ビジネスパーソンインタビュー
組織を勝ち馬に乗せるリーダーの心得とは?
「ロジックなんてない」2度のIPOを実現した社長の“自走する組織をつくれる感覚”の正体
新R25編集部
仕事の現場で奮闘するビジネスパーソンたちの魅力、スキルを“○○力”と名付けて、読者のみなさんにお届けしたい! 題して、連載「あのビジネスパーソンの『○○力』」。
今回は、フリーランスのIT人材と企業とのマッチング事業を主軸とするギークス株式会社の代表取締役CEO・曽根原稔人さんが登場します。
【曽根原稔人(そねはら・なるひと)】1975年生まれ。ギークス株式会社・代表取締役社長。ギークスでは、ITフリーランスと企業をマッチングするIT人材事業・Seed Tech事業を中心に、x-Tech事業やゲーム事業を展開している
2001年に共同経営でベンチャー企業を立ち上げ、6年でIPO(新規上場)を実現。2007年にギークスを立ち上げた曽根原さん。
リーマンショックの打撃を受けてMBO(経営陣による自社の買収)するなど紆余曲折あったものの、見事にV字回復。2019年に2度目のIPOを実現させた敏腕経営者です。
2度もIPOを成功させた曽根原さんに、組織づくりの“確固たるロジック”をお聞きしよう…と思いきや、「いや、ロジックはない。感覚に近い」とバッサリ。
感覚の言語化を試みた結果、チームを持つすべてのリーダーに必要な「組織をデザインする力」が見えてきました。
〈聞き手:成島克俊(新R25編集部)〉
2度のIPOを実現できたのは“組織デザイン力”があったから
成島
曽根原さんのように、2度もIPOを経験されている経営者はそう多くないと思うのですが…
成功の要因はなんだと思いますか?
曽根原さん
IPO自体は、やればできるんですよ。
IPOの条件は「成長する事業を持っていること」と「東京証券取引所の審査をクリアすること」なので。事業は伸ばせばいいし、審査は上場会社として必要なガバナンス体制を構築・運営すればいい。
ただ問題は、この2つを推進できるような組織をいかにデザインできるかで…
曽根原さん
やっている事業の意味をメンバーにどう伝えて、「この事業で社会貢献したい」と思える仕事をどう見つけてもらうか。個人レベルでの働きがいや意欲に、どう落とし込むか。
ここをデザインできなければ、事業もうまくいかないし、ガバナンスのきいた組織もつくれないんです。
組織のサイズに合わせてつねにこのデザインを変えつづける。これこそが、僕の仕事なんですよね。
成島
今パッとお聞きしただけでも、相当なバランス感覚が必要そうですね。
今日は曽根原さんがどういうロジックで組織をデザインしているのか、お聞きできればと思うんですけど…
曽根原さん
いや、ロジックなんてないない。感覚です。僕は、嗅覚で生きていますから。
嗅覚だけで2度のIPO…鼻が効きすぎです
曽根原さん
残念ながら「誰かから聞いて学んだ」とか「この本を読んだからこういう考えになった」とか、体系化されたテクニックは本当にないんですよ。
もちろん若いころには色々と経営本も読みましたけど、あんまりタメになったことがなくてですね…
こればっかりはもう、感じ取って自分のなかで昇華させてきた経験としか言いようがないんですよね。
そこを何とかモノにしたいので…しばし曽根原さんが持つ感覚の言語化を試みさせてください
すべては「エンゲージメント」。メンタル、ハード、マネジメント…どうやって組織をデザインしている?
成島
組織をデザインするとなると、一番は“社員のパフォーマンスをどうやって上げるか?”ってことが関係していると思っていて。
たとえばモチベーションとかって、どうコントロールしているのでしょうか?
曽根原さん
そこは考えてないんです。
モチベーションって“瞬発的に上がってすぐに下がるもの”であって、上がりっぱなしになることは絶対にないんですよ。だから、上げようとする必要がない。
考えるべきは、「エンゲージメント」。継続性を持ってエンゲージメントを高く保つ組織をつくっていくことです。
メンタル面のエンゲージメントを高める“ラジオ作戦”
成島
では、どうやって社員のエンゲージメントを高めるのか? その方法を紐解いてみたいんですけど…
たとえばコミュニケーションでは、どんなことを意識されているんですか?
曽根原さん
メンバーに何かを伝えるときに、心の距離の近さを大事にしてますね。
だから僕、コロナ禍でリモートワークをする社員が増えたことをきっかけに、社内向けにラジオを始めたんですよ。
ラジオ…?
曽根原さん
正直、メンバーが400名を越えてくると、もう会わない人も多いじゃないですか。
それでも“遠くから数字の話だけしてくる経営者”と思われるよりは、僕の人間性も知ってもらって人として近くに感じてもらいたい。
その手段のひとつが、僕がパーソナリティになって社員をゲストに呼ぶ“ラジオ番組”だったんですよね。
成島
ご飯に行って直接話したほうが距離感が近づきそうですけど…
なぜラジオなんですか?
