

会社の「幸せ指数」は何点? “はたらくWell-being”な組織を目指して、商工中金が挑む新しい組織改革
連載「“はたらくWell-being”を考えよう」
新R25編集部
リモートワークの浸透などと相まって、「はたらき方改革」が世間の潮流となって久しい昨今。
現場ではたらくビジネスパーソンのなかには、「本気で仕事に打ち込もうと思ったらはたらき方改革なんて無理」「自分らしいはたらき方なんて難しい」と感じている人もいるはず。
そこで、パーソルグループとのコラボでお送りする本連載「“はたらくWell-being”を考えよう」ではモヤモヤを感じているあなたへ「令和の新しいはたらき方」を提案していきます。

“はたらきがい”は、給与や肩書きだけでは測れない時代。では、会社で“幸せにはたらけている人”はどのくらいいるでしょうか?
株式会社商工組合中央金庫(略称/商工中金)が2020年に提供を開始した「幸せデザインサーベイ」は、従業員の満足度や仕事への意欲をデータで可視化し、組織の改善に役立てるサービスです。導入企業は約1,300社にのぼり、従業員のエンゲージメント向上や離職防止にも効果を発揮しています。
中小企業を対象に金融業務を行う商工中金がなぜ「幸せデザインサーベイ」を開発したのか。開発経緯や、商工中金の組織改革について、同サービスを提供している株式会社商工中金ヒューマンデザインで代表取締役を務める松下泰之さん、マネージャーの岡﨑正和さん、アソシエイトの德永郁未さん、株式会社商工組合中央金庫のDE&I推進部次長(取材当時)の滝柳雄大さんの4名にお話を聞きました。
1936年設立の「中小企業の中小企業による中小企業のための金融機関」。設立して85年超にわたり、一貫して中小企業を支援してきた。2018年に社内で開催したビジネスコンテストにて、従業員の幸福度を可視化する「幸せデザインサーベイ」のアイデアが誕生し2020年に事業化。以降、同サーベイや従業員参加型のワークショップ等を通じ、中小企業ではたらく人々のWell-being向上をサポート。2024年11月、人財サービス子会社「株式会社商工中金ヒューマンデザイン」を設立。今後も、中小企業、また中小企業ではたらく人々に対して、「気づき」を与え「幸せ」を考えてもらうきっかけを提供する。「はたらWell-being AWARDS 2025」FR(Future Generations Relations)部門を受賞
従業員は、幸せにはたらけている? 会社の“幸せ”を数値化する「幸せデザインサーベイ」

田邉
本日はよろしくお願いします!

商工中金のみなさん
よろしくお願いします!
写真左から、德永郁未さん、岡﨑正和さん、松下泰之さん、滝柳雄大さん

田邉
まず、商工中金という会社について教えてください!

松下さん
商工中金は、全国47都道府県と海外5か所に拠点を持つ、中小企業専門の金融機関です。
日本の全企業数の約99.7%を占める中小企業を対象に、お客さま一人ひとりにマッチしたオーダーメイド型のソリューションを提供しており、長期・短期のご融資のほか、財務改善や事業再生・経営改善、海外展開など、あらゆるニーズに対応しています。

田邉
2024年には、人財サービス子会社「株式会社商工中金ヒューマンデザイン」を設立されたんですよね。

松下さん
はい。商工中金の顧客である中小企業の約7割が人材確保・人材育成に関する課題を抱えていることを受けて、中小企業における人的資本経営の浸透を図り、生産性向上と企業価値向上を目指して設立されました。
株式会社商工中金ヒューマンデザインでは、従業員の幸福度を可視化するサービス「幸せデザインサーベイ」をはじめ、人材提供・人材育成等のソリューションの提供まで一貫したサービスを展開しています。

田邉
「幸せデザインサーベイ」ってどんなサービスなんですか?

松下さん
「幸せデザインサーベイ」は、中小企業を対象に従業員の幸福度を可視化し、「幸せ経営」を推進するためのツールです。

德永さん
具体的には、従業員に向けて「幸せ」に関する約100項目のアンケートを実施し、その結果を当社独自の分析ツールで数値化します。
そして5項目のレーダーチャートでレポートにまとめます。これにより、従業員の幸福度が一目で見える化できるんです。


德永さん
アンケート項目は、「コミュニティ・コミュニケーション」「チームパフォーマンス」「マネジメント」といった組織に関する3要素と、「カラダ」「マインド(幸福度)」といった個人に関する2要素で構成されています。これらを総合した始業が「幸せ指数」です。

