ビジネスパーソンインタビュー

「夢を掲げると、人は潰れてしまう」佐久間宣行が教える、会社で“抜きん出るため”の2つの武器

「たまに、すべてが報われる面白い夜が来る」

「夢を掲げると、人は潰れてしまう」佐久間宣行が教える、会社で“抜きん出るため”の2つの武器

新R25編集部

連載

つきヌケ つきぬけた瞬間~ブレイクスルーポイント~

2022/04/07

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さまざまな業界のトッププレイヤー12組が表紙を飾る連載「つきヌケ」。

うだつの上がらない若手時代を乗り越え、“一流のプレイヤー”へとつき抜けた瞬間を深ぼる本企画、2022年3月号を飾るのはこのお方。

【佐久間宣行(さくま・のぶゆき)】1975年、福島県いわき市生まれ。テレビプロデューサー、演出家、作家、ラジオパーソナリティ。1999年にテレビ東京に入社。「ゴッドタン」「ピラメキーノ」などのヒット番組を生み出し、2019年よりは「佐久間宣行のオールナイトニッポン0」のパーソナリティーを務める。2021年にテレビ東京を退社。現在はフリーのプロデューサーとして活動するかたわら、ラジオパーソナリティーやYouTuberなどマルチな活躍を見せる。今年の3月には自身が企画演出・プロデューサーを務める「トークサバイバー」がNetflix内でランキング1位を獲得。4月6日に『佐久間宣行のずるい仕事術』(ダイヤモンド社)を上梓

テレビプロデューサーの佐久間宣行さん

テレビ東京で「ゴッドタン」「ピラメキーノ」「青春高校3年C組」「あちこちオードリー」など名だたるバラエティ番組をつくり、お笑い好きなら知らない人はいないであろう名プロデューサーです。

2021年にテレビ東京を退社されてフリーになってからも、自身のYouTubeチャンネルラジオパーソナリティなどで個人としての活躍しつつ、企画・演出・プロデューサーを務めたNetflixオリジナル「トークサバイバー」はNetflix内のランキング1位を獲得するなど、つねに結果を出しつづけている佐久間さん。

「つきヌケ」初となるビジネスパーソンへのインタビューともなり、思わず自身のキャリアと照らし合わせてしまう、地に足のついた「つきヌケ」論が聞けました。

〈聞き手=福田啄也(新R25編集部)〉

「サラリーマンになったときからずっと不安」

福田

今回、佐久間さんに聞きたいテーマは「ビジネスパーソンがつき抜けるために必要なこと」です。

これは昨年まで会社員だった佐久間さんに、ぜひ伺いたいなと思っていて。

佐久間さん

なるほどね〜、つき抜けるために必要なこと…

それで言うと、ずっと「不安」だったことが大きいのかな。

「不安」…

佐久間さん

たとえば最近企画・演出した「トークサバイバー」がちゃんと評価されたとき、一瞬ホッとはしたんですよ。

福田

「トークサバイバー」…Netflix内のランキングでトップにもなってめちゃくちゃ話題になってますよね。

僕も腹抱えて笑いました。

佐久間さん

でも今はもう、「この先、これを超える仕事なんてできるかな…」って頭になってるの(笑)。

性格上つねにネガティブシミュレーションが欠かせなくて。

何か成果を出したとしても、「こうしたらダメになっちゃいそうだな」ってほうに頭がいくんですよ。

でも、そうやってつねに「課題」を潰しつづけていたら、キャリアが前に進んでいたんだよね

佐久間さん

俺は今、「50歳になったら、自分のお笑いセンスはなくなる」という前提で動いていて。

フリーになったこの2年は、50歳になったときに自分の新しい武器を見つけられるよう、たくさんチャレンジしようって決めてるんだよね。

そのために自分のYouTubeチャンネルを開設したり、本格的なドラマを撮る準備をしたりしてる。

福田

これまでに大ヒット番組をいくつも生み出した佐久間さんでも、そんな不安を感じるのか…

佐久間さん

いやでもね、これ俺だけじゃないと思う。

劇団ひとり、星野源さん、秋元康さん…俺が尊敬してるすごい人は、とにかく自分を信用していない。だから努力も欠かさないんだよ

そういう人たちが、結果的にデカい仕事をできるんだと思う。

福田

秋元康さんまで不安を抱えているのか…じゃあ、僕らはつき抜けることができても、ずっと不安のままなんですね…?