曽根原さん
組織のサイズに合わせて“伝え方”を変えるのも、デザインのうちなんですよ。
曽根原さん
たしかに昔は若いメンバーとも気楽に接点を持っていたけど、まあしょうがないよねと。数百人規模になっても「若い社員との距離をずっと維持しよう」なんて無理な話なので。
「距離があっても距離がないような感覚をどうつくるか」を追求する。それで組織がどう回っていくのかを見る。
その方法が、今はたまたまラジオだったんですよね。
成島
なるほど…伝える内容はどうやって決めているんですか?
曽根原さん
うちでは社員のエンゲージメントを測るために毎月組織サーベイをとってるんですけど、結構みんなちゃんとコメントを書いてくれるんですよ。しょうもないのもありますけど(笑)。
そこでつねに組織の体温を測りながら、「いま組織に何が大事か」「こういうメッセージが足りないんじゃないか」と探っているんです。
そうして生まれたメッセージを、ラジオにさりげなく込めるんですよね。
メンタルのデザイン=組織のサイズで伝え方を変え、組織の温度を測ってメッセージを変える
ハード面のエンゲージメントを高める“アガるオフィス”
曽根原さん
メンタル面でのエンゲージメントだけじゃなくて、働く環境としての“ハードのエンゲージメント”を高めることもつねに意識してます。
たとえばオフィス。過去に、リーマンショックの影響でオフィスを縮小移転しなきゃいけなくなったことがあったんですけど…
それでも“いい雰囲気”に見せたくて、渋谷の新築ビルの最上階を押さえたんです。
曽根原さん
もちろんリーマン直後の縮小移転なので、みんなの気持ちが下がってしまっていたんですけど…とにかくメンバーを前向きにして、一緒にふんばれる環境をつくりたかった。
不動産会社も「リーマンショックの影響でオフィスが埋まらない」と漏らしていたので、社長に「一番上の階を押さえてくれたら、即決で入る」って伝えて、なんとか気持ちのいいオフィスを確保したんです。
成島
すごい…ちなみに、今はここがオフィスですよね?
複数の企業が契約しているコワーキングスペース「WeWork」の一角におります
曽根原さん
そうですね。
ほらここ、スタートアップの人とかが活気よく仕事しているし、やる気のある雰囲気を見るだけでちょっとテンション上がるじゃない?
成島
たしかに上がります。
曽根原さん
コロナが流行って、すぐにリモートワークに切り替わっちゃったじゃないですか。
オフィスに行っても僕の部屋にしか電気がついてなくて、全体がガランとしてて暗い…みたいな、あのまったくやる気の起きない空気。なんか嫌だな〜って。
曽根原さん
でもここだったら、うちのメンバーがリモートでいなくてもほかの会社の人と知り合えるし、今のギークスにとって最適なんじゃないかなって思ったんです。
実際にここから新しいネットワークが生まれて、広報主催のイベントを開いたりとか、社外との関連性も生まれてきてるんですよね。
ハードのデザイン=そのとき社員が一番アガる環境をつくる
仕事のエンゲージメントを高める“壁打ち文化”
成島
メンタル・ハードと続きましたが、肝心の実務の部分ではどうでしょう。
たとえば、マネジメントではどんなことを意識しているんですか?
曽根原さん
僕がメンバーと約束するのは、「ギークスにいる間は、何でもいいから一つだけギークスに貢献することを考えてほしい」。
これだけなんです。
それだけなの…?
曽根原さん
「マネジメントでみんなを同じ方向に向かわせよう」と思ったことはなくてですね。
それぞれに“将来やりたい夢”とか“仕事の価値観”を持った人たちが集まってくるなかで、僕のやりたいことだけを押し付けるのは野暮なんですよ。
押し付けないことでむしろ関係性がよくなって、「会社との約束」と「個人の働きがい」のバランスが自然と取れるようになる。
だから、メンバーが「どうしてもやりたい」と言ってきたことに対しては「トライしたら?」って言いますね。
成島
そのトライに対して、NGを出すことはないんですか?
曽根原さん
本当にヤバそうだなと思うものに対しては、危機管理としてちゃんと指摘しますよ。
でも、本人が「本気でやりたい」と思っていて、それがギークスにいい効果として返ってくると思っているのならば、何でもやるべきだと思うんです。
「やりたいことをどうやって実現していくか?」。そこの壁打ちをよくやりますね。
曽根原さん
経営会議にも“報告会”というより“壁打ち”のつもりで参加していて。
たとえば「こういうアプローチをしようと思ってます」と言われたら、「世の中的にこんな声も多いし、こっちからアプローチしてみるのも面白いかもよ」みたいに、新しい視点が生まれるような材料を必ず入れるようにしてるんです。
あとは責任者にジャッジしてもらっていいと思ってるんですよね。
成島
でも…社員が自由な発想で自走することに、不安を感じたりしませんか?
