ビジネスパーソンインタビュー
“心地よさ”を求めた先に
小学校教員、ゆきこ先生が辿り着いた“はたらくWell-being”。他の誰でもない「私だからできる」こと
新R25編集部
リモートワークの浸透などと相まって、「はたらき方改革」が世間の潮流となって久しい昨今。現場ではたらくビジネスパーソンの中には、「本気で仕事に打ち込もうと思ったらはたらき方改革なんて無理」「自分らしいはたらき方なんて難しい」と感じている人もいるはずです。
そこで、パーソルグループ×新R25のコラボでお送りする本連載では、「はたらくWell-being(ウェルビーイング)を考えよう」と題し、「令和の新しいはたらき方」を応援するとともに、さまざまな人のはたらき方や価値観を通して、ビジネスパーソン一人ひとりが今もこれからも「幸せにはたらく」ための考え方のヒントを探していきます。
今回紹介するのは、小学校教員のゆきこ先生です。民間企業とは少しだけ異なる、公立の「学校の先生」という仕事。はたらき方は異なれど、同じように葛藤を抱えていたことや、適応障害になってしまったご経験も話してくださいました。はたらき方に悩み、心地よさを求めた今、辿り着いた“はたらくWell-being”とは?
現役小学校教員で二児の母。がんばりすぎてある日突然学校に行けなくなってしまった過去から、職員室で苦しんでいるけど、みんなが忙しい状況の中でなかなか言い出せない現状を変えたいと感じるように。同じ想いでがんばっている先生たちに向けて、学校での体験や自身の経験に基づくアドバイスをInstagramで投稿したところ話題となる。現在も、悩みを抱える先生たちの助けになれたらという想いから、SNS、講演等で積極的に発信を続けている。来年冬、新しい書籍が2冊発売予定
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自分と弟を切り離せたとき、先生になろうと思えた
ーー(編集部)小学校の先生をされているとのことなので、今日は「ゆきこ先生」と呼ばせてください!
ゆきこさん
もちろんです! なんだか照れちゃいますね(笑)。
ーー(編集部)さっそくですが、現在はどのようなはたらき方をされているのでしょうか?
ゆきこさん
今は非常勤として週2回、小学校の先生をしています。
あとは個人でのお仕事として、私立小学校のInstagram運用のお手伝いをしたり、今年の2月には本を出版させていただいたりしています。
ーー(編集部)先生に加え、副業もされているということですか?
ゆきこさん
そうですね。一般的にはイメージがないかもしれないですが、先生でも副業が認められる場合があります。
ゆきこさん
そもそも先生の雇用形態は、一般企業のようにさまざまな種類があるんですよ。正社員と同じ正規教員、契約社員のような臨時的任用教職員、パートタイムのような非常勤講師など。
正規教員の場合、副業は禁止ではなく制限なのですが、副業をするには校長先生と相談し、教育委員会の許可をもらうなどクリアしなければならないプロセスが多いのが現状です。
ーー(編集部)どういうものだと許可が出るんですか?
ゆきこさん
当たり前ですが、やっぱり本来の「先生」としてのお仕事が一番大切なので、教員の副業は「教育」に関わることでないとなかなか許可がいただけないですね。
だから私は、どうはたらきたいか自分と向き合ったうえで、個人で他のお仕事もしていきたいと思い、今のはたらき方をしています。
ーー(編集部)学校の先生が副業、なんて子どものときには考えたこともなかったですが、そういったルールがあるんですね。
ゆきこさん
意外と知られていないですよね。
私は、今のはたらき方にはすごく満足しています。
自分のやりたいことをやりつつ、雇用形態に関係なく「教育」に関われていることが誇りですし、一番居心地の良い状態です。
ーー(編集部)ちなみに、ゆきこ先生はどうして先生になられたのでしょうか。学校や先生が好きだったのですか?
ゆきこさん
実はここだけの話、小学生の頃は学校も先生も嫌いでした(笑)。
かなりぶっちゃけてくださる
ーー(編集部)え! そうだったんですか!
ゆきこさん
きっかけは私の弟だったんですけど、私の弟は自閉スペクトラム症なんです。
私が小学生のときは、今でいう特別支援学級も発足されたばかりの時期で、周囲の理解が得られないことも多くて。
例えば、弟が何もトラブルを起こしていなかったとしても、弟はうまく話すことができないから、非がないことを伝えられない。
それでも「ごめんなさいは?」と言われてしまうと、弟はオウム返しのように「ごめんなさい」と言ってしまうんですね。謝ってしまうと非を認めたことになり、「ほらやっぱりね」と。
ーー(編集部)なるほど。
ゆきこさん
そうしたことがあるたびに、学校の先生から「ゆきこさんの弟が」と言われていました。
私は「先生は、弟のことをどうしてわかってくれないんだろう?」と思っていましたし、何もしていない私まで弟と紐づけて見られてしまうために、小学校はしんどいことばっかりだなと感じていました。
ーー(編集部)その思いは、どのように変わっていったのでしょうか?
