ビジネスパーソンインタビュー

被害者意識にまみれず、本質的な仕事をすべし。田端信太郎が回顧する「20代の働き方」

「休職しようとしてた」過去も…!

被害者意識にまみれず、本質的な仕事をすべし。田端信太郎が回顧する「20代の働き方」

新R25編集部

2018/08/06

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新人と呼ばれる時期を終え、だんだんと仕事にも慣れてきたR25世代のビジネスパーソン。

「自分のキャリアって、本当にこのままでいいのだろうか?」

そう考え、転職サイト転職エージェントを覗いている人も多いはず。

新R25が8月にお届けする特集「はじめての転職 サバイバル」では、そんな読者が自分自身のキャリアを見つめ直すきっかけ、そしてはじめての転職活動で活用できる実践的なノウハウをお届けします!

4日連続公開特集の第1回は、20代半ばで転職を経験し、転職先のリクルートでフリーマガジン『R25』の創刊に携わった田端信太郎さんにインタビューを敢行。

最新著書『ブランド人になれ!』(幻冬舎)のなかでは、若手ビジネスマンに対し「こんな量は絶対不可能だというレベルの仕事を、必死でやりきれ」と説いている田端さん。

そんな、ある種時代にそぐわないようにも思える仕事論を持つ田端さんは、若手時代にどう働いていたのか? 20代のあるべきキャリアについて、どう考えているのか?当時の記憶をなぞりながら語っていただきました。

〈聞き手:天野俊吉(新R25編集部)〉

「コーラ色の○○が出た」超ハードに働いたNTTデータ時代

【田端信太郎(たばた・しんたろう)】株式会社スタートトゥデイコミュニケーションデザイン室 本部長。NTTデータを経てリクルートへ。フリーマガジン『R25』を立ち上げ、創刊後は広告営業の責任者を務める。その後ライブドア、コンデナスト・デジタル、NHN JAPANを経て、2018年3月から現職

天野

まずは、新卒で入社したNTTデータ時代のことを教えてください。

田端さん

それはもう、圧倒的な長時間労働の日々だよね。週2~3日は会社に泊まってた気がする。

事業部長の応接室のソファで寝てたら、翌朝、部長が出勤してきて起こされたり、椅子を並べて2~3時間仮眠したり。

天野

やっぱりそんなムチャな働き方を…

田端さん

そう?(笑)

ちなみに、そんなに会社にいると何が起きるかって言うと、「すごい仕事したな~!」と思って、パッと時計見るじゃん。

そうしたら時計の針が「11:00」を示してるのね

天野

昼の、ですか?

田端さん

いや、それが自分でも昼なのか夜なのかすぐわからないんだよねずっと会社にいるから(笑)

初めてお会いしましたが、目力がスゴイ

天野

二日酔いですごい寝ちゃったときみたいな。

田端さん

そんな感じですよ(笑)。ほかにもブラックなエピソードでいうと、おれコーラが好きなんだけど、ダイエットコーラと普通のコーラを使い分けて仕事中ずっと飲んでたんですよ。

お腹がすいてるときは血糖値上げたいから普通のコーラ、眠くなりそうなときはダイエットコーラ、って。

そうすると、どんな状況でも一定の体調でいられるわけ。

天野

アメリカ人も真っ青の使い分け…

そんなことしてて、体壊さなかったんですか?

田端さん

それが汚い話なんだけど、ある日、夜中に残業しててトイレに行ったら、コーラ色の黒いおしっこが出たの

さすがに「えっ!? これ、コーラがそのまま出てんじゃないのか?」って焦ったよね。よっぽど胃腸や腎臓が弱ってるな~と思った(笑)。

ガハハ!

天野

いやいやいや…絶対体ヤバいじゃないですか!

体もそうですが、メンタルは大丈夫だったんでしょうか。

田端さん

本格的に病むということはなかったね。これは会社を悪く言うわけじゃないけど、あの手のシステム系の職場は、確率論である程度はメンタルを病む人が出てるんですよ。

それで問題になったのかな。ある時期から、メンタルヘルスチェックみたいなのを受診させられるようになったんだけど、そのなかに「自分の性器は人より大きいと思うか」って質問項目があってさ。「強くそう思う、ややそう思う…」って選択肢があるわけ(笑)。

そういうの見て「なんだよこれ!」って大笑いしてたね

天野

笑いごとじゃないけど、爆笑してるぐらいだから田端さんは大丈夫だったんですね…

忙しくて、「もう会社を辞めようかな」みたいに思うことはなかったんですか?

