ビジネスパーソンインタビュー

休日は脳内をこう整えよ。幸福学者が教える「憂鬱な月曜を晴れやかに迎える方法」

日本人は休むのがヘタなんです

休日は脳内をこう整えよ。幸福学者が教える「憂鬱な月曜を晴れやかに迎える方法」

新R25編集部

連載

シゴトに効く「カラダハック」

2018/08/26

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「あ…今週も『笑点』がおわった」と、明日のことを考えて切なくなる日曜の夜

そして迎える月曜の朝。多くの人が、1週間で最も嫌いな日なのではないでしょうか。毎週とは限らずとも、そんな経験をしたことのある人も多いはず。

でも、月曜を少しでも晴れやかな気分で迎える夢のような方法って、ないんでしょうか…?

そんなワガママすぎる要望を、幸福学研究の第一人者である前野隆司教授にぶつけてみました。

【前野隆司(まえの・たかし)】慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科 研究科委員長・教授。ヒューマンインタフェースのデザインからロボット、教育、地域社会、ビジネス、幸福な人生、平和な世界など、様々なシステムデザイン・マネジメント研究を行っている。主な著書に『幸せのメカニズム─実践・幸福学入門』(講談社現代新書刊)、『幸せの日本論 日本人という謎を解く』(角川新書刊)ほか

〈聞き手=宮内麻希(新R25編集部)〉

土日と平日のメリハリはない方が“憂鬱”を感じない

宮内

先生。私、毎週月曜日を迎えるのが憂鬱でたまらないので、晴れやかな気分で迎えたいんです…。とはいえ、「仕事がイヤ」というわけではないので不思議なんですが…

これは一体、どういうことなんでしょう?

前野先生

それは、週末と月曜の“落差”が原因で、脳内が整っていないからでしょうね。

土日は、楽しいことが続くので、脳内でエンドルフィンドーパミンオキシトシンといった物質が分泌されて、幸福を感じやすい状態になっているんだと思います。それが、月曜の朝になると途端に分泌されなくなってしまう。

前野先生

でも、昨日感じた楽しさを脳は覚えているので、脳内が「下がりたくない」モードに突入しちゃうんでしょうね。

そうなると、無意識のうちに脳から「憂鬱」信号が出て、気分が沈みやすくなるんです。

宮内

なるほど。やっぱり「仕事がイヤ」だけが原因じゃなさそう…

前野先生

もともと、日本には「土日は休み」という概念がありませんでした

農耕を生業としていたので、土日に休んでいたら、畑に草がボーボーになってしまいます。だから毎日働いていて、それでも幸せだったんです。土日に休む動物がいないのと同じです。

ところが、明治以降に西洋文化が普及したことにより、「土日は休む」という文化が定着していった。ある種、土日の登場が、日本人のリズムを乱したんですよ

宮内

ということは、ヨーロッパ圏のサラリーマンは月曜を憂鬱に感じにくいんですかね?

前野先生

彼らは、日本人よりまとまった長期休暇をよくとりますよね。

あれは、むことと働くことの切り替えが得意だから、リフレッシュできるんでしょう。狩猟して疲れたら休む、という過去の生活様式が影響しているのかもしれません。

一方日本人は、本来休むのが苦手なのに休もうとするから、切り替えが難しくなってしまう。むしろ、土日と平日のメリハリがないほうが、月曜を憂鬱に感じない可能性は高いと言えるかもしれませんね。

土日に楽しい仕事を繰り越すと幸せになれる?

宮内

つまり、私たちが月曜日を晴れやかな気持ちで迎えるためには、「毎日働いた方がいい」という結論になるんでしょうか…

前野先生

憂鬱を感じてしまう場合の対策として、極論はそうなりますね。

でも、そんなのイヤじゃないですか?

宮内

はい!!(即答)

前野先生

こんなのはどうでしょう。

これまで、平日に頑張って1時間ずつ残業していたとしますよね。それを、勇気を持って仕事が残っていても定時で帰る。その分、土日に比較的自分が「楽しい」と思える仕事を繰り越してみる

前野先生

ベンチャーやフリーランスの人たちって、幸せそうに働く人が多いですよね。あれって、土日関わらず働いてることが多いので、リズムが乱れなくなるから、ということもあるんです。

だから僕は、5時間×7日間とか分割して働くことって、幸せに生きるひとつの方法としてアリなんじゃないかと思うんですよ。

宮内

う~ん…それなら仕事によっては実践できるかもしれません。でも、もっと簡単な方法をください~!

休日は「仕事の定時内で」思い切り遊びたおそう

前野先生

土日に働かなくても、メリハリをなくすことはできます。

宮内さん、会社の定時は何時ですか?

