ビジネスパーソンインタビュー
「頭がぐるぐる回る」って…危なくないの?
サウナーが言う「ととのう」ってどういう状態?「最強の温泉習慣」著者のドクターに聞いた
新R25編集部
最近、若いビジネスパーソンの間でブームになっている“サウナ”。ただ、熱狂的な愛好家が存在する一方で、まだそのよさを理解できないR25世代がいるのも事実。
そこで11月の特集「サウナ、イカナイ?」では、さまざまな角度からサウナの魅力を徹底解剖していきます!
第1回の記事では、“言葉のプロ”である編集長たちの力のこもったプレゼンにより、いきなり奥深いサウナの魅力を知ることができました。
しかし、サウナ初心者がまだ理解できずにモヤモヤしているのは、サウナーたちが口を揃えて言う「ととのう」という言葉。
これ、医学的にはどういう状態なんでしょうか?『医者が教える最強の温泉習慣』(扶桑社)の著者で国際医療福祉大学病院の医師・一石英一郎先生に解説してもらいました。
【一石英一郎(いちいし・えいいちろう)】医学博士、内科医、国際医療福祉大学病院内科学教授。京都府立医科大学卒業、同大学大学院医学研究科内科学専攻修了。最新の遺伝学にも造詣が深い。温泉入浴指導員の資格を持ち、『医者が教える最強の温泉習慣』(扶桑社)など著書多数
「ととのう」は脳内ホルモンが大きく変動する「ランナーズハイ」のようなもの!?
編集部・N
サウナーの間では、高温のサウナと水風呂に交互に入って体験するなんとも言えない「悦に入る状態」を「ととのう」と言うらしくて、「恍惚」や「トランス」状態に例える人もいます。
「ととのう」を医学用語で表すと何と言いますか?
一石先生
医学用語ではありませんが、メディテーション、つまり「瞑想」あるいは「ランナーズハイ」の状態に近いかもしれません。
医学的には、脳内ホルモンが大きく変動するような生理学的変化が起こっている可能性があります。
編集部・N
具体的には脳内や身体がどうなっている状態ですか?
一石先生
脳波のアルファ波やシータ波が出ている状態、ランナーズハイの状態でいうと快楽物質の血中βエンドルフィンが上昇していると想定されます。
編集部・N
快楽物質! ほかにも何か物質が出ているのでしょうか?
一石先生
ある実験で、動物をサウナ状態の中に入れると脳内セロトニンやオキシトシンが大きく変動したことが解明されています。
脳内セロトニンは、人間の場合ですと座禅などの「瞑想状態」で上昇するとも言われています。
編集部・N
セロトニンって日光を浴びると増えると聞いたことがあるのですが、瞑想状態でも上昇するんですね。
「オキシトシン」とはどんな物質ですか?
一石先生
オキシトシンとは一般的に「幸せホルモン」と呼ばれているもので、脳科学者・中野信子先生の著書『シャーデンフロイデ 他人を引きずり下ろす快感』(幻冬舎)によると、男性では射精の瞬間、女性では子宮頚部を刺激されると分泌されることが分かっているそうですよ。
編集部・N
おお、まさに「恍惚」状態と同じですね…
マッサージ効果、痛みの緩和、ストレス解消…正しく「ととのう」とさまざまな効能が!
一石先生
サウナと水風呂の繰り返しは血管の伸縮によるマッサージ効果もありますし、発汗することでデトックス作用もあります。
こうした新陳代謝の促進も「ととのう」を助けているかもしれません。
編集部・N
「ととのう」と、ほかにどのようなメリットがありますか?
一石先生
血中βエンドルフィンや脳内セロトニン、オキシトシンが上昇すると、痛みの症状緩和や脳内神経活動の休息を促す効果があると考えられています。
また、これらのホルモン変動は自律神経系と連動して副交感神経を高め、仕事やストレスによる交感神経亢進(こうしん)状態、つまり、興奮状態の緩和も期待できます。
編集部・N
「ととのう」って、「自律神経がととのう」ことも含まれているんですね。
「サウナ5分、水風呂1分を3クール以内」がおすすめ。休憩で副交感神経を高めるのもキモ
編集部・N
正しく「ととのう」ために、おすすめのサウナと水風呂の入り方について教えてください。
一石先生
サウナの適正使用に関する研究論文があるんですけど、それによると「サウナ5分、水風呂1分のセットを3クール以内」とされています。
ただし体調が思わしくないときやすぐれないときは無理をせず、「サウナ5分以内」「3クール以下」でもかまいませんよ。
編集部・N
「ととのう」ために適切な水風呂とサウナの温度はありますか?
