ビジネスパーソンインタビュー
下園壮太著『自衛隊メンタル教官が教える 心の疲れをとる技術』より
精神的な疲労は“漠然としか”自覚できない。心の不調を見つける「軍隊の情報収集法」
新R25編集部
外出自粛期間が続き、ほとんどの時間を自宅ですごすようになりました。
家から出られないストレスもありますが、移動時間などがなくなったことで自分のために使える時間が増えているのも事実。
そこで、新R25が立ち上げる新連載「変化の時代にこの一冊」では、これまで多くの本に触れてきたビジネスインフルエンサーたちが「社会が大きく変化している今だからこそ読むべき一冊」をセレクト。
その内容の一部を抜粋して、自宅にいながらも気軽に読書体験ができる記事をお届けします。
もし興味のある本に出会ったら、ぜひ購入してこの機会にじっくり読んでみてください。
今回書籍をご紹介いただいたのは、『ドラゴン桜』『宇宙兄弟』『働きマン』などのヒット漫画を生み出した、編集者の佐渡島庸平さん。
外出自粛のストレス、見えない先への不安、毎日の報道疲れ…。
日々の生活で、私たちの心には、少しずつ疲れが蓄積されているはずです。
そんな心の疲れを取るために、佐渡島さんがセレクトしてくれたのが、下園壮太さんの著書 『自衛隊メンタル教官が教える 心の疲れをとる技術』(朝日新書)。
佐渡島さんからは「たくさんのメンタル系の本を読んで、もっとも信頼できると思ったのが下園先生。コルクでも定期的に相談にのってもらっていて、入社した人にはこの本をいつも渡しています」というコメントが寄せられています。
そんな今回は、無意識のムリに気づくための方法を同書から抜粋してご紹介します。
個人のムリは「四つの面」に表れてくる
ムリは、①体、②人間関係、③行動、④心の四つの面で表面化してくる。
ムリをしすぎて、体を壊す。これはわかりやすい。
ところが、ムリが人間関係に表れ、イライラしたり、逆にしがみついたりして、大切な人間関係を壊していくケースも多い。
また、ムリをしている人が、いつもは行わない行動をしてしまうことがある。例えば、犯罪行為、危険な行為、暴力行為、大きなギャンブル…。
また、ミスとして表れる事もある。いつもはやらない計算や手続きのミス、不注意による事故、言い間違い、記憶違いによるトラブルの多発。
そして、体、人間関係、行動のいずれにも表れなかった「ムリ」は心に表れてくる。
一般的にはうつ状態になるだろう。統合失調症などのうつ以外の精神科疾患になる場合もある。
いずれにも共通するのは、ムリがこの四つに表れても、本人はそれが「ムリ」のせいだとは、気づきにくいことだ。
「確かに大変かもしれないが、別にムリをしている訳じゃない。
ただ、体調が悪いだけ、ただ、相手が悪いだけ(人間関係トラブル)、ただうっかりミスをしただけ、ただ元気が出ないだけだ」と考えてしまう。
ムリを自覚しにくい理由①「麻痺のシステム」
人には、「痛み止め」を自分の体内で注射するような機能がある。
なぜ、そんなシステムがあるのだろう。
このような「人の反射的な反応」は、原始時代をベースにできている。
例えば、痛み。痛みは原始人に、体に危険が訪れていることを教えてくれる。
骨折している、毒虫に刺されている、蛇に嚙まれている、内臓の機能が不全である…そんなときに、痛みが異変を教えてくれ、危険から身を守る行動を起こさせてくれる。
痛みは、天然の健康ガードマンであり、「安静にしなさい」と言う医者であり、患部を動かさないようにするギプスでもある。
ただ、原始人の環境は常に危険と隣り合わせだ。
今怪我をしているからといって、クマが容赦してくれるわけではない。クマが近づいてきたら、全力で対応しなければならない。
そんな時、「痛み」は、行動を妨げる。
そこで、一時的に痛みを感じさせないようなシステムができたのだ。
これが「麻痺のシステム」。
ピンチになると、痛みをはじめ疲労、不安や恐怖、悲しさなどの感情を感じにくくしてくれる。
現代の心身のトラブルは、原始時代から培ってきた人間の動物としてのシステムが、現代的状況と合わなくなって起きている場合が多い。
この麻痺システムは同時に、しっかり行動できるために、興奮状態にする。つまりハイな状態。その結果、苦痛より、むしろ心地よささえ感じることもある。
しかし、それはあくまでも、一時的な能力だ。
麻痺はいつかは切れる。
痛み止めが切れた瞬間、耐えきれない痛みが襲う。
ムリを自覚しにくい理由②「疲労の質」
ムリがわかりにくい二つ目の要素は、疲労の質にある。
ムリを進めてしまう疲労とは、じわじわ進む精神的な疲労だ。
