ビジネスパーソンインタビュー
大人になると時間が早く過ぎるのはなぜ?
土日の体感時間を“1週間”に延ばせる!? 目からウロコの「時間の長さコントロール法」
新R25編集部
社会人になってから時間があっ!という間に過ぎてしまうようになった、と感じるのはわたしだけでしょうか。
否、毎日忙しいR25世代なら誰しもが感じたことがある「時間のふしぎ」だと思います。
心待ちにしていた週末を迎えてホッと一息吐いたのも束の間、気付けば日曜日の夜になっている。これってなぜ…?
そんな悩みを解決するため、今回は「時間学」の先生に「自分の時間をゆっくり進める方法」を聞いてきました!
〈聞き手=いしかわゆき(新R25編集部)〉
話を聞いたのはこの人!
【一川誠(いちかわ・まこと)】千葉大学大学院人文科学研究院教授。「時間学」の研究者であり、人間の知覚認知過程や感性の特性についての研究から、体験される時空間の特性に影響を及ぼす要因についての検討を行っている
時間が速く進むのは「出来事」をまとめてしまっているから。それってどういうこと?
いしかわ
先生、このまま駆け足で時間が過ぎていき、私はBBAに成り果ててしまうのでしょうか。
大人になると、どうして時間が早く過ぎるように感じてしまうんですか…?
一川先生
まぁまぁ、落ち着いて。研究の成果を駆使すれば、「土日を1週間くらいに感じること」は可能ですよ!
いしかわ
…!! 早くその方法を教えてください!
一川先生
まず、時間があっという間に過ぎるように感じるのは、体験する出来事の数が関係しているんですよ。
とりあえずこちらの動画を見てください。
〈動画製作者=京都市立芸術大学 岡崎聡〉
一川先生
2つの映像が出てきます。1番目と2番目、どちらが長く感じますか?
いしかわ
うーん、2番目のドリブルをたくさんしている映像の方がなが~く感じますね。
一川先生
長く感じますよね。でも実はこれ、同じ4秒間の動画なんです。
エッ!?︎
〈動画製作者=京都市立芸術大学 岡崎聡〉
一川先生
1番目の映像は出来事(=ドリブルの数)は1回だけ、そして2番目の映像は出来事が何回も起こっていますよね。
このように、物理的には同じ時間でも、私たちの心的な時間は、認識される出来事が多いと長くなり、少ないと短くなるんです!
大人になると時間があっという間に過ぎてしまうのは、私たちが複数の出来事を「まとまった1つの時間」、として捉えてしまっているからなんです。
それは、毎日がルーティーン化し、出来事の細かい部分を追わなくなるから。
大人の時間はヘタをすると、とにかく短くなる方向で圧縮されていきます。
笑顔で恐ろしいことを言う時間の魔術師・一川先生
いしかわ
な、なんだって…。どうすれば圧縮を食い止められるのですか…!?︎
一川先生
一番有効なのは、楽しみながらディテールに注目することで、「出来事を増やす」ことです。
例えば、テニスをして時間を過ごすなら、あらかじめイメージをしておいて、プレイ中に自分はどういうところが上手くなっているのか、相手はどういう風に工夫してきているのか、など細かいところに気付ける準備をしておく。
気付いたということは記憶に残るので、「体験した出来事」が増えるわけです。そうすると体感時間も長くなる。
いしかわ
出来事というのは、例えば野球して、テニスして、といろいろしなきゃいけないのではなく、一つの出来事のディテールを追うことでOKなんですね!
一川先生
そうそう。子供の時って、食事一つするにしても、スパゲティを結んでみたり、牛乳をこぼしたり、みたいな出来事が色々あるじゃないですか。
それが大人になったら「毎日してる食事をした」という一つの出来事にまとめられて短く感じてしまう。
添えられているハーブに注目してみる、旬なものを食べて特別感を出してみる、そういう姿勢が大事です。
何も考えずに、「お腹が空いたからコンビニ弁当でいいや」って感じだともうダメですね。
いしかわ
(わたしのデイリーランチやないかい)
休日のスケジュールを診断して、「時間が長くなる休日」にしてもらおう!
いしかわ
他にも時間を長くするコツが知りたいです!
そこで、わたしの週末のスケジュールを見てほしいんですけど…
一川先生
これはひどい。まず、起床時間が遅すぎます。
実は時間の感じ方は、「代謝」と大きな関係があるんです! 1日の中で身体の代謝は変動していて、朝方低調な状態からだんだんと夕方にかけて上がっていき、17時頃にピークを迎えます。
それと対応し、代謝が落ちている時は心的時計はゆっくりになり、それとは裏腹に、物理的時間があっという間に進むように感じられるんです。
逆に、代謝が激しい時は心的時計も速くなるので、そうすると物理的な時間はゆっくり進むような感じがするわけです。
いしかわ
代謝が高いと、時間が延びるんですね!
一川先生
いしかわさんの場合は12時という割と遅めな時間に起きているので、代謝が十分に上がりきるころには、昼すぎになってしまう。
なので、せっかくの休日をかなり短く感じるような過ごし方になってしまっています。
いしかわ
ガーン…。代謝が上がる“アイドリング”に必要な時間はどのくらいなんですか?
