけれどはたらけずにいる若者の自立を目指して、若者の就労支援や、その支援基盤の強化(支援現場の可視化・体系化や、支援者の育成)などの取り組みをおこなっています。(詳細はこちら)
「育て上げネット」とパーソルグループが、なぜ人々の「はたらくWell-being」を重視するのかを聞きました。
2001年、若年就労支援を専門とする任意団体「育て上げネット」を設立、2004年NPO法人化。 著書に『NPOで働く- 社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)、『大卒だって無職になる――“はたらく”につまずく若者たち』(エンターブレイン)など。金沢工業大学客員教授、東洋大学非常勤講師。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員 、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任
新卒でトヨタ自動車に入社し、グローバル調達本部にて部品メーカーの経営改善などに従事。 その後、A.T.カーニーなどで経営コンサルタントとして経営戦略や新規事業、マーケティングのプロジェクトに従事。 2018年にパーソルキャリアに入社。CMOやCPOなどを経て、現在は経営戦略や新規事業(はたらく未来図構想)、 ミッション推進の責任者、及びキャリアオーナーシップとはたらく未来コンソーシアムの事務局長などを担当。2023年4月よりパーソルホールディングス グループコミュニケーション本部長に就任
90%以上の人が仕事にやりがいを感じずに過ごしているのは不幸
村澤さん
工藤さんはなぜ「育て上げネット」を立ち上げようと思ったんですか?
工藤さん
もともとは両親が小さな塾を営んでいて、私が生まれる前に障害を持つ女の子を引き受けることになったんです。
そのことがきっかけで我が家は学校に行けない、あるいははたらけない人たちの居場所になりました。メディアにも取り上げられ、遠方からも人が訪れるようになり、物心ついた時には朝起きたら30人くらいが朝食を食べているという環境が当たり前でした。
家族は約30人…
村澤さん
すごい環境ですね…。
工藤さん
血のつながっていない、入れ替わりのある家族って感じですね。
学校を卒業したり、はたらき先が見つかったりすると、また新しい人を受け入れる。24時間生活をともにしながら、ある子は学校に行き、ある子は就労の支援を受ける。そういう生活を送っていました。
そうした人たちに囲まれて育ったわけですが、幼いながらも「この人の将来はどうなるんだろう」と心配になる人が、仕事に就くことでみんな元気になるんです。「はたらくってすごいな」と率直に感じました。
一方で彼らを世話する人たちも、とても大変なんですよね。当時、支援を続けたい意思はあってもなかなか続けられないという光景も見てきました。みんな泣きながら辞めていくんです。
その光景を鮮明に覚えていて、これからはたらく人を支える人たちの人生もよくなる世界を、つくりたいと思ったことが起業した動機です。
村澤さん
パーソルグループでは「はたらいて、笑おう。」というグループビジョンを掲げ、「中期経営計画 2026」においては「はたらくWell-being」創造カンパニーとなることを目指しています。
「世界幸福度調査」にデータを提供しているGallup社が2022年に実施した調査によると、日本で熱意をもってはたらいている人の割合はわずか5%だったそうです。
人生において大きなウェイトを占める仕事に対して、90%以上の人がやりがいを感じずに過ごしている状態は不幸ですよね。日本人の「はたらくWell-being」を高めることができれば、生きることも楽しくなりますし、家族や友人、知人にもよい影響があるはずです。
そんな循環を創ることができれば、社会はもっと豊かになると思うんですよね。
「何をしているんですか?」という質問は「どんな仕事をしているんですか?」と同義
工藤さん
日本は新卒採用が機能していて失業率も低い国です。だからこそ「はたらけない」状況に身を置いたことがない人が多いんですよね。
私は子どもが生まれたときに育休をとることにしたんですけれども、犬の散歩で毎日公園に行っていました。そこでさまざまな人から「何してるんですか?毎日いますよね」と声をかけられます。
育休のことを説明するついでに「私のことはどう見えていましたか?」と尋ねると、皆さん一様に「不審者だと思った」「無職の人だと思った」という回答をするんです。ホームレスの人に「新入りはあいさつしなきゃダメだ」と言われたこともありました(笑)。
日本ではある一定の年齢以上になると、昼間ははたらいていることが当たり前で、それ以外のことをしていると周囲から「あやしい人」だと思われてしまうんです。
