ビジネスパーソンインタビュー
「…いつか干されるんじゃないですかね(笑)」
「上昇志向はない」「食いっぱぐれてもいい」それでもハライチ岩井が抜きん出られた理由
新R25編集部
毎月新R25の “表紙”を飾る、「つきヌケ企画」。
若手時代のモヤモヤを乗り越えブレイクのきっかけをつかんだ方々に、「つきぬけた瞬間~ブレイクスルーポイント~」と題し、モヤモヤ期から抜け出した瞬間のお話をお聞きします!
9月号の表紙を飾っていただくのは、ハライチの岩井勇気さん。
ハライチのボケとしてネタを執筆するかたわら、楽曲制作、ゲーム監修、マンガ原作なども手がける岩井さん。その活動は多岐にわたり、9月28日には自身2冊目となるエッセイ『どうやら僕の日常生活はまちがっている』を上梓されています。
一時期は澤部さんが活躍している裏で「腐り芸人」とも呼ばれていましたが、そこからどのようにしてつき抜けていったのか?
岩井ズム全開の自己分析、お届けします。
〈聞き手=福田啄也(新R25編集部)〉
【岩井勇気(いわい・ゆうき)】1986年生まれ。お笑い芸人・ハライチのボケ・ネタ作りを担当し、2009年にM-1グランプリ決勝に進出したのをきっかけにブレイク。新潮社の雑誌・Webサイトに連載コラムをもち、9月28日に2冊目となるエッセイ集『どうやら僕の日常生活は間違っている』(新潮社)を上梓
岩井さんの「つきヌケ」は“不平不満”。「お仕事をもらっている」姿勢がおかしい
福田
2作目となるエッセイ集『どうやら僕の日常生活は間違っている』の発売、おめでとうございます…!
今回は岩井さんに「自分は、ここでつき抜けたな」という瞬間をうかがいたんですけど…
岩井さん
つき抜けた瞬間…ねえ…
張り詰めた空気の中で、静かにインタビューが始まりました
福田
視聴者目線で言うと、ハライチってもともとは澤部さんがよくバラエティ番組に出ていましたが、ここ5年くらいで一気に岩井さん人気に火がついた気がしていて。
ズバリ、岩井さんがつき抜けた要因はなんだったと思いますか…?
岩井さん
まあ、“不平不満”を言いつづけたことじゃないですか。
そんな物騒な
福田
「不平不満」でつき抜けたって…どういうことですか?
岩井さん
みんな、文句を言わないんですよ。
制作サイドの言ってることに「おかしい」と思っても、何も言わない。
テレビに出てる芸人って、「お仕事いただいてる」みたいなスタンスの人が多くて。
福田
…何がダメなんでしょうか?
一見、謙虚のようにも感じますけど…
岩井さん
いやいやいや!
芸人が「お仕事いただいてる」とか言うことによって、向こうは「お仕事をあげてる」って思いだすわけじゃないですか。
それが嫌なんですよ。変な上下関係が生まれるのが!
岩井さん
仕事って、お互いするもんじゃないですか。
向こうがやりたいことに対して、僕らも応えている。「一緒にやりましょうよ」ってスタンスだから、本来はフラットな関係のはずですよね?
だったら「これはやりたくないです」「こうしたほうが絶対面白いと思います」って言わなきゃ。
そうじゃないと気持ち悪いじゃないですか。
福田
でもそれ、正直浮いてしまいませんか?
まわりが文句を言わないなかで、ひとりだけ…
岩井さん
まあ正直、まったく受け入れられませんでしたよ。
昔『ピカルの定理』っていう番組をやってたときも、僕が文句を言ったら「そんなこと言わなくてもいいじゃん…」みたいな空気になったことがありますし。
福田
まあ、そうなっちゃいますよね…
岩井さん
でも、2016年に始まったコンビのラジオ番組で、自分が思っていることを存分に話せるようになったら風向きが変わってきて。
その話を聞いた人たちが面白がって、僕がおかしいと思ったことを理詰めで追求する企画が始まったりしていったんですよ。
つまり、僕自身は何も変わってないんですよ。まわりの見方が変わっただけで。
福田
誰も不平不満を言わないなかで堂々と「それはおかしい」と意見しつづけた結果、それが「芸風」として認められたってことか…
恐ろしい人だ…
みんなが気を遣って嘘をつくのは「儲かるから」。岩井さんが「気持ち悪い」と思っていること
福田
岩井さんは、まわりの方々が自分の本音を押し殺してつい気を遣ってしまうのはなんでだと思いますか?
岩井さん
嘘ついて気を遣っているほうが儲かるからじゃないですか?
仕事もらえて。
福田
お、おお…
岩井さん
テレビの世界には、儲けたいとか、承認されたいって気持ちがあるのに、謙遜して嘘ばっかりつく人が多いんですよ。
それって気持ち悪いですよね。
止まらなくなってきました
岩井さん
たとえばこないだもね、澤部が家を買ったんですよ。
それをプライベートでは普通に話してるくせに、後輩がテレビで勝手に話したことに腹を立てていて。
俺は「え、それの何が嫌なの? バレたくなかったらもともと誰にも言わなきゃいいじゃん」って言ったら、すごい不機嫌になったんですよ。
どうしてだと思いますか?