佐久間さん

そうかもしれない。

でも、そんな姿勢で自分の課題と向き合いながら仕事をつづけてると…たまにそれらの不安を全部覆すくらい面白い夜が来るんですよ

その瞬間にすべてが報われる気がするから、仕事を面白いと思えているんじゃないかな。

すべての不安が報われる夜が来る…心のノートに刻みました

夢も野心もいらない。消費者として「面白いものに囲まれたい」だけでいい

福田

でも、若いころって「不安」というより、「一発当てたい」「デカいことをしたい」という野心を持っている方がたくさんいる気がしていて。

佐久間さんには、そういう野心はなかったんですか?

佐久間さん

それはないかな。

夢とか野望を掲げちゃうと、人って潰れちゃうんだよ

佐久間さん

テレビ業界なんてとくに華やかだから、夢を持って入ってくる人がたくさんいるんですよ。でも実際に現場に入ったら、大変な下積み仕事がたくさんある。

そこで夢と現実の折り合いがつかなくなって、潰れちゃう若手を何人も見てきたんだよね。

福田

たしかに、テレビ業界の若手って泥臭いイメージが強いですもんね…

佐久間さん

だから俺のところに来る「佐久間さんと仕事をするのがずっと夢だったんです」っていう子には、「その憧れは一旦忘れたほうがいい。大変なことばかりだから」って呪いを解くようにしていた。

なかには「俺寝なくて大丈夫です!」っていう若手もいて、「絶対寝たほうがいい」って真剣に指導したこともある(笑)

それは本当にそう

福田

じゃあ佐久間さんは「これがやりたい」ってゴールを掲げてないんですか?

佐久間さん

ゴールっていうよりも、状態だけなんとなく決めとけばいいと思ってるんだよね。

俺が人生で理想とする状態は、「とにかく面白いものに囲まれるジジイになりたい」っていうこと。

福田

ほう…

佐久間さん

今俺が若い芸人や劇団をいろんなところで紹介しているのって、一銭にもならないんだけど…

俺が面白いと思う人たちがもっと世に出てくれたらうれしいなって思っているからで。

もしすでにそういうものが世にあふれているなら、別に俺は何もしなくていいと思ってるんですよ。

福田

そうなんですね…!

佐久間さん

でも、それがないからつくっているだけ。

クリエイターとしての野心よりも、消費者としての自分を優先して働いているんだよ。

原動力が「不安」だけだとしんどいけど、そういうふわっとした「ありたい状態」はポジティブな支えになってるかな。

別にそれは大袈裟な夢とか目標じゃなくて、これくらいのふわっとしたものでも全然問題ないと思ってる。

「キャラクター」と「信用」を勝ち取る。佐久間宣行の若手時代

福田

ちなみに今回のインタビューにあたって、佐久間さんの経歴を調べたんですけど…

佐久間さんは入社3年目でバラエティ番組のプロデューサーになり、6年目で「ゴッドタン」を立ち上げています。

正直、テレビ業界のなかでもスピード出世なキャリアですよね。

佐久間さん

そんなことないよ!

だって入社1年目のときなんか、テレビ業界がキツすぎるから第二新卒でどこかに転職しようって思ってたし。

そうだったんですか!?

佐久間さん

俺が入ったころのテレビ業界って、とにかく縦社会だし、マッチョな思想を持った人ばっかりで。

頭ごなしに怒られるし、プライベートもほとんどなかったので、ここにいたら俺の人生が潰されちゃうなって思ってたもん。

福田

佐久間さんも最初はそんな感じだったのか…

ではそこから、どうやってつき抜けていったんですか?

佐久間さん

とにかく、会社内で「信用」と「キャラクター」を確立したの。それが大きいかな。

佐久間さん

第二新卒で違う会社に行くにしても、自分が何に向いているかわからないから、最初はとにかくどんな仕事でも受けるようにしていたんですよ

そしたらまわりから、「佐久間は生放送の仕切りがうまい」って言われるようになった。

自分としては手応えがなかったんだけど…そこでまず、社内からの「信用」を手に入れたんです。

福田

おお…

佐久間さん

それである程度の「信用」を獲得してきたら、今度は企画で目立つようになってきて。

当時のテレビ東京にはお笑い番組がほとんどなかったから、お笑いの企画書を出す人もいなかったんだよね。

だから毎回、俺だけお笑いの企画書を出してたんですよ。

福田

へええ!