田邉
すごい! レーダーチャートでまとまっていると、「なんとなく」だった現状がわかりやすくなりますね。

德永さん
まさにその通りで、実施企業さまからは「従業員の幸せは自分の感覚で把握していたが、客観的に数値化されて納得感が増した」「頭の整理になった」といったお声をいただいています。
株式会社商工中金ヒューマンデザインアソシエイトの德永郁未さん

德永さん
ほかにも、結果をお客さまのコーポレートサイトに掲載することで採用力やブランド力が向上した事例もあります。
また、アンケート結果をもとに福利厚生を見直したことで、はたらきやすさが改善された企業さまも。さらに「数値の弱いところを改善した結果、離職防止になった」というお声をいただいたときはうれしかったですね。

田邉
一方で、「思っていたよりも点数が低かった」というケースもあるのでしょうか?

德永さん
もちろん、そういったケースもゼロではありません。
「1回目の点数が悪くてショックを受けた」という経営者さまもいらっしゃいましたね。ただ、その後すぐに役員で危機感を共有し、改善に向けた取り組みを実施した結果、2回目の調査で数値が改善した例もあります。

田邉
なるほど。取り組みを始める前に現状を把握しないと、空回りになってしまうこともありますよね。

松下さん
おっしゃる通りです。実際、中小企業のなかには従業員アンケートを実施したことがない企業さまも多いんです。そのため、いろんな取り組みをしたけれど、うまく効果が得られなかったということも。
そこで「幸せデザインサーベイ」では、希望があれば対話型のワークショップを実施し、会社の課題や従業員の声を拾い上げるお手伝いも行っています。企業と伴走しながら、「幸せ経営」を推進するサポートをしています。

トップダウンからボトムアップへ。ビジネスコンテストの背景にあった組織改革

田邉
そういえば先ほど、「ビジネスコンテストでのアイデアがもとで生まれた」と仰ってましたよね。そもそも、なぜ社内でビジコンを開催したのでしょうか?

松下さん
実は、ビジネスコンテストはあくまでも組織改革の一環として行ったものなんです。その発端は、2016年に商工中金の危機対応業務における不正行為が発覚したことでした。
株式会社商工中金ヒューマンデザインで代表取締役を務める松下泰之さん

松下さん
当時の商工中金は、旧来のトップダウン型の企業文化が色濃く根付いていました。そうした企業文化を、ボトムアップで風通し良いものに変えていくために、総力をあげて組織改革をスタートさせたんです。

田邉
組織改革は一筋縄ではいかないと思うのですが、御社の取り組みが進んでいったのはどうしてなのでしょうか?

滝柳さん
1つは、トップの強力なコミットメントだと思います。2018年にトップが交代し、社長自ら「本気で組織を変えていくんだ」というメッセージを社員に発信し続けており、経営層の本気度を示しています。
そのなかでまず取り組んだのが、パーパス・ミッションの制定です。経営層だけでなく、全社が一丸となって「商工中金のパーパスとは何か」を議論し、2022年3月に「企業の未来を支えていく。日本を変化につよくする。」というパーパスを制定しました。

田邉
社員も一丸となって決めたんですね

滝柳さん
さらに、制定したパーパスを社員一人ひとりに自分事としてとらえてもらうため、はたらくうえでの羅針盤となる「マイパーパス」を全社員が策定するプロジェクトをスタートしました。
パーパスワークショップといって、2022年からは毎年実施しています。

田邉
ちなみに、社員のみなさんはスムーズにマイパーパスをつくれたのでしょうか?

滝柳さん
初回は苦労しましたね。今まで、「仕事を通して、どう自分の想いを実現していくか」を考える機会は多くなかったと思いますので…
そこで、初回のワークショップで使用するシートには「自分のきほん」を表せるような語群を用意し、イメージを膨らませやすいように工夫しました。
株式会社商工組合中央金庫のDE&I推進部次長(取材当時)の滝柳雄大さん

松下さん
語群のなかには「愛」「お金」「生活」など、さまざまなワードが並んでいましたが、私は「調和」を選びました。言葉として並んでいるのを見ると、自然と大切にしたい価値観が見えてきましたね。

滝柳さん
ほかにも、上意下達の企業文化を変えるために、役職関係なく社員が手挙げ制でさまざまな取り組みに参加できる仕組みも導入しました。
たとえば研修は、企業内大学「人づくりカレッジ」として衣替えし、社員が自ら受講したい講座を選べるスタイルに変更。また、ビジネスコンテストも手挙げ制で参加者を募って開催しました。
新規事業への挑戦! 新しい風の到来を感じた

松下さん
そういえば、「幸せデザインサーベイ」のもととなるアイデアを出してくれたのは、岡﨑さんのチームだったよね。

岡﨑さん
はい。初回のビジネスコンテストにチームを組んで参加し、役員賞をいただきました。

田邉
岡﨑さんは、どうしてビジネスコンテストに参加しようと?