一石先生
「ととのう」に関する研究結果がないので既存の類似研究からの類推になりますが、ホルモン変動など生理的な変化が認められた温度条件としては、水風呂の場合は15〜19度、サウナの場合は80〜100度という報告があります。
ただ、体調を崩さないためには先ほど紹介した「入る時間」を守っていただきたいですね。
編集部・N
サウナーの間では、「ととのう」ために、サウナ→水風呂のあとの「休憩」が重要とされています。
この休憩中に「ととのう」感覚を覚える人が多いそうなのですが、それはなぜだと思いますか?
一石先生
高温のサウナ室や冷たい水風呂では、「ファイト・オア・フライト(闘争 or 逃走)」という緊張状態、つまり交感神経(※)が高ぶっている状態になります。
そこから休息のために通常の室温に戻ると、今度は副交感神経(※)が優位になり、オキシトシンやセロトニンの分泌と副交感神経系の高まりがお互いに増強し合う状態になります。
それを「ととのっている」と感じるのかもしれません。
※交感神経と副交感神経
交感神経とは、日中優位に活動する緊張モードの神経。一方、副交感神経は夜間などの休息中に優位に活動するリラックスモードの神経である。この2つの神経は、どちらか一方が活動するともう一方は抑制される関係にある。
編集部・N
なんだかすごい状態…。ただ、やはりサウナと水風呂のあとの「休憩」は有効なんですね。
一石先生
無理をしないためにも、休憩は必要だと思います。
副交感神経優位で血圧や脈拍も下がり、落ち着いた気分は瞑想状態にも入りやすいと考えられますし。
「頭がぐるぐる回る」って言う人がいるけど、大丈夫なの?
編集部・N
ウチの編集長が「ととのう」感覚のことを、「めまいがする感じで、頭がぐるぐる回る」「天井と地面がくっつき、溶けるような感覚になる」と言っているのですが、これは危険ではないのでしょうか?
一石先生
危険ですね。
それは生理学的に言えば、血圧が急上昇する「血圧サージ」や、急激な温度変化で血圧の乱高下を引き起こす「ヒートショック現象」だと考えられます。
血圧の急な低下は、めまいを誘発したり各臓器を酸欠にしたりして機能不全を引き起こします。脈拍が急激に変動して心臓が苦しくなったり、不快感や吐き気を感じたり、意識が朦朧(もうろう)としたり。
編集部・N
ひえ〜! サウナ好きの編集長は「いつも頭がぐるぐる回って、たまに気持ち悪くなる」と言いながらも、しょっちゅうサウナへ行ってるんですよ…
一石先生
編集長には率先して先ほどの「サウナの適正使用」を守ってほしいですね(笑)。
温冷交代浴には血管のマッサージ作用によって脳内の酸素や栄養、老廃物などの新陳代謝が促進されるメリットがある一方で、血管の急激な伸縮が起こるリスクに気をつける必要がありますからね。
編集部・N
血管が急激に伸縮すると、身体にどんなことが起こるんですか?
一石先生
中高年や高齢の方は血管が破れたり、血管の血栓がはがれて詰まったりする可能性があります。
また、年齢に関係なく脳卒中や心筋梗塞のリスクも高まりますので、サウナと水風呂の間にかけ湯をおこなうなど、できるだけ急激な温度変化を避けた方がよいでしょう。
サウナや水風呂では事件も。快楽には危険が隣り合わせだということを認識しよう
編集部・N
「ととのう」感覚は気持ちがいい一方で、正しい方法で入らないと危険もいっぱいですね…
ちなみにですけど、サウナ以外でも「ととのう」感覚を味わう方法があったりするんでしょうか?
