ビジネスパーソンインタビュー
「今後は、言葉通りのサービスを実現したい」
「予測できなかったの?」田端信太郎がどんなときもWiFiサービス終了の真相にガチツッコミ
新R25編集部
「通信制限なし、データ容量無制限」という革新的なWi-Fiルーターとして話題となった「どんなときもWiFi」。
しかし、開始から約1年後の2020年2月、大規模な通信障害が発生。
その後、正式に無制限プランを廃止すると発表したことで、SNS上では非難が殺到する事態となりました。
そして今回、「どんなときもWiFi」を提供する株式会社グッド・ラックへ「なぜこんなことになってしまったのか」、「今後どうしていくのか」について、真相を解明すべく、新R25は緊急取材を敢行。
インタビュアーとして、ビジネスにおけるさまざまなピンチを乗り越えてきた、百戦錬磨のこの方をお呼びしました。
【田端信太郎(たばた・しんたろう)】NTTデータを経てリクルートへ。フリーマガジン『R25』を立ち上げ、創刊後は広告営業の責任者を務める。その後ライブドア、コンデナストジャパン、NHN JAPANを経て、株式会社ZOZOコミュニケーションデザイン室本部長に就任。現在は退職
リクルート、ライブドア、LINE、ZOZO…。さまざまな会社でサラリーマン生活を送ってきた田端信太郎さんは、“非常事態”の経験も豊富です。
しかし田端さん、取材直前から「是々非々(いいことはいい、悪いことは悪いとはっきりすること)でいきますね!」とガチスタンス…。
正直、一抹の不安を残しながらのスタートです。
「まずは謝罪をさせてください」ということですが…真相を教えてください
斉藤さん
まずはじめに、我々からみなさまに向けて、謝罪させてください。
(写真右)対談いただくのは、株式会社グッド・ラックの事業責任者 斉藤鋭一さんです
斉藤さん
2020年10月31日をもちまして、どんなときもWiFiのデータ容量無制限プランは終了という形をとらせていただきます。
通信障害含め、結果的にサービス終了という事態になってしまったことを心からお詫び申し上げます。
田端さん
うーん、そもそも、なぜこうなってしまうことを予測できなかったんですかね?
常識的に考えたら「通信制限なし、データ容量無制限」なんて、採算上無理なんじゃないの?と思ってしまうんですけど。
斉藤さん
…当初は、クラウドSIM(※)という技術を用いることで、理論上は完全無制限が実現可能という想定でした。
※クラウドSIMとは
Wi-Fiルーターの利用場所に応じて、クラウドサーバー上の最適なSIMカード情報を自動適用させ、インターネット通信を可能にする技術のこと。これによりWi-FiルーターにSIMカードを差し込むことが不要になり、海外へ行っても最適な電波を拾うことが可能。どんなときもWi-Fiのように、次世代通信技術「クラウドSIM」の仕組みを利用したルーターを「クラウドWi-Fi」という
斉藤さん
クラウドSIMの卸元会社に対しては、技術・採算面ともにサービスとして本当に提供が可能なのかという点について再三確認し、「問題ない」という回答を受けたうえで契約を結び、サービスを開始しました。
田端さん
通信量が想定以上になった場合も対応可能だと説明されていたんですか?
斉藤さん
はい。とはいえそこに関しては、我々のほうでしっかりと連携・リスク管理を徹底すべきでした。
卸元が通信業界で長年の実績もある大手企業だったため安心していたことも我々の甘さだと、深く反省しています。
斉藤さん
我々は長年、通信の販売代理業をしており、多くのお客様が通信制限をストレスに思っていることに課題を感じていました。
それを解消したいという想いで「完全無制限」で使えるWi-Fiルーターを実現したいと考えていたんです。
ですが、その考えが先行してしまった結果として、多くのご迷惑をかけてしまいました。
田端さん
サービスを停止させる以外の落とし所はなかったんですかね?
田端さん
たとえば、ヘビーユーザーにだけ通信制限をかけて、残りのユーザーは無制限で使える状態で継続させるとか。
斉藤さん
おっしゃる通り、事故発生直後は、一部のお客さまに制限をかけることで、ほとんどの方は実質無制限で利用できる状態にしていました。
ですが、その状態でサービスを提供するには、お客様にはわからないように細かな制限をするなどグレーな運用が必要となり、継続が困難になってしまいます。
田端さん
ふむ…
斉藤さん
たとえば100GBまで使えるプランに変更するという方法もできました。しかし、それは100GBまでといいつつ、採算を考えれば全員が100GB使えることではありません。
この運用では、お客さまに見えない規制や制限を求めていくことになり、「完全無制限」ではなく「実質無制限」という状態です。とはいえ、業界には用意したギガを使われないように「祈りながら」サービス提供しているものが多くあります。
このようにごまかしながらサービス提供をすることはできないと考え、今回制限をかけざるをえなかったお客さまには25GBまでを無償で使える対応も取らせていただきました。
斉藤さん
以上の点を踏まえて、我々が思い描いていた「完全無制限」でサービスを提供していくことは現実的に不可能だと判断し、サービスを中止せざるを得ませんでした。
サービスを継続していくことはお客さまに対して誠実ではないと考えたうえでの決断でしたが…
最初に起きた通信障害にくわえて、「無制限プランの中止」という混乱によっても、多くの方にご迷惑をおかけする結果となってしまいました。
「正直、モヤモヤしました」田端信太郎が語る、謝罪のセオリー
田端さん
今の話が本当なら、当初は“いける”と言われていたのにハシゴを外されてしまったということですよね。それなら、御社も被害者なんじゃないですか?