福田
(めちゃくちゃ答えづらい国語の問題みたいな質問きた…)
めちゃくちゃ答えづらい問1「澤部さんはなぜ不機嫌になったのでしょう?」
岩井さん
澤部は「家買ったことは疎まれるからバレたくないけど、家買えるくらい稼げてるってことは正直知っててもらいたい」って気持ちだったんですよ。
福田
ああ~でも、わからなくもないような気がしますね。
自慢もしたいけど、「調子に乗っている」とは思われたくないというか…
岩井さん
それって、「調子に乗っていると思われたら嫌われて仕事が減るから、嘘をつく」ってことでしょう?
そういうスタンスが気持ち悪いんですって!
澤部さんに言ってください
岩井さん
それを指摘すると「人間ってそういうものなんだ」とか言うわけですよ。
「じゃあ、人間って気持ち悪い生き物なんだね」って返すと、「そうだよ」と。
「だったら、最初から『僕は気持ち悪いです』ってスタンスでいろよ。なんで良く思われようとしてるんだよ」って思う。
堂々としてないのが、とにかくイヤなんですよね。
家を買っただけなのに、こんな話になるとは…
「飢えも上昇志向もない。いつ食いっぱぐれてもいいと思ってる」
福田
とはいえ、岩井さんもみんなのように“まわりから受け入れられよう”と振る舞ってしまった時期はないんですか?
岩井さん
…まあ、最初のほうはありましたよ。
でも、そこまでして受け入れられようとすることがどんどんストレスになっていって。
ムカついてきたんですよね。
ずっと何かにムカついてて笑う
岩井さん
みんなは「テレビに出たい」「お金を稼ぎたい」って気持ちがあるから、そのストレスを飲みこめるんでしょうけど、俺は上昇志向とかないんで。
割と早めにテレビに出られたから、お金もあったし彼女もいたことある。
人生を振り返っても、何かにめちゃくちゃ飢えたことがないんですよ。
福田
そうなんですね…
岩井さん
なんか仕事って、「上昇志向ないやつはダメ」みたいな空気あるじゃないですか。
そういうのも無視しとけばいいんですよ。
無理して“行きたくもない上”に上がってくより、自分が「こっちのほうが面白い」と信じられるほうに進んでくほうが納得できるじゃないですか、たぶん。
急にいいことをおっしゃる…
岩井さん
だから、「つき抜けられた」理由があるとしたら、誰かに言われて自分を変えなかったことなんじゃないかな。
このスタンスもいろんな人に指摘されたけど、変えるつもりなんてさらさらないですし。
「食いっぱぐれてもいいや」って、どっかで思ってますもん。
福田
でもそれって、空気を読んでしまう側の人間からするとかなり難しいんですよね…
岩井さんはなぜそれを続けられたんでしょうか?
岩井さん
「度胸」があったからでしょうね。
岩井さん
自分が「こうだ」と思ったことを主張しつづけるのって、正直度胸いるんですよ。
自分と意見違う人を詰めてるときって、絶対嫌われていってるんで。
でも、自分が正しいと思ったことを突き通さないと、真実は明らかにならないですから。
福田
し、芯の強さがもう無敵ですね…
でも、自分のスタンスを貫き通すという哲学が、つき抜けることにつながったんだなとすごく納得しました。
岩井さん
結果が出るまでの期間で心が折れない性格だったから、つき抜けることができたってのはあるでしょうね。
っていうかなんか…今日僕にめちゃくちゃビビってません?
こっわ
福田
実は、前回取材させていただいた際にラジオで取り上げていただいたうれしさとプレッシャーで、正直1時間ずっとビビり倒していました…
岩井さんみたいな度胸をつけられるように頑張ります。
岩井さん
貫きすぎるのもいいことなのかわかんないですけどね。
逆に「言ってることが辛辣すぎてキツイ」「調子乗ってる」とか言われはじめても、俺はやめないと思うんで。
だから…いつか干されるんじゃないですか(笑)。
周囲に気を遣って振る舞うことが当たり前になっている今、「おかしいことはおかしい」「嫌なものは嫌だ」と言いつづけられたことで、頭角を表した岩井さん。
いつもの「つきヌケ」とは少し違った話にはなったかもしれませんが、実は僕らでも真似しやすいとてもシンプルな姿勢なのかもしれません。
まずはこのビビリな性格をなんとか矯正して、自分が正しいと思ったことに突き進む勇気を身につけたいものです。
〈取材・文=福田啄也(@fkd1111)/編集=サノトモキ(@mlby_sns)/撮影=中澤真央(@_maonakazawa_)〉
岩井さんの第2弾エッセイ集「どうやら僕の日常生活は間違っている」発売!
前作『僕の人生には事件が起きない』に続き、2冊目となる『どうやら僕の日常生活は間違っている』。
今作も、日常生活を“岩井視点”で切り取った、平凡だけどおかしなエピソードが満載です。
新作の内容についてお話を聞いてみると…
福田
前作のエッセイから2年ほどたちましたが、当時と比べて自身の日常生活に変化はありましたか?
岩井さん
まったく変わってないです。
でも今作はより日常生活にフォーカスしていますね。
仕事のことは一切書いてないです。
福田
でも、芸人さんのエッセイ集って、芸能界の裏話とかを期待されることも多いのでは…?
岩井さん
それが腹立つんですよ。
人気にあやかられて、出版社に芸能人生をすり減らされるのが。
今の俺だったらちょっと芸能界について書いただけで、「岩井があの件についての心境を語る」みたいな売り文句にされかねませんから。
だから仕事のこと書くのやめて、芸能活動と切り離したエッセイになってます。
でも、内容は前作より確実に面白いです!
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