ゆきこさん
中学生のときに、仲の良い友達に「私の弟、障がい者なんだよね」と意を決して打ち明けたことがありました。
するとその友達は「そうなんだ」とだけ言ったんです。反応があまりにもさらっとしていたので「え、それだけ?」と思わず私も聞き返してしまって(笑)。
その友達は「別にそれは弟の話であって、ゆきこには全く関係のないことでしょ」って言ってくれたんです。
なんてカッコいいお友達!
ゆきこさん
そう言われてようやく「あ、確かに」って自分の中でも腑に落ちて。
弟の問題は、私の問題じゃない。私は私って、弟のことを切り離して考えることができたんです。
ーー(編集部)お友達の言葉がきっかけだったんですね。
ゆきこさん
さらに、ちょうど似たようなタイミングで将来のことも漠然と考えていて。
「私は何ができるかな」と思ったときに、会社員になって大きなお金を動かし、ビジネスをする自分を、まったく想像できなかったんです。
というのも、ビジネスをするためには良い企業に入らないといけない、良い企業に入るためには良い大学に、そのためには今たくさん勉強をしなければいけない、というようなレールを勝手にイメージして、「そんなの無理!」って勝手に怖くなっちゃったんですよ。
ーー(編集部)すごくわかります。中学生の私も同じようなことを考えていました。
ゆきこさん
そんなとき、社会科の先生から「教育はビジネスを介さなくても、子どものためにできる魅力がある」という話を聞き、そういった選択肢もあるならと、先生という職業が選択肢に入り始めました。
もともと子どもが好きだったということもあり、すごく魅力的に思えたんです。
「仕事できない人って思われたくない」。抱え続けた先で、気持ちが溢れてしまった
ーー(編集部)いざ、先生になってみていかがでしたか?
ゆきこさん
先生は、子どもたちのエネルギーを保護者の次に感じられるやりがいの多い仕事ではありますが、大変なことも多い仕事です。
文部科学省の学習指導要領に合わせて授業を組み立てたり、教室内ではトラブルも起こったり、となると保護者への報告・連絡をしたり、学年主任と相談したり。膨大な仕事量に加え、多面的なトラブルに対応しなければならず、痺れるなあと思うこともいっぱいありました。
実際、私はキャリアを積んで5〜6年目のときに適応障害になってしまったんですね。
ーー(編集部)そうだったんですか。
ゆきこさん
私自身何か悩みがあって、誰かに相談したいなと思っても、その前に自分で勝手にブレーキをかけてしまっていたんです。
「この悩みって大したことないよな」「他の先生たちは、この悩みを乗り越えてきたんだ」「仕事できない人って思われたくない」と。
ーー(編集部)弱みをみせることで、「仕事できない」などのレッテルを貼られてしまうかもと思うと怖いですよね。
ゆきこさん
まさにです。本当は悩んでいたし、「誰か助けて!」と思っていた気持ちが積み重なって、心のコップが溢れてしまった。
ただ、そうなったときも、自分が悪いと思い込んでいたんです。子どもたちも先生たちも悪くないのに、みんなに迷惑をかけてしまったと申し訳なさを感じていました。休むことにも罪悪感を感じてしまう負のループですよね。
校長先生に「家でできることはなんでもやります!」と言ったら、校長先生が返してくださった言葉があって。
ゆきこさん
「もし同僚の中に、歩いているときに上から鉄骨が落ちてきて足が動かなくなってしまった人がいたとして、『手は動くので仕事ください!』と言われたら、ゆきこさんは仕事を振りますか?」って。
私が「振らないです」と言うと、「あなたも同じだよ」と。
「あなたは、たまたま心に鉄骨が落ちただけ。『動けそうだからよろしくね』とは言わないから、まずはそのケガを治してね」と言ってくださったんです。
ーー(編集部)すごく素敵な校長先生!
ゆきこさん
その言葉は今でも覚えていますね。
「とにかくゆっくりしなさい」と言ってもらえたので、1ヶ月間学校をお休みしました。
ーー(編集部)その間は何をされていたんですか?
ゆきこさん
初めて自己分析をしましたね。
「初めて、ですか? 就活のときにしそうな気もしますが……」
ゆきこさん
というのも、先生になるための教員採用試験は、“ 試験 ”なので、勉強や知識のほうが大切なんですよ。
だから私は、就活生がするような自己分析はまったくしないまま、先生になったんです。
ーー(編集部)私が経験した、一般企業への就活とは違いますね。
ゆきこさん
なので、自分はどういったことに嬉しくなるのか、悲しくなるのか、苦しくなるのか、ひたすら自問自答を繰り返しました。
そのおかげで、仕事をしていたときの私は、無理やりポジティブに変換していることに気がつけたんです。
ーー(編集部)無理やりポジティブに変換?