岡﨑さん
きっかけは2つあって、1つは同期入社の仲間達がビジネスコンテストの運営に関わっていたので、「何か力になれれば」と思ったからですね。
もう1つは、ゼロから新しいサービスや事業をつくれる機会にワクワクしたからです。
株式会社商工中金ヒューマンデザインマネージャーの岡﨑正和さん

田邉
確かに、0→1の立ち上げを経験できるのは貴重ですよね!

岡﨑さん
そうなんです! もちろん最初は、ビジネスを立ち上げる知識も事業化の方法もわからない状態でした。ですが、参加するにあたって座学でビジネスモデルの考え方やマーケティングなどを学び、チームを編成してからはビジネスのプロがメンターとして入ってくれました。
困ったこと、迷ったことがあったときにプロフェッショナルに相談できる体制があったのは心強かったですね。

田邉
プロと一緒に!

岡﨑さん
それまでは金融機関のいち社員としてはたらいていたので、「こういう考え方をするんだ」「こういう世界があるんだ」と、視野が広がる経験になりました。
コンテスト当日は、大きな会場で経営層をはじめ役員のみなさんが見守るなかでプレゼンを行ったのですが、熱気に包まれていて。「商工中金がこれから大きく変わっていくんだ」というのを身を持って感じた記憶があります。

德永さん
ビジネスコンテストは今も毎年続いていて、私も3回目のコンテストに参加しました。
新規事業を考える面白さや会社が変化する兆しを感じられるのは、今も同じですね。
はたらいて、笑うために。“はたらくWell-being”に必要なこと

田邉
商工中金は“はたらくWell-being”な組織に向けて歩みを進めていると思います。みなさんは、はたらいて笑うためには何が必要だと感じますか?

滝柳さん
一人ひとりが自分のバックグラウンドや想いを語り合える場があることが大事かなと思います。DE&I推進部の一員としてパーパスワークショップの企画・運営を行っているのですが、ワークショップを終えたあとに「〇〇さんが大切にしていたことを初めて聞いた」「周りの人がこんな考え方を持っていることに驚いた」といったフィードバックがよくあるんですね。
一人で完結できる仕事はないからこそ、一緒にはたらくメンバーがどんな想いを持っているのかを知ることで、より一体感が生まれ、「幸せ経営」につながっていくのではないかなと思います。

德永さん
私は、コミュニケーションが鍵だと思います。
実は「幸せデザインサーベイ」のなかでも、幸せ指標に反映する比重として高いのが「コミュニティ・コミュニケーション」なんです。経営層と現場という縦の関係はもちろん、従業員同士の横のつながりも、はたらきがいややる気に大きく関わっている。私自身、仕事で大変なことがあったとしても、そうしたつながりを感じらえることで「よし、頑張ろう!」と思えるんです。


田邉
松下さん、岡﨑さんはいかがですか?

松下さん
表現が適切かわかりませんが、トップ(上司)が弱みを見せることですかね(笑)。
トップが完全無欠のスーパーマンだと、どうしても意見を言いづらくなってしまいます。だからこそ「わからないから教えてくれないかな」「こういうことを考えているけど、どうかな」と、人と人としてフラットに歩み寄ることが大事だと思います。

田邉
弱みを見せることで、逆に話しやすい雰囲気になるのですね。

松下さん
実は、こうしたラフなファッションも話しかけやすさの戦略の1つ(笑)。
最近は、メンバーからキャップをプレゼントしてもらうことも多く、それをきっかけに会話が生まれることもありますし、お互い話せる関係性が築けているのかなと感じます。

岡﨑さん
「お客さまに対して良い仕事をして、その対価をいただく」、そのサイクルが回ることが“はたらくWell-being”だと考えています。
その前提として、人と人の関係性はすごく大事ですよね。役職関係なく、メンバー一人ひとりが相手に対して興味を持つこと。滝柳さんのお話にも通じますが、どんな思いではたらいているのかを知ったり、小さなことを言えば一緒にはたらくメンバーのフルネームを知っていたり。
そうした関係性が結果としてパフォーマンスの向上につながり、お客さまに還元されていくのだと思います。

<取材・文=田邉 なつほ>
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