じゃあ佐久間さんにとって「お笑い」って、自分のキャラクターをつくるための入り口だったんですね。

佐久間さん

そう。誰もやってなかったからチャンスだと思ってた

結果的に「生放送のディレクションがうまくて、毎回お笑いの企画書を出してくる奴」っていう「信用」と「キャラクター」を両立できるようになって。

そしたら、会社でネタ見せ番組のオーディションの話が来たときに、「入社3年目だけど、佐久間に任せてみよう」って声がかかったんです。

そこでおぎやはぎと劇団ひとりの3人と出会い、のちに「ゴッドタン」が生まれていったんだとか。すべてがつながっているんだなあ…

佐久間さん

そのときに改めて、自分のキャラクターってすごく大事だなって思ったんですよ。

それは自分で思っているだけじゃなくて、周囲にどういうキャラクターとして見られているか、ということで。

これって大喜利と同じなんだよね。

佐久間さん

大喜利って回答だけ表示されても、笑いは取れないんですよ

そこに芸人のキャラクターが重なって初めて面白くなる。バカリズムが絵で回答するとか、ロバート秋山が変な役になりきって回答するとか。

その人のキャラクターや得意領域がフリになっているんです。

福田

たしかに、めちゃくちゃわかります…!

それが、仕事でも同じだと?

佐久間さん

キャラクターと信用の両立ができるようになると、一目置かれるようになって、自分の意見が通りやすい

20代でこれが理解できたことで、ようやくこの業界でやっていけるなって自信につながったんだと思う。

リバウンドを拾って「信用」を勝ち取る。「ゴッドタン」が話題になった理由

福田

佐久間さんが社外でも有名になるきっかけになったのが、「ゴッドタン」だったと思います。

なぜ「ゴッドタン」があそこまで話題になったと思いますか?

佐久間さん

芸人からも「信用」を得られたのが大きいと思う。

自分の番組をつくっているときに、じつは地味だと思っていた「編集」という仕事が得意だということがわかって。

芸人たちの間で「佐久間の編集だったら、どんなにスベっても面白くしてくれる」っていう声が上がるようになったんです。

福田

おお…!

佐久間さん

よくバスケットボールでたとえるんだけど…

リバウンドを拾う人がいると、みんなスリーポイントを狙ってくれるんですよ。

つまり、収録で芸人が一か八かのボケをしてくれるようになる。

そうすると、ホームランが生まれるようになるんです。

佐久間さん

「ゴッドタン」が話題になった理由は、このホームランだと思う。

テレビ東京って、ほかのテレビ局と違って予算が少ないから、セットとかも大掛かりなものがつくれなくて。

でも、「編集」ならほかのテレビ局に負けないぐらいの工夫ができる。

福田

その「編集」を頑張ったからこそ、芸人から信用を勝ち取ることができたと。

佐久間さん

そうそう。

俺の番組がほかの人の番組に比べて色が出てきたのは、「編集」というストロングポイントを伸ばしたことで、芸人たちが挑戦してくれることになったからだろうね。

佐久間さんが「こいつちょっと違うな」と思う若手の特徴は?

福田

最後にもうひとつだけお聞きしたいんですけど…佐久間さんって芸人も含めて、たくさんの若手を見てきたと思います。

そのなかで、こいつはちょっとまわりと違うなと思う人にはどんな特徴があるんですか?

佐久間さん

何でもいいから、根っこの部分に“マジ”がある人

マジ…!

佐久間さん

怒りでも妬みでもなんでもいいマジがあると、絶対に尖ることができる

ハライチの岩井くんなんかはその最たる例だよね。

福田

たしかに…昨年のインタビューでも「僕は不平不満でつき抜けた」と言ってましたが、それはマジだったと思います。

正直、インタビュー中はずっとビビってました…

福田

その“マジ”は、別にネガティブな感情でもいいんですね。ちょっと意外でした。

佐久間さん

わかりますよ。俺にとっての“マジ”は不安だと思うんだけど…

一時期、「なんでこんな不安ばっかりなんだろう」「いつになったら楽になるんだろう」って悩んだこともある。

でも「不安だったから、成長できた」って今は思うかな。

だから、意外とネガティブな感情にこそ、マジが隠れているのかもしれないね。

・つねにネガティブシミュレーションを欠かさない

・大きなビジョンがなくても、ふわっとした理想状態があればいい

・組織のなかでキャラクターを確立する

突飛なアイデアでつき抜けてきたと思いきや、僕らも明日から実行できそうなことを22年以上もつづけて、つき抜けてきた佐久間さん。

この日は夜に予定があるとのことで、インタビューは強制的に終了となってしまいましたが、まだまだ掘り下げたいテーマがあるので、ぜひまた取材させてください!

〈取材・文=福田啄也(@fkd1111)/編集=サノトモキ(@mlby_sns)/撮影=長谷英史(@hasehidephoto)〉

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今日伺った話だけではなく、「社内初はローリスク・ハイリターン」「会議後の『5分』で差をつけろ」「『まだ早い』をあざとく使え」など、佐久間さんが22年にわたって培ってきたビジネスノウハウが詰め込まれています。

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