宮内

10時から19時です。

前野先生

なら、土日はその時間内でおもいきり遊ぶようにしてはどうでしょう。

前野先生

大切なのは、土日と平日のリズムを均一化することなんです。ハードル走もそうじゃないですか。インターバルを3歩、4歩とバラバラに走ってしてしまうと、タイムも落ちるし転びやすくなる。

僕たちの毎日もそれと同じなんです。だから、遅くまで起きていて、次の日はお昼まで寝るっていうのは一番ダメ。一時的には幸せかもしれませんが、長期的に見たらリズムがぐちゃぐちゃになるので、最悪です。

宮内

ちなみに、10時から19時の間なら、なにをしてもいいんですか?

前野先生

どうぞどうぞ。朝からお酒飲んでも問題ないですよ。

ただ、せっかく朝から動くのであれば、レジリエンスを高める過ごし方をするといいですね。

宮内

レジリエンス?

前野先生

わかりやすくいうと「いざというときに立ち直る力」のことです。

私の調査では、幸せな人はレジリエンスが高いという結果が出ています。そして、幸せな人は体力と知力をバランスよく整えていることもわかっています。ですから、体力と知力を高めておくと、レジリエンスも高まるといえるでしょう。

なので、美術館や博物館のような、知的好奇心が刺激されるような予定。体力を使うようなスポーツやレジャーの予定の両方を入れておくと、リズムも良くなって月曜も爽快。さらにレジリエンスも高まるので、一石二鳥ですね。

「月曜午前」にやることを書き出して、脳を整理整頓する

宮内

ほかにも、おすすめの過ごし方はありますか?

前野先生

過ごし方とはすこし違いますが、日曜の夜に、意識的に脳内を整える作業をするといいですね。

宮内

脳内を整えるって、どうやればいいんでしょう…?

前野先生

簡単です。「月曜の午前中にやること」だけを紙に書きだしておいてください

考えるだけだと表面的には整頓できたようでも、脳内の見えないところでぐちゃぐちゃになったままのキケンがあるので、書きだすのが大切

宮内

月曜午後とか、火曜のタスクは書き出さないほうがいいんですね?

前野先生

気楽にできる人は一週間分書き出してもいいですが、脳内が乱れて「悩みが多い」と感じそうな人は、できる範囲のほうがいいですね。自分でコントロール可能な範囲の仕事をしている人は幸せなんです

僕ね、去年、修験道の修行に行ったんです。そうしたらすごく長い階段を登らなくちゃいけなくて。もうこんな歳で体力もないから、てっぺんを見あげて「絶対無理だ」と絶望したのね。

前野先生

でも、自分がいるところのひとつ上の段だけを見ながら、ひとつ、ひとつと登っていくと、不思議とゴールまでたどり着けたんですよ。

仕事も同じで、そうやって、一つひとつ目の前の対処できる範囲だけに意識を集中することで、脳内が整い、気分も晴れてきますから

月曜の朝は、ドライフルーツを食べて瞑想しよう

前野先生

これまでお伝えしてきたのは、ある程度“習慣化”することで憂鬱を消していく方法でしたが、月曜の朝にやっても効果のある、「脱・憂鬱」方法もお伝えしておきましょうか。

宮内

怠けクセがあるもんで…知りたいです。

前野先生

通勤電車の中でも、会社についてからでもいいので、瞑想する時間をとってみてください。

宮内

瞑想って、目をつむって集中すればいいんですか…?

前野先生

瞑想とは、「今、この瞬間に集中して頭をクリアな状態にする」ことで、雑念をなくす手法なのですが、初心者に「目をつむって無心になれ!」いってもなかなか難しいんですよね。

なので、なにか食べ物を用意してください。噛み応えのあるドライフルーツなんかがオススメですが、なければコーヒーでもいいです。

前野先生

それを口に入れて、何も考えずに、食感や甘さを味わうことに意識を集中してください

コーヒーなら、温度や苦味、酸味をじっくり堪能します。すべての感覚を、口のなかだけに集中するイメージで。仕事のこと、ほかのことはなにも考えないでください。

宮内

そ、それで瞑想になるんですか!?

前野先生

はい。マインドフル・イーティングと呼ばれています。食べ物や飲み物などの対象物があることで、意識を集中させやすくするんです。

ちなみに、グーグルでは気持ちを高めて作業効率をアップさせるために、始業前に多くの社員が瞑想タイムを設けているそうなんですよ。

宮内

へえ〜! でも、瞑想するとなぜ憂鬱が消えるんでしょう?

前野先生

私たちの頭の中には、自覚するほどではない悩みや不安がたくさん入っていて、脳は鋭いので「なんかモヤモヤするなあ」って気がついてしまうんですよ。それが憂鬱の原因になってしまう。

そこから意識をそらして、脳内を整える効果があるのが瞑想なんです。つまり、憂鬱を解消する特効薬ですね!

宮内

よし、今すぐドライフルーツを買ってきます!

とはいえ、一番効果的なのは「仕事と土日が同じくらいに楽しいことですよね!」と前野先生。

わかってるけど、そんなのどうしようもできない…。そう思ったあなたは、ぜひ特効薬の使用を検討してみてはどうでしょう?

〈取材・文=宮内麻希(@haribo1126)/撮影=天野俊吉(@amanop)〉

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