

「県民の幸福」を支えることが“はたらくWell-being”だった。原点に気づいた富山県が目指すこれから
新R25編集部
リモートワークの浸透などと相まって、「はたらき方改革」が世間の潮流となって久しい昨今。
現場ではたらくビジネスパーソンのなかには、「本気で仕事に打ち込もうと思ったらはたらき方改革なんて無理」「自分らしいはたらき方なんて難しい」と感じている人もいるはず。
そこで、パーソルグループとのコラボでお送りする本連載「“はたらくWell-being”を考えよう」ではモヤモヤを感じているあなたへ「令和の新しいはたらき方」を提案していきます。

実は今、富山が世界から注目を集めています。その理由は、2025年1月にアメリカの有力紙ニューヨーク・タイムズが発表した「52PlacestoGoin2025(2025年に行くべき52の旅行先)」で、日本からは大阪万博を控えた大阪と、富山が選出されたからです。
「人混みを避けながら、文化的な驚きとおいしい料理が楽しめる」と評価された富山には、豊かな観光資源、歴史・文化・食がそろっています。
その富山県では、2022年から県政に「ウェルビーイング」という概念を取り入れ、県内外の人を含めた「幸せ人口1000万」の幸福を目指して取組みを行っています。
今回、富山県知事政策局成長戦略室ウェルビーイング推進課の課長・牧山貴英さんと、主幹の本吉早百合さんに、なぜウェルビーイングを県政に取り入れたのか、そして職員一人ひとりとともに推進した“はたらくWell-being”な職場づくりについて、話を聞きました。
富山県庁は、「ウェルビーイング先進地域」を掲げ、心身の健康や社会的充実を重視した政策を推進中。観光振興や産業支援にも力を入れ、富山湾の海産物や伝統工芸品など、地元の特産品を全国・海外に発信している。また、県庁本庁舎は有形登録文化財として登録された近代建築物で、地域の歴史や文化を反映したデザインが特徴。富山市の中心に位置し、行政、文化、観光の中心として重要な役割を果たしている。「はたらくWell-beingAWARDS2025」組織・団体部門を受賞
人口減少、少子高齢化…富山の未来を創造するカギが「ウェルビーイング」だった!?

田邉
ニューヨーク・タイムズ「2025年に行くべき52の旅行先」の選出おめでとうございます! あらためて富山の魅力を教えてください。

牧山さん
私たちも驚きましたが、選出いただけたのはうれしかったですね!
ニューヨーク・タイムズでは、隈研吾氏が設計した、公共図書館を併設する富山市ガラス美術館や、9月上旬に開催されるおわら風の盆などが高い評価を受けましたが、豊富な観光資源や食、歴史・文化をはじめとしたさまざまな魅力が富山にはあります。

本吉さん
今まさに、富山の魅力を広めるさまざまな取り組みを行っているところで、たとえば、「寿司といえば、富山」を合言葉にしたブランディングプロジェクトもその1つ。
富山の地形が育んだきれいな水や豊かな食材をもとに、国内外でも人気の寿司を富山の名産として認知度を高めようというプロジェクトです。
「寿司といえば、富山」プロジェクト

牧山さん
実はこのプロジェクトも、富山県の「ウェルビーイング」の向上の一環なんです。

田邉
「寿司といえば、富山」もウェルビーイングの一環!? どういうことでしょうか?

牧山さん
私たちが県政にウェルビーイングを取り入れたきっかけは、2021年2月に設置した「富山県成長戦略会議」でした。
「寿司といえば、富山」プロジェクトを広めるため、お2人の名刺(裏)にもお寿司が印刷されていた

牧山さん
そもそも富山県は、ほかの地方都市と同様に人口減少・少子高齢化といった課題を抱えています。
ピーク時には約112万6,000人だった人口も100万人を割り、加えてコロナ禍で経済情勢も悪化していました。そんななかでも、富山県の持続可能な未来と地域発展を考えようと、会議を発足させたんです。

田邉
12万人も人口が減ったと思うと、県としての機能維持にも関わりますよね。

牧山さん
そうなんです。約1年にわたり、県内外の行政関係者やさまざまな分野の専門家の方々と議論を重ねました。
その会議のなかで、委員の皆さんのなかから“ウェルビーイング”という言葉が自然に立ち現れてきたんです。そこに新田さんも共感されたようですね。
新田知事は、フラットで風通しの良い組織を大事にされており、職員から「新田さん」と呼ばれているそう

田邉
新田知事も共感されたとのことですが、なぜでしょうか?

牧山さん
新田さんは行政に関わる前、民間企業の経営者でした。そのなかで、経済的な豊かさが従業員やお客さまの幸福に直結するのか? との疑問を感じ、「経済的な豊かさだけでなく、一人ひとりが本質的に幸福に感じられる社会づくりをしたい」と考えるようになったようです。

本吉さん
成長戦略では、「幸せ人口1000万〜ウェルビーイング先進地域、富山〜」を掲げ、戦略の中心に据えています。

田邉
あれ、富山県は人口が100万人を割っているんですよね?人口1,000万人を目指す…ということですか?

