

「人は10億円手に入れても幸せになれない」
成功者が自殺してしまうのはなぜ? 脳科学的に「幸せになる方法」を教えてもらった
新R25編集部
2018年6月上旬、アメリカの大スターふたりの自殺が報じられました。
ひとりは自身の名を冠したブランドを持つデザイナー、ケイト・スペード。もうひとりはシェフであり番組司会者としても活躍していたアンソニー・ボーディン。
普通の会社員からしたら、お金も名誉もある彼らは幸せなのでは?と思ってしまいます。でもこうして自殺が起きてしまっているということは、“成功者”とされる人にも強い苦悩があるのでしょうか…?
もしかして、これから自分がお金持ちになっても幸せにはなれない? ではどうすれば幸せになれるのか。
そんなことを精神科医の樺沢紫苑先生に相談してきました。
【樺沢紫苑(かばさわ・しおん)】精神科医、作家。1991年、札幌医科大学医学部卒。インターネットを駆使し、累計40万人以上に、精神医学や心理学、脳科学の知識をわかりやすく発信している。月20冊以上の読書を大学生の頃から30年以上継続している読書家。そのユニークな読書術を紹介した『読んだら忘れない読書術』(サンマーク出版)は15万部突破のベストセラーに
お金で得られる幸せは、上昇している途中で感じられるもの

ライター・森
直球で聞かせてください。私たちはお金持ちになっても幸せになれないんですか?

樺沢先生
お金をたくさんもらったからといって、幸せにはなれないでしょうね。

ライター・森
やはりそうなんですか…でも、なぜ?

樺沢先生
ひとつは、悩み事を相談できる相手が少ないから。
お金持ちや有名人だけが味わうような悩みって、どうしてもわかってくれる人が限られます。だから誰にも言い出せずに、自分のなかに溜め込んでしまうことになりますね。
自殺する人は100%孤独です。自分のことを助けてくれる人がいないと思い込んで、孤独になってしまうから自殺が起きるというのが私の考えです。

ライター・森
人に悩みを相談することって、そんなに大事なんですか?

樺沢先生
もちろんです。人に悩みを話して方向性を示してもらうだけで、ストレスのほとんどは解消されます。
カウンセリングにくる患者さんも、状況は何も変わっていないはずなのに、笑顔になって帰っていく人が大勢いますからね。

ライター・森
そういうものかもしれないですね…
でも、きっとほかにもお金持ちが幸せになれないワケがあるんですよね。どんな理由でしょう?

樺沢先生
それ以上、お金持ちになれないからです。

ライター・森
と、言いますと…?

樺沢先生
お金を手に入れることで感じられる幸せは、上昇が必要。階段を上っていく過程で得られるものなんです。
ドラクエでいうとレベルが上がって「タラララッタッタッター」って音が鳴りますよね。その瞬間が大事。
だから10億円を手に入れて、一瞬は幸せになったとしても、今度はもっともっと大きな金額を手に入れないと、満足できなくなります。

ライター・森
10億円持ってても、さらにお金を手に入れないと幸せを感じないってことですか?
それは相当お金に執着してる人なんじゃ?

樺沢先生
いや、これは個性の話ではないです。人間の脳の仕組みと関係があるんですよ。
大金を得ると、「ドーパミン」という幸福の一種を感じる脳内物質が出ます。しかしドーパミンによる幸福感は慣れやすく長続きしません。より多くのお金を得ないと、脳は幸福感を味わえなくなってくる。
そうやって“成長”するように人間は設計されているんですよ。

ライター・森
上昇志向は必要なものかもしれないけど、幸せを感じるためにはどこまでも“成長”しつづけないといけないと…

樺沢先生
はい。そうやってドーパミンを出しながらバリバリ頑張ってきた人は、頂上まで上った瞬間に、今まで以上の目標が設定できなくなってしまいます。
すると幸福感は薄れて、いずれは絶望感に襲われることになるでしょう。
だからある意味では、みなさんのほうが幸せですよ。まだ上が目指せますから。

ライター・森
では、もし仮に大金を手にしてしまったら、もう幸せにはなれないのでしょうか?

樺沢先生
ここまではお金を事例としてお話しましたが、なにかしらで成功したときにもドーパミンが出ます。
だからお金持ちになれたら、また別の“山”を登り始めればいいんですよ。新しいことにチャレンジすれば、また上を目指せますからね。
人に親切にすると、飽きずに“幸せ”を感じられる脳内物質が出る

ライター・森
脳科学的に“幸せ”を感じる物質は、ドーパミンしかないんですか?

樺沢先生
「アドレナリン」が放出されることで感じられる幸福感もあります。これは、クラブで朝まで騒いだり、ジェットコースターに乗ったりと、心拍数が上がる刺激によって放出される脳内物質です。
ただし疲れてしまうので、このような方法で幸福感を得るのはほどほどにしておきましょう。

ライター・森
有名人がよくボランティアや寄付など社会貢献活動をされていますよね。これも幸福感を得られる手段なのでしょうか?