ゆきこさん
例えば、誰かに嫌なことを言われたとしても「この人はこういう良いところがあるよね」とか「今は私のタイミングが悪かったから、言われてしまうのも仕方ない」とか。
実際は腹落ちしていないけど、そう思うように癖づいてしまっていて。
ーー(編集部)わかります! その人のことを嫌いになりたくないから、なんとか自分の中で言い訳して。
ゆきこさん
さらに、先生という仕事柄、子どもたちには「人の良い側面を見つけようね!」「嫌なことがあっても楽しくやっていこう!」と伝える手前、自分もそうあるべきと思い込んでいたんです。
自己分析を経た今は、前よりも自分の気持ちに素直になれていると思います。
ネガティブな気持ちも間違いじゃない。「今、すごい悲しい」「嫌な気持ちになった」と認めてあげられることで、「じゃあ、次どうする?」と気持ちが自然と切り替わるようになりました。
ゆきこさん
ネガティブな気持ちに名前をつけて、可愛がってあげるためにどうしたらいいかを考える。
すると、それは次の行動になっていくので、それだけでもう前進しています。
嫌な気持ちが、考えるための1歩になるのは新しい発見でもありました。
見返りの花は、いつ咲くかわからない。だけど、必ず影響を与えている
ーー(編集部)ちょっと気になったのですが、自己分析をされた今の状態で学生時代に戻ったら、再び今の仕事を選びますか?
「そうですね、うーん……」
ゆきこさん
でもやっぱり、先生を選ぶと思います。
ーー(編集部)やっぱり先生ですか。
ゆきこさん
先生の仕事って面白くて、思わぬところで、自分のしたことが答え合わせのように返ってくることがあるんですよ。
ーー(編集部)どういうことでしょうか?
ゆきこさん
例えば、子どもたちに口酸っぱく言った言葉や、怒ったことに対して、その瞬間は理解してもらえないかもしれません。だけど、あるとき突然、生徒から「先生ってこういうことが言いたかったんだよね」と言われることがあって。
そのタイミングは進級する3月かもしれないし、卒業式のときかもしれない。
私の経験でいうと、成人式のときに「先生が言ってた意味がわかった」と言われたことも。
理解してもらえなくて反発されることは日常茶飯事なんですけど、やっぱり先生は子どもたちに影響を与えている存在なんだなと、不意に実感できることが嬉しいですね。
ーー(編集部)先生ならではの見返りのもらい方ですね。でもそう言われると、「挨拶」の大切さなんかも、実は小学校の先生から教えてもらっていたことですもんね。
ゆきこさん
その通りです(笑)。
よく、先生の仕事は、見返りがない=花が咲かないことから「種まき」と言われることがあります。
先生をしていると、子どもたちにしていることはほんとうに「種まき」なのか、正直わからないことのほうが多いです。もしかしたら、土を耕しているのかもしれないし、水を撒いているのかもしれない。
わからないけど、先生をするしかないんです。
ゆきこさん
先生ができることなんて、人生においてごく一部。
子どもたちの花の咲き方は、時期も含めて実に多様です。
もっといえば、花ではなくて土の中でめっちゃ美味しいサツマイモができてる子もいるかもしれないですよね。
「私」の満足度を一番に考えることが「はたらくWell-being」に
ーー(編集部)今、ゆきこ先生にとって「はたらくWell-being」は、どういったことでしょうか?
ゆきこさん
「私だからできること」を大切にする、です。
自己分析を経て、自分の気持ちに素直になれたことと似ているのですが、一番は「私」を大切にしています。
ーー(編集部)「私」ですか。
ゆきこさん
これまでの私は、自分は世の中にたくさんいる「先生」という一つの駒で、決められた学習指導要領をこなさなければならないため、「私だからできる」ことはきっとないんだろうな、と思っていました。
世間一般で言われる良いクラス、トラブルが少ない、たくさんの生徒から手が挙がる授業、オシャレな掲示物、といった目標もあるので、そこを目指せばいいんだろうなと。
ーー(編集部)一般企業でも、良いビジネスマン、良い上司、良い部下……といった理想像のようなものがあるような気がします。
ゆきこさん
でもそうではなく、「私だからできること」、私自身はどうしたいのかを一番に考えるようにしています。
「自分はどんなふうに子どもたちと関わりたいのか」「自分はどんな授業をしたいのか」と。
今では、「子どもたちのために」と思うことも辞めているんですよ。
ーー(編集部)「子どもたちのために」もですか。
ゆきこさん
そうなんです。わかりやすくいうと、「子どもたちのために」授業を準備している、と思ってしまうと、その授業を聞いてもらえなかったときに「こんなに考えたのに!」と子どもたちに負の矢印が向いてしまうじゃないですか。
「子どもたちのために」していることも、結局は私が「自分のために」していること。
今はそう考えているので、聞いてもらえなかったとしても「まあ、私がやりたかっただけだからな」と思えるようになりました。
ーー(編集部)切り替えられるようになったのですね。
ゆきこさん
目の前の子どもたちに満足してもらうために、まずは自分が一番満足すること、自分が一番納得する方法を探す。
「この仕事だから」や「この肩書きだから」「このはたらき方だから」ではなく、「私だから」教えられる子どもがいる、「私だから」助けられることがあるはず。
そうやって「私だから」を考えることが、「はたらくWell-being」に繋がっています。
<取材・文=田邉 なつほ>
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