田端さん

いや、そうは言っても当時は結構まいってたと思うんだよね。実は1年目終わったときに休職しようと思ってた(笑)

履歴書に穴を開けるのが怖くて、苦しまぎれにSFC(慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス)の院を受けたら、受かったんですよ

田端さんと「休職」って、正直すごい似合わない字面です

天野

スーパーサラリーマン田端信太郎が休職して大学院に…

田端さん

でもNTTデータで有名だった大谷さんっていう当時の上司にそれを言ったら、「お前はバカだな!」って。

会社にいれば給料もらいながら学べるのに、なんで金払って勉強しにいくんだ。大学に今さら戻るなら、教えに行くぐらいじゃないとダメだぞ」って言うんだよ。

確かにそれもそうだな~と思って、一旦は会社で頑張ろうと思ったんだよね。

大谷さんが「電通鬼十則」のパロディでつくった「大谷鬼十則」。田端さんがTwitterで紹介して話題に

“本質的じゃない仕事”かどうかは、量をこなさないとわからない

天野

そんな新人時代を振り返っての、「学び」があれば教えてください。

田端さん

結局大事なのは、「出すべき本質的な結果から逆算して、最短距離で動く」ことだよね。

睡眠時間を削って超忙しくしてると、無意味なことをしたくないから、下っ端仕事でも本質的なゴールを常に意識せざるをえない

「MTGのために資料を準備しろ」と言われたら、じゃあそのMTGって何のためにやって、その結果どうなればいいんでしたっけ? っていうのを聞いて、資料作成中もそのゴールを強く意識するようになった。

天野

“ゴールを意識して準備しろ”というのはよく言われますが、それが本当に意識できてるか、だと。

田端さん

そうそう。営業だって同じで、「要は受注すればいいんでしょ、売上あげればいいんでしょ」というのが骨身にしみてるか

徹夜すること自体に何の意味もないのよ。お客さんの前で「この資料徹夜でつくりましたから発注してください」って言ってたら、アホか?って話じゃん

田端さん

キミたちもやってるかもしれないけど、クッソ意味ねえ仕事ってあるじゃん。「こんなもんのために何やってんだ?」「このレポートほんとにクライアント見るんですか?」みたいな。

そういう“つじつま合わせ”の本質的じゃない仕事をしてると、一番精神的にこたえるんだよ

本質的じゃない仕事で徹夜とか長時間労働とかしてたら、それは心身を病むよね。

天野

でも若手のうちは、上司から仕事が振られてきますからね…。本質的な仕事だけ見極めるのは難しいですよ…

田端さん

でも、意味があるかないかって、ある程度突き詰めてやらないとわかんないじゃないですか。おれが「量をこなせ」って言うのはそういうこと。

登る前から「富士登山なんか疲れるだけ」って言えないでしょ。やってみて、その本質を知ってから、「登山の意味」を語れるんだと。

まあ、おれは富士登山したことないけどね(笑)

このタイミングでハイボールが入りだしました

仕事が“オママゴト”に思えて転職。リクルートを選んだのは「目立てそう」だから

天野

そのNTTデータからリクルートに転職した経緯を聞きたいです。「転職しよう」と思ったきっかけはなんですか?

田端さん

振られる仕事に対して、本質的な意味をいつも自問自答してたら、あるとき「こんなもんオママゴトだな」と思えてしまったんです。

天野

オママゴトと言いますと…?

田端さん

NTTデータ時代、NTTグループとかテレビ局とかとジョイントベンチャー企業をいっぱいつくったんですよ。最近でもあった「NOTTV」(NTTドコモが主導したスマホ向け放送サービス。2016年に終了)みたいな感じ。

あれも何百億円も使い散らかして終わったわけでしょ

俺は断言するけど、サービスの企画書の段階で、それを書かされてる若者は「こんなもんうまくいくわけねえよ」と思ってたはずですよ

天野

そ、そういうもんですか…(日本を牛耳る複数の大企業を敵に回す発言…)

田端さん

上のほうのおじさんは“子会社ができたら出向先になるし、社長ポジションもできるし”ぐらいの算段で、誰も本気でその会社をうまくいかせよう! 事業を成功させよう! なんて思ってない。大人の事情ばっかり。

そういう仕事にだんだん虚しさを感じるようになってね。

天野

どういった会社に転職しようという考えはあったんですか? いわゆる「転職の軸」みたいな。

田端さん

結局最終的には、「自分が目立てて、意思決定できる真剣勝負の仕事」がしたかった。

天野

それでリクルートに。

田端さん

いや実はリクルートの前に、証券会社から内定が出てたんだよね

大和証券と住友銀行がつくった大和証券SBキャピタルマーケッツっていう法人専門の証券会社だったんですけど、株が好きだしそこに行こうと思ってたんですよ。気分は映画の『ウォール街』(笑)。

天野

え!! 初耳です…

田端さんがそこでリクルートではなく証券会社に入ってたら、今のメディア業界はかなり変わってますね…。なぜ入社しなかったんですか?

