ビジネスパーソンインタビュー

KPIはもう古い!? 目標管理手法「OKR」がGoogleなどで採用される理由を専門家に聞いた

「今の時代にぴったり」と言われる理由とは?

KPIはもう古い!? 目標管理手法「OKR」がGoogleなどで採用される理由を専門家に聞いた

新R25編集部

2020/01/07

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仕事の「目標管理」できてますか?

「そもそもどうやって目標を決めたらいいの?」と頭を抱えたり、「部下が目標にコミットしてくれない…」と悩んだりしている人も多いのでは。

そんなあなたが知っておくとよさそうなのが「OKR」というフレームワーク。これまで代表的だった「KPI」や「MBO」に代わり、導入が広がっているそうです。

すでにたくさんの目標管理方法があるにもかかわらず、OKRが注目される理由とは?

OKRの導入コンサルティングをおこなっている「株式会社タバネル」代表取締役・奥田和広さんに、その秘密を教えてもらいました。

〈聞き手=篠原舞〉

【奥田和広(おくだ・かずひろ)】1975年大阪生まれ、一橋大学卒業。上場ファッションメーカー、化粧品メーカー、コンサルティング企業などに勤務し、取締役として最大170人の組織マネジメントに携わる。自らのマネジメント経験とコンサルティング経験を経て、成長企業の共通項OKRに出会い、OKR導入コンサルティング会社「株式会社タバネル」を設立。著書に『本気でゴールを達成したい人とチームのためのOKR』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)がある

「OKR」とは? KPIやMBOとの違い

篠原

「OKR」って正直あんまりなじみがなくて…イチから教えていただきたいんですが、大丈夫でしょうか?

奥田さん

もちろんです。OKRとは「Objectives Key Results」の頭文字をとった略語です。

1つの「目的(O:Objective)」と2〜5個の「重要な結果指標(KR:Key Results)」から構成されている、目標管理方法のひとつですね。

目的は「何を達成したらいいのか?」と、組織が目指す“ゴール”を示します。重要な結果指標は、その目的を「どのように達成するのか?」を示す数値目標です。

篠原

なるほど。最近よく聞くようになった気がしますが、いつごろから使われているんですか?

奥田さん

もともとはインテル社が従来の目標管理に問題を感じてつくったのが始まりだと言われています。そこからGoogle社をはじめとしたIT・ベンチャー企業に広まり、2010年半ばごろから世界的に使われるようになりました。

日本でも、メルカリ社freee社などの企業が取り入れています。今の時代に即した新しい目標管理方法だと言われることも多いですね。

篠原

でも目標管理システムって、ほかにもいろいろありますよね。どうしてOKRが“新しい”と言われるのでしょうか?

奥田さん

その理由は、大きく分けて4つあります。

OKRが「新しい」理由①:定性的なゴールと、定量的な指標をセットにする

奥田さん

KPI(※1)やMBO(※2)などの目標管理方法は“定量目標”を追うものです。たとえば「売上5000万円」や「月間訪問者数100万人」などですね。

※1 KPI(Key Performance Indicator)…組織の目標達成度を計測するための数値指標のこと

※MBO(Management by Objectives)…従業員が自身の数字目標を設定し、その目標の到達度に応じて人事評価をおこなう制度のこと

奥田さん

一方でOKRのゴールである「O(目的)」は、あくまで“定性的なもの”です。

たとえば「20代の間で圧倒的人気を誇るサービスをつくる」といった感じですね。

篠原

目的って、わざわざ言わなくてもみんなわかってませんか…?

奥田さん

意外とそうでもないんですよ。目の前の数字を必死で追っていると、つい目的を見失ってしまいます

またKPIの場合は、追う数字目標が増えてしまい、何を追っているのかワケがわからなくなる…なんてケースもよく聞きます。

篠原

ああ…ありますよね。

奥田さん

でも、意味のない数字を追うのってツラいじゃないですか。そこで効くのが“目的”です。

有名なイソップ寓話にもあるように、ただ指示されたからレンガを積んでいる職人と、「後世に残る大聖堂をつくる」という目的を持ってレンガを積んでいる職人では、意欲や生産性に大きく差がつきます

篠原

目的を持つことで、やる気が出るというのはわかります。ただ、定性的な言葉を指標にすると、人によって解釈がずれませんか?