樺沢先生
そうですね。人に親切に接したり、ペットやパートナーとコミュニケーションをとったりすると、「オキシトシン」という脳内物質が出ます。これは長く続く幸福感のもとになります。

ライター・森
でも、好きな人と一緒にいても3年ぐらいで飽きる、みたいな話もありますよね?

樺沢先生
それはドーパミン型の恋愛になっているからですね。
そもそもドーパミンは目標を設定/達成したときに出ます。だから“高嶺の花”みたいな人を頑張って捕まえるというのは、設定した目標を達成することが目的に、つまりドーパミン型の恋愛になりやすい。
心臓がドキドキするドーパミンには慣れてしまうから「3年で飽きる」ということになります。

ライター・森
そういうことだったんですね!

樺沢先生
一方でオキシトシンは心拍数を下げる効果があります。つまりリラックスできるんですね。こちらは慣れることなく長続きします。
なので長く続く関係を望むのなら、リラックスできるか、つまりオキシトシンが出ているかどうかを判断基準にするといいでしょう。
もっとも手軽に幸せを感じられる物質は、太陽を5分浴びるだけで出る

樺沢先生
ドーパミン、アドレナリン、オキシトシンと挙げてきましたが、最後にもっと手軽に幸せを感じられる脳内物質を紹介しましょう。

ライター・森
そんなものがあるんですか。

樺沢先生
はい、「セロトニン」です。これは太陽の光を5分ほど浴びると放出されます。

ライター・森
それはお手軽ですね。

樺沢先生
早起きして、太陽の光を浴びながら歩いていると清々しい気分になりますよね。それは目から入った光によって「縫線核(ほうせんかく)」という細胞が刺激され、セロトニンが放出されているからなんです。
また、15分以上の軽い運動や咀嚼でも、セロトニンは出ます。なので早起きして朝ごはんをしっかり食べ、通勤のために歩きながら太陽を浴びるようにしましょう。
ただし、睡眠不足などで疲れがたまっていると、セロトニンの出る量が減ってしまうので注意してください。

ライター・森
セロトニンが減ると、なにか悪いことが起きるんですか?

樺沢先生
まずひとつは、うつ病のような状態になり、やる気や食欲などいろんな意欲が低下してしまいます。

ライター・森
連休中ずっと家にいるとダルくなってくるのは、そういう理由だったんですね。

樺沢先生
もうひとつは、感情のコントロールができなくなり、ひどくなると自殺にもつながります。

ライター・森
えっ、自殺…?

樺沢先生
自殺してしまうほとんどの人は、不調が続いたある日、突発的に死にたいという感情が湧き上がってくるといわれています。
自殺衝動が湧いたときにセロトニンが少なかったり、お酒を飲んで酔っ払っていたりと、感情のコントロールができない状態になっていると、衝動に身を任せて亡くなってしまうというわけです。

ライター・森
そうだったんですね…。じゃあ自殺は本人の意志が弱いとか、そういうことではないと。

樺沢先生
はい。ほとんどの人は「死にたい」と思っても勇気がないからできません。
一方で実行できてしまう人は、むしろ意志が強すぎたり、コントロールできない状態になっていたりするといえるでしょう。
幸せを感じるにはトレーニングが必要。毎日3つ楽しかったことを書き出そう

樺沢先生
ここまで脳科学的に感じられる“幸せ”についてお話ししましたが、もうひとつ大事なことがあります。

ライター・森
なんでしょう?

樺沢先生
幸せを感じるにはトレーニングが必要なんです。
誰だって程度の差はあれど、幸せなことと不幸せなことの両方に出会っているはず。それなのに「毎日つまらない」と感じているとしたら、幸せにつながることを発見する能力が低いせい。
“プチ幸せ”を見逃してしまっているんです。

ライター・森
たしかにそうかもしれません…

樺沢先生
そういう人は幸せにはなれません。

樺沢先生
きっと100億円もらっても「税金どうしよう」とか「盗まれないかな」なんてことで頭がいっぱいになってしまいますからね。
いま幸せでない人は、そのままだと一生幸せになれないんです。

ライター・森
厳しい…。では、どうしたら幸せを発見する能力を高められますか?

樺沢先生
簡単です。寝る前に、その日あった楽しいことを1行でいいので3つ書き出してみてください。3分もあればできますよ。

ライター・森
えっ、それだけでいいんですか? しかし、なぜ「書き出す」んですか?

樺沢先生
頭に思い浮かべるだけではダメ。考えるのと書くのでは記憶の定着に圧倒的な差が出ますから。
そうやって書き出す習慣をつけると、幸せだった記憶が頭に残ってポジティブになってくるので、まわりにもポジティブな人が集まる。すると連鎖的に楽しいことが次々に起きるようになるはずです。
幸せを感じる脳内物質が出る行動とセットで、“プチ幸せ”を書き出す習慣をつけましょう。
漠然としていた“幸せ”という概念を脳科学的に説明してくださり、うなずくばかりの取材でした。これからは幸せな瞬間をノートに書き出して、噛み締めてから寝ます!
〈取材・文=森かおる(@orca_tweet1)/取材・撮影・編集=葛上洋平(@s1greg0k0t1)〉

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