村澤さん
仕事はお金を稼ぐだけでなく、その人の身分保証や社会参画の文脈で捉えられることもありますからね。
工藤さん
はたらくことに対する「接続」を切られた人にしかわからない、見えない世界があるんです。日本において「何してるんですか?」という問いかけは「何の仕事をしているんですか?」という質問と同義なんですよ。
そして、はたらいていない人はこの問いかけに、答えることができません。
だから引きこもりがちになり交友関係が切れていく。収入もなくなるので活動量もどんどん落ちてしまいます。
村澤さん
私も子どもが生まれたときに3カ月ほど育休を取りました。その期間中、家族以外の人とはほとんど話をする機会がなかったので、職場に復帰して会話をしようとしても、言葉が出てこなくて困ったという経験があります。
人にもよりますが、仕事をしないと出会える人が本当に少なくなる。いろいろ考えさせられました。
工藤さん
職場以外に所属するコミュニティがもっと多くあればいいんですけどね。仕事は人生において大きな割合を占めますので、その人の関係性の大部分は職場に依存することが多いです。
だからこそ「はたらく」をよりよくすることは、人生を豊かにすることと直結するんです。
日本では「正社員」が標準。この現状を変えたい
村澤さん
若者の就労支援をしていて、壁にあたるようなことはありますか?
工藤さん
一番は日本人の職業観に起因するものです。結局のところ、日本では「はたらく=雇われる」ということなんですよね。いわゆる正社員は社会保障制度でも非常に優遇されています。
日本の雇用対策のほとんどは就職支援です。雇われる以外のはたらき方をもっと広めていければよいと思っています。
「育て上げネット」で支援している若者に対して、3年くらい前からコースターやイヤリングなどの小物を自分たちでつくって、フリーマーケットで販売する取り組みをおこなっています。
「私は〇〇ができる」「僕は△△ができる」といった、選択肢は多く持っていた方がいいと思います。試行錯誤した結果やっぱり就職したいと考えても、それも正解です。
最近、話題になっている副業解禁についても多くの場合は「正業」があっての「副業」ですが、人によってはまず「副業」が先にあって、そこから「正業」を手に入れるというルートでもいいと思っているんですよ。
村澤さん
まったく同感です。「正」と「副」をわけること自体、時代にそぐわなくなりつつあるんじゃないかなと思っています。パーソルグループでは2017年から全社員を対象に副業を解禁していますが、私たちは「複業」という漢字を使うことにしているんです。
どちらかが「正」、どちらかが「副」という考え方ではなく、同列の仕事を複数に持つという考え方のほうがいい。
最近では社内のIT人材を対象に、グループ内の企業で個人事業主としてはたらける制度をトライアルで運用を開始するなど、新しい取り組みにも積極的にチャレンジしています。
工藤さん
役割や居場所を複数持つことは、精神的な安定にもつながります。
「育て上げネット」には普段は企業ではたらいて、土日に私たちの活動を手伝ってくれている若者がいます。
以前は仕事で悩むことが多かったものの、休日は若者の就労支援、平日は企業勤めを頑張るなかで心のバランスがとれるようになったと言っていました。
村澤さん
パーソルでは、「キャリアオーナーシップとはたらく未来コンソーシアム」という企業コンソーシアムを運営しています。そこでは所属企業の社員が、それぞれ別の企業で副業をする活動をしています。
正直、当初は「副業するとその人は転職してしまうのではないか」と心配する声もありました。
今では「副業をしたことで自分が勤めている企業のよさを再認識した」あるいは「別の企業ではたらいたことで、自分に足りないスキルがわかって学ぶ意欲が上がった」といった声も多く寄せられています。
「本業が大変で大きなストレスがかかっていたが、副業での成果が認められたことで心のバランスがとれた」という声もあります。
複数の職場があったほうが、キャリアにおける多様なポートフォリオが組めますし、ひとつの職場に過度に依存することがなくなります。人生が豊かになる人も増えるのではないでしょうか。
自分の子どもが仕事をネガティブに捉えるような世の中にはしたくない
工藤さん
私はいろいろなはたらき方の組み合わせ、その人にあったはたらき方を自分起点で設計できるような社会になればいいと思っているんです。
たとえば週3日はパーソルではたらいて、週2日は「育て上げネット」ではたらくといったようなポートフォリオが組める世の中になればいいですよね。
キャリア形成の主体が自分にある状態が理想で、それに国の制度が追随してくれば、より多くのはたらく選択肢が手に入りやすい世の中になるのではないでしょうか?