奥田さん

それをぶらさないために設定するのが「KR(重要な結果指標)」です。

たとえば「20代の間で圧倒的人気のサービスをつくる」ためのKRを「訪問者数」に決めたなら、自分たちのいう「圧倒的人気」は「このくらいの訪問者を集めることだ」と定量的に定義できます。

篠原

なるほど!定性的な“O”と定量的な“KR”をセットにすることで、ゴールを見失わずにみんなで同じ方向を向いて進めるんですね。

OKRが“新しい”理由②:全体に公開されるため、信頼関係の構築に役立つ

奥田さん

OKRのもうひとつの新しさは、透明性が高いこと。OKRは、チーム全体のものと個人のものを、全員に公開するのが基本です。

篠原

自分の目標は、上司にだけこっそり共有するものだと思ってました。

奥田さん

みんなこっそり共有してチームの状態が不透明になると、不安を生む原因になってしまいます。

ウチのチームはこんなに忙しいのに、向こうのチームは何をやってるんだ!」みたいな。

篠原

ああ〜めっちゃわかります…

奥田さん

OKRを使えば進捗が常に公開されるので、ほかのチームが何をやっているかわからない状態がなくなり、信頼関係が築きやすくなります。

OKRが“新しい”理由③:100%の達成を重視しすぎず、挑戦を歓迎する

奥田さん

そして3つ目は「達成率」。ほかの目標管理方法では“100%達成”を目指すのに対し、OKRの指標である“KR”は60〜70%に到達できればいいとされています。

篠原

達成しないと、わざわざ目標を立てた意味がないのでは…?

奥田さん

いや、むしろ“100%達成”だけを追い求めると、うまくいかないんです

たとえば「50」という目標を100%達成したAさんと、「100」という目標を70%達成したBさんがいたとします。

この2人の実績は、Aさんが50、Bさんが70ですから、Bさんのほうが高いですよね。なのに“100%達成”を判断基準として捉え直すと、Aさんのほうが高く評価されます

これが続くと、みんな高い目標を掲げるのがバカバカしくなって、確実に達成できる“守りの目標”を設定するようになります。

「目標設定あるある」だ…

奥田さん

対してOKRで推奨されているのは「ムーンショット」と呼ばれる、月(moon)に届くくらい高い目標。“100%達成”は難しいとわかっている目標に、あえてチャレンジしてもらうんです。

そして、100%に満たないからと言って評価が下がることもありませ。むしろ、軽々と100%を達成できた場合は、目標の難易度を見直す必要があります。

だから、未達成を恐れて“守り”の目標を置く必要がなくなり、社員がどんどん新しい挑戦を始められるようになります

篠原

なるほど! でも100%に慣れている身としては、「70%でいいや」って思うと気がゆるんじゃいそうです…

奥田さん

たしかに、最初はとまどう方も多いと思います。

まずは「必達ラインのKR(70%)」と「チャレンジングなKR(100%)」の2段階を設定してみてはどうでしょう。必達ラインの達成だけで満足せず、さらに上を目指す感覚がつかめるはずです。

OKRが“新しい”理由④:目標に関するコミュニケーションの頻度が高い

奥田さん

従来の目標管理方法の場合、半年〜1年くらいのサイクルで指標を見直すのが一般的。

ただ、こんなに長期間放っておかれると、忙しさにかまけて目標自体を忘れるんですよね(笑)