田端さん

なんか、途中で萎えたんですよね。これを取れって「証券外務員」の試験のテキストを渡されて。

証券マンをやるための普通免許みたいなもんで、まあ別に不要な試験とまでは言わないけど、当時は「なんか意味ねえなあコレ」と思えてしまって

証券会社って銀行よりはマシだと思ってたけど、やっぱり“お勉強大好きな秀才の文化”なんだなって。

天野

「自分が目立つ」というのとも少し違う仕事かもしれませんね。

田端さん

そうでしょ。もちろん頭脳労働としての醍醐味があるのは認めますけど、結局黒子の仕事だから。

なら、ネットビジネスで一流になりたいと思って、当時「ISIZE」っていうポータルサイトでネットの覇権を握るか握らないかってYahoo!とバチバチやってたリクルートの次世代事業開発室という組織に行くことにしたんです。

今の若者はもう「ISIZE」なんてサイト知らないだろうけど(笑)。

ちなみに2年目でNTTデータを退職したときは年収450万円ほど、リクルートに移って600万円ほどになったそうです

リクルートで学んだことは「板ばさみになってからが仕事」

天野

リクルートに移られてからは、27歳でフリーマガジン『R25』の立ち上げに参画されるわけですよね。そのキャリアを通じての学びがあれば教えてください。

田端さん

『R25』は広告営業を担当してた電通とかとの“揉めごと”が大変だったんだけど、「揉めごとを怖がらなくなるだけで、サラリーマンとして大きく成長する」と思ったね。

天野

そんなに揉めてたんですか。

田端さん

毎週クッソ揉めてたよ!

電話で怒鳴られるくらいは平常運行という(笑)。

田端さん

電通とリクルートの間で、交通広告の中吊り代をどっちが持つとか、冊子を入れるラックを青く塗った費用をどっちが持つとか。

まさに板ばさみの状況で、汐留の地下街をテクテク歩いてたの、すごい覚えてるもん。

天野

しんどいな~。それこそ、メンタルを病む人も多そうな状況ですね…

田端さん

でも、「板ばさまってこそ仕事」みたいなところはあってね。

今、会社員で板ばさみになってる状態の人は、「板ばさみになるからこそ、付加価値が出せる」と覚えといてほしいんですよ。

田端さん

もちろん自分の意思がなく“伝書鳩”やってたら意味ないよ。

でも板ばさみになってる状況で、「これを解決するにはこうするしかありません!」っていうナナメ上のクリエイティブな着地案を自分なりにぶち上げて、両方を説得することができれば、単なる通訳じゃなくなるチャンスでもある

天野

揉めてると「もう仕事いやだ!」ってツラく思う人も多いはずですが…

田端さん

いやいや、逆に「揉めてるときこそが仕事、揉めてからが仕事」なんですよ。

揉めてないときってルーチンワークなんだから、それはただの“作業”でしょ

自分が怒られてたらツライとか思うかもしれないけど、サラリーマン同士が会社の看板背負ってやってる揉めごとなんて、しょせん“プレイ”みたいなもんだから。謝罪プレイ。

当時の貴重なワンカット。好青年だ…

ブラックな環境に身を置いたほうがいいんですか?→「ブラックの定義は?」

天野

リクルートも、イメージとしてはかなりハードワークする会社として知られてるじゃないですか。あえてそういう“ブラック”な環境に転職したのはなぜなんでしょうか?

「うーん…」

田端さん

いや、さっきも「自分に合った環境に行きたい」「真剣勝負の場に行きたい」って言ったけど、ただそれだけなんだよね。

というか、世間が何をもってブラックって言ってるのかがホントわかんないんですよね。じゃあさ、ブラック企業の定義ってなんですか?

天野

えっ、それは一般的に言われてるやつですよ。長時間労働だとか、社内環境が悪いとか?

田端さん

おれの考えで、あえて抽象的な定義をすれば、「社員が被害者意識を持って、やらされ感で働いてるのがブラック企業」じゃないですか。

田端さん

グーグルみたいに社食での飲食が無料で、社内環境もいい会社だと、寝袋持ってずっと泊まってる社員がいるらしいんだよ。

家賃もかかんないし、逆にずっと会社にいたい」とか言って。

それって会社に長時間いるからブラックなのか?と。“会社を利用してやってる”と思えてるなら、違うんじゃないかと思うんだよね。

天野

なるほど…

田端さん

9時5時”の会社でも本質的じゃない仕事して、社員が被害者意識つのらせてたらブラックだと思うしね。

ホワイトなのかブラックなのかなんて、そこ次第じゃないの?

田端信太郎のキャリアは「感謝」であふれていた…!

「『田端さんは恵まれてるからそんなに強気でいられるんです』ってよく言われるんだけど、まあ、それはその通りなんだよね(笑)。ホントおれは先輩や上司に恵まれてたと思うよ」

「NTTデータ時代の上司も、エライ人にたてつきながら、ビシっと言うことは言う人で。でっかい絵を描いて仕事する醍醐味とか、主体的に仕掛ける“営業の楽しさ”、武士道ならぬサラリーマン道みたいなものを教えてくれたんだよね」

「そういう意味で『被害者意識』を感じずにここまで働いてこれてきた基礎は、20代なかばの自分を鍛えてくれた上司や先輩のおかげ。本当に感謝しかないですね」

いわゆる“ハイパー強者”ならではのコワモテなイメージとは違い、田端さんは自身のキャリアを振り返って「周りに恵まれた」と強調します。

転職や、自身のキャリアデザインを考えるR25世代は、やみくもにお金やステータスに憧れるのではなく、「仕事の本質」を考えてみては。でも、それにたどり着くためにはある程度のハードワークが必要なのか…。う~む。

〈取材・文=天野俊吉 新R25編集部(@amanop)/撮影=福田啄也 新R25編集部(@fkd1111)〉

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