なんとも言えない表情を浮かべる斉藤さん
斉藤さん
うーん…
田端さん
僕も、広報責任者としてZOZOにいたころに何度もネガティブな報道に晒される場面を経験しています。だからこそ、大きな声では言えないさまざまな事情があることもわかるんですよ。
ただ、今回の経緯報告に関するプレスリリースを拝見したときは、正直モヤモヤしました。
斉藤さん
モヤモヤとおっしゃいますと…?
田端さん
技術説明や経緯報告だけのような印象を受けてしまった。
言いかえるなら、当事者意識を持った御社の視点や見解があまりないように感じたんですよね。
田端さん
企業活動において、規模の大小はあれど事故は起きてしまうもの。ただ、その際の対応の仕方はある程度“正しいセオリー”があって…
まずひとつ、事故が起こってしまったら、責任論と技術論はしっかり切り分けて考えたほうがいい。
斉藤さん
責任論と技術論。
田端さん
プレスリリースでは技術について細かく説明されていましたが、それは現場での検証には必要なものだけど、ユーザーが求めているものでも、理解したいものでもないはず。
ユーザーからすると、問題なのは「宣伝文句と実際の使用感が異なっていた」という部分ですよね。
ということは、それに対する誠意の表明が必要なはず。
斉藤さん
おっしゃる通りです…
田端さん
そして、ふたつめのセオリーですが…、謝罪の主語は必ず自分(自社)であるべき。
ビジネスパーソンが謝罪アポに言って、「上司がこう言ってまして…」「僕はそう思わないんですが上司が…」と言い出したらどうなるか…
「じゃあその上司を連れてこいよ」と、相手にされなくなりますよね。
斉藤さん
正直、我々のなかでも「商品を仕入れて売るだけ」というスタンスがどこかにあったかもしれません。それが今回の事故につながってしまったと反省しています。
サービス事業者として、お客さまへ伝えるべき情報を主体的に収集できなかったことや、お問い合わせに対して出来る限りの対応をしたものの不足があったという事実については社内でも検証し、改善していく課題として認識しています。
今後は改めて我々のサービス事業者としてのスタンスを見直し、より上流からサービスの設計に関われるように関係各社との契約を変えていく方針です。
田端さん
まあ…僕自身いろいろな企業にいて、表には出せないようないろいろな失敗の経験もある(笑)。
意味のあるチャレンジをしたら、失敗や事故は起こってしまうものだということもよくわかります。
今回の事故は、事業計画から関係各社との交渉、事故が起こってしまったあとの広報的な受け身まで、ケーススタディとして学びがあるなと思いましたよ。
どんな形であれ、「どんなときもWiFi」をもう一度届けたいという想いは変わらない
田端さん
今回の事故って、ものすごく好意的に見れば故意ではなく過失だと思うんです。さすがに、「わざと事故を起こそう」というわけではなかったでしょうから。ただ、過失だとしても、見通しが甘すぎた。
でも、悪気はなかったからといって、同じようなうっかりミスを二度とやらないという保証もないですよね。
そのあたりはどうお考えなんですか?
斉藤さん
はい。我々としては、どんなときも自由に使えるインターネット環境(Wi-Fi)を届けたいという想いは今でも変わっていません。
ですが、現時点でモバイルルーター1台でそれを実現することは不可能であり、それをしようとすることはお客様に対して不誠実であると考えています。
斉藤さん
そこで、自宅で利用する大容量通信可能なホームルーターに、外出時に使用する量を用意されたモバイルルーターを付けた2台セットの、代替プラン(※)をご用意させていただいた、というのが現状です。
※無制限プラン加入者の移行のみで新規申し込みは対応しておりません。代替プランへの移行申請は2020年10月31日23:59締め切りとなります
――(編集部)ちなみに、もし田端さんが事業責任者だったら、ここからどのように信頼を回復しようと思いますか?
田端さん
難しいですけど…僕なら、キャッシュがなくなるまで完全無制限でサービスを提供しつづけますね。
「なんとか約束を守ろうとしたけど、キャッシュが続かずダメでした」と一度、倒産なり経営破綻しちゃう。そのくらい誠意をみせれば、さすがにユーザーも怒りようがないかなとか…
まあ、これは関係者じゃないのでいくらでも言えちゃうだけですけど!(笑)
「無責任なことはいくらでも言えるんだけどね…」
斉藤さん
今回、田端さんにご指摘をいただけたことで、我々も新たに気が引き締まりました。
「どんなときもWiFi」という言葉通りのサービスを実現できるよう出直し、再び信頼いただけるよう努力していきます。
田端さんの質問に対し、「とにかく誠心誠意、心を新たにサービスをつくっていくしかない」と繰り返しおっしゃっていたグッド・ラックさん。
いつの日か、どんなときも自由にWi-Fiがつかえる「どんなときもWiFi」を、再び実現してくれることを期待しましょう。
〈取材・文=宮内麻希(@haribo1126)/編集=天野俊吉(@amanop)/撮影=中澤真央(@_maonakazawa_)〉
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