一石先生
似たような生理学的条件であれば、急激な温度差を体感することができる滝行や護摩(ごま)行でも味わえるかもしれませんね。
私はどちらも体験していないので、確かなことは分かりませんけど(笑)。
編集部・N
どちらも苦行だ…。それならサウナに入るほうがいいです(笑)。
一石先生
いずれにしても、交互浴は「血圧サージ」や「ヒートショック現象」を引き起こす可能性があるので、身体にはとても負荷がかかっている状態です。
気をつけないと、本当に天と地がひっくり返り、本当にあの世に溶けていってしまうかもしれませんよ。
編集部・N
その表現は怖すぎます…(笑)。ほかにも注意すべきことはありますか?
一石先生
そうですね。当たり前のことですが、
・飲酒後にサウナに入らないこと
・水分補給はこまめにおこなうこと
・体調に異変を感じたら通常の室温で座るか横になること
・早めに誰かに異変を伝えること
などは意識すべきです。
編集部・N
知り合いでなくても、自分以外の誰かがサウナに入っている状況の方が安心ですね。
一石先生
そうですよ。実際、高温のサウナ室で意識不明になって気づかれなかったり、水風呂で知らない間に浮いた状態で発見されたりといった事件も起こっていますから。
また、水風呂で調子が悪くなって、あわてて高温のサウナに駆け込むなんてしたらダメですよ。状態がさらに悪化します。
編集部・N
特に冬場は、寒くなったらやっちゃいそうです…
一石先生
サウナに限らず、登山や海水浴といった楽しいことや気持ちの良いことは、危険が隣り合わせにあると認識することが大事です。
くれぐれも自己管理には注意を払いましょう。
サウナと水風呂の交互浴で体験する気持ちのいい感覚は、脳内で快楽物質が分泌されたり、自律神経が整えられたりすることが関係していることが分かりました。
先生に聞いた注意点を守りながら、あなたも「ととのう」感覚を味わいに「サウナ、イカナイ?」
〈取材・文=新R25編集部/イラスト=石井あかね〉
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【4日連続公開】特集「サウナ、イカナイ?」
明日公開の、第3回は“みんなで行く”サウナの魅力について徹底解剖!
サウナって仕事帰りにひとりで行くようなもので、あまり他の誰かと一緒に行くイメージはないですよね?
ところが最近、イケてるIT企業を中心に「サウナ部」というのが盛り上がりをみせているらしいんです。福利厚生に「サウナ」があるなんてところも。
“みんなで行くこと”にどんな価値があるのか、これまで2社でサウナ部を立ち上げ、運営されてきた経験を持つ畑上英毅さんにお話を伺ってきました。
明日の記事も必見です!
参考文献
・Oxytocin mediates stress-induced analgesia in adult mice. Robinson DA, et al. J Physiol. 2002.
・Oxytocin release via activation of TRPM2 and CD38 in the hypothalamus during hyperthermia in mice: Implication for autism spectrum disorder. Review article
Higashida H, et al. Neurochem Int. 2018.
・That warm fuzzy feeling: brain serotonergic neurons and the regulation of emotion. Review article
Lowry CA, et al. J Psychopharmacol. 2009.
・The effect of physical therapy on beta-endorphin levels. Review article
Bender T, et al. Eur J Appl Physiol. 2007.
・The sauna and sauna bathing habits--a psychoanalytic point of view.
Sorri P. Ann Clin Res. 1988.
・サウナ入浴法の検討 : 入浴時間の設定が生体諸機能に及ぼす影響 体力科學 体力科學 24(3), 100-107, 1975-09-01,日本体力医学会
・Involvement of serotonergic receptor subtypes in the production of antinociception by psychological stress in mice.
Tokuyama S, et al. Jpn J Pharmacol. 1993.
・Prior cold water swim stress alters immobility in the forced swim test and associated activation of serotonergic neurons in the rat dorsal raphe nucleus.
Drugan RC, et al. Neuroscience. 2013.
・拘束ストレスラットでの鍼通電刺激の脳内モノアミンに及ぼす影響
加藤 麦, 明治鍼灸医学 27巻, p27-45(2000)
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