村澤さん
「はたらくWell-being」を推進するうえでは個人の意識と組織のサポートの2つの論点があると思います。
10年前と比べてはたらく選択肢は増えています。しかしキャリアのモデルケースとしては未だに新卒で大企業に勤めることがベストという価値観が大きな力を持っている。
そうでなくて、自分にあったはたらき方を選ぶというマインドを醸成したいですね。
組織のサポート面では、日本全体で見るとフレックスタイムやリモートワークなど、柔軟なはたらき方を支える制度や副業を解禁できていない企業も多く存在します。もちろん仕事内容によってはどうしてもそうした制度をとり入れられない企業もある。
しかし、それでもなお、多様な人材にはたらいてもらえるような仕組みや制度の充実に国や企業は力を注ぐべきだと思います。
工藤さん
本当に人の価値観はそれぞれですからね。
なかには誰とも触れ合わずに静かに仕事をしたいという人もいる。それなのに世間に出回っている求人案内はみな一様に、「コミュニケーションが活発です」と書かれているものばかり。
あの画一性は、いずれどうにかしたいとひそかに考えています(笑)。
村澤さん
「はたらくWell-being」は人それぞれです。お金を稼ぐことが幸せだと思う人もいると思いますし、昇進することに幸せを感じる人もいます。
しかし、それだけではなくて自己実現や居場所の確保といった概念もある。以前から徐々に終身雇用的な考え方は崩れていましたが、その流れがコロナ禍で一気に広がりました。
社員はどうしても雇われている会社にあわせることが前提になりますので、目の前にいろいろな選択肢があっても「安定」を重視して、チャレンジに憶病になってしまうケースもある。それはもったいないと思います。
キャリアアップだけが正解じゃない。子どもが生まれたからと、一旦仕事のペースを落として家庭に割く時間を増やすといったことも一つの選択です。
パーソルとしてはこれからも世の中にはさまざまなはたらき方があることを伝え、自分のキャリアやはたらき方を選べるようにするための情報を積極的に発信していきたいと思います。
工藤さん
「育て上げネット」のミッションは、現在はたらけない人をはたらける状況にすることです。そこから先はハローワークやパーソルさんの仕事だったりする。
私たちがゴールと定めているところがパーソルさんにとってはスタートだったりするわけです。
人のキャリアというのはそれくらい幅が広くて、一つの組織や団体ではその人のキャリアのすべてを網羅することはできません。
だからこそ、同じ志をもった組織や団体と協力し、人々の「はたらくWell-being」を支援することで、社会をよりよい方向へと変えていきたいですね。
村澤さん
私たちははたらくに対するネガティブなイメージを変えていきたいんです。
私たちの本業である人材サービスを通して、人々の「はたらくWell-being」を創造していくことはもちろん、他の企業、NPO、行政や学術機関など、さまざまなステークホルダーと協業しながら誰もがはたらいて笑える世の中を実現していきたいと思っています。
個人的な話になりますが、私には12歳と3歳の子どもがいて、中学生にもなると「あと10年したらはたらかなくちゃいけない…」と結構ネガティブなんですよ(笑)。
それが嫌で、自分の子どもに対して「はたらくって楽しそうだな」「早く大人になってはたらきたい」と思ってもらえるようにすることが、自分のなかで大きな目標です。
「“はたらくWell-being”を考えよう」
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