本吉さん
「幸せ人口1000万」というのは、富山で暮らす人だけでなく、仕事をする人、訪れる人、生まれ育った人など富山県に関わるすべての人を指しています。
このプロジェクトも、そうした目標達成に向けた取組みのひとつ。新田さんも、「県内人口100万人に縛られるのではなく、幸せという大きな傘のもと、富山に関わる人全員が仲間だ」と話しています。
イラストは、県庁職員の手描きだそう!

田邉
新田知事、そして富山県の懐の深さを感じます!
県庁職員の“はたらくWell-being”を支えるために、まずは組織から

牧山さん
2022年2月に富山県成長戦略が策定され、同年4月に我々が所属する「ウェルビーイング推進課」が発足しました。

本吉さん
同時に、富山県民の皆さんのウェルビーイング向上を目指すためには、まずは県庁からウェルビーイングになることが大切だという想いから、組織へのアプローチもスタートしました。

田邉
確かに、ウェルビーイングを考える組織がウェルビーイングじゃないのは本末転倒ですよね。

牧山さん
おっしゃる通りです。そこで、「組織」として職員の育成・確保の方針を整理した「人材育成・確保基本方針」と、「職員一人ひとり」がどのように行動すべきかを言語化した「職員行動指針」を定めました。

田邉
まず、「人材育成・確保基本方針」とは、どのようなものかお伺いしてもいいですか?

牧山さん
目指す「組織像」と「職員像」を明確化し、それに近づくための取組みを4つの柱で示しました。
職員にアンケートをとり、現職員がどのようなことにやりがいを感じ、どのような未来を描いているのか、現状や課題を知るところから始めました。アンケートをもとに有識者の方々と話し合いを重ね、2024年2月に方針を策定しました。
キャッチフレーズは「職員一人ひとりが自ら考えて“始動”する富山県へ」です。


田邉
“始動”する…! ワクワクしてきました!

牧山さん
人材育成・確保基本方針を踏まえた取組みとして、職員研修、人事制度の見直しなど人材育成につながる施策や、テレワーク、フリーアドレスの拡大など多様で柔軟なはたらき方を進めています。
また、職員のキャリア開発を支援していこうと、「職員キャリア開発支援センター」を設置し、職員が自由にキャリアの相談をできる場も設けました。
職員一人ひとりが自己成長を感じながら、やりがいを持って業務に取り組み、質の高い行政サービスを提供することが、県民のウェルビーイングの向上につながると考えています。

田邉
まさに“はたらくWell-being”向上に向けて始動しているんですね!
職員行動指針に隠されている「W4T」の意味とは?

田邉
次に「職員行動指針」について教えてください。

牧山さん
民間企業で使われているクレドや行動指針に近く、職員が思い描いた「ありたい姿」を実現するために「増やしたい行動」をまとめ、言語化したものです。
県庁内で策定に携わってくれる職員を公募し、さまざまな職種や部局の約30名と一緒につくりました。

田邉
はたらかれている職員の皆さんでつくられたんですね。

牧山さん
そうなんです。集まってくれた皆さんと4回のワークショップで議論を重ね、県庁職員全体へのアンケートも3回実施しました。

田邉
4回のワークショップと3回のアンケート!? 丹精込められている…!

本吉さん
そうしてできたのが、「ウェルビーイング」「県民起点」「共感共創」「チャレンジ」「誇り」を軸にした5つの行動指針です。


本吉さん
これらの頭文字が、1つのWと4つのTということで「W4T」、つまり「Well-being for Toyama」の略称となっています。

田邉
おお、確かに!「Well-being for Toyama」は、富山が目指す姿勢そのものですね!

牧山さん
「職員行動指針」は、名刺サイズのカードに印刷して配布したり、執務室前に掲示したりして、職員への浸透を図っています。
まだ策定したばかりですが、これから県庁職員の姿勢として徐々に根付いていけばと思っています。
住民の福祉の増進=ウェルビーイング! 県庁職員が見つけた原点

田邉
県全体でウェルビーイングを取り入れ、そのためにまずは県庁内から改革するという姿勢が純粋にすごいなと感じました。現場とのハレーションなどは起こらなかったんですか?

牧山さん
正直なところ、ゼロではありませんでした。私自身、初めて「ウェルビーイング」という言葉を耳にしたので、最初は意味もよくわからなかったんです。
ただ、ウェルビーイングは学べば学ぶほど、自分たち公務員に関わりの深いことだったんだと気がついて…。

田邉
自分たちと関わりが深い?

本吉さん
地方自治法のなかには「地方公共団体は、住民の福祉の増進を図ることを基本とする」という一文があるのですが、私たちは公務員として、住民の皆さんのために何が必要かを常に考えて仕事をしています。
つまりこれが、「県民の皆さん一人ひとりの、ウェルビーイング」ということなのだろうと。


田邉
そもそも県庁職員は「県民一人ひとりの幸福」を増やすために存在している、ということですか!?

牧山さん
そうなんです。我々がやっていることが、そもそも県民の皆さんの「ウェルビーイング」のためなんだと思い至りました。
これまで積み上げてきたものが「ウェルビーイング」という言葉に整理され、より納得感を持って能動的に施策に取り組めるようになったのではないかと思います。
まずは県民の皆さんのウェルビーイングを高め、それが富山の良さになり、県外の皆さんのウェルビーイングも高まっていく。そして最終的には社会全体のウェルビーイングにも貢献できたら、これほどうれしいことはありません。
<取材・文=田邉なつほ>
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