ビジネスパーソンインタビュー

「簡単にやる気を出す方法を教えてください!」→脳研究者「やる気なんて存在しない」

“やる気が出ない”全ビジネスマン必見!?

「簡単にやる気を出す方法を教えてください!」→脳研究者「やる気なんて存在しない」

新R25編集部

連載

シゴトに効く「カラダハック」

2018/05/06

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なんか今日は、やる気が出ないな…

そう思って「やる気を出す方法」をネットで検索してみると、目標を立てる、ご褒美を設定する、テンションが上がる音楽を聴く…とか、うーん、当たり前なことしか出てこない。

もっと目からウロコの簡単ライフハックはないのだろうか? …というわけで、東京大学教授で脳研究者の池谷裕二先生にお話をうかがってきました。

「やる気」は、科学的には存在しない概念だった!

斬新な「やる気を出す方法」を求めて研究室にお邪魔した編集部員を、穏やかな表情で出迎えてくださった池谷先生。

【池谷裕二(いけがや・ゆうじ)】東京大学薬学部教授、専門分野は大脳生理学の脳研究者。『記憶力を強くする』『進化しすぎた脳』『怖いくらい通じるカタカナ英語の法則』など著書多数

編集部・N

池谷先生、本日は「やる気を出す方法」を求めてやってきました。どうぞよろしくお願いします。

池谷先生

それで言うと、そんな方法はありません。だって、そもそも「やる気」自体が存在しないものですから。

編集部・N

!? いきなり衝撃的な結論が!

池谷先生

いいですか、「やる気」という言葉は、「やる気」のない人間によって創作された虚構なんですよ。今からそれを説明していきますね。

編集部・N

虚構…

池谷先生

人間は、行動を起こすから「やる気」が出てくる生き物なんです。

仕事、勉強、家事などのやらないといけないことは、最初は面倒でも、やりはじめると気分がノッてきて作業がはかどる。そうした行動の結果を「やる気」が出たから…と考えているだけなんですよ。

編集部・N

では、「やる気が出ない」から行動を起こせないというのは…?

池谷先生

それは心理的にありもしない壁を勝手につくっている状態。「やる気が出ない」というのは虚構にすぎません。

だから、面倒なときほどあれこれ考えずに、さっさと始めてしまえばいいんです。「やる気を出すにはどうすれば…」と考えるだけで行動しないことは、時間の無駄でしかありません。

編集部・N

そうだったんですね…

「行動」があって「感情」が出るのが普通。人間は「やる気」という言葉に翻弄されている

編集部・N

では、「やる気を出す方法」を探ること自体も無駄なことなんですか?

池谷先生

そうですね。本来やる気」というのは行動を起こせば自然とついてくるものなので、わざわざ「やる気を出す」ために特別な方法を探す必要はないんです。

人間は言葉が発達したことで、行動の結果にしかすぎないものに対して「やる気」なんて言葉をつくってしまった。それに翻弄されているだけなんです。

編集部・N

「やる気」はそもそも存在しないし、単なる後付けの言葉にすぎないと。

池谷先生

「やる気」以外に関してもこれと同じような現象が見られます。

たとえば、普通は「楽しい」から「笑う」という行動が出ると思われていますが、これも本来的には「笑顔をつくる」と「楽しくなる」なんです。まず行動があって、その後感情が芽生えるんです。

同じ原理で、ガッツポーズという「行動」を取ってみてください。達成感という「気分」が生じるんです。私たちの感情や気分の起点になるのは、脳ではなく身体なんです。

編集部・N

脳が「脳内物質」みたいなものをつくって、そこから感情が生まれるものだと思ってました…

池谷先生

最終的にはそうですけど、そもそも脳にスイッチを入れるのは身体。まずは身体を動かさない限りスイッチは入らないわけです。

頭の上にミカンを置く!? 30秒でできる 「やる気」スイッチの入れ方

池谷先生

でも、実は身体を動かさなくても脳にスイッチが入る、ちょっとおもしろい方法があるんですよ。

編集部・N

それを知りたかったんです!

池谷先生

頭頂部に意識を集中させるんです。

まずは目を閉じて、テニスボールでもリンゴでもミカンでも、とにかくそれくらいの大きさの球体を頭の上に乗っけて、ゆっくり手を離して目を開ける。そうするとスムーズに行動を開始できるんです。

編集部・N

なぜそれで脳にスイッチが入るんですか?

池谷先生

そもそも人間の意識は分散しています。ひとつのことだけに集中していると、外敵に気付けなかったり事故に遭ったりしてしまうからです。

しかし私たちには、仕事や勉強など集中力が必要な場面がある。そんなときは、強制的に視野を狭めるこの方法が有効なんですよ。競走馬が前方だけに集中できるようマスクを付ける原理と同じです。

視野を遮り、頭頂部に意識を集中させることで目を開けたとき、目の前のタスクに自然と取りかかれる状態=集中力が高まった状態がつくれるのです。

編集部・N

な、なるほど~。でも、会社で頭にミカンを乗せてたら、周りに心配されそうなんですが…

池谷先生

頭頂部に意識を集中させるという意味では、目を閉じて頭の中でその動作をイメージするだけでも同じ作用が期待できますので、実際に物を乗せなくてもよいです。

慣れないうちは30秒くらいゆっくりと、慣れてきたら10~15秒くらい目を閉じて頭頂部に意識を集中させてこの行動をイメージすると、スムーズに作業に取り掛かれるはずですよ。

編集部・N

仕事を始める前に習慣化すれば、もう「やる気」に翻弄されることなく集中して仕事ができそうです。

池谷先生

いま「習慣化」とおっしゃいましたが、やる気」なく動ける状態をつくるには、行動の習慣化も有効です。

子どもって歯みがきが嫌いでやらないことが多いでしょ? でも大人になると身体が覚えて習慣化し、歯みがきが苦痛とは感じない。

習慣化することで、「やる気」なんていらなくなる。だから、人それぞれに面倒と思うことでも「一日のうちにこの時間はこれをやる」と少しずつ身体を慣らしていくと、シームレスに行動できるようになります

存在しない「やる気」の強要はパワハラ。脳じゃなくて身体を鍛えよう

編集部・N

「やる気」を意識しないで仕事ができることは理想ですが、とはいえ「やる気」を求められるケースってありますよね…?

池谷先生

「やる気」が必要なものだと思っている人が多いのはよくないですね。「やる気」がない自分を責めて、自信喪失につながるかもしれません。

やる気」なんていらないと割り切る心理スタンスのほうが、現代人にはよほど必要です。

編集部・N

「やる気」がないことを責める第三者も多いじゃないですか。会社だと上司、学校だと先生とか。

池谷先生

それは。だって存在しないものを「出せ」と言ってるんですから(笑)。

とはいえ、一般の方は脳と身体の関係を知らないわけですから、まずは今日のお話を理解してもらうところからですね。

一時期「脳すごい! 脳を鍛えよう!」みたいなブームがありましたが、脳よりも鍛えるべきは身体です。スムーズに行動できる身体があってこそよく働けるのですから。

やる気という言葉は、やる気のない人間によって創作された虚構である

今回の取材では、「やる気」の概念がいい意味で覆されました。池谷先生がくださったアドバイスを参考に、「やる気が出ないから仕事ができない…」とか言っている自分の考えを変えていきたいと思います!

〈取材・文・撮影=新R25編集部〉

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