曽根原さん
感じない。
むしろ創業社長がグイグイ推進していく組織は、100人を超えていったタイミングとかで成長が鈍化すると思うんですよ。
それよりも、いつまでもトップの判断を待っているような組織になってしまわないようにすることが大事。
ギークスは初期のころから、その「自由さ」を意識しているかもしれません。
マネジメントのデザイン=社員の発想に寄り添い、実現までのプロセスはとことん話し合う
ギークスには、どんな人が集まっている?
成島
ちなみに、曽根原さんが組織をデザインしてきたギークスには、どんな人が集まっているんですか?
曽根原さん
みんなバラバラで、個性豊かですよ。
「起業したい」とか、何かしらやりたい夢を持っている社員も結構多いですね。
成島
そういった社員の方にとって、ギークスってどんな環境なんでしょう?
曽根原さん
ITフリーランスをターゲットとした人材事業なので、インターネット業界を網羅的に知ることができ、同時に技術的な知識も身につく。これは起業するときにすごく役立つと思います。
僕なんて、起業したのが2001年だったので、ITビジネスに関する知識がまったくなくて。
まだ事業も決まってないし、資金集めもできていない段階で、とあるベンチャー企業に間借りしたんです。そこに自宅から電話を持ってきて「1本だけ電話回線を引かせてくれ」と。
それがスタートでしたからね。
いい時代のネット企業の始まりのやつだ
曽根原さん
それにギークスでの仕事を経験すれば、フリーランスのエンジニアやITサービス系の会社とコンタクトを取れるので、「どんなチームをつくれば何ができるか」という視点で組織編成を考えられるようになります。
起業しなかったとしても、そこを見極められるスキルがあれば転職先で欲しがられる人材になれるので…
僕が言うのもなんだけど、新卒の入り口にいい会社だと思いますよ。
組織デザインの根底にあるのは“組織への感謝”
成島
これは最後に聞いてみたかったんですけど…2度のIPOを経験するまでに、何度も組織がゆらぐようなピンチがあったと思うんです。
そのピンチをどうやって乗り越えてきたんですか?
曽根原さん
いや、組織が折れそうな事件はほとんどなかったと思う。
えっ、そうなんですか
成島
でも、先ほどリーマンショックの話もありましたよね。
そこから持ち直して2019年にIPOするまでにも、かなり大変な経験をされたのでは…?
曽根原さん
大変なことはあったけど、「また波が来る」と確信してました。
リーマンショックはあくまでも“金融クラッシュ”でしかなくて、インターネット系サービスはスマートフォンの普及によって盛り上がりつつあったので。
成島
みんながネットに夢中になりはじめた時期ですね。
曽根原さん
退職金制度のないIT企業が増えて終身雇用が崩壊すると、手に職を持つエンジニアのような職種の人はフリーランスになる。僕らはここに着目しました。
当時はまだ「フリーランスはフリーター同然」のような価値観だったけど、いつか必ず新しい働き方の価値観が生まれる。
そこを僕らが先駆けて支援していけばうまくいくという確信があったんです。
成島
確信があったからピンチも乗り越えられたと。
曽根原さん
ただ…僕一人でやっていたら、絶対に挫折してたと思います。
その当時のギークスにはすでに「みんながやりたいことを実行できる」という文化ができていて、誰かが何かしら解決の糸口を持ってきてくれるようになっていた。
そういう新しいチャレンジをしつづけてくれたおかげで、ゲーム事業をおこなう「G2 Studios」やグローバルに事業を展開する「Seed Tech」というグループ会社が生まれて、2度目のIPOを果たせたんだと思います。
曽根原さん
だから今日の話をまとめるなら、組織デザインの根底にあるのは、メンバーに感謝しつづけること。これに尽きると思いますよ。
ギークスが15周年を迎えたときのお祝い動画の撮影中、広報のメンバーから「社長にとってギークスとは何ですか?」という質問をされたんですけど…
そのときにパッと出たのが「僕の最大の理解者です」って答えで。
成島
何その素敵な話…
曽根原さん
僕にとって社員は、僕がつくった組織にジョインしてくれて、できないことを助けてくれている。そういうイメージなんですよね。
僕は感謝をしてるわけですよ。全社員のみなさんに。うちを選んでくれてありがとうって。
僕とメンバーは、そういう関係性をつねに持っている気がしますね。
複雑に構成される組織を感覚でデザインして、2度もIPOに押し上げてしまった曽根原さんの感性に驚きつつ…
「モチベーションを上げるのではなく、エンゲージメントを高める」など、チームを持つリーダーがすぐに意識を変えられそうなヒントもいただけました。
そんな曽根原さんの組織デザイン力からなるギークスでは、現在、採用を強化中! 曽根原さんのもとで、裁量を持ったチャレンジができるチャンスです。
自分らしい発想で仕事ができる環境に、身を置いてみては?
Photo Spot : WeWork Shibuya Scramble Square
〈取材=成島克俊(@narishima1993)/文=山田三奈(@l_okbj)/編集=福田啄也(@fkd1111)/撮影=中澤真央(@_maonakazawa_)〉
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