篠原

わかります…! 半期の振り返りの前に、あわてて資料を見直したことが何度か…

奥田さん

OKRは基本的に3カ月サイクルで見直すのに加え、1~2週間単位で細かくコミュニケーションを取るのが基本です。

週のはじめにチーム全体でタスクを確認する「チェックイン」、週の終わりにおこなう「ウィンセッション」など、さまざまなミーティングを設けることが推奨されています。

OKRのコミュニケーション3つ

① チェックイン
週のはじめにチーム全体で、現在のOKRの進捗と今週のタスクを確認するミーティング

② ウィンセッション
週の終わりにチーム全体で、OKRの進捗確認と、うまくいっていない部分の対策を話し合うミーティング。進捗報告にとどまらず、最後はチームの挑戦を「賞賛」してポジティブに終えるのが特徴

③ 1on1ミーティング
週の終わりに、リーダーがメンバーと1:1でおこなうミーティング。基本の流れは②と同様だが、1:1でしか話せない悩みごとや、キャリア形成などの長期的なテーマについても話し合う

篠原

コミュニケーションの頻度が高ければ、目標の形骸化は防げそうですね。

奥田さん

そうです。しかも成果を出すスピードが上がり、チームの仲も深まって、いいことづくめなんですよ。

篠原

いろんなミーティングが推奨されているなかで、特におすすめなものはありますか?

奥田さん

1つだけ挙げるとしたら、ウィンセッションです。

篠原

先ほども出てましたが…なんでしょう?

奥田さん

簡単にいうと、成果を賞賛するミーティングです。

達成が難しい目標を追っているとはいえ、あまりに未達成が続くと気が滅入ってしまいますよね。そうならないよう、ウィンセッションでは「できたこと」にフォーカスします。

挑戦したメンバーをおもいっきり賞賛することで、モチベーションを高めるんです。ほかのチームを呼ぶなどして、成果をアピールする規模を広げるとさらに効果的ですね。

ウィンセッションは“アメリカのパーティー”くらいテンションを上げるといいそうです

篠原

そういう場があれば、失敗を過度に恐れることもなくなりそうですね。ただ、そう何度もミーティングをするのはちょっと大変そう…。

奥田さん

はじめは面倒かもしれません。ただ、いいチームをつくるためには、どうしても密なコミュニケーションが必須になります。

OKRを導入すれば、そのコミュニケーションまで「仕組み」として習慣化できます。むしろ、リーダーにとっては効率的とも言えますよ。

OKRを導入する際の注意点

奥田さん

ここまでOKRのいいところを解説してきましたが、 実は導入に失敗するケースもあります。

特に多いのは、メンバーの理解を得ずに走り出してしまうこと

よくわからないけど高い目標を追わされている」とメンバーに思われてしまうと、OKRのメリットは立ち消えてしまいます。

篠原

たしかに。突然「今日からOKRを導入します」と言われてもとまどってしまいそうです。

奥田さん

そうですよね。リーダーは導入前に、OKRについてメンバー全員に説明し、理解してもらうことが大切です。

そして肝心の“O”と“KR”はリーダーだけで決めず、チームの話し合いを挟めるといいですね。全員の意見を取り入れることで、目的への思い入れが強くなるからです。

篠原

メンバーにとっても、仕事の目的を見直すいい機会になりそうですね。

奥田さん

そして、結果が出ないからといって焦らないようにしましょう。どんな制度でも、最初の3カ月は苦しいものです。

ただ、一度でも成功体験を得られれば、チームの空気が変わります。「頑張ってムーンショットを目指したからここまで来られた」とメンバーが実感できれば、成長が加速するでしょう。

篠原

お話を聞いていて、どんどんOKRが魅力的に感じてきました…!

奥田さん

よかったです。OKRは “ワクワク”しながら働きたいすべての人を助ける、とてもシンプルな仕組みです。チームが進むべき道に迷いそうなときには、OKRの力を借りてみてほしいですね。

OKRは無機質な数値管理方法ではなく、“ワクワク”しながら働くための助けとなるもの。そう考えれば、目標設定に苦手意識がある人も少しだけ救われるかもしれません。

成果を出したいチームが取るべき次の一手は、OKRかも…?

〈取材・文=篠原舞(@maichi6s)/編集=石川みく(@newfang298)〉

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