一川先生
大体3時間くらいだといわれています。なので、早起きした方が代謝の上がっている時間を長めにキープできるんです。
あとは、運動すると代謝が上がりますよね。だからスポーツをすると、時間を長く感じることができます。
いしかわ
つまり、運動やサウナで代謝を上げまくれば時間は延ばせるってこと…!?
一川先生
一時的な効果ですが、そうなります。
ただ、代謝は上がったのちに下がるもの。そのタイミングでは時間が早く流れたり、眠くなったりします。
いしかわ
そうしたら、やっぱり早めに起きてエンジンをかけておくのが大事なんですね!
ホラー映画を観ると、時間が長く感じられる!?
一川先生
次に、「15時にドラマを観る」とありますが、夕方頃は代謝がピークになって体感時間が長くなるので、もっと活動した方がいいです!
ドラマを観るなら、まだ代謝が上がりきっていない朝や、代謝が下がった夜に観るのが良いですね。
いしかわ
なるほど。ちなみにドラマや映画を観る時のポイントってありますか?
一川先生
ひとつめは、倍速で見ること。先ほど見た動画のように、同じ時間でもたくさんの出来事が詰め込まれるから、いつもよりゆったりと時間が流れているように感じますね。
ふたつめは、ホラーものを見ることです。
いしかわ
ホ、ホラー!?
一川先生
恐怖感を感じると時間を長く感じるんです。
同じドキドキでも、恋愛のラブリーなものではなく、ホラーやサスペンスなど、緊張感のあるものが効果的です。
いしかわ
なるほど、緊張感が良いんですね!
ちなみに、のんびりお酒片手に観ていることが多いのですが、アルコールは何か関係がありますか…!?
一川先生
アルコールには、時間を短縮させてしまう効果があるので注意です! 実はアルコールは興奮作用ではなく弛緩作用があるんですよ。
いしかわ
なんと! じゃあ昼から飲んでいたらあっという間に1日が終わるのか…。楽しいけれどそれはもったいないかも。
ネットサーフィンは時間をガンガン圧縮する!
いしかわ
夜中にダラダラとネットサーフィンをしているのはどうですか?
一川先生
ネットサーフィンは基本的には時間を圧縮する効果が強いんですよ。
ネットサーフィンをしている時は何かを探してることが多いですよね?ネットに限らず、探すっていうのはそのことにすごく集中してしまい、時間を短くする傾向が強いんです。
ネットの場合、サイト遷移の時とか、ちょっと待ち時間があるじゃないですか。その時間がものすごい“過小評価”されていて。
実際には数秒かかってるのに、我々はそれに気付かずにボーッと待ってしまってるんですよ。
いしかわ
パパッと変わっているように見えて、実は結構待っている…!?
一川先生
そう、だからネットサーフィンをする時には時間を決めてアラームが鳴るように設定し、時間を認識するのがオススメです。
しかも、深夜のウトウトしてきている時間は、認知的な能力がとても低く、いわば弛緩しきっている状態なので時間は駆け足で過ぎていきます。
ちょこちょこ脅してくる一川先生
時間を延ばす空間作りについて。一番効果的な場所は…
いしかわ
ちなみに、過ごす空間によっても体感時間は変わるのでしょうか?
一川先生
空間の効果は大きいですね! カラオケみたいに狭くて暗い空間は時間が早く過ぎると考えられています。
子供のほうが体感時間の進みが緩やかなのは、子供の身体が小さいので、空間を広いと認識する、というのがあるんです。
いしかわ
おお、そうしたら私の理想とする“時間が延びる部屋”を作るとしたら…
一川先生
極端な話、真っ白で明るい、天井が高めな部屋がオススメ。鏡を置いたりすると更に空間が広めに見えるのでいいですよ。
あとは時間経過に意識を向けるのもいいので、トイレや洗面所などに時計を置くのも有効です!
視覚以外の部分だと、実は音も時間経過に作用します。やかましい方が長く感じるんですよ。
いしかわ
明るくて広くてやかましい場所…
一川先生
フェスです。
いしかわ
…フェス。
一川先生
フェスに行くとすごく1日が長く感じませんか?
実は体感時間が長くなる条件がぴったりそろっている場所なんですよね。
いしかわ
…まさかすべての答えがフェスに集約されるとは…!
わたしの休日の過ごし方って、いつも土曜日はのんびりして日曜日はアクティブに活動!という感じなんです。
ただ、何やら先ほどからお話を聞いていると、実はどちらも活発に動いた方が結果的にゆったりとした時間を過ごせるような気がしてきました。
一川先生
実はそうなんです。
もちろん疲れた身体に鞭打って、とは言いませんけど、いつもと同じように部屋でぼんやり過ごすのではなくて、室内でも屋外でもいろんな場所へ出かけ、細かい気付きをたくさん得て、一つ一つが記憶に残るような充実した時間を過ごすことが大事。
時間は工夫次第で2倍にも3倍にもなりますから。
先生への取材を行ったのは千葉大学の研究室。
初めて足を踏み入れるキャンパスや研究室に積み上げられたおびただしい数の資料など、細かい部分に着目しながら話を聞いていたら、時間がゆったりと過ぎていくように感じました。
毎日フェスに行くというのは無理でも、「ディテールへの注目」や「代謝を上げる」は今すぐトライできるはず。
この週末は、ゆっくりとした時間を過ごしてみてはいかがでしょう?
〈取材・文=いしかわゆき(@milkprincess17)/撮影=天野俊吉(@amanop)〉
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