肉体的な疲労は、短期的かつ大きな運動刺激によるエネルギー消費で、全身の疲労感とともに、肉体の部分的疲労感を感じる。
痛みを伴うものもあり、本人も「疲れた、休もう」と自覚しやすい。
一方、頭脳・感情労働による疲労は、脳の活動によって消費されるエネルギーによるものだ。
その疲労感は、だるさや頭の重さ、眠さとして「漠然としか」自覚できない。
ある活動が、肉体を動かすものであれば、知覚しやすい肉体疲労が、行動にストップをかけてくれる。
ところが現代人の活動は、極端に体を動かさず、頭脳だけを酷使する。
これに拍車をかけているのが、睡眠がとりにくくなっているという事だ。肉体労働が伴っていれば、眠りたいという欲求も大きくなるため、睡眠も確保しやすい。
ところが頭脳・感情労働に偏っている場合、肉体的な疲労が少ないため、眠るきっかけを失ってしまう。
さらに、社会が24時間化してきた。
厚生労働省の調査では、夜勤や不規則な交代勤務につく人は、労働人口の約4分の1を占めるという。
1日で最も眠くなるのは、生理学的に午前2時から3時ごろだと言われる。
夜勤者はこの時間に仕事をし、逆に人が活動モードにある日中に睡眠を取ろうとする。
睡眠の質が悪くなり、疲労が回復しにくくなる。
それだけではない。
長期にわたる生体リズムのズレは、肥満や高血圧、循環器の病気のリスクを高めることもわかっている。
ムリを自覚するにはどうすればいいのか?
先に紹介したように、ムリは体(健康)、人間関係、行動、心(感じ方、考え方)に表れる。
ところが、何らかの変化が表れていても、自分なりの理由を付けて納得してしまっている。すると、変化も変化と認識できない。
そこで、軍隊がよく使う情報収集の視点を紹介しよう。
それは、EEI(Essential Element of Information)という考え方。
敵がどのような活動をしているかわからない時、相手の行動を読んで、もしそうならどんな変化が見えるだろうかと予測し、その変化に注目して情報収集するのだ。
例えば、攻撃すると読んだなら、「この道路の交通量が増えるはず」とか、「直前に通信量が増える」などのチェック項目を挙げ、その文脈で情報処理する。
すると、漠然と見ていただけでは気がつかない兆候に、一貫性を見出しやすいのだ。
ムリに関する情報も、この方法で見ないと、なかなか兆候に気がつかないだろう。
例えば、最近のあなたが、子供のしつけで悩んでいるとしよう。
なかなか言うことを聞かないし、つい手が出る事もある。どうしたら言う事を聞くのだろうかと、いつも考えているとしよう。
あなたの頭の中では、「子供が悪いから、叱っている」と思い込んでいる。
しかし、これも「ムリ」の一つの兆候ではないか、という目で見直してみると、イライラが生じ、子供に当たっている、と見られないこともない。
「人間関係」と「行動」の変化だ。
その他の行動も、この線でチェックしてみる。
忙しいから増えていると思っていた、タバコの増加も行動上の変化かもしれない。そういえば、パチンコに行く回数も増えている。
さらに職場での自分を振り返ってみると、最近ある部下をたびたび叱責し、職場での雰囲気が悪くなっていると感じているのだが、これももしかしたら、相手が原因ではなく自分自身の「人間関係の変化」かもしれないと思えてきた。
健康面の変化はないだろうか。運動不足だからと考えていた、肩こりと腰痛。歳だから、と始めたサプリメント。
帰宅が遅いから仕方がないと思っていた夜の眠りの浅さ、そのほかにも休日もずっと眠っていたいと思うなどの変化を確認できた。
人知れず進んでいるムリの存在を、初めて意識できたのだ。
EEIによる情報収集というと、なんだか特別のことをするみたいだが、交通事故予防の「予測運転」と同じ原理だ。
道路に転がってきたボールを見て、ただ漫然と前を見ているだけの人は、死角から飛び出そうとしている子供の存在を予測できない。
「そのあとに子供が飛び出してくる」と予測できる人は、車を減速させ、事故を防ぐことができる。
「そのつもりで見てみる」、これが人生でも安全運転のコツになる。
心は無意識にムリをしていると気づくための一冊
辛抱を求められる今の生活では、ストレスが溜まることは避けられないかもしれません。
ですが、そのストレスをコツコツと解消していくことができれば、少しでも穏やかな日々を過ごせるはず。
心の疲れを上手に解消しながら、この局面を乗り切っていきましょう!
書籍の推薦者・佐渡島さんと、著者・下園さんの対談。興味があるかたはこちらもチェックしてみてください!
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